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花屋のレベックは覗き見が好き  作者: 法邑秋亜
第一章 花が紡いだ恋
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第四話 危機

 アル第三王子に聞かれた……。

 アマノス家の者に聞かれたマリー様としては、吉と出るか凶と出るか分からない。

 そしてマリー様に浴びせた罵声も聞いていたのだとしたら、リリス様の婚約も危ういのではないか?


 レベックは完全に他人事であるため、これを肴に酒でも飲むかと思いながら、この状況を楽しでいる。

 そして冷や汗をかいているのはバセスだ。出る機会を失ってしまった。


 アル第三王子は十二歳。まだ婚約者は居ない。

 その座を射止めようと躍起になってお洒落して、社交界で踊る相手になることを夢見て、美を磨く娘達の顔が目に浮かぶ。


「君がリリス令嬢で、目の前に座るのがマリー令嬢かな」


「はい、アル第三王子」


 急にお淑やかになるリリス様。そして仮面を脱いだ姿を晒してしまったマリー様。第三王子と言ってもアマノス家の人間であり、父親であるアルフ・ベルガード伯爵とて頭が上がらない。


 ましてや娘が婚約しているとなれば、婚約破棄なんてことにならぬように取り繕いたいだろう。


 この扉一つ隔てた向こうの空間では、頭脳戦が繰り広げられている。

 それはリリス様やマリー様だけでなく、父親や母親もそうだ。そして十二歳とはいえ立場の違うアル第三王子の手前、恥をさらしてしまった者達が居る舞台が目の前にある


(この扉を開けて見てぇーな)


 できることなら同席に着席して、間近でその顔色を拝みたいものだが、それは叶わない。だがレベックは扉を少しだけ開けて隙間から、登場人物全員の顔を見た。


 するとリリス様が立ち上がり、胸に手を当てた。


「ザン第一王子に相応しいのはわたくしですわ!」


 と衝撃の一撃を言い放った。


 その発言に驚くレベック。しかし眉一つ動かさないアル第三王子。

 必死で取り繕おうと口は開くが声が出ない母親。

 薄ら笑みを浮かべるマリー様。


「君がザン兄様を慕うのなら、ガルラ兄様はどうなる? 婚約破棄と考えていいのかい?」


「いえ、アル様。リリスは……、そうリリスは間違えたのです。ガルラ第二王子との婚約に間違いはございません。そうだよなリリス」


 一生懸命に取り繕うベルガード伯爵の声も虚しく、ここまで来てしまったら勢いに任せてとでも言おうか、リリス様の主張は止まらない。


「どうして、長女のわたくしがザン第一王子ではないのですか? しかもよりにもよって妾の義妹が、ザン第一王子と婚約するなんて、おかしくありませんか?」


 リリス様は、抱えていた鬱憤をぶちまけたようだ。

 例えガルラ第二王子との婚約が解消されようと、今発言した疑問を知りたいのだろう。


 それはレベックだって同じだった。長女のリリス様が第一王子ではなく第二王子との婚約なんておかしいと思う。しかも義妹が第一王子と婚約したとなれば、リリス様は腑に落ちず、自分の何がいけなかったのか知りたいだろう。


 第一王子と第二王子の間には雲泥の差がある。二人共が王位継承権を持ってはいるが、先に王太子になり王となれるのは第一王子なんだ。


 そして婚約者は結婚して王妃となる。


 二人は花が紡いだ恋と聞いたが、それもおかしなものだ。

 ザン第一王子が贈り付けた花をメイドが世話していただけだろう? それとも二人の間に花が関わる吉事でもあったのか?


 納得がいかないリリス様の言い分も良く分かる。


 アル第三王子かベルガード伯爵が納得のいく話しをしてくれるのなら、リリス様も迷いなく嫁げるというものだ。


「君の主張は分からんでもない。長女なら何故、長男と婚約しないのか? そして何故次女が婚約できたのか? 正直それは僕も知りたい。ベルガード伯爵なら知っているのではないか? 二人の兄が子供の頃に許嫁を決めたのは我が父とベルガード伯爵だろ?」


 話しを振られたベルガード伯爵は、卓子(テーブル)の上で両手を組み俯いている。

 皆の視線が集まる頃、バセスが扉を開けて中に入り給仕に飲み物を運ばせる。


 ベルガード伯爵は運ばれて来た三鞭酒(シャンパン)を飲み、乾いた喉を潤した。

 そして流した汗を拭き、リリス様に座るように促す。


 まだ言い足りない、聞きたいことは山のようにあると言いたげだ。

 そんなリリス様は座ることをせずに父親の方を向いている。


(リリス様の欲求は満たされるのか?) 


