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■第十二話 王都、そして見習いへ


 王都への到着後、エイフリート家の王都の屋敷に向かった。

 街中を歩きたかったが、まずは馬を預けなければ、店に入ることもできはしない。


 しかしそれでも歩きながら街を見ることはできる。

 街に昔の面影はほとんどない。残っているのは大聖堂と旧王城だが、旧王城に関しては観光名所として利用されているようで、実際には新しい城が使用されているようである。


(人も街も発展したら、大きくしていくしかないものね)


 ただ、記憶の中の街でさえかなり大きかったと認識している。

 そのため今の王都はとんでもない大きさだと改めて思ってしまう。エイリー地方も発展しているが、やはり密集度は王都とは全く異なる。

 とはいえ、前世でも王都は頻繁に訪れる場所ではなかったので、少々記憶が誇張されている可能性もあるのだが。


 しかし、いずれにしても大きくても困るようなことはない。

 気になる飲食店や雑貨店をいくつか発見しながら、アリアはエイフリート邸へと向かった。

 店に入れないことは残念だったが、これから王都にいるのだから行く機会などいくらでもあるはずだ。


(そう、街のおしゃれなお店に緊張して入れないというわけじゃないのだから……!)


 そもそも今生ではまだ自身で買い物をしたことはないし、前世では村での物々交換で生活が成り立つことが多かった。さらに旅に出ているときは仲間が金庫番をしていたので、直接金銭に触った経験が極端に少ない前世と、商人が屋敷にやってくるものとして過ごしていた今生。


(……お金の使い方を間違えたりはしないと思うけれど、もう一度確認してからにしたほうがきっといいわ)


 もちろん楽しそうな場所には見えるのでいつかは行きたいが、まずは後回しだ。


 そんなことを考えながら到着した、エイフリート邸では使用人たちが揃ってアリアの到着を歓迎してくれた。

 美味しい食事が用意され、綺麗な花が屋敷のあちこちに飾られている。

 年齢を考慮してだろう、部屋にはぬいぐるみも用意してある。


「ご不便があればすぐに仰ってくださいね」


 そう言われたものの、不便な点を探す方が困難だと思わずにはいられなかった。

 何かをお願いする前に揃っているなど、領地にいた時以上のお嬢様扱いだ。むしろ、お姫様扱いといっても差支えがないかもしれない。


(甘え過ぎてはいないかもしれないけれど……今日は存分に甘えさせていただこう。一応旅の疲れも、身体にはあるかもしれないし)


 唯一残念だと思ったことは、先に王都に滞在しているブルーノが屋敷ではなく騎士団の寮に住んでいると知らされたことだった。

 それはつい三日前からのことで、いわく教官として仕事をするための準備期間に入っているということだ。


(到着したとお知らせしたかったけれど……明日お手紙を書かせていただこう)


 登城を約束していた日までまだ数日ある。

 ならば問題ない……そうアリアが思っていると、部屋にノック音が響いた。


「アリアお嬢様、よろしいでしょうか」

「はい、どうぞ?」

「ブルーノ様からご伝言でございます。明日、ブルーノ様がお迎えに来られるそうですので、お城に向かう準備を整えておいてほしいとのことです」

「叔父様が?」


 どうして到着したのがわかったのかと思っていると「実はお嬢様が到着された折には早急に知らせるよう言付かっておりました」と言われてしまった。


「そ、そうなの?」

「はい。ブルーノ様もお嬢様とお会いされるのを楽しみにされております。そして、お嬢様の望みを一刻も早く叶えるべく、日程変更をされたとのことです」


 確かにそのようなことを頼んでいるのであれば、心待ちにしてもらっていることはよくわかる。

 だが……。


(明日、なのね。心の準備、整えなきゃ)


