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花屋のレベックは覗き見が好き  作者: 法邑秋亜
第一章 花が紡いだ恋
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第七話 三人の王子

 この声は確か……。

 扉をゆっくり開け、声のする方へと向かう。


「レベック何をしている? ここは城の中だぞ!」


「いいじゃねーか、少しくらい。この声ってザン第一王子か?」


「そうだ。長男のザン第一王子の声だ」


 レベックはアジェンが居るお陰で、執事が付かず自由に歩くことができる。静かに扉を開けて、この会話が行われている部屋へと急ぐ。会話の核心に迫る部分を聞き逃したくはない。


 扉を少し開けると、アマノス王が椅子に座り、ザン第一王子が立ちながら話し合っている。

 内容は先程と同じく、何故にベルガード伯爵家へ行けないのかということだ。


 大きく扉を開けたいのだが、近衛兵が居るため開けられない。致し方なく少し扉を開けて右上の角から見ていると、アジェンはレベックの体の前に入り覗いている。

 大声の内容からして一大事だと伺える。何が起きたのかアジェンだって気になるようだ。


「贈り物だけにしろとは何故ですか? 父上。婚約者に会えないという理由をお聞かせください」


 金髪の髪が光に当たり輝き出した。

 手入れのされた見事な長い髪を左手で払い、綺麗に整った横顔が見える。


「エルフの様に美しい」


 ザン第一王子が昔から言われ続けた言葉だ。勿論悪口ではなく賛美の声なのだが、当の本人は家族と違う髪色をどう思っていただろうな。

 だがそんなことは微塵にも感じさせず、大人に成長した姿は誇り高きアマノス家の次期王だ。


 そんなザン第一王子が叫ぶほどの返答が王からなされた。


「ベルガード伯爵家へ行くな!」


 これは何を意味するのか興味が湧く。

 アル第三王子がベルガード伯爵家から帰って何が起こったのだろうか? 義母と義姉に虐められていることを知ったか? それとも妾の子ってことを知ったのか?


「お前はアマノス家の長男だ。そして王太子になる大切な時期となる。少しぐらい我慢せい」


「しかし、アルが言うには、義母と義姉に虐められているとか? 今マリーは苦しんでいます。迎えに行って連れ帰ります。王太子になれば結婚するのですから、時期尚早とはならないはずです」


 やはり虐めの件をアル第三王子から聞いたか、何不自由なく生活していると思ったら虐められていた。そのことを知ったら、迎えに行きたい気持ちも分かる。

 一日でも早く解放してあげたいと思うのは、婚約者なら当たり前のことだろう。


 しかしレベックはそんな気持ちになったことがない。

 心を土足で踏み荒らされた気持ちも、心が締め付けられて苦しい思いも知らない。アジェンに何か起これば、全力で事に当たるのだろうが、アジェンがそんな思いをする気がしない。


 アジェンの心は鋼に等しい。

 ちょっとやそっとの事で跪いたりせずに、逆に高らかに笑い試練に立ち向かうだろう。

 昔からそんな強い女だった。


 それはマリー様に似ている。

 彼女も目的の為なら手段を択ばず。虐められているのなら大声で笑い罵声し返すだろう。

 彼女はそんな力を持ち、強くもあり華麗でもあるその姿は、まるでアオキの様だ。そんなアオキの花言葉は『初志貫徹』何が起ころうと初めに心に決めた志を最後まで貫き通す。


(強いよ。傍から見ても清々しいほど)


 ザン第一王子はそれを知らないからこそ、余計に心配してしまうのだろう。若さ溢れるザン第一王子は今にも駆けだして、馬車を走らせベルガード伯爵家へ行ってしまいそうだ。


 だが先程もアマノス王が言ったように、大切な時期でもある。そして他国との関係も敏感な時期でもある。幌馬車に騎士数十名を引っ提げて、婚約者に会いに行くわけにはいかないのだ。


 すると第二王子が入って来た。

 その姿は艶の良い手入れをされた黒髪に、顔は整い白い肌が絹の様だ。王家の血がそのまま現れているかのような容姿は、第二王子に相応しい。


「私のリリスが何かしたと?」


「そうだ。私のマリーを虐めている。お前の婚約者は性悪女だぞ!」


「父よ。私もベルガード伯爵家へ行きたくなりました。兄の言う通りなら止めねばならない。婚約破棄も厭わない」


「まぁ、落ち着きなよお二人さん」


 扉の先から出て来たのはアル第三王子だった。

 これで三人の王子が揃ったことになる。面白いものが見れそうだとレベックは鼻息荒く、握る扉は汗塗れ、


「私の髪を息で吹くな。熊男」


 アジェンは下から覗き込むようにレベックを見上げる。


「息ではなく鼻息かっ! どんだけ荒いんだお前の鼻息は!」


「止まらねぇよ。止まんねぇんだよ。面白過ぎて興奮が止まらねぇ」


 アル第三王子は二人の王子の元へ行き、父である王に会釈をすると、口元が弧を描き、悪戯好きな子供の様に足取り軽く、王の元へと近付いた。


 階段を登り父の横まで来ると、それでも見下ろせない二人の王を見て、


「きっと僕がベルガード伯爵家に行った時に、見て聞いて来たことが原因かな?」


 それは昨日の出来事だ。

 昨日の今日で二人の王子に知れたのは、思いのほか早すぎる。知っているのはここに居る四人だけなのか? それとも外部の者から漏れたのか? アル第三王子の発言を待つしか他ならない。


