表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

人気漫画の行く末。君のキオク。

作者: 本郷隼人

練習で書きました。作品の批評など感想をお願いします。

 ―――最近流行りの漫画が近々完結するらしい。


『ワタシの証』。大人気連載中の恋愛漫画で、今若者を中心に絶大な人気を誇っている。数々の有名な漫画大賞を受賞し、単行本の発行部数も1500万部という凄まじい数字をたたき出している。

 一か月後に発売される週刊誌『チェリー』に最終回が掲載されることにファンからは「終わってしまうのは寂しい」、「これからは何を生きがいにしていけば良いんだ」、「日野君と戸森ちゃん(ヒーローとヒロイン)はちゃんと結ばれるの!?」など完結することへの悲しみの声が上がっている。

 作者は完結することについて、「この作品には私自身、たくさんの想い出が詰まっています。最後まで見届けてくれたら嬉しいです」とコメントを残している。アニメも続編が決定しており、今後のメディアへの展開に注目が集まっている。


 そんなことが書かれているネットニュースをリビングのソファーで見ながら、俺は「ふーん」と感情のこもっていない言葉を息と一緒に吐き捨てる。

 実のところ、俺はこの漫画のことをあまり知らない。名前自体はちょくちょく耳にしていたが、詳しい内容などは一切分からないし、そもそも恋愛漫画だということも今読んで知ったところだ。ただ、何故かこのネットニュースには漫画の内容は記載されておらず、尚更どんな内容なのか分からないので、あまりこの記事に興味は持ってなかった。

「お父さんなに見てるの?」

 そんなこんなで別のニュースでもみようかと思ったところに、娘に後ろから声をかけられた。

「ん?ああ、ネットニュースだよ。人気の漫画が終わるんだってさ」

「あっ、それってもしかして『ワタシの証』のこと?」

 そう言って今年で十一歳になる娘は、俺のスマホを覗き見た。

「あー。お前も確かこの漫画好きだったっけ?」

「うん!全巻もってるよー」

 自慢げにそう言う娘。俺は少し質問してみる。

「へー、そうなんだ。面白い?」

「面白い!ちょー面白い!今まで読んできたラブコメの中でも一番面白い!」

「おっ、そんなにか」

「うん、面白い!特に今の展開が熱くてね!ヒーローの日野君とヒロインの戸森ちゃんが結ばれるのかどうか本当に分からない状況でさ。あ~、早く最終回が見たい!いや、でもやっぱり見たくないかも………」

「アハハ、そっかそっか」

 熱心に話す娘に少し微笑ましさを感じるとともに、俺はその反応を見て、少しだけ『ワタシの証』について気になってきてしまう。

「なあ、その漫画がどんな内容なのか教えてくれないか?お父さんちょっと気になってきちゃったよ」

 素直にそう聞くと、娘は待ってました!と言わんばかりに笑い、「いいよー」と景気よく答えた。

「まずね、主人公の戸森ちゃんなんだけど、漫画とかアニメが好きなオタクでね、クラスじゃ目立たないような子なのね。でね、戸森ちゃんが放課後の教室で一人ぼっちで恋愛漫画を読んでたら、クラスの人気者で、超イケメンな日野くんが話しかけてくるのね」

 楽しそうに説明する娘に相槌を打ちながら、なるほど、と心の中で呟く。オタク少女とイケメン男子の恋愛モノといったところか。

「それで、『なんで私なんかに話しかけてくるんだろー』って戸森ちゃんが戸惑うんだけど、実は日野君は戸森ちゃんが読んでいたその漫画の大ファンだったのね。そこから二人が仲良くなって、次第にお互いがお互いを意識し始めて…………みたいな感じ!」

「へー、そんな話なんだ。なかなか面白そうだな」

「そりゃあもう!クラスじゃこの話題ばっかり喋ってるよ!」

「ふーん」

 どうやら若者に人気というのは本当らしい。娘がこんなに嬉しそうに話してくれる辺り、面白いのではあろう。まぁ、少しありきたりな内容ではあると思うが。

「そういえばさ、お父さんが子供の頃はどんな漫画が流行ってたの?」

「え?」

 突然、娘にそう聞かれる。どうやら自分が好きな漫画を親に説明しているうちに、ふとそんな疑問が浮かんできたようだ。俺は少し子供時代を振り返りながら、自分や友人が読んでいた、当時大好きだった漫画のタイトルたちを言っていく。

 が、そのどれもが十五年、二十年、下手すれば二十五年前ぐらいに流行っていたものなので、そんな昔のタイトルを耳にした娘は「全然知らない」と首を傾げるばかりだった。それもそうだ。娘は今年十一歳を迎える小学生五年生だ。俺が学生時代の時に流行っていた漫画なんて知ってるはずがなかった。

「そうか……俺も歳、取ったんだなぁ……」

 ジェネレーションギャップというべきか。娘の反応を見て、自分が知っていたものが過去のものになったのを認知したと同時に、自分の学生時代ももう昔のことなんだと思うと、ぽつりと、小さくそう呟いてしまう。

 そして何故だか、よくわからない哀しさを感じてしまう。

「ねえ、それじゃあさ。昔は『ワタシの証』みたいな漫画あった?てゆうか、どんな恋愛漫画があった?」

 物思いにふけっていると、娘が次にそう聞いてきた。

「ん?ん~、どうだったかな……」

 またしても昔を振り返る。恋愛漫画か。どうだったか。何かあっただろうか。そうやって考えるうちに、ある一つの漫画を思い出した。それは昔、俺が高校三年生の時に流行ったものだった。

「……『君のキオク』って漫画があってさ。それが結構面白かったんだよ」

「へー、どんな漫画なの?」

「ごく普通の主人公と美人な三人のヒロインとのラブコメ。ありふれた設定だけど、当時は割と流行っててさ。よく友達と『誰が主人公と結ばれるかー』って喋ってたよ」

「ふーん、そうなんだ。なんか『ワタシの証』っぽくないね」

「はは、まぁ少年漫画だったしな」

 確かに『ワタシの証』とはまた違った、男向けの恋愛漫画だった。だが、面白かったのは本当だ。その友達とも本当にその漫画の話で盛り上がって…………。


 そういえば、とその友達で思い出したことがあった。

「……でもな、そういえばなんだけど、女子でも読んでた子がいたんだ」

 そう、そうだった。その友達というのは女子だった。名前は冨樫といって、いつも一人でいて、クラスではあまり目立たないような、いわゆるオタク女子というような子だった。冨樫は漫画が好きで、俺はよく『君のキオク』の話を冨樫としていたんだった。

 一度思い出すとだんだんと冨樫との思い出が蘇ってくる。どのヒロインが一番かわいいかとか、主人公はどのヒロインを選ぶのかとか、絶対このヒロインが主人公と結ばれるとか、そんな他愛もない会話が頭に浮かび上がってくる。そして、彼女と仲良くなったきっかけは何だったかという思考に行き着いたとき、俺は、ふと気付く。


 ……何故だろう、似ている。娘の話した『ワタシの証』のヒーローとヒロインの出会いと、俺と冨樫との出会いが、なんだか妙に似ている。

 ああ、そうだった。今振り返ってみればあいつとの高校卒業までのほんの少しの日々は、そんな感じの、例えるなら恋愛漫画のような、しかしそういうわけでもないような、少しだけ不思議な関係だった。そして……。


