惚れられたのは
その後、お茶会を後にし帰ってきた父と兄に報告する。
「アレックスならルーナを幸せにしてくれると思っていたから、援助もしていたんだがな……。 見込み違いだったか」
「すまなかったルーナ」
「いいえ、お父様とお兄様のせいではありません。 私があの方の本性を見る事が出来ていなかったのです」
「ルーナ……そんな事はない! ルーナはお兄様の自慢の妹だ!」
「ちょ、抱き着かないで下さい」
おいおいと泣きながら抱き着く兄を鬱陶しく突き放す。
「こちらから侯爵家には婚約解消の件と援助の打ち切りを伝える」
あっちの不貞だ、援助を切られて困ってもこちらは関係ない。
堂々と宣言したお父様に安心する。本当は少し気にしていたからだ。
こうして、婚約は解消することになりこれを機にルーナは本来の自分を出していくことにした。
今までは周りの話に合わせていたが、剣や馬など好きな物は好きと言うようになった。
もちろん、令嬢の中には淑女らしくないと言う人もいたがそれでも前の自分よりは今の自分の方がいきいきしているこで止めることはしなかった。
そんなある日、お兄様が着替えを忘れた様で軍に届けに行った際とある方と廊下ですれ違い、知り合いではないが顔だけは知っていたので会釈し通り過ぎようとすると……
――ガシッ!
「えっ!?」
「モラレス令嬢!俺と結婚してくれないか!」
「はい?」
「君の拳に惚れた!」
それは頭も顔も良く、社交界では令嬢達から人気者の公爵家のフィン・ウッドだった。
※
「あははははは!おまっ、」
「笑い過ぎじゃないですか、お兄様」
一緒にお茶をしている兄の大笑いにイライラする。
「だってなぁ、ふはっ、だめ……だ」
ついにテーブルに伏せてしまった。
「急にあんな事言うなんて失礼過ぎませんか」
あの後は驚き過ぎたのと周りの目があった為、ついその場を去ってしまったけど私は悪くないと思う。だいたい……。
「さすがに、君の拳に惚れたはないよなぁ」
「はぁ……」
「まぁ、さすがウッド家って感じだけど。 あそこは綺麗なだけの令嬢は要らないみたいだしな」
ウッド家は代々国を支える家系で、能力重視でただいるだけの令嬢に興味はないらしい。
「そもそも私あの方と知り合いでもないのですけど、どこで見たのかしら?」
「この前のお茶会にいたぞ?」
「え、」
「フィン・ウッドは王太子と友人だから茶会にも呼ばれていたんだよ。 だからその時見たんじゃないか」
「えー、あれを見て好きだと言われても余計意味が分かりません」
ぶすっとする私にお兄様は頭を撫でる。
「まぁ、俺はお前が幸せになれるなら誰でもいいと思っている」
「お兄様」
「もちろん、俺や父上から一本取れるぐらいの奴じゃないとルーナは渡せないが」
「それ一生結婚出来ないんですけど……」
国で最強のお父様とお兄様に勝てる人なんているわけないじゃない。
「ぷっ、ふふふふふ!」
「あはははは!」
前の事で心配掛けてるのは分かっていたから、お兄様の気持ちは嬉しかった。
※
――ガチャ
「失礼します」
「お、廊下で熱烈な結婚の申し込みをしていたフィン・ウッドくんではないか」
そこには金髪に蒼の瞳の美男子。この国の王太子殿下、エミリオ・リンガルドンが紅茶を片手にソファに足を組んで座っていた。
「殿下やめて下さい。 これでもかなり落ち込んでいるんです」
「ははっ、すまない」
「いえ、可哀想なのはそのご令嬢ですわ」
そう発言するのは、これまたお人形の様に美しい殿下の婚約者ケイトリン・ノクターン公爵令嬢が殿下の前に座っていた。
この三人は幼なじみの様な関係で私的な時の場合は普段通りに話している。
「そもそも廊下で言う事ではありません」
「ところで結婚の申し込みしたのに何故そんなに落ち込んでいるんだ?」
「はぁ、それが……」
フィンは前のお茶会で元婚約者に右ストレートをかました令嬢に惚れ、廊下でまさかの出会いに勢いのまま結婚の申し込みをした事やその時に言った言葉を伝えた。
「……って事なんだ」
「…………」
「…………」
呆れた顔をする殿下と目を吊り上げ睨むケイトリン。
「君の拳に惚れた……ってそれはないだろう」
「うっ」
「馬鹿だ馬鹿だとは思っていましたが、本当に馬鹿でしたわ」
「ぐっ」
「ウッド家の将来が心配になりますわね」
「……自分でもやってしまったのは自覚している」
ソファに項垂れる。
「全く乙女心を分かっていないわね」
「その令嬢は確か、モラレス家のルーナ嬢だったな」
「モラレス家と言えばこの国の軍を纏める家。将軍に切られてもわたくしは止めませんので」
「いや、そこは止めろよ」
嫌です。と言い紅茶を優雅に飲むケイトリン。
「悪いが私もあの将軍は止めれない」
「お前王太子だろ……」
ますます落ち込むフィン。
「あぁ……どうすれば」
うじうじとしているフィンに「はぁっ」と溜息をつく。
「仕方ありませんわね」
「ルーナ様をお茶会にお誘いしますのでその時に、頭擦り付けるなりなんなりして許しを乞いなさい」
「おま……俺の味方なのか違うのかなんなの?」
「あら? わたくしはいつでも自分であろうとする令嬢の味方ですわ」
「さすが私の婚約者だ」
誇らしげにする婚約者とその婚約者を優しい目で見る殿下。