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■第四十二話 再会


(やっぱり、私の思い込みだった……?)


 違う理由をいままで探していたが、どうしても似ているところが多いと思ってしまっていた。

 性格が似ているわけではないのに、どこか似ている。そう思って尋ねてみたのだが、初めシリルの反応は聞きなれない言葉を聞いたような表情だった。


 強い緊張は未だ続き心臓はうるさく鳴り響いているが、なんとも言えない反応に期待が少し薄まると同時に、少し不安にもなった。まだシリルからの返事が何もないとはいえ、まさか間違えるとは……という、自分自身への落胆もある。

 しかしその時、シリルが額を抑えて蹲った。


「スティルフォード様!? どうなさいました?」

「いい、大丈夫だ」

「そんなことありませんよね!?」


 誰が見ても大丈夫だとは言えない、息を荒くしている様子にアリアは慌てた。これが大丈夫だというのであれば、一体何が大丈夫でないというのか。


「楽な体勢をとってください、私が治します!」

「大丈夫だ」

「何を意地を張って……!」

「問題ない!!」


 無理をせずとも治せる力がここにある。

 そう言おうとしたが、シリルが強い調子で言葉を遮った。

 それは思わずアリアが怯んでしまうほどだった。


「別に、具合が悪くなったわけじゃない」

「でも」


 先ほどよりは少し呼吸が落ち着いたように見えるが、それでも通常よりかなり荒い息を吐き出すシリルだが、それでも目は落ち着いていた。


「それより……お前が、エスタか」

「え? では……やっぱり、スティルフォード様がウィルなのですか?」

「思い出した」


 シリルの呼吸はまだ整っていないが、苦しそうなわけではなかった。ただ、アリアも経験があるように怒濤の記憶の蘇りは受け止めるのがひどく大変だ。


「なんで、あーもう、くそっ」


 おおよそらしからぬ言葉遣いでも、アリアはそこに突っ込む余裕がなかった。

 似ているかもしれないとは思っていたが……確定すると、それはそれで、なにを喋ればよいのかわからない。


「おい」

「はい!」

「なんで死んだ」


 鋭い眼で睨まれ、アリアはびくりと肩を震わせた。何のことを言われているのか瞬時に判断できなかったが、かなりの怒りがため込まれていることはわかる。

 ただ……可能性としてあるのはエスタの夭逝が指されていることだが、それが把握されているかどうかは判断ができない。


「せ、千年も前ですよ。ウィルも死んでいるではありませんか」

「誤魔化すな! お前、あのあとすぐに死んだだろう!?」


 その表情で、何を言われているのかはさすがに察せられた。

 ウィリアムは魔王討伐のあと、すぐにエスタが死んだことを知っている。

 アリアは肩の力を抜いた。


「エスタが死んだのは魔王の瘴気による毒ですよ。治せるものでないことは、私が一番よくわかっていましたから、せめて祝宴の場に水を差さないでおこうって思ったんですけど」


 確信を持たれているのであれば、誤魔化しても仕方がない。

 エスタが治せないと判断したものが、他者に治せるものではないことはウィリアムも知っていたはずだ。そうでなければ、そもそもエスタが聖女としての役目を担うこともなかったのだから。

 仮に治せる者を見つけ出そうとしたところで、どれほどの時間がかかるのかはわからない。少なくとも、エスタが息を引き取るまでの短い時間で見つかるわけがなかった。


「それは……お前が万全の状態でも治せなかったものなのか」

「それはさすがにわかりかねます。ただ、難しかったのではと思います」


 ここは真実を答えなくてもいいだろうと、アリアは滑らかに嘘をついた。

 あの時は万全な状態どころか、力が何も残っていない空っぽの状態だった。だから、治せなかった。呪いで力が戻る見込みもなかった。けれどもしも力が残っているのであれば、少なくともある程度の処置はできただろう。治せたかもしれない可能性もある。

 ただ、そんな余裕を残していれば、魔王を倒すことは無理だったとも思っている。そうなれば、そもそも誰も生き残っていない。

 けれどそのような真実を口にしたところで、誰が得をするというのか。


 ただ、ウィリアムが『守れなかった』という思いを抱いているなら、それは違うと伝えなければいけない。

 守ることは、エスタの役目だった。

 ウィリアムの役目は先陣に立ち、災いを祓うことだった。

 互いのやるべきことは、すべてやっていた。


「確かにエスタは少し人より短い人生だったと思います。ただ、悔いのない人生でもありました」


 今でも受けた損害を軽微にする方法は思いつかない。

 そんな中で大事な人だけでも守れたことは、誇っても良いと自分で思っている。


「でも、転生してウィルにまた会えたことは幸運だと思います。私が騎士になる理由の一つは、あなたの墓所に行くことでしたから」

「墓所?」

「ええ。私はこれを生まれた時から持っていました。ウィルのものですよね?」


 そうしてアリアは首から下げていた指輪を取り出した。

 シリルが見たことがあると言っていたのも、今なら十分に納得ができる。何せ、持っていた本人なのだ。


「なんで……」

「私が持っている理由も分かりませんが、旅の途中でウィルが持っているのを見たことがあります。途中で拾ったのかもしれませんが、返しそびれたのでしょうか?」


 その辺りの記憶は曖昧だと付け加えれば、シリルは大きくため息をついた。


(やはり、無くしたと思って探したことがあったのかな?)


 もしくは、千年間も行方不明の指輪を今更返されても困るということなのだろうか。しかし、アリアが持っていても困るものでもある。


「これは大事な方に贈るものだったのでしょう? だから、お返ししなくてはと思って。ウィルには婚約者もいらっしゃったように記憶していますし、困りませんでしたか?」


 いや、困ったと言われても今更謝ることくらいしかできないのだが。

 だが、そう言った後で賢王は生涯独身を貫いたという話を思い出した。

 世界の英雄が、まさか指輪ひとつでそんなことになっていたりはしないとは思うのだが……。


「婚約者はいなかった。求婚はあったが、そもそも旅が終われば王室から離脱する予定だった」

「え?」

「そういう約束を、出発前に取り付けていた。だから……そういうのは、ない」


 何とも言えない空気が漂っているのはアリアにもわかる。

 しかし、確かに指輪の話をしていたのは聞いていた。だから誰かに渡すつもりがあったのは間違いないと思うのだが……。


「それは、お前に渡すはずだった指輪だ」

「え?」

「むしろ、お前に渡した指輪だ」

「渡した?」


 貰った記憶は一切ない。

 指輪を貰うなどと言う衝撃的なことがあれば忘れないはずであるのに、まったくない。

 いったいなぜとアリアが思っていると、シリルはこれでもかというほどの長いため息をついた。


「渡したときに、お前はもう死んでただけだ」

「あら……それでは、記憶がないのも当然ですね」

「そうだな」


 そう、当たり前のように答えたが……アリアは何かとんでもないことを聞いた気がした。


(死んだのを知っていたのはここにウィルが来たから……ということは想像できるし、まあ、見つかっちゃったのかっていうのはなんとなくわかる……けど)


 ただ、それではない。


「え、私に渡したんですか?」


 なぜそんなことになっているのか。

 アリアは自分が実に間が抜けた顔をしているのを自覚する余裕すらなかった。


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