 そう思った瞬間、冨樫との日々が、まるで昨日体験した出来事のように頭の中で駆け巡った。


 ☆


 冨樫と初めて話したのは高校最後の三学期が始まった一月の中旬で、放課後のことだった。あともう少しで高校生活が終わるという時期に、俺は忘れ物を取りに自分の教室へと足を運んでいた。忘れ物が何だったのかは今ではもう覚えてはないけれど、窓から差し込む夕日が閑散とした教室を幻想的に照らしていたことと、そしてポツリと、一人で静かに本を読む冨樫がいたのは覚えている。


 クラスが同じになったのは三年生になってから。この日までは冨樫と話したことはなかった。というのも、冨樫はあまりクラスメイトと交流をするようなタイプではなく、いつも一人でいた。たまにふと遠目で冨樫を見れば、いつもブックカバーが付いた本を読み、学校が終わればすぐに教室から出る。良く言えば物静かな、悪く言えば根暗でオタク気質な女子ともいえる印象を受けた。長い前髪が目にかかり、黒縁のメガネを付け、少し猫背な姿勢。極めつけには登校用リュックに付けられたアニメキャラがプリントされている缶バッチの数々が、より一層彼女をオタクに仕立ていた。

 俺はそんな冨樫を見て、「友達はいないのだろうか」とか、「いつも何の本を読んでいるんだろう」というような興味を少し持ってはいたが、しかし別に自分からそれを聞きに行こうとする程の気力は持っていなかった。


 けれどその日は、自分の席に座って本を読んでいる冨樫を見てなんとなく声をかけた。何故話しかけようと思ったかはもう覚えていない。教室で二人きりだったのが気まずかったのか。それとも読書をしている冨樫が少しだけ、話しかけてほしそうな雰囲気だったような気がしたからか。あやふやだけど、まあ、そんな感じの動機だったような気がする。

「なあ、何の本読んでんの、それ?」

 自分の席で忘れ物を回収した俺は、左斜め前後ろにいる彼女にそう話しかける。俺の声が静かな教室に響いた。

「……へっ?」

 すると冨樫は顔を上げて、突然話しかけられて驚いたのか目を見開いてこちらを見た。

「いや、いつも何の本読んでるのかなぁって思ってさ。小説かなんか?」

「えっ、あっ、いやっ……えーとっ……その……これは……」

 明らかに動揺する冨樫は、目を回しながらあたふたしている。その反応を見て流石に馴れ馴れしかったかと反省していると、冨樫は小さな声で言う。

「……漫画だよ」

 そう聞いて、どうやら話しかけられた事を不快に思ってない冨樫の返答に胸をなでおろしながら、俺は会話を続ける。

「そっか、漫画か。冨樫は漫画好きなの?」

「えと……うん、割とね……」

「そっか。俺も結構好きなんだよねー」

「そう……なんだ……」

 そう相槌を打った後、冨樫はだんまりとしてしまう。なんとなく予想はしていたが、冨樫はあまり会話が得意ではないというのは、話していて分かった。発する一言一言のボリュームが小さく、どこかよそよそしく感じられた。だとしたらあまり話しかけすぎるのも悪いだろうか。

「佐野くんは……どんな漫画が好き……?」

 しかし、そんな考えを否定するように冨樫はそう聞いてきた。後で仲良くなって本人に聞いたことだが、このとき冨樫は俺に話しかけられたのが嬉しかったみたいで、この時も会話を終わらせたくないがために勇気を振り絞って質問してくれたらしい。

 俺は冨樫が座ってる席に歩み寄り、質問に答えた。

「えっと、俺?そうだなぁ…………バトルとかアクションとか、まぁ少年漫画のやつはだいたい好きかな。冨樫は何好き?」

「……漫画なら何でも好きだけど……えーと、私はラブコメが好き……かな。ラブコメなら何でも好きだよ。うん……」

「おっ、ラブコメね~。好き好き、俺も好きだよ。男向けのやつ割と読むし、少女漫画のも姉ちゃんの借りて読んだりするから、結構語れる自信あるよ」

「えっ……そ、そうなの?」

「へへっ、結構以外だろ?」

「う、うん。男子とか、そういうのはあんまり好きじゃないと思ってたけど……」

「あー確かにそうだよなぁー。まあ、正直俺も少年漫画の方が好きなんだけどさっ」

 そう言って苦笑いすると、冨樫も「そうなんだ」と少し微笑んでくれて、なんだかそれが妙に嬉しかったのを覚えている。そんな感じで、話してるうちに冨樫の緊張がほぐれてきたのが伝わった。誰でも好きなモノの話をするとそうなるもので、冨樫も例外ではなかったようだった。

「あ、じゃあさ。今読んでたそれもラブコメ?」

 最初に質問したことを聞くと、冨樫はこくりと頷く。

「う、うん。今私が読んでる漫画の中で一番好き」

「へー、面白いんだ」

「あっ……うん、すごく面白いよ。ラブコメなんだけど……あっ、もしかしたら佐野くんも知ってるかも」

「おっ、まじで?」

 冨樫がブックカバーを外して見せてくるので「どれどれ」といった風にその漫画の表紙を見て、そして、素直に驚いた。

「…………好きなのか、『君のキオク』?」

 それは、俺がその時一番ハマっていた漫画『君のキオク』の最新刊だったのだ。

「えっ」

「いや、まじか!冨樫『君のキオク』好きなのか!」

「え、あ、う、えっ……?」

 思わぬ出来事に大声を上げてしまう。目の前にいる冨樫は当然ビクリとうろたえてしまったので、俺は我に戻り、すぐに謝る。

「ご、ごめん。急に大声出しちゃって」

「あっ、い、いやいや!別に大丈夫だよ。ちょっと驚いただけ」

 そう言って冨樫が必要以上にブンブンと首を振る。そういえば冨樫にはこういうところがあった。この時もどう考えても俺が悪いのに、腰を低くしていた。それが冨樫の良いところでもあったけど。

「あっ、えっと……佐野くんも好きなの?『君のキオク』」

 気を取り直すようにそう聞いてきたので、俺はそれにあやかるように声のトーンを上げる。

「うん!超好き!マジで今ハマってんだよねぇ!いや~、学校の奴らで読んでる奴いないからさぁ。まさか学校で読んでる奴いたとはな~」

 そう、『君のキオク』は当時流行ってこそいたが、俺の周りでは読んでいるがいなかったのだ。というのも俺の友達は男子が殆どで、だいたい読むのがアクション漫画ばかりだった。数少ない女子の友達も男向けのラブコメなんかは読まないので、俺は『君のキオク』を語り合う友達がいなかった。強いて言えば姉ぐらいなのもので、冨樫が読んでいるのを知って、俺は内心凄く喜んでいた。