「リリス令嬢と母親はマリー令嬢を虐めていたようだね。妾の子だから仕方がないとはいえる。だけどマリー令嬢の対応が実に面白かったよ。高笑いして逆に二人に食ってかかったんだ。圧巻だったね。面白いものが見れたよ」


「マリーは強い女性です。王妃に相応しいと思います。だけど精神的苦痛は排除せねばならない。今すぐにでも……」


 王の合図と共に、走り出しそうだ。

 マリー様は婚約解消されず、安泰のようだ。二人の絆は強そうに見えるのだが、一体何があったのだろうな。馴初めを聞きたいものだ。


 ザン第一王子は、父親である王の合図を待っている。

 もし「行け」と言われれば、すぐさま騎士を連れて馬で向かいに走るだろう。だがなかなかその言葉を言わない王は、何を渋っているのか分からない。


 婚約者より、息子達の方が心配なのは分かる。

 ザン第一王子は連れて帰ると言うし、ガルラ第二王子は婚約破棄も厭わないと言っている。


「頭を冷やせ二人共。ベルガード伯爵から妹は妾の子とは聞いておったが、お前達には知らせておらぬかったな。嫌なら婚約破棄も仕方あるまい。どうするザンよ」


「はい、母親はどなたなのですか?」


 母親を聞くと言うことは、ザン第一王子は揺れている?

 アマノス王妃が妾の子で良いのか世間体を気にしているのだろう。レベックが思うには王妃となる方だから、由緒正しき血筋の方と考えてしまう。

 それでも王妃候補として、息子達にマリー様を会わせたのは「身分など関係ない」と言ってるかのようで好感が持てたのだがな。


「娘を産んだ後に、病で亡くなったと聞いておる」


「ザン兄様。リリス令嬢もマリー令嬢も、アマノス家に迎え入れたら争いが絶えないのでは? この国を益々繁栄させるには王妃の役目は重大です。私が婚約破棄しますので、お好きな方を選んでください」


 横に立つガルラ第二王子を見て、ザン第一王子は驚いた顔をして見せる。


「兄弟と姉妹で結婚できるなんて幸せと言っていたではないか。あの約束はどうなる?」


「義の時点で、そんな約束は破棄じゃないの? それに子供の頃の子供達による約束でしょ? そんな家族を王族に向かえて良いのかな?」


 アル第三王子は王の隣で、二人の兄を見て言い放った。

 父親である王がどう考えていたかは知らない。だけど子供達も成長し、自分達で考えることができるようになった。


 そろそろ子供達に任せるべきでは?

 きっとそう思っているに違いない。三人の王子の中で一番下だから、言いたいことが言えるのかもしれないが、第一王子も第二王子ももっと主張するべきだ。

 扉の隙間から見ているレベックはそう思いながら、アジェンの頭に手を置いた。


「何だレベック? それよりも私の頭に置いた手を退けろ!」


「あっ、悪い。ついな」


 レベックは話しを聞いているうちに、自分の幼少時代を思い出していた。

 毎日遊び、共に食事をし、共に昼寝をした頃が懐かしい。そして草原に埋まっていた綺麗な花を贈ったんだ。

 その花はスイートピーで花言葉が『門出』とも知らずに……。


 子供の頃は花屋を継ぐとは思いも知れず、花のことは一般より知ってる程度だった。そしてアジェンは軍に入隊し、家から巣立ってしまった。まるでスイートピーの花言葉のように門出を祝うことになるのだが、スイートピーの花言葉を知ったのは、それから数年経過した花屋を継いでからのことである。


 頭に置いた手を退かし、扉の隙間から部屋を覗くと、アル第三王子は兄達の元へ行き、振り返り王を見上げて話し出す。


「お父様は妾の子のことを知ってて、兄様達に会わせたのでしょう。それでも良いと思った理由は何です?」


「妾の子とはいえ、ベルガード伯爵家の血を受け継いでいる。由緒正しき家柄と言っても良いだろう。将来の王妃になっても差し支えないと判断した。だがそれは昔の事。アルの話しを聞く限りだと王妃となるのは問題かもしれぬな」


「所詮は妾の子。それが王妃となったら、他の貴族に体面が保たれないのではありませんか?」


 アル第三王子は、結婚を破局させたいらしいな。

 実際にベルガード伯爵家で見て来たのはアル第三王子だし、自分の姉になる人物でもある。そして王妃になる人物としてそぐわないと判断したのだろう。


 虐めがなければ、マリー様はお淑やかな性格のままでいられた。

 だが運が悪かったと思う他ない。虐めを物ともせず立ち回り言い包めた手腕は見事だった。


 問題はアル第三王子に見られたってことだ。

 演技だったかもしれない。本心はお淑やかで花を愛する乙女かもしれない。だが一度でも見せてしまえば本性と思われても仕方がない。


 ザン第一王子との馴初めは、花が紡いだ恋だと聞く。

 それは何なのだろうな。妾の子でも、性格がキツイとしても、それでも愛することができるのは、その花があったからに他ならないのだろう?


 レベックは気になった。何処へ行けばそれが聞ける?

 ザン第一王子とマリー様のみしか知らないのであれば、本人から聞くしかないし、他人がもしも知っていたとしても尾ひれがついた話だ。

 明日、ベルガード伯爵家へ行ってみるかな。


「父上、私はマリーを愛しています。妾の子だとしてもこの思いは変わらない。止める気持ちも分かりますが、明日、ベルガード伯爵家へ行って来ます」


「儂の制止を聞いても尚、行くというのなら止めぬわ」

 いつもお読みいただきありがとうございます。

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