愛が重い夫
シグルドは王宮魔術師だ。
それもなかなか高位の、上級魔術師と呼ばれるカタガキを持つ魔術師らしい。
魔術師なのは知っていた。
わたしが恩人から譲り受けた魔術師専用の下宿の店子だったのだから。
わたしが営んでいるこの下宿。
下宿名は『賢人の洞窟』。
賢人と称される魔術師が住む下宿としてはなかなかに相応しい名ではないだろうか。
名付けは先々代のオーナーらしい。
でもわたしは知っている。
魔術師達や近所の人達にはこの下宿名が
『変人の魔窟』と呼ばれている事を。
各国共通らしいのだが魔術師には変人が多い。
人付き合いが悪く、魔術や魔法にしか興味が無い上、言動や価値観が変わっている……だから変人と位置付けられるのだ。
わたしの夫となったシグルドも、
御多分に漏れず変な人である。
様々な分野で変人というカテゴリーに当てはまるシグルドだが、こと愛情表現に於いてもなかなかに個性的だ。
とにかく愛が重い、ウザい、暑苦しい。
人の顔を見ては「好きだ、好き過ぎてどうにかなりそうだ!」と喚いている。
家にいる時はずーっと後ろを付いて回るし目が合えば「好きだ好きだ」と術式のように繰り返してくる。
昔からそんな愛情表現なのかと訊けば、
わたしが初恋なので解らないと頬を赤らめて言った。
「え?ちょっと待って、貴方バツイチでしょ?別れた奥さんの事を愛してたんじゃないの?」
と質問を重ねると、シグルドは途端にイヤそうな顔をして答えた。
「元妻とは引き取ってくれた養い親が勝手に決めた結婚だったんだ。幼い内に決められて、元妻自身も俺が相手だと都合がいいからと期間限定で籍を入れただけだ。だからそこに恋愛感情なんて一つもなかった。あったとしたら、家族同然で長く暮らした情くらいなものだよ」
「そう…だったの……」
「だからこんなにも一人の人間に、女性に恋情を抱いたのはアシュリが初めてだ」
シグルドがわたしの頬に手を伸ばす。
「好きだよアシュリ。本当に大好きだ」
そうやってまた術式のようにその言葉を告げてくる。
わたしは素直な性分ではない。
むしろ生きてきた環境の所為か正直な愛情を表現出来ない。
それでも……
シグルドがわたしを真っ直ぐに見据えて想いを伝えてくれるのが嬉しくて、
わたしなりに頑張ってみるのだ。
「……うん……わたしもす、好き……」
「アシュリぃぃ……!」
「きゃあっ!」
想いを返すと感極まったシグルドに必ず押し倒されるという、お約束付きだけどね。
今年の二月から始めました投稿生活。
読者様皆さまのおかげで楽しく執筆する事が出来ました。
本当に、本当にありがとうございます!
これからもましゅろうの拙作を少しでも楽しんで頂けるよう精進して参ります。
来年もどうぞよろしくお願い申し上げます。
それでは皆さま、よいお年をお迎えくださいませ
(〃ω〃)♡