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■第二十四話 学生生活の開始


 その後、午前は平穏な環境で座学の授業を受講した。

 授業内容は時事問題についてであったため騎士特有の何かを学んだという訳ではなかったが、それでもアリアとしては新鮮な体験だった。


(集団で学習する機会って、実は初めてよね)


 学校というシステムを知ってはいたが、前世の場合は王都など極めて人口が多い地域に住む有力者の子弟が通う場所だったし、今生では自主学習以外は家庭教師から教わっている状況だ。

 準騎士の学舎ということで一般的な学校とは異なる部分もあるだろうが、なんとなく人生経験として大切なことを体験したような気分にもなった。


(なんて、ゆっくりしていたらお昼ご飯に遅れちゃうかな)


 昼休みはそれほど長くはない。

 食堂があると聞いているが、いかんせん使用は初めてなので時間がかかってしまうかもしれない。ならば、のんびり感想を考えるよりも早く移動するべきだろう。

 そんなことを考えていた時だった。


「エイフリート殿!」

「はい?」


 呼ばれて反射的に顔を上げれば、そこには人懐こそうな目をし、髪を肩より上で切り揃えた少女の姿があった。


「初めまして、私はカリーナ・ミラーです。エイフリート殿のあの自己紹介、とても驚きました。堂々とされていて、格好良くて……。魔騎士の制服が本当にお似合いだという雰囲気でした。マルサス殿に対する回答も格好良くて……ファンになりました!」

「え? あ、ありがとうございます」


 目を輝かせる少女の評価は想像していなかったほどに高く、アリアは目を瞬かせた。


「マルサス殿がどのような質問をされるかなど……いえ、そもそもあんな流れになるなんて想定外でしたよね? 一体、普段どのような学習をなされば、あのように対応できるのですか? 内容を覚えただけでは、あのように上手に説明なんてできませんよね?」

「そ、そうですね。私の場合、騎士の職務に係ることは叔父からの指導と独学での二通りになります。叔父とは教材等はなく口頭でのやりとりとなりますので、話の筋道を立てる練習はさせていただいたかなと思います」

「叔父様ですか? 叔父様も軍のお仕事に従事なさっているということなのでしょうか? では、もしかしてお父様も……?」


 どうやら、カリーナはエイフリートの家柄をよくわかっていないらしい。


(ブルーノ叔父様も上官の方々はご存知でも、昔の話だし知らない方が普通よね。一隊長の名前なんて教わらないし、現在も教官としては別の隊を指導されているし。でも、エイフリートと聞いてもまったく反応もないということは……この方は貴族ではないようね?)


 少なくとも侯爵家と同じ家名であることに貴族であれば気付くだろう。

 そうであれば、少し気楽に付き合えそうだと、アリアも肩の力を少し抜いた。

 もともとアリアだってまだ貴族でなかった人生の方が長い。気を使われずに済むのであれば、それに越したことはないとも思う。


「どうかされましたか?」

「いえ、失礼いたしました。私、白色の女性の騎士服を見るのが初めてですので、思わず見つめてしまいました」

「あ、そうですね! 今、女性宿舎の方々は任務に出られていますので……。私も、昨日は戻れませんでしたし。でも、ここでお会いできてよかったです」

「私もそう思います」

「でも魔騎士の方がこちらで一緒に学ばれるのは初めてだと聞いています。どうしてこのような形で?」


 それはただただ不思議に思っていると言った具合で、負の感情は含まれていない。

 だからこそ隠し事を含ませるのは心苦しいが、まさかケイレブのこともあってなどとは言えはしない。


「将来的に実戦の場において共闘することが増えるだろうからと、団長と隊長から今のうちに学んでおいた方が良いだろうと、命じていただきました」

「そうだったのですね。でも、将来ですか……。エイフリート殿と一緒に現場に出る可能性もあるということですね。うん、いいですね、それ!」


 目を輝かせてくれているカリーナにすべてを告げられないことを心苦しく思いながらも、アリアは曖昧に笑って答えた。


(でも、これほど歓迎してくださる白騎士さんがいらっしゃるなんて嬉しいわ)


 カリーナからの好意や歓迎は挨拶時のやりとりだけではなく女性同士という点もあるかもしれないが、いずれにしてもアリアにとってはありがたいことだ。


「ミラー様。もしよろしければ、私のことはアリアとお呼びください」

「いいのですか?」

「ええ」

「でしたら私のこともぜひカリーナと」

「ありがとうございます、カリーナ様」

「あああ、そうです、エイフリー……じゃない、アリア様。お昼に行きましょう、お昼! うっかりしていると食べ損ねてしまいますので」


 そしてアリアはカリーナに誘われてそのまま食堂へと向かった。

 食堂では調理人の人たちに「こんなに小さなお客様は初めてだ!」といったようにとても驚かれ、そして慌てられた。何故かと思っていると、ここではかなり大きな皿が通常使用されているらしく、アリアに合うサイズの皿はどこにあるのか、ということに対する焦りであったらしい。

 アリアは慌てて皿のサイズがちょうどでなくても内容量だけ変えてもらえればとお願いしたところ、厨房では「それもそうだ!」と大笑いが響いていた。

 焦らせたことは申し訳ないと思いつつ、ちょうどの量が盛られた食事は最後まで美味しく平らげることができ、アリアはとても嬉しく思った。

 なお、カリーナは山盛りの食事をぺろりと平らげていたどころかお代わりまでしていた。


「ここの食事は無料なので助かります」


 そう言って笑っている姿には、アリアも妙に同意してしまった。

 美味しいご飯は力になる。

 これはとても素敵なことだと、アリアは思った。



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