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■第二十三話 謎かけ


「私からの質問は、むしろ謎かけの類です」

「……どうぞ」

「では、一つ。これは昔、ある国で起こったお話です。とある勇猛果敢な青年は戦の最中相手の挑発に乗り、隊列を飛び出します。そして青年は敵の大将首を持ち帰り仲間から讃えられました。ですが、隊長である青年の父は軍規違反と断じ彼を打首にしてしまいます」


 昔話のようなアリアの調子とは不似合いな内容に、少し緩んだ場の空気が一気に引き締まった。しかし、アリアは同じ調子で言葉を続けた。


「また、別の機会に同じ隊長のもと、同様に単騎で列から飛び出し、戦果をあげた者がいました。今度は隊長も祝福しました。さて、この二人にはどのような違いがあったとマルサス様はお考えになられますか?」


 どうやら、この話を聞いたことがある準騎士はこの場にいなかったらしい。

 一方、ジャックだけは知っていたようで、なるほどと頷いていた。


「エイフリート。私からヒントを伝えたいが構わないか?」

「はい」

「この問題で大切なことは、隊長の息子に足りず、後の者が怠らなかったことがある。それを答えればいい」

「……軍規が変更されたというようなことはないのですね」

「そうだ」


 ジャックのヒントもここまでということらしい。

 マルサスは視線を下げて考えたのち、ゆっくりと口を開いた。


「隊を危険にさらしたか否かということでしょうか」


 アリアはここで答えるかどうか迷い、ジャックを見た。すると、ジャックはアリアを見て小さく頷いた。

 どうやら、答え合わせを始めるらしい。


「隊を危険にさらした事実があるか否かは、記録がないため明言を避ける。ただ、仲間から賞賛されているのであれば、否定できる可能性もある。しかしこのケースにはもっと根本的な問題があった。エイフリート。正解を伝えてくれ」

「はい。実は隊長の息子が独断で飛び出したことに対し、後の者は許可を申し出た後、単独行動を行っております」


 数人はそのくらいのことで? というような顔になったのをアリアは見た。

 確かに、功績に対して処分が重すぎると言うのが今の感覚だろう。


「時代背景の違いからこの処分の是非を私は判断できません。ですが、根本的に規則を守ることができれば隊長にこのような処分を下させることはなかったでしょう」


 むしろ実の息子の手柄を褒めたかったのではないかと個人的にはアリアは思う。

 ただ、私情を優先させなかった結果が記録に残っている。

 それが世では愛国心と呼ばれたのかもしれないが、もしも青年が秩序を重んじていれば父親にそのような判断を下させずに済んだはずだ。


 色々と考えることがあるのか、教場内も静まり返っていた。

 ただ、アリアもこの話を深く考えて欲しかったわけでもなければ、知恵比べをしたかったというわけでもない。

 ただ、明確な自分の立ち位置を示しておきたかっただけだ。


「臨機応変という適応性も大切だと思います。しかし、私はまだ準騎士の身。まずは応用できるよう、基本を遵守し、上官の方々から学ぶことができればと考えております。このような機会を与えてくださった上官の方々のお心遣いを無駄にするつもりはございませんので、皆様、どうぞよろしくお願いいたします」


 そう、あくまで規律正しく学ぶことがこの場所にいる目的なのだと伝えたい。

 ほかにももろもろがあるが、いずれにしても仮に異を唱える場合は上官に直接言ってくれ、というわけだ。


(ヒル氏たちに見下されることも、他の人たちから偉ぶっていると思われてもいけない。でも、大人しくしているだけだと……この体格はただただ不利なだけだし、これが妥当よね)


 そう思った結果の発言であったが、少なくともこれは失敗ではなかったようだ。


「エイフリート、空いている席につきなさい」

「はい」


 ジャックの声に従って、アリアは何事もなかったかのように席に着いた。

 そして、小さく一息つく。


(そのうち仕掛けてくるとは思ったけれど、ヒル氏の行動は思った以上に早かったし遠慮がないわね)


 もしかしたら最初だからこそ出鼻を挫こうとしたのかもしれない。いずれにしても、どうやら穏便にことを運ぶ気などないことは、アリアを睨んでいたその目が物語っている。


(果たしてアストリー団長の願いは叶うのかしら……?)


 今のヒルに魔騎士は敵であり、相手の力を認めるという次元にはなさそうだ。むしろ、状況は想像していたよりもよろしくないとも思えてくる。

 ちょうどいい機会だからと送り出されてみたものの、果たして短期間で認識を改める手立てが見つかるのか、アリアにはまだ見当もつかなかった。



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