心強い友
「それで?」
「……断ったわ」
「えぇ! 何でよ、勿体ない!」
「勿体ないって」
私の部屋で良いなぁ、と呟く彼女は友だちのエルミーナ。バーナード侯爵家の長女だ。とっても気さくで話しやすく、昔からの友だちで悩んだりした時はエルミーナに良く相談していた。
「何で断っちゃったの?」
「えっと……」
ルーナは結局フィンからの結婚の申し込みを断っていた。
「だって、私あの方の事何も知らないし向こうも私の事を知らないでしょ? 知っているのは元婚約者をグーで殴る凶暴な女ってだけじゃないどこに惚れる要素が?」
「はぁー、バカねぇお互いの事はこれから知っていけば良いじゃない。 だいたいルーナが強いなんて誰でも知っているわよ」
「えぇ、何で!?」
「だってあのモラレス家の令嬢よ? 夫人もお強いのにあんたがそこら辺にいる弱々しい令嬢と一緒な訳ないでしょ」
「そんな……それで結構悩んでいたのに」
「まぁ、あんたが急に大人しい淑女を目指すとか言い出した時は何言ってんのかと思ったけど」
「言ってよそれ……」
「ルーナなりに悩んで決めた事だから口出すのもどうかと思って」
「エルミーナ」
彼女は私の事を良く知ってくれていて、こうして悩んだり違う事をすると見守ってくれるのだ。
「好き!」
「知ってるわ。 それよりフィン・ウッドよ!」
「温度差が凄い」
「公爵家の跡取りとして申し分無く、頭も良く人柄も良いしおまけにイケメン! 令嬢達があの手この手で彼を射止めようとしているのに全く靡く事がないので有名なのに!」
「そんなになの?」
「なのに、そんな彼が自分から申し込んだ唯一の令嬢があんたなのに!」
「そんな事言われても……」
「それから? 終わりじゃないでしょ?」
「あ、うん、その」
※
「申し訳ありませんが、やっぱりお断りさせて頂きます」
「どうして?」
「その、私は元婚約者を殴る様な女性ですし」
「その拳に惚れたんだが」
「……私自身ではなく、拳に惚れられても困ると言いますか」
「…………」
「ですのでこのお話は」
「いや、待ってくれ!」
「はい?」
「確かに、きっかけは拳かもしれない。 だがそれだけで結婚してくれと言う俺ではない。 俺は君の良いところをたくさん知っている。 俺たちは直接は初めてだが色んな所で君を見ていたんだ、だから今度は俺の事を知って欲しい」
「え」
「俺の事を知ってそれでも無理なら諦めよう。 少しでも可能性があるならそこに掛けたいんだ」
「でもっ」
「悪いが、俺は諦めが悪いんだ」
「……分かりました。 私は確かにウッド様の事をよく知らないで断っていたのでそれは失礼でした。 お返事はその後で」
「あぁ! ありがとう!」
「いえ」
「早速だが俺の事はフィンと呼んでくれ」
「え、いやそれは流石に……」
「俺の事を知って仲良くなる為にはまず呼び方から変えないとな! 俺はルーナと呼んでも?」
「(仲良くなるのが目的ではないと思うのですが)……お好きにお呼び下さい」
「よろしくルーナ!」
※
「って事なの」
「やるわね、次期公爵。 ちゃんとルーナの逃げ道も作りつつ、名前呼びをさせてただの知り合いでは無い事を、周囲に悟らせる様仕向けるつもりね」
「え、そこまで……?」
あんな爽やかな笑顔で裏でそんな事考えているなんて。
「甘いわよルーナ。 想い人を落とすならまずは周囲からよ」
「想い人って」
「何今更照れてんのよ、惚れたって言われてるんでしょ」
「そうだけど、他の人に言われるとなんか恥ずかしい」
「ったく恋愛初心者なんだから」
「どうせ私は恋愛した事ないですよー」
「ま、せっかくだしウッド様でアプローチされる練習と思えばいいじゃない」
「えぇ……それは」
公爵令息に対して練習相手って……さすがエルミーナだわ。
「難しく考えないで普通に接したらいいのよ」
「それが出来たら苦労しないわよ」
こらから大変かもしれないと予感するルーナだった。
夜になり家族で食事をする時間になった。
食堂に向かい、お父様は仕事が忙しく中々帰って来れなかったけれど久しぶりに家族で食事がする事が出来た。
メインも終わり食後のデザートと飲み物が出て、少しゆったりの時間が流れた時お母様からまさかの言葉が出た。
「ルーナ、貴女ウッド家の嫡男から結婚の申し込みをされたんですって?」
――ぶぅっ!
「汚っ!」
「ゲホッ、お母様……どこでそれを」
「ゴホゴホ! なっ、ルーナ本当なのか!?」
私とお父様が飲み物を吹き、それを見たお兄様が一言いう。
「あら、私の情報網を侮ってもらっては困りますよ」
「でも今日の事なんですけど」
「なっ! 今日だと!!」
「正確には一週間くらい前だけどな」
「何!? 私が知らない所で!」
「貴方少し黙ってて下さい」
「……はい」