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■第三十五話 初めまして、王女殿下


 しかし頑張ろうと心に決めたところで、緊張しないというわけではない。


 そもそも現王室の人物と会うのが初めてであるアリアに緊張するなという方が無理な話でもある。




 朝からいつも以上に身だしなみに気を遣い、髪は癖一つないよう整え、そして出向いたシャーリーンの部屋でアリアは騎士としての礼をとった。




「準魔騎士、アリア・エイフリートと申します。本日、シャーリーン王女殿下のお目にかかれましたこと、また、護衛の任に就かせていただくことを大変光栄に存じます」




 同年代のよき話し相手になることも期待されているのであれば、令嬢としての挨拶もできただろう。だが、何がもっとも重要かと考えたとき、それが護衛であることは明白だ。


 加えてアリアも自身の身体的特徴が子供らしいことはよく理解している。


 だからこそ、ここは迷うことなく騎士の挨拶を選ぶ。




「初めまして、アリア。そう畏まらないで、顔をあげてくださいな」




 柔らかい声に導かれ、アリアは顔を上げた。


 そして初めて見たシャーリーンの顔に驚き表面に出そうになる気持ちを、必死で隠した。




(ウィルに雰囲気がそっくり)




 顔の作りは男女差があるものの、癖がなく柔らかな色合いの金髪に青空を映した湖のような瞳、そして優しげな表情から受ける印象は非常によく似ていた。


 血縁といえども、年数から考えてここまで似ている者がいるとは思っていなかったアリアには想定外の出来事だった。




「突然、このような仕事をお願いしてしまってごめんなさいね。陛下がどうしても建国祭の祭典には側に控える護衛が必要だと仰るの」


「滅相もございません。私はまだ未熟でございますが、与えられた期間、王女殿下に安心して過ごしていただけますよう、最大限努める所存でございます」




 アリアもシャーリーンの表情に合わせてそう微笑むと、シャーリーンは少しだけ目を瞬かせた。




(何か、あったのかな?)




 けれどそれはほんの一瞬のことで、すぐにシャーリーンは次の話題を口にした。




「ありがとう。どのようなお仕事になるか、聞いていますか?」


「大まかには建国祭にあたる警護の増強と伺っておりますが、詳細は直接お伺いするよう申し受けております」


「では、そちらにお掛けくださいな。お茶を楽しみながら、説明しますね。大丈夫です、少なくともこの室内にまで賊が突然現れることはございませんから」




 アリアが仕事中に喫茶を楽しむことを後ろめたく思わないようにか、それとも冗談でなのかわからなかったが、いずれにしてもアリアには有難いことではあるので、そのまま素直に従うことにした。アリアが動くと同時にシャーリーンも移動する。


 あらかじめ紅茶が準備されていたようで、それらはすぐにアリアの前に整えられた。


 お茶請けには丸いクッキーが用意されていたが、その中央には細工が施され花が描かれていた。




「可愛らしいお菓子ですね。双子鈴の花をモチーフにしたお菓子は初めて拝見します」


「まあ、双子鈴をご存知なの?」


「はい。そろそろ時期に差し掛かりますよね」




 白い二輪の花をつけるこの花は球根が薬草になるため、鑑賞するだけではなく前世ではよく採集活動も行なっていた。今世でも湖で見たはずなので珍しい花ではないと思っていたので、シャーリーンの反応は意外だった。




「本当によくご存知なのですね。野花なので、私がお会いした御令嬢でこの花のことを知っていたのは貴女が初めてです」


(そういう意味なのね……!)




 確かに令嬢が野山に入ることなどあまりないので、知っている方が珍しくてもおかしくはない。




(でも、王女殿下も本来そんなに外出されないわよね……?)




 ならば、アリアが知っていること以上にシャーリーンが知る機会を持つ方が難しかったはずだ。




「殿下はこの花がお好きなのですか?」


「ええ。仲のよい花は見ていて愛らしいと思うのです」


「確かにこの花を見ていると心が落ち着きますね。花は同じ方向を向きませんが、背中を預けているように見えますので信頼という花言葉がよく合うとも思います」


「本当によくご存知ですね」




 嬉しそうなシャーリーンは、アリアが事前に聞いていた話より年相応の少女のようにも感じた。


 だが、そこから話を掘り下げるわけでもなく、「では、お仕事の話をいたしましょう」と話題をすぐに切り替えるあたり、やはり一般的な少女とは異なっているようにも感じた。




「建国祭で私は光栄にも聖女エスタとして祈りを捧げ、舞を奉納するお役目を頂戴いたしました。場所は国民が集う広場に用意される、広い特設会場です。私は普段外出時には護衛の白騎士を伴っておりますが、舞台は広く、どうしても警護と距離が生じることになります。祈りや奉納の舞台に護衛を伴うと、どうしても世界観が合いませんから」


「……仰る通りですね」




 小柄な少女が神聖な行為を行なっている側に騎士が立てば、いやでもそちらが目立ってしまうことは想像できる。




「私は祭事の際は護衛を離すことを申し出ましたが、受け入れられませんでした。ならば交代をとも申し出たのですが、そもそも国民からの要望が多かったことが今回私を選出していただいた理由であるため、難しいとのことなのです」




 それはそうだろうとアリアも思った。


 王女の護衛をなくすことは難しいし、あまりに上出来すぎる王女の代役として手を挙げる娘がいないことも想像できる。ガッカリされる前提で受け入れるのはしんどいはずだ。




「そこで、陛下が提案された折衷案とでもいうのでしょうか。聖女のそばに控える補佐の少女役を作り、護衛に配置してはと」


「なるほど。それでしたら騎士より自然に、殿下のお側に控えさせていただくこともできますね」




 演出にもよるだろうが、自然に見せることは不可能ではないはずだ。


 しかしそう返答してから、アリアは気が付いた。


 それであれば、つまり自分も舞台に上がるということになるのではないのか……?




「お察しいただいたようですね。建国祭まで時間があるにもかかわらず、早期着任をお願いした理由は貴女にも私のお稽古に参加していただくためなのです」




 まさか護衛どころか、参加するということになろうとは。




(王女殿下のお友達大作戦だけじゃなかったのね……!?)




 変装任務の一環といえばそれまでだが、妙な舞台に参加することになってしまったと思わずにはいられなかった。



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