15話
夜の出雲学園に轟音と言ってもいいほどの大きな警報音が鳴り響いた。
その音でい基地内にいる人々、学生や教師、軍人たちが覚醒する。ほとんどの者は眠っていたがその轟音で叩きこされた形だ。
それはこの世界唯一の男の魔女が眠る部屋でも同じだった。
その部屋で眠る三人の少年少女も眠りから目を覚ます。
「な、なんだこの音は?」
「多分警報。何か緊急事態が起きた」
この学園に来たばかりの少年は何事かと少し慌てていたが、その少年よりも少し先輩の少女は値をこすりながら落ち着いたように答えた。
空色髪少女、白銀真白もこんな轟音を聞くのは初めてだったが、緊急事態に警報が鳴ることは説明を受けていたので少年よりは状況の判断が早く出来ていた。
「緊急事態?」
「うん。詳細は、すぐに分かる」
少女がそう言った直ぐ後に敷地内全ての建物内に響くアナウンスがあった。
『敷地内に大量の魔族が侵入!直ぐに近くの訓練施設に避難してください!』
というような内容のアナウンスが繰り返しで再生されている。
「魔族って、こんなところにか?」
「ここには魔女がたくさんいる。それなら安心」
アナウンスの声はかなりと強いもので不安感を煽るものだったがそれと打って変わって二人は落ち着いていた。
ここは魔女達が多くいる場所。日本で一番多いだろう。
そんな場所だからこそ魔族が現れたからと言ってそこまで焦ることはない。
勿論、戦えない者も多くいるがそれでもここには軍zんも多く常駐しているし、これまで多くも魔族と戦ってきた魔女もいる。中には魔王と対峙したことのある者もいるのだ。
だからこそ二人の少年少女は落ち着いていた。
そしてこの部屋のもう一人の住人は、
「うるさいのだ」
もぞもぞと身体を動かして掛布団を頭まで被って二度寝しようとしていた。
この青髪少女は最初から全く焦る様子もなくただ系譜音をうるさい音としてしか認識していなかった。アナウンスの内容もろくに聞いていない。
「おい、また寝ようとすんじゃない」
再び眠ろうとしたレヴィを陸は布団をはがして起こそうとする。
いくら魔女が多くて魔族に対処もすぐに行われるとは言っても呑気に寝ていられるほどは落ち着いて良い状況ではない。
特に陸たちはその魔族と対峙しなければいけない立場だ。
「全く、何なのだ。こんな時間に」
陸にゆすられて仕方なく寝ていることが出来なくなったレヴィは上体を起こして不満そうな顔で呟く。
すでに二十三時を回っている時間で在り、ほとんどの者が眠っている時間であった。
しかし、この轟音でほとんどの者が起きていた。
そんな中、呑気にしているのはゴシゴシと目をこすっている青髪少女だけだろ。
「お前は魔王なんだから眠る必要はないだろ」
青髪少女は魔王である。
魔王である少女にとって本来眠る必要はない。だというのにレヴィは毎晩眠っている。
そこをツッコみ陸に顔をはっきりさせたレヴィが少し胸を張りながら答えた。
「魔王だからこそ、どんな環境にでも適応できるのだ」
今の姿は人間と全く彩色ないものだ。それはつまり人間のように完璧にふるまうことが出来るということ。意思の疎通もこうして何の障害もなく行うことが出来ている。といっても完全に人間のそれという訳ではなく、上位互換なっ存在といった方が正しいだろう。
「と、そんなことよりも魔族についてだ」
「魔族?」
やはりレヴィはアナウンスの内容を聞いていなかったようだ。今もアナウンスはなり続けているが、それも聞き流しているようで陸の発言の意味が理解できずに首を傾げている。
「今言っているだろ。魔族がここに出てきたんだよ」
「そういえば何か言っていたのだ」
全く緊張感を待たずに改めてアナウンスに耳を傾ける青髪少女。そこでようやく大まかな状況を把握する。
「成程。理解したのだ」
うんうんと首を何度か盾に動かし理解したことを少年たちにアピールすると、そちらへ向けて不敵な笑みを浮かべて続けた。