 これはきっと大人達の間で決めごとがなされたのだろう。

 父親に聞いても逸らかされるだけだから、アル第三王子が来た席で聞けば、真相が分ると思ったのかもしれない。


 ただ第二王子との婚約が解消されるかもしれない危機的状況になっても、リリス様としては知っておきたかったのだろう。


 するとベルガード伯爵がリリス様を見て微笑むと、アル第三王子の方を向き話し始めた。


「ダン=ロス・アマノス王とは古き良き友人でね。互いの子が大きくなって、良縁となったら素晴らしいことだと話したことがある。この仲はこれからも続けて行きたい。リリスにマリー座りなさい」


 冷静沈着なベルガード伯爵の言葉は流石だった。

 荒々しい雰囲気が一掃し、血が上っていたリリス様も、薄ら笑みをしていたマリー様も、平常心に包まれて立っていることを恥ずかしと思ったようだ。


 こんな場を見てしまったアル第三王子は、リリス様やマリー様を見て楽しそうに口角が上げるが、紳士としての態度を保ちつつ静かに三鞭酒(シャンパン)を口にする。


 立ち上がったままのリリス様は、取り乱したことに漸く気が付き俯き加減で、


「失礼致しましたわ」


 と呟いて席に座った。


 それを見てアル第三王子は何と考えたか分からない。いやアル第三王子の考えよりも、城に帰りこのことを伝えた時に、ザン第一王子とガルラ第二王子がどう思うかってことだ。


「婚約は破棄だ」


 と言うかもしれない。


 それはリリス様だけに止まらず、マリー様の婚約も破棄とならざる危機に直面している。

 するとアル第三王子が洋盃(グラス)卓子(テーブル)に置くと、話し始めた。


「ザン兄は昔から人気なんだよね。王位継承権の効果は凄いよ。名を聞いただけで皆がひれ伏す。いいかい。王都アマノスは戦争に勝ち、これからますます繁栄していくだろう。分るかな? 急がしくなるんだよ。そんな時に、婚約者が心乱れてたら邪魔でしかない。そう思うだろベルガード伯爵?」


「はい、仰る通りでございます。娘達には言い聞かせておきます」


「それとマリーさんには驚いた。それくらい気が強くないと王妃は務まらないかもしれないね。ただ義母と義姉の対応には驚きだぞ。王太子となるザン兄の婚約者だ。言ってしまえばお前らよりも位が高くなる人だ。よくそんな口が聞けるな」


 緊迫した空気が包み込み、母親とリリス様は頭を下げた。

 確かに二人の対応は酷かった。それでも耐えていたマリー様の評価は上がったってことなのだうか?


 城に帰りアル第三王子が王になんと話すか楽しみだ。

 レベックは他人事だが彼女達は違う。しかもベルガード伯爵は青白い顔をしている。


 我が家から王妃が出るか出ないかの瀬戸際に立たされ、長年費やしてきた努力が無駄になるかもしれない局面である。

 父親としては娘達に最高の婚約者を用意したはず。


「俺の努力も知らんで何が不満なんだ?」


 と聞こえてきそうな雰囲気だ。


 レベックはベルガード伯爵に会って紳士な対応がとれる方だと知っている。

 それは妻も娘達も同様だろう。

 だからここで怒鳴ることはしないにせよ、後で注意は受けるだろう。


(あゝ、一部始終を見ていたい)


 レベックは扉越しからでは物足りなくなった。

 と言っても、この場に出て行くことなどできないのは承知。


 ベルガード伯爵は親不孝な娘達を見て落胆し、近くに座る妻を見て再度落胆する。


 緊迫した空気が場を包み、静かに洋盃(グラス)を置くのはアル第三王子だ。

 金色の液体の中では沢山の気泡が昇り、空気に触れて弾け飛ぶ。そんな音さえも聞こえそうなほどに、場は静まり返っている。


 そんな緊迫した空気を動かしたのはアル第三王子だった。


「丁度いいや、僕も食事にするよ用意して」


「給仕、食事の用意を」


 この場に居る全員は、一体この静寂の中で何を思うのか?

 見てしまった家族のやり取り。義母や義姉による虐め。それが何年続いていたものかは知らないが、父親であるベルガード伯爵は承知していたのだろうか?


 そしてアマノス王はどこまで知っている? 

 マリー様との婚姻を許可した。それはザン第一王子の意志を優先させたからだろう。花が紡いだ恋と聞いた。それが何なのかは知らないが、結婚に至るだけの思いをしたからこそ、マリー様と婚約をしたのだろう。


 だが腑に落ちない。本当に妾の子と知っているのだろうか?


 もしも偽りがあったのなら、ベルガード伯爵家は没落するだろう。

 そんな危機的状況を作るはずがない。



 そして皆の卓子(テーブル)前菜(オードブル)が運ばれて来た。

 それを口に運ぶアル第三王子。


 口を拭布(ナプキン)で拭き、三鞭酒(シャンパン)を口に含み、ベルガード伯爵を見た。


「私の父も兄様達も、マリーさんが妾の子と知っていますよね?」

 いつもお読みいただきありがとうございます。

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