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■第二十一話 交渉

 準騎士ばかりが集う第六騎士団の団長として呼ばれた男性は、赤褐色の髪に緑の目を持つ人物だった。

 当初なぜ急に呼ばれたのかわからないと言った様子だったが、呼びつけたジェイミーのそばにアリアとシリルがいるのを見て、おおよそのことを察したらしい。


「……うちのアレがまた何かやらかしたんですね」


 額に手を当て、参ったと言わんばかりの仕草にジェイミーが深く頷いた。


「ケイレブ・ヒルがうちの新人に新人戦に出るよう要求したらしいですよ」

「それはそれは……。大変ご迷惑をおかけいたしております」

「さらにその前には決闘を申し込まれたらしいですよ。我が団としては両方とも許可がだせないわけではありませんが……どうでしょうか?」

「それは……」


 そのやりとりを見たアリアは理解した。


(団長、怒ってる)


 先程アリアには許可できないと言っていたのに、今は正反対のことを言っている。

 そして呼びつけた相手を困惑させているとなれば、それ以外に説明がつかないとも思う。


(でも、団長の立場からすると苦情を言わざるを得ないというなら、こういう形にならざるを得ないのかしら)


 先程協調が必要であるとジェイミーは言っていた。

 だが、それを乱す者の対処を怠るなということを、しっかり伝える必要もあるのだろう。


「私はそちらの準騎士の実力を知りません。しかし、入団が認められる実力を保持し、かつ、少なくともヒルに勝つ実力があるとベル団長が認められているからこそ、許可が出せると仰っているのでしょう」

「ええ、そうですね」

「負ける勝負だからと断るのは不実であると思います。ましてや、ヒルが吹っ掛けたのであれば、ヒルが責任を負うべきでしょう。ですが、そちらの彼女の外見はとても若くいらっしゃいます。こちらの隊員が市民も目にする新人戦で負かされた場合、騎士に対する不信感が募る恐れがあります」

「要約すると?」

「どうかご勘弁願いたいと思っております。決闘も、後々両団の間にしこりを残しかねません」


 深々と頭を下げる団長をアリアは気の毒に思った。


(この方が悪いわけじゃないのに……)


 隊員の思想を矯正する役目も負っているかもしれないが、先ほど『また』と言っていたあたり、もともとだいぶ苦労はしているのだろう。


「私も白騎士の評判を下げたいと願っている訳ではありませんよ。あなたたちの評判を下げることは、私たちの不利益にも繋がることですから」

「ご理解頂けて助かります」

「ですが、シリルに続いてアリアまで喧嘩を売られたらー……そうです、アリア。今のうちに自己紹介を」

「はい」


 急に話を振られてアリアは驚いた。だがせっかく機会を与えられたのだから、これから世話になる機会もあるだろう相手に名乗らないわけにはいかない。


「アリア・エイフリートと申します。以降、お見知り置きを」

「もしや、エイフリート侯爵家の……?」

「はい。オスカー・エイフリートの娘、ブルーノ・エイフリートの姪でございます。ですが父は父、叔父は叔父ですので、お気になさらないでください」

「……気にしない……にしても、ヒルは本当に相手を選ばず喧嘩を売ったんだなと思わずにはいられないな」

「そうですよ。アリア本人がこう言っても、エイフリート教官は驚くほど叔父馬鹿ですので、そこは気をつけたほうがいいですよ」


 それは結局気にした方がいいと言っているのではないかとアリアが思っていると、第六の団長が一礼した。


「この度は我が隊員が失礼をいたしました。私、ジャック・アストリーと申します」

「いえ、これから対処いただければ充分ですので。私には一新人として接してくださいませ」

「アリアが寛大でよかったですね、ジャック。ところで、ヒルのことはどうするつもりですか。シリルが気にしないからと見逃してはいましたが、悪化するのでしたら、そろそろ本当に対処せざるを得ないのですが」


 アリアも対処は願ったが、実際どう対処するのかは方法が思いつかない。

 注意して聞く程度のものであれば、問題はここまで長引いていない。


「……押さえつける方法では反発を招くのみとなる恐れはあります。ですが、退団という基準にも達していませんし……。だったらいっそ、身近に感じる機会でも作って理解させ……そうだ」