「あっ、そうだそうだ。冨樫はどのキャラ好きよ?」

 思い出したようにそう聞くと、冨樫は考えるそぶりを見せる。

「えっ。えーと…………()()ちゃんかな」

「ああぁーーそっちかぁーーっ。俺は(かおる)のこと推してんだよねー」

「あっ、薫ちゃん!うん、かわいいよね!」

 すると冨樫がパッと顔を明るくした。そして声のトーンも更に高くなった。その反応を見て俺もなんだか嬉しくなってくる。

「おっ、冨樫もそう思う?いやそうなんだよ!かわいいんだよなぁ薫!まっ、結衣も全然かわいいけどさ」

「うん!この漫画のヒロインって、他の漫画のヒロインよりも凄くかわいいよね!この最新刊だって……」

「あっ、待った!ネタバレ禁止!俺まだ最新刊読めてないんだよ!」

「そ、そうなの?あ、じゃあコレ貸してあげようか?」

 そう言って、冨樫が手に持っていた最新刊を俺に差し出してきた。

「え、いいのか?まだ読んでる途中だろ?」

「いや、読み返してただけだから。全然いいよ」

「まじか!いや、助かる!あ、今読んじゃってもいい?」

「えっ。い、今から?」

「この前の巻のラストが凄かったからさ。気になってたんだよな~」


 と、そんな感じでこの日を境に俺は冨樫と『君のキオク』を通じて仲良くなった。そして日は下校時刻になるまで借りたそれを冨樫と教室で読み、このシーンが良いだとか、物語の展開が凄いだとか、冨樫と熱く語り合った。下校するときも一緒で、駅で冨樫が電車に乗るまで『君のキオク』トークは続いた。とても充実した気分で家に帰ったのを覚えている。

 今の会話でも分かる通り、冨樫は会話を交わすうちに、いつの間にかよそよそしくなくなっていた。たまたま俺と冨樫の馬が合ったのもあるかもしれないが、きっと冨樫も『君のキオク』を誰かと語り合いたかったんだと思う。



 その次の日から、誰もいない放課後の教室で俺と冨樫は『君のキオク』トークで盛り上がった。放課後までの時間は友達と話してる俺に遠慮してか冨樫は話しかけては来なかったけど、放課後になってクラスメイト達がいなくなれば、俺達は二人きりで話し合った。

 話す内容は『君のキオク』だけではなかった。冨樫は多種多様な漫画を読んでいたので、俺が読んできた色んな漫画の話もしたし、学生らしい下らない話や、三年生なので進路の話、世間話、時期ネタ、今日学校で起こった出来事など話していた。もちろん『君のキオク』トークが一番盛り上がったし、大半はそのことについてだった。

 放課後にだけ、冨樫と二人だけで、好きなモノについて語り合う……。

 今にして思えばたった二週間ちょっとの関係だったけど、そんなちょっとの時間が、日々が、そして関係が。大人になった今ではかけがえのないものだったんだと思えてならない。


 例えば、ある日はこんな話をした。

「なあ、圭一郎って最終的に誰選ぶと思う?」

 俺がそう聞くと、冨樫は「うーん」と唸りながら考え出した。

 ちなみに圭一郎というのは『君のキオク』の主人公だ。いつもは優柔不断で頼りなさそうだが、いざとなれば持ち前の度胸と漢気でヒロインたちを助けるようなキャラで、俺は主人公らしくて結構好きだった。

「私としては、やっぱり結衣ちゃんを選んでほしいかな。いつも圭一郎に振り向いてもらえるように頑張ってるし」

「あ~確かにな。それは結構あるなぁ」

 結衣というのは三人いるヒロインの一人で、お淑やかな気品がある性格のキャラだ。歌がうまく歌手を目指していて、作中では圭一郎のことを一番初めに好きになったのがこのキャラだ。冨樫はこのキャラの真っ直ぐで一途な、でも所々抜けている一面が好きと言っていた。

「でもさ、俺の考えだけど圭一郎って薫に靡いてる節ある気が済んだよねー」

「う~ん、どうだろう?結構仲は良さげだけど、やっぱり幼馴染だからそう見えるってだけかも……?」

「ん~、なるほどな」

 薫は圭一郎の幼馴染で、サバサバした性格が印象的だった。圭一郎とは悪友のような、それでいて妹分のような存在だったのだが、ある出来事がきっかけで圭一郎を意識しだいして…………みたいなキャラだった。俺はこのキャラが一番好きで、特に圭一郎を意識しだしてからの薫は、純粋に見ていて可愛いなと思っていた。

「じゃあさ、()()はどうよ。選ばれそう?」

「いや、ないと思う。可愛いし、一番人気だけど」

「だよなー。なんかそんな感じするわー俺も」

 千恵は冨樫が言った通り『君のキオク』の中で一番人気のキャラだ。成績優秀で、クラス委員長を務めているが、あまり人とのコミュニケーションが苦手なキャラだ。その守ってあげたくなる性格が読者にはウケたみたいで、人気投票では1位だった。だが、圭一郎を最後に好きになったのもこのキャラで、恋のレースでは結衣と薫に後れを取っている印象だった。

「となると、やっぱり結衣か薫か~。まあそのどちらかなら圭一郎は薫を選ぶだろうな」

「えー?私は結衣ちゃんだと思うなあ。」

「いいや、絶対に薫だな。ジュース賭けてもいいね」

「ふふっ、いいのそんなこと言って?」

「おっ、乗っちゃうこの賭け?じゃあもし圭一郎が薫選んだらジュース奢りな」

「わかったよ。後でやっぱりやめたとかナシだよ?」

「冨樫こそなっ」

 こんな会話をして、子供じみた賭けを約束して、俺と冨樫は二人で噴き出すように笑い合ったのは今でもいい思い出だ。しかし今にして思えば『君のキオク』が完結するのが高校卒業してから数か月後のことなので、この賭けは成立しないのだけれど、まあ、この頃はあまり細かいことは考えてなかったなぁ。俺も。そして多分冨樫も。



 冨樫と仲良くなってからの二週間、俺と彼女は毎日放課後を過ごしていたが、しかし俺達は当時高校三年生で、時期は一月。卒業を間近に控えていた。

 俺の学校は自由登校の期間があり三年生は二月中、学校には基本登校できない。つまり1月の最後の登校日から3月の頭まで、学校は休みということであり、それは冨樫とその期間は会えないことを意味していた。

 俺は冨樫と仲良くなったとはいえ別に休日も会うわけでもなく、少しドライかもしれないが、言ってしまえば学校だけの関係で、それがなければ接点がない関係だった。なので冨樫は2月中に遊ぼうと誘わないだろうと俺は何となく察していたし、冨樫自身も、俺から誘われるようなことはないと分かっていたのではないかと思う。


 ――だからだろうか。1月の最後の登校日、冨樫が遊びに行こうと誘ってきたのは。


 その日の放課後、いつものように教室で冨樫と話そうとしていたところに、冨樫本人から「今日はデパートへ遊びに行こう」と誘われた。急なことで少し驚いたが、別に断る理由もないので承諾した。それにその日は自由登校前最後の登校日だったので、学校自体は昼に終わっていた。二人で下校することは何度かあったので、「寄り道ぐらい別にいいか」という、この時の俺はそんな軽い気持ちで受け答えした。