「ならば行くのだ」
今度は先程までt打って変わってやる気を見せる少女。その態度に陸は呆れながらもやる気があるなら心強いとレヴィと同じくやる気を見せていた。
今もなお流れるアナウンスでは『大量の魔族』と言っている。ならば魔族の数が二体、三体ということはないだろう。個々の強さは分からないが、数が多いとなればそれだけ一体一体に対処できる人数が減る。それれは一人一人の負担が増えるということで、こちら側が不利になる可能性もある。
更に今は真夜中。外は真っ暗闇。
状況が状況だけにかなりの九元が闇を明かりで照らしているが、それでも視界は悪い。昼間のように自由に見渡せるという訳ではないだろう。
それらを踏まえて気合を入れる少年少女だったが。
「待って。連絡来た」
外へと趣味出そうとしたところで出鼻をくじくように一つの呟きが割って入った。
声の主は真白。陸とレヴィがそちらへ視線を向けると、空色髪少女はスマホを手に取って画面をじっと見ていた。
「…魔族が百体以上いるみたい。各個で対処できる人は対処するようにって」
「は?」
真白の手に持つスマホには百体以上の魔族が敷地内に侵入。実践クラスのの者で各個に魔族に対処できる者は対処にあたり、そうでない者は集合せよというものだった。
スマホに書かれている内容を要約して伝えてくれた陸だったが、一瞬思考を止めてしまい直ぐに反応できなかった。
「百とはなかなか数が多いのだ。魔王でも居るのか?」
陸とは打って変わって青髪少女は待ったk同様はない。ただ真白の伝えてくれたことに冷静に思考していた。
百体の魔族なんてそうそうに現れる数ではない。以上事態である。それを起こす一番の原因と考えられるのが魔王の存在だ。
即座にそう考えたレヴィは自分も魔王であるのにも関わらず魔王の存在を少しうっとうしく思いながら予想を口にした。
「…かもしれないな。だとしたら面倒だ」
冷静なレヴィを見て正しい思考を取り戻した少年は少女の予想に同意して眉をしかめる。
「とはいえ俺たちは各個に撃破だな」
陸とレヴィはそこそこの魔族なら一人で撃破する自信があった。だから指示に従って各個での対処に向かう予定だ。
そう伝えながら意思を問うように空色髪少女に視線を向ける。
「…邪魔じゃないなら付いて行きたい」
少しの沈黙の後、空色髪少女はそう答えた。
白銀真白は考えた。今自分に出来ることは一体何かを。自分も魔女。それも多くの犠牲の上に成った存在だ。ならば魔族と戦い人々の助けに少しでもなりたかった。
だけど真白は力の制御が出来るようになったのは昨晩のこと。まだまだ完璧に扱えるとはいえない。
みんなで協力して魔族と戦うというなら今の力でも大丈夫だろうが一人で戦うには不安が大きい。それならせめて目の前にいる少年に協力して戦うことも考えたが、その少年には魔王がついている。自分の力なんて必要ないかもしれない。
しかし、それでも少年の、早乙女陸の力になりたいとの発言だった。
「いや、邪魔じゃないぞ。真白は俺と来てくれ」
もしもレヴィの言った通り魔王が居るなら真白が心配だ。魔法が制御できるようになった今、真白が人工魔女なのがバレる可能性は低いだろうが近くに居てくれた方が安心できる。もし気付かれたとき庇ってやれるだろうから。
それに空色髪少女は守られるだけの存在ではない。主力として戦えなくてもサポートなら出来るので、陸の力になるだろう。
「ありがとう」
「礼を言うのはこっちだよ。手伝ってくれるなら助かるからな。俺一人だと厳しい場面も出てくるだろうし」
何せ数が多すぎる。力を温存しながら戦う必要も出てくるだろうから見方がいてくれれば助かる。
そういう意味合いも込めて礼を言ってきた真白に返す陸だったが、その少年の言葉の違う部分にひかっかる少女がいた。
「む?我も一緒だから陸一人ではないだろう?」