「どうかしましたか」

「ベル団長、そしてアリア殿。相談となりますが、少しの間、アリア殿に我が第六騎士団の準騎士たちと共に訓練を受けていただくことはできませんか」

「え?」


 協力を求められることは構わないが、アリアにはなぜそうなるのかが分からなかった。もとより仕事の裁量などアリアの判断する物ではなく、ジェイミーの権限となることだ。

 一方、ジェイミーは納得したように頷いていた。


「直接対決をさせるわけではなく、側で相手を観察できるようにしたい……ということですか」

「はい。残念ながらヒルはスティルフォード殿に負けたのは偶然だと思っており、今も自分の方がという思いが強い状況です。その傲りを覆すにはスティルフォード殿と直接戦わせ、実力を知らしめる方が本当は早いですが、それでヒルに現実を見せたとしても他の隊員が『正騎士と準騎士を戦わせるなど』と感じ、反発を招く恐れがあります」

「だからその代理としてシリルの部下の準騎士を当て、偶然ではなく、実力だということを知らせたい……ということですか。そして、ついでに他の隊員とも交流を深めてほしいということですね」

「……あの、それですと私がスティルフォード様と同等の実力がある必要があると思うのですが」


 団長同士で納得されても、アリアには疑問が多々残る。

 まず期待されるのは喜ばしいが、正騎士のシリル代わりまで務まるのかはわからない。 

 アリアはまだシリルの実力を把握しきっていないが、それでも今日はかつての仲間に通ずるものがあること、そして身体能力に関しては自分より上で間違いないと認識している。


 しかしジェイミーはアリアににこりと微笑んだ。


「アリア」

「はい」

「大丈夫です。もとより魔騎士の能力は皆個性豊かです。シリルの代わり云々ではなく、自分の得意分野での活躍を見せつければよいのです」


 その言葉にジャックもこくこくと頷いている。


「そして、第六騎士団長に貸しを作っておくのも悪くはないでしょう」

「え、貸し、ですか……?」

「ええ。部下の更生の手伝いですから、貸しでしょう」


 にこにことジェイミーは言うが、それでいいのかとアリアはジャックをそっと見た。


「……ま、まぁ、言い出したのは確かにこちらだし、この子ならそんなに無茶は言わないと思うし……」


 想定はしていなかったようだが、大したことはもとめられないはずだという雰囲気でジャックも了承した。

 それを見たジェイミーも満足そうに頷いた。


「今回の目的は、あくまで交流と相互理解を目的とします。ですが、これまでのヒルの行動を考えると、突っかかってくる可能性はもちろんあります。ですが、そのときは……」

「そのときは?」

「私が許可します。こてんぱんにやっつけてください」


 これまで見たことがないほどの満面の笑みを見せたジェイミーにジャックは震えあがった。


「ですから! それを避けるためのお願いをさせていただいているんですが!!」

「ええ。協力はします。ですが、こちらばかり気を遣っては不公平でしょう。きっちり、アリアが不愉快にならないよう監督してくださいね。アリアも優しい子ですから、基本的には穏やかに進めてくれるはずですよ」


 これを圧といわずになんというのだろうと思ったが、ジェイミーはとても楽しそうだ。


(ヒル氏のことを除いても、団長はジャック団長を普段からからかっていらっしゃるのかもしれない)


 アリアがそんなことを思っていると、がくりと項垂れたジャックがのろのろと顔を上げた。


「エイフリート殿。ご迷惑をおかけするのは承知の上です。ですが、ヒルをどうにかしたいだけではなく、騎士団としての仲間をよく知る機会になればと私は考えております。よろしくお願いいたします」

「どこまでお役に立てるかわかりませんが、協力できることはさせていただきますので、よろしくお願いいたします。私も、将来共に戦う仲間との交流は大事にさせていただきたいと思います」


 実際、そんな狙い通りどうにかなると思うかと尋ねられれば、答えは濁したくもなる。

 だが、この役目は入団すぐであるからこそ回ってきた役目である。そして、初の単独任務ともとらえられる。


(だから頑張らないといけないとは思うけれど……。でも本当にどこまでやれるのかしら? ヒル氏はあれほどスティルフォード様のことを意識しているのだから、きっとその実力は全部見た上で『偶然』なんて思っていそうだし……)


 それを覆すようなことというのは、一体どういうことなのだろうか。本当にあるのかさえ怪しく思うが、逆に絶対ケイレブの価値観を崩せないということが決まっているわけでもない。


(うん、考え過ぎてもわからないし……まずは団長の仰る通り、私らしく頑張ろう!)


 少なくとも、前向きになっていなければ良い結果など生まれない。

 そう、アリアは自分に喝を入れた。

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