 一月の寒空の下、俺と冨樫は二人並んでデパートへ向かう。いつもの下校とは違い太陽はまだ高いが、けれど俺達はいつものように二人でいろんな話をした。そして笑い合った。

 通っていた学校が田舎町だったからか、最寄りの駅の近くにあるその5階建てデパートには沢山の人がよく集まっていた。その日は昼過ぎということもありデパートは混んでいて、買い物に来た主婦、子連れの夫婦、杖をついた老人に、俺達と同じ制服を着た学生などがチラホラといた。

「どこか行きたいとこあんの?」

 デパートの入り口で俺がそう聞く。すると冨樫は少し悩み出す。どうやらノープランだったみたいだが、すぐに彼女は「ゲーセンに行きたい」と提案してきた。俺も別に行きたい場所があったわけではないので取り合えずそれを承諾した。

 ゲームセンターはデパートの4階にあった。田舎町のデパートにしては色々な種類のゲームが置かれていた。

「あ、見てみて!『君のキオク』のフィギアだ~!」

 クレーンゲームを指差して冨樫がそう言う。満面の笑みを浮かべる彼女の目線の先には結衣のフィギアがガラスケースの中にいた。

「ホントだ。ほしいの?」

「うん!ちょっとやってみるね」

 冨樫は財布から100円を取り出し、投入口に入れる。ピロリンっとクレーンゲームから音が鳴る。

「よーしよし、いいぞ……」

 ボタンを押してクレーンを動かす。が、クレーンはフィギアではなく手前の空を掴む。要は空振りだ。

「あ~、ダメか~」

「はは、しょうがない。俺が仇とってやんよ」

 悔しがる冨樫にそう笑いかけながら俺もお金を入れて挑戦する。しかしこうやってカッコつけたものの、まあ、結果はダメだった。アームが弱すぎてフィギアの入った箱を掴めなかった。

「いや、佐野くんもダメじゃん」

「あれ、ウソ。これ掴めないのかよ……」

「よし、こうなったら交互でやろうよ!」

「え。いやいや、やめたほうがいいって。これアームが弱いから取れないって」

「えー、大丈夫だってー。それにほらこのフィギア。スッゴイ完成度高そうだし。絶対に取っといたほうがいいよ」

「そうはいってもなぁ。うーん……」

 こんな感じで当時は唸り声を上げた俺だが、確かこの時は悩んだ末に冨樫の意見を飲んだと思う。実のところなんだかんだ言いながら俺もそのフィギアが欲しかったのだ。そして結局二人合わせて1500円ぐらい使っても取れなかった。そういえば、どう考えても取れる気配がなかったのに冨樫が全然やめようとしなかったから必死になって止めたっけ。今思えば冨樫は俺以上にあのフィギアを欲しがっていたなぁ。まあ、だからってあれ以上はお金が勿体無かったが。

 クレーンゲームで遊んだ後も、俺達はゲームセンターで遊んだ。シューティングゲームや音ゲー、エアホッケーにメダルゲームなど一通り遊んだ。


 そして流石に遊ぶのに飽きてきたころ、冨樫が「本屋に行きたい」と提案してきた。当然俺は承諾し、俺達は3階にある本屋へと向かった。よくあるチェーン店で、入口付近にはピックアップされた本が並べてあったが、漫画が好きな俺達はやはり漫画コーナーへと足を運べた。

 本棚にはぎっしりと漫画が並べていて、その下に目線をやれば平積みなっている当時話題だった漫画があり、そして『君のキオク』も平積みになっていた。俺はそんな漫画達を眺めながら何か面白そうなものはないか探していていると、ふと隣にいたはずの冨樫がいない事に気づく。首を振ってあたりを見渡すと、冨樫は少し離れた本棚の前で、じっとある本を手に取り見つめていた。

「何か気に入ったのがあったのか?」

「ヒェ……!?」

 近づいて声を掛けると、突然冨樫が変な声を出して驚いた。どうやら本に集中していて近づいてくる俺に気づかなかったようだった。いったい何を見ていたのだろうか。

 俺は気になって冨樫が持っている本の表紙を覗き込む。するとそこには、

「えーっとなになに……『漫画を描こう。~入門編~』……?」

「あっ、えっと、その、これは……」

 と、ポップなイラストと一緒にタイトルが書かれていた。恥ずかしいのか顔を真っ赤にする冨樫が手に持っていたのは、漫画を描くためのハウツー本だったのだ。


 本屋を後にし、俺達はデパートの2階にあるファミレスで休憩をしていた。

「そっかそっか。冨樫って漫画家志望だったんだ」

「……まあ、一応ね」

 向かいの席に座る冨樫が少し恥ずかしそうに応えた。そのすぐ側にはさっき見ていたハウツー本が入った袋が置いてある。自分の夢が他人にバレたせいだろうか。この時もまだ少し顔が赤みがかっていたのを憶えてる。

「そういえば冨樫は美大に行くんだったっけ。理由聞いてなかったけど……なるほどな、そういうことか」

「え、えへへ。まぁ本当になれたらいいけどね……」

 そう言って冨樫はコップに入れられたジュースをストローで吸う。

「……正直ね、目指そうかどうか迷ってるんだよね、漫画家」

「え、そうなん?」

「うん。ほら、やっぱりさ。漫画家ってなれるかどうか分からないし。なれたとしても色々と大変そうだし……ね?」

「…………なるほど、確かになそうかもな」

「まあ、なりたいとは思ってるんだけどね……」

 と、冨樫はどこか儚げに苦笑いをした。その表情を見て、この時俺は考え込む。

 俺も詳しいわけではないが、漫画家がごく一部の人しかなれず且つ物凄く大変な仕事なのかというのは重々承知していた。新人賞やら持ち込みやらで連載が決まるのはごく一部で、なれない人が大半だ。それにもし仮に連載が決まったとしても連載中は漫画を死に物狂いで書かなければならないだろうし、その漫画売れずに打ち切りになるなんてこともよくある話だ。そんな職業なら、当然日々の生活も厳しいものになるし、将来への心配も山積みになるだろう。そう思うと、冨樫が迷うのも無理はないと俺は心の中で理解する。

 多分、この時の冨樫は不安だったんだと思う。自分が漫画家を目指す道を歩く事が。将来が。だからこんなことを言っていたんだと思う。

「……じゃあさ、もし仮に漫画家になったら、冨樫はどんな漫画が描きたいよ?」

 少し微妙な空気になっていたので少し話を変える。するとすぐに彼女の表情がパーッと明るくなり、テーブルに身を乗り出した。

「そりゃあもう!『君のキオク』みたいなラブコメが描きたい!」

「うおっ……!?そ、そうかそうか、ラブコメか……。ま、まあ、冨樫はそうだよな。ラブコメ好きだし。おう、い、良いと思う」

 突然身を乗り出すので俺もびっくりしてしまった。そんな俺をみて察したのか、興奮気味の冨樫はすぐにハッとして「ご、ごめん驚かせて……」と謝り、身を引込めて少し沈黙する。

