飛び出したのは右ストレート
新しい連載が始まりました。
のんびりゆったり更新しますので拙い文章ではありますが、暖かい目で見て頂けると幸いです。よろしくお願いします。
今日はお天気も良く、城でのお茶会が行われ皆それぞれ話に花を咲かせていた。そんな中、それは唐突に起こった。
バキッ――
「きゃあああ!」
「な、何をするんだ!」
そこには三人の男女がいて、男性は座り込み頬を抑えている。一人の女性は男性に寄り添いもう一人の女性は拳を振り切った状態でいた。
「申し訳ありません。 ついイラッとしてしまいまして」
どうしてこの様になったのか……。
私の名前はルーナ・モラレス。
家は代々軍人を輩出するモラレス伯爵家、お父様は我が国リンガルドン国将軍、お兄様も軍人でお母様ですら武術を嗜んでいた。
そんな家に育った私は勿論、幼い頃から「女性も強くあれ」と言われ剣、乗馬、武道等を習わされていた。
身体を動かすのは好きだったのでそれが嫌だった訳ではない。しかし、普通の令嬢はそんな事をしない。
自分が他の令嬢と違うと感じたのは十歳の時だった。
友人とお茶会をした際の会話で……。
「ねぇねぇ、今日のドレス素敵ね何処で買ったの?」
「これはね、あの有名なプリシラのお店で買ったの!」
「嘘!? 予約するだけでも半年掛かるところの!?」
「そうなの! 出来るまで一年掛かっちゃった」
「いーなー、あそこのデザインってほんと可愛いわよね」
「そうそう、でも今度新作で刺繍がメインの大人っぽいデザインのドレスも出るらしいの!」
「えぇー! それは是非とも見たいわ!ね!ルーナ!」
「え、えぇ……そうね」
…………分からない。
いや、言っていることは何となく分かる。プリシラってお店は有名だから。だけどドレスのデザインや形、流行など女の子が好きそうな物が分からなかった。
この時のルーナは武術が楽しくて毎日鍛錬し、馬に乗ってお兄様と遠出したりする事の方が好きだった。趣味は?と聞かれたら鍛錬です!と即答するぐらいだったのだ。
まさか、ここまで合わないと思わなくそれが凄くショックで帰りの馬車ではボーッとしていた。
それからというもの、人前では女の子らしくでいるように心掛けた。趣味は鍛錬なんて絶対口に出さない。勿論、家系的に鍛錬を休む事は出来ないのでいつも通りしていたが、外では女の子らしさを全面に出して過ごした。
両親や兄からは心配されつつも、年頃だしな……で深く突っ込まれる事はなかったが。
そんな私も十六歳になり婚約者が出来た。
相手は一つ歳上の侯爵家の次男でアレックス様と言う。彼は優しく私をお姫様の様に接してくれた。
正直、恋なんてまだ分からなかったけどこの人となら結婚しても良いかなって思っていたのに……。
あの事件が起きた。
その日は王太子の婚約者様主催のお茶会があり、ルーナはアレックスと一緒に参加していて各々挨拶があったので少し離れたりしていた。
その後、落ち着いたので婚約者を探すが姿が見えず、庭の方も顔を覗かせることに。
アレックスの後ろ姿を見つけたルーナは声を掛けようとする。
「アレックスさ……」
「シルビィー君が好きだ」
「嬉しいアレックス様!」
「君は可愛い僕のお姫様だ」
「恥ずかしわ」
え、どういう事?
理解しようとする程頭がこんがらがる。一歩下がった瞬間枝を踏んでしまう。
パキッ――
「誰だ!」
「あっ……」
「ルーナっ」
「アレックス様どういう事ですか」
ルーナの顔を見てしまったと言うような顔をする。だが、彼は……。
「違うんだルーナ。 僕は君の事が好きだが彼女も好きなんだ!」
「……は?」
この人は何を言っているんだろう。
「僕は二人の女性を愛してしまった」
「はぁ……」
段々冷静になり心が冷えていく。
「そもそもそちらの方は?」
「あ、お初にお目に掛かります。 私はミリア・バーノンと申します」
彼女の顔は真っ青で、まさか見られるとは思ってなかったんだろう。バーノン家は確か子爵家だったはず。
「そう……それで?」
「え」
「ミリア様とアレックス様が何故こんな事に?」
「あ、その」
「僕が悪いんだ! 僕が二人の女性を愛してしまったからこんな事に……君にも悪いと思っていた。 だが、この思いを止める事が出来なかった」
「だから何でしょ?」
「っ……」
冷たい目で見られたアレックスは戸惑う。
「二人の女性を愛してしまったから何ですか? だから不貞を認めろと? それともミリア様を愛人として迎えろと?」
「そ、そんな事は!」
「じゃあ何ですか、二人の関係を認め私とは婚約破棄に?」
「あ、いや、それは」
そうだろう。アレックスの方が侯爵で爵位は高いが何せ貧乏なのだ。私のモラレス伯爵家の方が財産は多く援助もしており、軍人としての地位も高い為、実質的にはモラレス家の方が上だ。
「そうですか。 それでミリア様は?」
「え、私はアレックス様が好きだと言ってくださっているので……」
「愛人でも良いと?」
「その……」
「貴女はアレックス様の愛人になって一生結婚もせず、家から勘当されても尚、アレックス様の側にいれるのですね」
「そんな、そこまでは」
「それぐらいの覚悟はあるのか聞いているのです」
「あっ……」
「っ、何故そんな風に言うんだ!」
涙を溜めたミリアをアレックスが抱き締める。
いくら庭だからといって、こんな大きな声で騒いでいたので他の貴族も気付き始め、なんだ?と見ていた。
思わず溜め息が出そうになったが、そこはグッと堪える。
「正論を申したまでです。 そもそもこれはアレックス様が原因ですが」
「だからと言って、君はそんな事を言う人じゃなかっただろう」
そりゃあ婚約者の前では猫を被っていたから普段の私からしたら怖いのかも知れない。けど、そもそも浮気している人に対してはい、そうですかと許せる人なんかいませんけど。
ダメだなと感じたルーナは告げる。
「私は嘘を付いたり、こそこそと不貞を働く人とは結婚したくありません。 ですのでこちらから婚約破棄をさせて頂きます」
「なっ、ルーナ!」
「丁度、お父様もいますし話が早く済みますわね」
今日のお茶会の護衛として軍人である父と兄も来ていた。
さっさと終わらせようと歩くルーナにアレックスは……
「君はっ……ただの一度の過ちも許せない器量の狭い女性だとは失望した!!」
その一言で切れた。
バキッ――
※
そして、冒頭に至る。
「ぼ、僕の顔を殴ったな!?」
「大丈夫ですか、アレックス様っ」
「余りにも頭が悪い考えをしていたのでつい……」
「なっ」
ざわざわ――
気付かず楽しく談笑していた人達も突然の騒ぎに驚く。
「失望したのは私ですが。 アレックス様は私を器量の狭い女性だといいましたが、器量云々より何故不貞をした貴方を許さないといけないのでしょうか? たった一度とて過ちは過ち、信頼が無くなるとは思わないのですか」
「それ、は」
「私を押せば許してくれると、そうお思いになってのでは?」
ついに黙ってしまったアレックス。
「残念ですが、私はそんなに安っぽい女ではないのです」
ふっ、と口角を上げアレックスを見下ろす。
話す事はないと言う様に後ろを向く。
「婚約の件は後ほどご連絡させて頂きます。ミリア様とどうぞお幸せに」