なんかおかしい?
結婚して半年。
近頃シグルドの様子がおかしい。
元気がないというか鬱屈しているというか。
相変わらずの構ってちゃんで、「好きだ好き過ぎる」と術式のように愛の言葉を繰り返してくるのだが、時折眉間にシワを寄せて難しい顔をしているのだ。
ーーどうしたのかしら?
仕事で何か問題でも……?
食事は残さずぺろっと食べてくれるので体調の問題ではなさそうだ。
魔導書を開きながらも他の事を考えている様子のシグルドに尋ねてみる。
「シグルド、このところなんか元気がないみたいだけど大丈夫?」
「アシュリ……」
顔を上げたシグルドの前髪が目に掛かる。
わたしはそれを優しく梳いてあげながら言った。
「仕事、大変なの……?」
「うん……ちょっとね……」
シグルドはそう答えて髪を撫でていたわたしの手を取り、手のひらに唇を押し付けた。
そしてそのまま自分の頬にわたしの手を当てる。
目を閉じて。
まるでわたしの体温を移そうとしているように。
「アシュリ。陛下の下知で暫く忙しくなると思う」
「そうなの?大変ね」
「うん……詳しい事は言えないけど現代魔術と古代魔術を融合して新術の開発を仰せつかった。そのためのチームが新しく編成されてその一員に選ばれたんだ」
「凄いじゃない。シグルドは古代魔術の専門でしょう?実力を認められたという事ね、おめでとう、シグルド」
わたしは自分の事のように嬉しくなった。
シグルドと結婚してからというもの、感情の表し方が少しずつスムーズに出来るようになってきたと思う。
間違いなく喜怒哀楽の塊であるシグルドの影響だ。
そんなわたしをシグルドがふいに抱き寄せた。
「シグルド?」
「それで…さ、そのチームのメンバーの中に……
シグルドが何か言いかけたその時、
ピンポーンと玄関のチャイムが鳴った。
「はーい?誰かしら、ごめんシグルドちょっと待っててね」
「……うん」
慌てて玄関のドアを開けると、201号室の店子、医療魔術師のジャンさんが困り果てた顔で立っていた。
「あらジャンさん今晩は。どうかされましたか?」
わたしがそう言うとジャンさんは半泣きで答えた。
「大家さぁ~ん!また大きな蜘蛛が出たんですぅ~退治して下さいぃ~!」
三十代の男性というジャンさんだが、蜘蛛だけは大の苦手らしい。
「あーハイハイ。すぐに行きますね。シグルド、ちょっと行ってくるわね」
「俺が行くよ」
「え?いいわよ。シグルドは仕事で疲れているでしょう」
「蜘蛛を捕まえるくらいなんて事ないし、一人暮らしの男の部屋なんかに入っちゃダメだ」
「何言ってんの、向こうは店子でわたしは大家よ」
「俺が居る時は俺が行く」
そう言ってシグルドはわたしから虫網を受け取り201号室へと上がって行った。
結局、思いの外蜘蛛が大きくてビビった男二人の代わりにわたしが蜘蛛を捕まえて外に追い出す事になったのだが、その騒ぎでシグルドが言いたかった事が有耶無耶になってしまったのだった。
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皆さま、明けましておめでとうございます!
本年もどうぞよろしくお願い申し上げます
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