「…………佐野くん。ありがとね」

 とそんな少しの間の後、急に前触れもなく冨樫がそう言った。

「ん?なんだよ急に」

「いや、私佐野くんがいなかったら今もずっと一人でいただろうし、そうなると私の高校生活って、ひとりぼっちでつまらなかった日々の記憶しかなかったからさ」

「冨樫……」

「だからね。本当にありがとう。たった二週間だったけど、この二週間は本当に楽しかったよ。うん、『青春謳歌してるな』って感じがした」

 この時初めて、冨樫に心の底から感謝された気がした。いや、冨樫の恥ずかしさで赤くなった表情は、本当に感謝してくれていたと、今でも思う。

「…………」「…………」

 冨樫の言葉で、一気にその場の雰囲気が変わり、俺も彼女も気恥ずかしくて黙り込んでしまった。多分、俺も顔が赤くなっていた。

 少しその場が静まった後、先に行動をしたのは冨樫だった。気を取り直すために「わ、話題話題……」と呟きながら慌てて首を振り、周囲を見渡した。そしてふとある所に目線を向けながら、俺に訪ねてきた

「ね、ねえ佐野くん」

「ん?」

「佐野くんはさ。大人になったらタバコ吸ってみたい?」

 彼女が目線を向ける先……そこは喫煙席だった。喫煙席には男性が一人、何やら神妙な趣でタバコを一服していた。

「タバコか~。冨樫はどうなん?吸ってみたい?」

 聞き返すと、冨樫はゆっくりと首を横に振った。

「私はあんまり吸いたくないかな。タバコって身体に悪いし。煙臭くなるのも嫌だし」

「まぁ、確かに」

「とゆうか私、あんまりタバコ吸ってる人も好きじゃないんだよね」

「……へー、どうしてよ?」

 この質問に冨樫は「まあ、偏見なんだけどさ」と前置きを入れてから、こう言い出した。

「ちょっと、怖い。タバコ吸ってる時の人って。……人の怖い一面が見えてる気がして」

「……怖い一面、かぁ」

「ねえ、佐野くんもやっぱりそう思わない?」

「………………」

 この質問に、俺はどう答えようかと少し悩んだ。なぜなら当時の俺は、少しタバコに興味を持っていたからだ。自分自身、大人になった時は一本だけ試してみたいと考えていたのだ。だから冨樫にどう伝えようか少し悩んで、そして、


「……俺は、カッコイイと思う。そういう怖い一面が見えてる感じが」

 と一言、喫煙席の男性を見ながら答えるのが精一杯だった。

 それからデパートを後にした俺達はそのまま駅のホームで解散した。去り際に冨樫は、「今日は楽しかった。またね」と淡々に言い残し、急ぎ足で電車へと乗っていった。電車の窓越しから見えた冨樫の表情が頬を赤らめ、それととても悔しそうだったのを憶えている。何だか俺に伝えたいことがあったような、そんな感じではあり、そんな気がした。



 それから間もなくして自由登校期間に入った。そして、予想通り二月は冨樫からの連絡は来なかった。

 やはり、俺たちは学校だけの関係だったのだ。今にして思えば俺と冨樫には、お互いプライベートには干渉しないという暗黙の了解というか、壁というか、なんというか……そういう言葉には言い表せられない謎の距離感というものが俺たちにはあった気がする。漫画の話で仲が良くなったとはいえ、たった二週間程度の関係だったんだ。こうなるのも必然といえば必然だったのかもしれない。

 冨樫と同じように、俺自身も遊びに誘うようなことはしなかった。連絡先は交換していたのだが、正直、明確な理由はと聞かれても答えられそうにない。しいて言うのであれば『ただ何となく』としか答えられない。ドライなのかもしれないが……まぁ、そんなもんだ。



 そしてそのまま俺と冨樫には何事もなく、三月の卒業式へと時が進んだ。

 卒業式の日、俺はクラスメイト達や部活仲間達と最後の雑談をしたり、集合写真を撮ったり、そんな感じの高校生最後の日を送る。それから夕方になってクラスメイトや先生がいなくなり、校舎が閑散としてきた頃、夕日が差し込む教室には俺と彼女……冨樫の二人だけとなった。

「……えっと……帰ろうか」

「……おう」

 一か月ぶりに交わした会話がこれだった。このときの冨樫は一か月ぶりで気まずかったのか、教室に差し込む夕日のせいか、あの時と同じように頬が赤かったし、何か言いたげだった。

 ……ただ、あの時とは違い悔しそうではなく、何かを決意した様子だった。


 そして、駅までの道のりを二人で歩き始める。冨樫との下校は当然これが最後だ。

 町を照らしていた夕日が沈みかけ、辺りが段々と夜を纏っていく。空にもポツリ、ポツリと星が出始めてきていた。俺達と同じく帰路に就いているのであろう人々が、急ぎ足ですぐ横を通り過ぎていき、民家前を通れば晩ご飯の美味しそうな匂いがして、食欲を掻き立ててくる。そしてすぐ隣にはいつも通り冨樫が歩いて、他愛もない漫画トークに興じる。そんな下校時間がもう終わってしまうのか。そんなふうな事を考えて、やはり、俺は哀しくなった。

「久しぶりだね。一緒に帰るの」

 隣で歩く冨樫が呟く。とても落ち着いた声音だった。

「……そうだな。一か月ぶりだもんな」

「ねえ、二月中は何やってた?」

「う~ん、そうだなぁ。ゲームやったり漫画読んだり……まあ、普段とやってること変わらなかったかな。冨樫は?」

 尋ねると、冨樫は少し微笑んだ。

「私も同じ感じかなぁ。漫画読んだり、アニメ見たり。あと、絵もちょっと描いてたよ」

「お、絵か。どんな絵を描いたんだよ?」

「『君のキオク』の結衣ちゃん。結構上手く描けたんだ~」

 冨樫が携帯を取り出し、その写真を見せてくる。

「うおっ、スゲーな。やるじゃんか」

「へへ、まあね。来月から美大生だし」

 来月から。その単語が、俺の心に引っかかる。もう来月には俺も冨樫も別々の道へと進んでいるということを再認識させる。

「……そっか。そうだったな」

「……うん。」

 そして冨樫も俺と同じ心境だったのか、切なげに頷いた。

「そういえばさ、佐野くん卒業式の時は泣いた?」

 哀愁漂う雰囲気を変えようとしたのか、冨樫がそんな話題を切り出す。俺は数時間前に行われた卒業式をふと思い出した後、首を横に振る。

「特に泣きもしなかったな。とゆうか俺、寝てた時とかあったし」

「えっ、寝てたの?ダメじゃん」

「いや、だって思ったより暇だったからさぁ。俺、卒業証明書渡される順番が早かったから、そのあとが凄い暇で……」

「あー、確かに長かったもんねー。卒業証書授与」

 空を見上げて冨樫が苦笑いする。どうやら冨樫も同じことを思っていたようだった。

 俺はそんな冨樫に同じ質問を聞き返す。

「なあ、冨樫はどうだったんだよ」

「へ?」

「卒業式は泣いたのかよ?」

 再度聞くと、冨樫は首を横に振ってこう答えた。

「……泣かないよ。この三年間あんまり思い入れとかないし」

 そう言ってる冨樫に、何故か俺は少しだけ胸が締め付けられた。この時の俺は理解してなかったが、今となってはようやく分かる。きっと、同情の気持を持ったのだと思う。



 そして間もなく、俺と冨樫は駅へと着いてしまう。それは、もう冨樫との時間が残り僅かであることを意味していた。俺達は駅のホームに入り、空いているベンチに隣同士で腰かけた。