レヴィが首を傾げながら少年に問いかける。
先程、一人でといったが陸には契約しているレヴィが常にそばに居る。三百六十五日、二十四時間、四六時中一緒。運命共同体。
だから陸の発言に引っかかりを覚えた。
「レヴィは一人で行ってくれ」
それを聞いた瞬間、青髪少女は一時停止した。
これまでずっと一緒だった存在から突然の別れの言葉。少年の発言はそれほど衝撃的なものだった。
実際はそんなにたいそうなことはないが。
「我は陸が居ないなら戦わないのだ」
魔王であるレヴィなら一人でも多くの魔族を倒すことが出来る。
だから陸はレヴィに一人で行ってくれと言った。
それを理解したレヴィは首をプイっと横に曽田して不満をアピールしながら拗ねたように言う。
「…頼むよ」
本来魔王は敵である。
だけどレヴィは味方だ。
けどそれは『陸の味方』であって『人間の味方』という訳でない。
陸さえ無事なら後はどうでもい。極論を言えば全人類七十億人が死のうと陸一人が生きていれば構わない。
魔王の少女は本気でそう考えている。
だから他の誰かを守るために戦うというのはあり得ないことだった。
「…」
だけどそれは『陸の心』を守ることが出来ないことになる。
早乙女陸はいたって普通の少年だ。
他人ならどうなっても構わない。なんて風には割り切ることはできない。それが尚更同じ学園に通う生徒となれば被害を出来るだけ小さいと強く思う。『自分の力』で救える人が手の届く人が居るなら何も考えずに手を差し伸べる。
そんなどこにでもいる普通の少年だ。
「分かったのだ」
だから仕方なく頷いた。
本来なら片時も離れたくないけど、英久我それを望むなら従うだけ。それが『陸の幸せ』につながるなら。
真剣な顔で見つめてくる陸に渋々頷くレヴィ。
自分は少年の運命共同体。早乙女陸の力である。
陸の望みは自分の望み。
「助かるよ」
陸もレヴィがどういう思いで頷いてくれたのかを理解していた。
自分の力になってくれるレヴィにはいつも助けられている。本気で望んだことは叶えてくれる。
少年は本心から感謝して未自覚であるがそれを伝えた。
「ご褒美は期待しておくのだ」
そんなものはなくても構わないが、少し場を和ませるために言う青髪少女。
少年もそれを聞いて直ぐに頷いた。
「…」
制服姿に姿を変えた青髪少女は不機嫌な顔つきで一人で量の祖手へ出ていた。
窓から飛び出したレヴィは視線を動かし状況を確認する。その視界には大量の魔族が映り込んでいた。
「うっとうしいのだ」
魔王の目は暗かろうと視界ははっきりとしている。その視界に移る魔族を見てぽつりと呟き、魔族に近づいていく。
ある程度近づいたところで青髪少女は片腕を前に出し、そこから水のレーザーを勢いよく発射する。
水のレーザーが直撃した魔族は一撃で絶命した。
「見つからないのだ」
そんな作業を無視でも踏み潰していくように簡単に進めていくレヴィは人kと呟いた。
これだけのお魔族が突然現れたなら魔王が居る可能性が高い。
そう考えたレヴィは魔王の気配を探っていた。
しかし見つからない。
「陸と離れ離れにされた恨みを叩きつけてやろうと思ってたのに、どこにいるのだ」
今までほとんど離れることのなかった存在から離れる。大好きな、大切な存在と話された恨み。この状況を作り出した愚者を叩きのめさなければ気が晴れない。
現状を何とかするというよりはそんな感情で魔王を探すレヴィ。
結果的に陸の望み、人間を守るということさえできれば理由なんて何でもよかった。
レヴィ
「寂しかったのだ!」
陸
「うわっ!急に抱き着いてくるな。それに今別れたばかり、といううかこの場所だと関係ないだろ」
レヴィ
「ここで陸成分を補充しておかないと本編で戦えないのだ」
陸
「だから関係ないだろ」
レヴィ
「次回、事態解決。ご褒美タイムなのだ」
陸
「嘘を言うんじゃない」