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■第四十一話 夢と前世

 以前『転生を信じるか』とアリアが尋ねた時にはとてもではないが、話を続けられるような反応は得られなかった。

 それにもかかわらず、今になってシリルから話を振られたことにアリアは驚いた。


(でも、今……どうして。もしかして、あの時から何か気にしてくださっていた……?)


 しかしそもそもシリルは前世の有無の可能性を尋ねただけで、前世の記憶の有無に関わる発言をしているわけではない。

 アリアは緊張しながらも自分を落ち着かせようとした。

 しかし突拍子もない質問を聞いてしまえば、もしかして本当はシリルも前世の記憶を持っているのだろうかと考えると、鼓動が少し早くなっていく気がする。


「その質問……スティルフォード様はあるとお考えですか?」

「……少し気になっただけだ。変な話をしたな」

「変な話だなんて……」

「いや、変な話だ」


 ここで話を止めるのはさすがにないのではないか。

 前に『エスタ』と言われたことも相まって、アリアも流石にこの状況で『ハイ、そうですか』と引き下がる気持ちにはならない。


 だが、よく考えればここは城内の廊下だ。

 長々と話をするような場所ではないし、それが当人が『変な話』だと思っているのなら尚のことだ。他から邪魔が入る可能性のあるところでは、場所が悪い。


「では今からお休みですし、お出かけしませんか? そこでその変なお話でも」

「出かける? どこへ?」

「ゆっくりお話ができる……以前、お会いしたことがある湖はいかがでしょうか」


 あそこなら誰からも邪魔は入らない。

 しかもわざわざシリルも休暇で足を運んでいる場所だ。もともとシリルも好んでいるのだろうと思っての提案なのだが、アリアもその場所を口にしてから自分で少し驚いてもいた。

 あの場所は近くはない。

 それにエスタにとって重要な場所であっても、縁のないアリアが望むには不自然な場所でもある。

 シリルに怪訝に思われるかもしれないとアリアは一瞬思ったが、シリルからの反論はなかった。


「馬の用意が必要だな」


 なんだか拍子抜けしてしまうと同時に、やはり今のシリルは少しおかしいとアリアは感じてしまった。


※※※


 それから馬を借りたアリアたちは湖の畔にやってきていた。

 相変わらず鳥の声が穏やかで、木陰と風は心地よく、落ち着くことができる場所だ。


 ただしアリアとしては今の気持ちは決して落ち着いているというものではなかったが。

 一方のシリルは、表面上はいつもとまったく変わらなかった。


「ただ世間話をするためだけに、よくここまで来ようと思ったな」

「今更それを仰るのですか……!?」


 あっさり了承したわりに呆れた様子を見せるシリルにアリアは驚いた。


「別にこの場が嫌だと言っている訳ではない」

「確かにそうですけれど……。それよりも、スティルフォード様は前世を信じていらっしゃるのでしょうか?」

「やけに真剣だな。そこまで深く聞きたい話か?」

「そ、そういうお話が好きなんです!」


 確かに、遠いところに誘ってまでする話ではないかもしれない。だが、アリアにとっては重要な話だ。残念ながら都合の良い言い訳は思い浮かばないので、個人の嗜好ということにしたアリアは勢いよく言い切った。

 あまりの威勢の良さに多少シリルが引き気味になっていようが、話題を変えるつもりはない。


(だって、スティルフォード様が知っている誰かなのだと、やっぱり思ってしまうもの)


 前世と今が同一とまで言わないが、長く気になっていることはわかる時に解決したい。知っている気がするのにわからないというモヤモヤを一掃するチャンスなのだ。

 じっと見つめるアリアにシリルはため息を吐き、それからやや面倒臭そうに口を開いた。


「……信じるというか、夢を見る。馬鹿みたいな話だが」

「どのような夢なのですか?」

「知らない場所で知らない人物と話す夢だが、夢の中の俺はそれを結末までよく知っている。身体も口も勝手に喋って、自分自身で制御はできない」

「それが過去の……前世の出来事を見ているようだと感じていらっしゃるのですか?」

「笑いたければ笑えばいい。突拍子もない考えだということは俺にもわかる」

「笑いません、決して」


 確かにもとより夢というものは自分で制御できないことが多いものだとアリアも思う。けれど、過去の夢を見ているときは通常感じる違和感と感覚が異なる。

 もしかしたらシリルも同じような状態なのかもしれない。もちろん、中身を聞く前だからこそ自分の知っているものに近付けているのかもしれないが……。


「……そういえば、どうして私にお尋ねくださったのですか?」

「夢の中に回復術者が出てくるから、なんとなく尋ねただけだ。お前と姿はまったく違うが、似ていそうな気もする」

「回復術者ですか?」

「珍しい話だろう。実在している者も、お前を見るまで知らなかったし」


 確かに珍しい。というよりも、エスタ以降、記録に残っていない分類だ。

 しかし、だからこそ少し緊張を高めながらもアリアは尋ねた。


「もしかして、その方はエスタというのではありませんか」

「……なぜ、その名を」

「先日、私のことを間違えてお呼びになっていらっしゃいましたので」


 アリアの言葉にシリルは再び深い溜息をついた。


「聖女が出てくる夢なんて、馬鹿げていると思うだろう」

「思いません、全く」

「ずいぶん言い切ってるが……逆になぜそう思わないんだ」


 それは、おそらくアリアもシリルのことを知っていると思っているからだ。


(ただ……もしかしたらと思うことは幾つかあったけれど、決め手がない)


 姿が過去の姿とまったく異なるのはアリアも同じだ。

 だからシリルの姿を過去の知り合いに当て嵌めても意味がない。

 記憶がないのだから性格も違っていて当然だろう。


「……夢は、どんな夢なのですか? 楽しい夢ですか?」

「まぁ、夢自体の大半は悪いものではない。ただ、最後はいつも後悔をしている。守れなかったと呟いていた以外、何を後悔しているのか起きた時には忘れている。ただ、よくわからないが守れないと後悔するくらいなら強くなればいいと思い、騎士になった」

「え? 『守れなかった』ですか?」

「ああ。夢の中の俺はここによく似た湖によくいた。夢のことが何か掴めるかもしれないと思い、ここによくきた。初めてきた時も、なぜか自然にたどり着いた気もする」


 夢の中のシリルが何を後悔しているのかはわからない。

 ただ、この湖によくいたことといえば……やはり、アリアの記憶の中では一人だけだ。


「……間違っていましたら申し訳ありません。この湖のそばには、エスタもいましたでしょうか?」

「ああ」

「では……あなたは、ウィルと呼ばれているのではありませんか?」


 その言葉にシリルの目が見開かれた。


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