 電車の時刻表を見る。あと十分程で冨樫が乗る電車がきてしまう。

「あーあ、これで高校生活も終わりかー」

「そうだねー」

 ホームは俺達以外、誰一人としていなかった。淡々とした俺達の話し声だけがホームに響き、そして消えてゆく。

「……佐野くんはさ。この三年間は楽しかった?」

 ゆっくりと、落ち着いた口調で冨樫が言う。振り向くとその表情はやはり切なげだった。

 俺は上を向いて目を閉じ、三年間の高校生活を振り返る。目に浮かんでくる光景はどれも鮮明で、友人たちとの和気あいあいとした会話、部活動で汗水流したこと、それから数々の学校行事に、勉学に励んだこと。どれもこれも昨日経験したかのように感じられて、そしてそのどれもが輝いていた。

 たった三年間の出来事だったけれど、そのすべてが、俺の大切な記憶として残っている。そして、冨樫との記憶も……。

「ああ、楽しかった。充実してて、色々なことがあって、本当に楽しかった……」

 思い出を嚙みしめるように、ゆっくりとそう伝える。そうすると冨樫からただ一言だけ「そっか」と返ってくる。

「……冨樫は、この三年間どうだった?」

 そう聞くと冨樫は少し考えるそぶりを見せてから、話し出す。

「どうだろう。私、佐野くん以外に友達いなかったから。正直に言うとあんまり楽しいと思ったことはなかったかな……」

 哀しそうに冨樫はそう呟いた後、そして「……でも」と付け加え、こう言った。


「――佐野くんと一緒にいた時は……その……好きだった……かな……」


 まるで俺と最初に話した一月中旬の時のように小さな声で、途切れ途切れに、振り絞るように冨樫がそういったのが聞こえた。思わず振り向けば、俯いている冨樫の顔が真っ赤に染まっていた。耳まで真っ赤だ。…………そしてその時にはもう、夕日は完全に沈んでしまっていた。


「……そっか」

 俺は淡々とそう答えるしかなかった。何故なら気づいてしまったからだ。冨樫が俺の事を、どう思っているのかを。……ドクンと、自分の心臓が波打つ音を聞いた。


 ――――そして、駅のアナウンスが鳴り響いた。


「……そろそろだね」

「…………」

 アナウンスがホームに電車が入ってくることを知らせてくる。冨樫が乗る電車で、俺は乗らない。つまり、お別れの時間が来たのだ。

「ねえ、最後に佐野くんに伝えたいことがあるんだ」

 冨樫がベンチから立ち上がり、線路の方へと少し歩いた所で振り返る。その表情は微笑んでいて……そしてまだ火照っている。

「私ね、佐野くんの事……」

「……」

 ドクンドクンと、自分の心臓が波打つテンポが速くなっていく。冨樫も緊張からか、少し腕が震えていた。

「佐野くんのこと……」

「…………」

 身体が火照ってくる。胸の高鳴りが止まらない。冨樫も息遣いが荒くなってきている。声も震えて、恥ずかしさで俯いて、俺の顔さえ見られないでいる。

「佐野くんの……ことが……!」

「………………っ」

 だけど冨樫は勇気を振り絞るように両手に力一杯握りこぶしを作り、声を荒げた。今まで聞いたことのない声量に俺は、冨樫の気持ちが伝わってくるのを感じて、そして……



「…………はは、やっぱり、何でもないや」

 電車が来たのと同時に、冨樫はそう言って、緊張を解いた。


 それから、「じゃあね」と一言、ぎこちない笑顔を浮かべてから電車へと乗り込み、そのまま冨樫を乗せた電車は駅を後にした。


 ――――電車が走り出す時、車内で涙を袖で拭っている冨樫が見えた。


 ☆


 冨樫との思い出はここで終わりだ。卒業式の日に駅で別れてから、冨樫との連絡は取り合っていない。だからそれから冨樫がどうなったのか、今冨樫が何をしているのか俺は知らない。

「……どうしているのか」

「ねーえー、おとーさーん?」

「えっ?」

「『えっ?』じゃないよも~。どうして急に黙っちゃうの~」

 娘の声を聴いてハッとする。そうだった。娘と話している最中だった。冨樫のことを振り返っているのに夢中ですっかり忘れてしまっていた。

「悪い悪い。えーと、何の話だったっけ……」

「もう!漫画の話だよ!お父さんが子供の時に流行ってた時の!」

「あ、あ~そうだったそうだった」

「ちょっと~。しっかりしてよ~」

 頬を膨らませる娘を宥めるように俺は苦笑いする。と、そんな時にリビングの扉がガチャリと開く音がした。

「ただいまー」

 振り返ると、扉の前には両手に買い物袋を持っている妻が帰ってきていた。

「あ、お母さんおかえり~。今日のご飯何~?私お腹すいた~」

「今日はハンバーグだよー。ひき肉が安かったからね」

「えっ、ホント!?いぇーい!やったー!」

「ふふふっ、すぐ作るからねー」

「うん!」

 娘は嬉しそうに頷いてから、「それじゃあ宿題終わらせてくるね」と言い残し自分の部屋へ戻っていった。

「おかえりなさい」

「ただいま。あっ、そうそう。あなた宛てに手紙届いてたよ」

「ん?手紙?」

「うん、ほらコレ」

 そう言って、買い物袋をテーブルに置いた妻は俺に一枚の封筒を渡してきた。

 その封筒には綺麗にこう書かれていた。


「高校の、同窓会の案内」

 ☆


 そして一か月後。俺は母校の同窓会へと足を運んだ。妻は「楽しんできなよ」と俺を笑顔で送り出してくれた。そして娘には今日発売の週刊誌『チェリー』の最新号を買ってきてほしいと頼まれていた。例の人気漫画『ワタシの証』もそれに掲載されているので、絶対に買ってきてほしいと念押しされた。どうやら前回からの気になっているようだった。

 会場のホテルへ着くと、もう高校時代の同級生や先生方がそこにはいた。当然みんな成長していて、俺は当時仲の良かったクラスメイトや部活動の仲間、お世話になった担任の先生や部活の顧問と当時の話で盛り上がった。

 一頻り談笑した後にふとあることに気づく。この同窓会に冨樫の姿がない。周りを見渡してもそれらしき人物はいない。もしかしたら来ていないのだろうか。それは大いにありえた。友達がいなかった冨樫が同窓会に来ても、精々話せるのは俺と当時の担任ぐらい。それなら行く意味もないだろうと冨樫は思ったのかもしれない。

