気持ち悪っ
「メラニー…お前、わざと妻が経営する下宿に決めたんだろう」
最愛の妻であるアシュリからメラニー=オーウェンと契約を結んだ話を聞いた次の日、俺はさっそく離婚した元妻であるメラニーに抗議するべく話掛けた。
メラニーはそれには答えず、相変わらずこちらを小馬鹿にしたような口調で言った。
「アラ、同じチームになってからというもの、ワタシの事を空気として扱っていたアンタから話し掛けてくるなんてどういう風の吹き回しかしら?」
「本当ならこのプロジェクトが終わるまで極力話し掛けるつもりはなかった。だけどお前がコソコソと俺のテリトリーに土足で入ってくるなら話は別だ」
「まぁ~ワタシってば随分嫌われたものね?これでも一時は夫婦だったんだし、別れる時も円満離婚だったじゃない?」
少しも悪びれる様子もなく言うメラニー。
俺が自分の事を嫌う訳がないと気持ち悪い勘違いをし続けたままだという事が如実に伝わってくる。
「夫婦だったのは戸籍の上だけだ。それも一年間だけ。円満も何も全部お前の都合だけで決めた事だろう」
「でもアンタも喜んでたじゃない。わたしと離婚出来るのを」
「当たり前だ。少しの辛抱だけだと思ったから入籍したんだ。そうでなきゃ家出して姿を晦ましていた」
「まぁぁ、育てて貰ったくせに恩知らず~」
「……」
ダメだ。
子どもの頃からの慣い性ですぐコイツのペースに乗せられてしまう。
俺は端的に告げた。
「妻と交わした賃貸契約を解消しろ。他の下宿先を探せ」
「わ~偉そうに。特級魔術師になったからって上から目線でものを言わないでよね~。悪かったわね~こっちはまだ二級で」
「くだらない男にうつつを抜かしていたからだろ」
「アラやだヤキモチ?ワタシに相手にして貰えなくてホントは寂しかった?」
「……気持ち悪っ……」
俺は思わず虫ケラ魔獣を見るような目つきで言った。
「もう!とにかくワタシはあの下宿とアンタの今妻が気に入ったの。絶対にあそこに住むから。今妻サンすんごい美人よね~、アンタが面食いなんて知らなかったわ~」
「今妻なんて呼び方をするな。それに彼女の素晴らしさは外見だけじゃない」
「ふーん、ご馳走様?下宿の契約書はさっさと王宮の事務方に渡しちゃったから今さら解約の手続きなんて無理よぅ。下宿側からの解消の要請なんて、評判にキズが付くんじゃな~い?」
「くそっ……!」
思わず歯噛みする俺を見て、メラニーは勝ち誇ったような顔をして微笑んだ。
「今晩からそっちに住むからヨロシクね~♪昔みたいに一緒に暮らせて嬉しいわ~」
そう言ってメラニーはご機嫌なステップを踏みながら去って行った。
どうしてアシュリの下宿を選んだんだろう。
親を欺いてまでも付き合っていた恋人はどうした。
知りたくは無いがそんな疑問ばかりが浮かんで来る。
メラニーが何を考えているのかは分からないが、とにかく絶対にアシュリとの幸せな暮らしを守らねばならない。
最悪、事故に見せかけてなんらかの魔術を掛けてやる……なんて仄昏い考えが浮かんだ事は、愛する妻には絶対に秘密だ。