 正直、冨樫にはもう一度会いたかったのだが…………。


 時間も流れ、一通り知り合いの同級生や先生方と話し終えた後、少し外の空気が吸いたくなったのでホテルの外へと出る。

「うお、寒っ」

 今は2月の初旬であり、冬真っ只中。夜は特に冷え込んでおり、この日もその例に漏れることはなかった。

 入り口のすぐ側には自販機が設置されていた。何か温かいものでも買おうかなと自販機に近づくとそこに人影が一つ。メガネをかけた女性がタバコを吸っていた。

 俺はその女性を見てすぐに誰なのかピンときて、そして唖然とした。何故ならそれは……

「冨樫……か?」

「……佐野くん」

 そう、大人になった冨樫だったからだ。




「久しぶりだな冨樫」

「うん、久しぶり」

 冨樫はそう言って一服してから、ふーっと煙を蒸かした。タバコの煙が冬の寒空に消えてゆく。

「高校以来だから……16年ぶりかな?」

「そうか、もうそんな経つか」

「早いよねー」

 そんな会話を交わしながら、俺は他に持っている缶コーヒーを一口飲む。

 今俺達はまだ自販機の側にいる。自販機はどこにでもあるようなやつで、その隣には吸殻入れがポツリと設置されていた。

 しかし、まさかこんなところに冨樫がいだなんて思いもしなかった。いや、その前に冨樫が来ているなんて…………。ふと隣にいる冨樫を横目で見ると、背は当時とあまり変わっておらず、メガネも当時のものを使っているみたいだった。が、その他の見た目はだいぶ変わっていた。髪はショートになっていて、前髪は目にかかっていない。顔立ちも少し大人びて、背筋も前ほど猫背ではなくなっていた

 そんな変貌を遂げた冨樫には十分驚いた。しかしそれ以上に俺が驚いたのは、冨樫が手に持っているものだった。

「……タバコ、吸ってるんだな」

「……うん。まあ、ね」

 冨樫がタバコを吸っている。吸わないと言っていた冨樫がだ。正直このことが一番驚いている。

「大人になったら吸わないって言ってなかったっけ?」

「あはは……まぁ、ちょっとね」

 冨樫は苦笑いして、手に持っているタバコを、まるで懐かしいものを見るかのように視線を向けた。

「なんだかさ。段々と歳を取っていくうちに、『タバコ吸ってる人も案外、怖くないな』って、なんでか分からないけど、そう思えるようになってきたんだよ。そしたら、不思議と少しタバコに興味持っちゃって。そのまま成り行きで……って感じかなぁ」

「…………」

「なんで怖くなくなっちゃったんだろうね?佐野くんがあの時『タバコ吸ってる人もカッコいい』っていってたからかな?」

 そんなことを言ってから、冨樫は「なんてね」と付け加えて笑った。その笑い方が当時の冨樫と変わらないものだったので、そのときの冨樫と今の冨樫が重なる。ああ、どんなに見た目が変わっても、やっぱり冨樫なんだな。と、そんなことを思ってしまった。

「ねぇ、佐野くんも一本……吸う?」

 そういって冨樫はタバコの箱を俺に差し出してくる。だが、俺は首を振ってそれを断った。

「悪い。実は俺、タバコは止めたんだよ。だいぶ前に」

「え、そうなんだ。どうして?」

「…………子供、生まれたからさ」

 そう言ったその瞬間、冨樫の目が、見開いた。そして俺の左手をちらりと見た。いや、正確には左手の薬指にはめてある指輪を。

「………………そっか。結婚したんだ」

「ああ、二十四の時に」

「へえ、そんなに早くに……」

 そういって冨樫は吸い終えたタバコを吸殻入れに捨て、箱から二本目を出して、火を付けた。火が付いたタバコからはモクモクと煙が上がっていき、冨樫はそのタバコを吸ってから、少しの時間、ただただ昇っていく煙を物思いに眺め始める。

「……そうなると、お子さんはいま11歳か」

 そしてポツリとそう呟く。俺は被せるように「今年でな」と言った。

「子供かぁ。いいなぁ。私も欲しかったかも」

「……結婚してないのか?」

「うん、仕事が忙しくてね。婚期逃しちゃったかも」

 またしても冨樫は苦笑いをする。それを見て俺はハッとし、『少し失礼なこと聞いたか』と申し訳なく思っていると、冨樫が俺の反応を見て「気にしないで」と言ってくれた。

「仕事が忙しいってゆうのは仕方ないし、それにその仕事も結構頑張ってるからさ。結婚はまぁ、うん。今は大丈夫かな」

「……そっか」

 そう聞いて俺はある単語が気になった。

「仕事って、何やってるんだ?」

 素直に聞いてみると、冨樫はこちらを向いてこう答えた。


「――漫画家」


 そう、躊躇いもなく言った。

「……え、それ、本当か?」

 驚きのあまり思わず聞き返してしまう。すると冨樫は満面の笑みと、タバコとは逆の手で作ったピースサインをこちらに向けてきた。

「うん、ホント。今結構売れてる」

「……すげぇ、すげぇじゃんか!夢叶えたんだなお前!」

「はははっ。っていってもそれまでは凄く大変だったよ~。出版社に持ち込んでも全然漫画は採用されないし、いざ連載が決定してもすぐに打ち切られたりしたし……」

 そう話す冨樫だったが、「でも」と言って夜空を見上げる。

「今書いてるやつは結構ファンがいて、アニメ化もして、その続編も決まって……今や人気漫画の作者だよ」

 その話をする冨樫は嬉しそうで、何と言っていいか分からないけれど、あぁ、本当に漫画家になったんだなと実感してしまう。

「そっかぁ~。マジで漫画家になっちゃったのかよ~。しかも売れっ子か~」

「ふっ、ふっ、ふっ。すごいでしょ?」

「いや、凄いどころじゃないって……。あっ、待てよ。もしかしてお前本当は冨樫じゃないとか……」

「あっ、ひどー」

 そう言い合った後、プハッと吹き出してしまい、俺たちは昔のように笑い合う。ああ、そうそうこの感じ。漫画の話で盛り上がるこの感じ。懐かしいなぁ。

「はははは。なんか懐かしいよ。こうやって佐野くんと漫画の話で盛り上がるの」

 冨樫もそう思っていたようで、やっぱり俺たちには漫画の話だなと再認識する。

「あ、そういえば。佐野くんは『君のキオク』の最終話見た?」

 漫画で思い出したのか、冨樫がそう聞いてくる。当然、俺は『君のキオク』の最終回を読んでいたのでニヤリと笑った。

「おう!そりゃもちろん!」

「そっかそっか。いや~、まさか最後はあの子が圭一郎に選ばれるなんてね~」

「う~ん、そうだよな~。俺も読んでてびっくりしたわ」

 そう言ってから、俺達は感慨深げに空を見上げて、

「「まさか千恵がね~……」」

 と、息ピッタリに圭一郎と結ばれたヒロインの名前を口にした。いや、本当にまさか千恵が選ばれるだなんてなぁ。俺は薫だとばかり思っていて……。

 そんな時、ここでふとあの時の賭けについて思い出す。『ヒロインを当てられた方がジュース奢り』という高校時代に交わした賭けの約束を。

「そういえばさ。俺と冨樫とでかけしたよな?『もし選ばれたヒロインを当てられたらジュース奢り』ってやつ」

 そのことを伝えると、冨樫も思い出したようでコクコクと頷きながら賭けの内容を口にしていく。

「ああぁーやったねぇ、そんなこと。確か佐野くんが薫ちゃんで、私が結衣ちゃんで…………アレ?それじゃあもしかして、この賭けって引き分けじゃん。うわーー、折角ここに自販機あるのにーー」

「あっ、そういやじゃん。うわーー、なんかもったいねーー」

 そう言って、またまたお互いに笑い合った。ああ、やっぱりこの感じ、好きだなぁ。

 ――――ブーッ、ブーッ。

 そんな時、ズボンのポケットに入れていた携帯が音を出して振動した。冨樫にいったん断ってから、何かと思い携帯を覗くと、娘からのメールが来ていた。内容は「絶対に、帰りに『チェリー』買ってきてね!忘れないでよ!」という念押しのメールだった。

「メール?」

「ああ、うん。娘から」

 冨樫にそう伝えると、彼女は「へー」と淡々とした返事が返ってきた。そして続けて、

「……どんな内容だったの?」

 と聞かれたので、携帯をポケットにしまいながら、俺は笑って答える。

「はは、『今日発売の漫画雑誌買ってくるのを忘れないで』って内容。いやー参ったよ」

「今日、発売の……」

「ああ、娘も俺と同じで漫画結構好きでさ。その雑誌の漫画の、今話題になってる漫画が好きなんだよ」

「………………」

 そう説明すると、何故か急に冨樫は黙り込み、考え込んでしまったではないか。

「ん?どうした冨樫?」

 何故考え込んでしまったのだろうか。俺が話しかけみても冨樫からの反応がない。いったい何があったのだろうか。……と心配し始めた矢先、唐突に冨樫が口を開いて質問してきた。

「……その漫画雑誌ってもしかして『チェリー』だったりする?」

「えっ、あ、まあ、そうだけど……」

 唐突に聞かれて少したじろいでしまったが、一応そう答える。そうすると冨樫はまた少し間をおいてから、こんなことも聞いてきた。

「……じゃあ、娘ちゃんが好きなその話題になってる漫画のタイトルって何か知ってる?」

「え?えーと、確かに『ワタシの証』っていう……」

「…………………………っ」


 ――――その瞬間、またしても冨樫の目が見開いた。


「ねえ佐野くん。そういえば私が何の漫画書いてるのかまだ言ってなかったよね?」

「……へ?」

 突然どうしたと思って振り返れば、「それだよ」と冨樫。

 最初は何を言われているのか分からなかった。だが徐々に思考が追いついき、そしてやっと理解する。

「それってまさか……」

「うん、『ワタシの証』だよ」

 そう言って冨樫はずいぶん短くなったタバコを一服して、今度は蒸かさずに吸い込んだ。

「マジで……言ってるのか……?」

「マジだよ。大マジメ」

 隣りにいる冨樫の横顔に目をやる。冨樫は先ほどと同様、モクモクと昇っていくタバコの煙を、今度は目を細めて見ていた。……その物思いにふける様な風貌は、立ち姿は、とても冗談を言っているようには思えなかった。

「なあ、本当に、お前がその漫画を描いてるのか?」

「……信じられない?」

「あ、いや、そうじゃないんだけど……何というか……」

 ここで俺は、あることに引っかかっていた。

 一か月前、娘から聞いた『ワタシの証』の内容。確かオタクの少女が放課後漫画を読んでいるところに、クラスの人気者が話しかけてきて、その漫画を通じて恋愛に発展していくという内容だった。


 ――やはり、似ている。俺と冨樫との出会いと。そう、まるで冨樫が…………。


「………………」

 俺はもう完全に冷め切ってしまった缶コーヒーを一口飲んで喉を潤す。

「なあ、その漫画ってもう完結したのか?」

「いや、再来週で完結する予定だよ」

 それを聞いて、俺は少し躊躇いながらも、思い切って疑問を聞いてみることにした。

「……もし、本当にさ。お前がそれを描いてるんだとしたら、少しだけ聞いてもいいか?」

「どうぞ」

「いや……俺は別にその漫画は読んではないんだけどさ。娘が言うには『ヒーローとヒロインが結ばれるのかどうか分からない』ってことなんだ」

「……そうだね。今の状況はそんな感じだよ。まあ、再来週の最終回で結ばれるかどうかは描くつもりだけど」

 冨樫がそう呟いたので、「それじゃあ、さっ」と俺は一番聞きたいことについて聞いてみる。

「その二人は最後、どうなるんだ?結ばれるのか?」

「………………」

 冨樫はいったん黙り込み、その短くなってきた二本目のタバコを吸って、まるでため息を吐くかのように煙を蒸かす。それからしばらくしてボソリと「君になら話してもいいか」と小さく呟いてから。そして、こうく答えた。

「うん、結ばれるよ。ヒロインがちゃんと勇気を出してヒーローに告白してね。だって、結ばれて欲しいしさっ」

「…………」

「――――勇気が出なかったどこかの誰かさんと違って、ね」

「………………………」

 冨樫の横顔を眺めて、脳裏に電車の中で涙を拭っている冨樫の光景がふと映った。


 ☆


 それから、冨樫は二本目のタバコを吸い終えると、それを吸殻入れに捨てて、

「それじゃあ、まだ仕事が残っているから」

 とその場から去っていった。最後に何で同窓会に来たのか、そして何故自分が『ワタシの証』の作者だと明かしてくれたのか、その理由を聞こうと思ってはいたのだが、なんとなく、聞くのを止めた。

 去り際に冨樫はこっちに振り返り、「お幸せに」と一言いって、そのまま冬夜の街へと消えてゆく。俺はそれに声をかけるでもなく、ただその後ろ姿に哀愁を感じて仕方なかった。


 冨樫が去ったその場所に、俺はボーっと佇んで、卒業式の日を振り返る。

 もしあの時、駅のホームで冨樫と別れたあの時、冨樫が言おうとしていた言葉を俺が追求していたら。ひょっとしたら何か変わっていたのだろうか。俺と冨樫との関係は、もっと深いものへと変化していたのだろうか。そうだったとしたら、今の俺は冨樫と……。


 いや、この事を考えたてどうなるでもない。もし仮にそうであったとしても、その未来に現実俺はいない。今は愛しい家族が帰りを待っている。ただそれだけなので、だからこの話はもうこれで終わりだ。


 ――――風が、頬を撫でるように吹き抜ける。


「……寒い」

 外に長居し過ぎてしまった。冷め切った缶コーヒーと、それを持つ手が凍り付きそうだ。この寒さならば、もしかしたらボチボチ雪が降り始めてくるかもしれない。

 ふと今は何時かと携帯で時間を確認する。時刻はもう二十時を過ぎている。

 夜も遅くなればもっと冷えるだろうし、何より漫画雑誌を売っている本屋も閉まってしまう。

 ならそろそろ大切な家族の元へと帰るべきかと、缶コーヒーをゴミ箱へ投げ捨てて歩き出す。

 冬真っ只中の二月、帰りに娘から頼まれた漫画雑誌の名前を頭で反芻して、帰路につく。


 …………そして、もし立ち寄った本屋に『君のキオク』があったら、久しぶりに買って、記憶の海にもっと浸かるのも悪くないかも、などと、そんな事をぼんやり思った。

読んでくださりありがとうございます。感想を聞かせてくれるとありがたいです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