 まさか日が繰り上がるとは思っていなかったと、アリアは使用人が去った部屋で深く深呼吸をした。

 推薦状でほぼ見習い合格は確定していると聞いているが、それでも印象が大事であることは重々理解している。


(今の私の姿じゃ幼すぎるのもわかっているし……。落ち着いて、しっかり気合をいれるためにも、今日は早く寝よう)


 そう心に誓ったアリアはさっそくベッドに潜りこんだ。

 そこから睡魔がやってくるまでは、ほとんど時間が必要なかった。


++


 そして、翌日。


「おはよう、アリア。準備は万端のようだね」

「はい。お久しぶりです、叔父様。今日はよろしくお願いいたします」


 アリアは迎えにやってきたブルーノとともに馬車で城に向かった。


 そして初めて足を踏み入れた城は、遠くから見るよりもさらに大きく見えた。


「迷子になりそうな広さですね」

「大丈夫だ、すぐ慣れる。通る場所はいつも同じだからな」

「そういうものでしょうか」

「私でも覚えられたんだ。アリアに覚えられないわけがないだろう」

「そうであればいいのですが……」


 しかし目印らしきものも特にない城内を覚えるのは気合いを入れなければならないと思ってしまう。

 似たような景色が続く回廊を進んでいると、数名の仕事中の人々とすれ違った。

 そのたび、皆は一様に表情に出さないようにしながらも、アリアの存在に戸惑っている様子だった。


(やっぱり、子供が歩いていることには違和感があるのね)


 しかし特に何も言われるわけではないし、ブルーノも堂々としているので、アリアもそれに倣うまでだ。

 そうしているうちに、城でも端のほうまでやってきていた。

 訓練場が近くにあるのか、かけ声や金属音が耳に届く。

 やがて、ブルーノが足を止めた。


「ここだ。まぁ、緊張しなくてもいい。中にいるのはただのおっさんだ。……いや、一応まだお兄さんなのか?」


 そんな言葉にどう反応すべきかとアリアが返答に迷っている間に、ブルーノがドアをノックし、返事が帰ってくる前にドアを開けた。


「やあ、久しぶりだな。ジェイミー。秘蔵の娘を連れてきたぞ」

「……私は昨日も貴殿にお会いしたと記憶しているのですが、相変わらずですね。エイフリート殿。いえ、エイフリート教官とお呼びいたしましょうか」


 それは呆れたような調子の言葉であったが、ブルーノは嬉しそうだった。


「いいねえ、その響き」

「はあ。まぁ、それはいいとして。ところで……いま、私は起きていますか? 夢は見ていませんよね」

「何を言ってるんだ?」

「目の前にいるのは十歳程度の少女であるはず。ですが、どうもそうは見えない気配を纏っているのですが。夢なら正常かと思いまして」


 確かに魔力は通常より多いものの、常人には見えないはずだ。

 なぜそれがわかったのか。

 団長職というだけあってそういう特技を持っているのだろうか、それともそういう特技も活かしつつ団長になった人なのだろうか? やや不思議に思いつつも、アリアはゆっくりと一礼した。


「初めまして、団長様。私、アリア・エイフリートと申します」

「……偶然だね、どうも夢の中にまで聞いていた名前が出てきているようだよ」

「ジェイミー。現実逃避も構わないが、今は現実でここにいるのは物凄く可愛い私の姪のアリアだ」

「叔父様、あまり強烈な身内贔屓の発言をされますと、私はすごく発言し辛いです……」


 この場を和ませるための言葉であることを想像できても、今はそんな場合ではないとも思う。目を治療した件以降、非常に可愛がってくれているのはありがたいが、面倒な新入団員だという印象を抱かれることは避けたい。

 しかし、そうした時だった。


「わ」


 急に自身に向かってペンが飛んできたので、アリアは反射的に体を逸らせて避けようとした。が、ふと自分が避ければ壁に傷がつくと思い、寸でのところで思いとどまり、魔術で風を起こしてペンを受け止めた。

 そしてペンを手に取ってから、飛んできた方向を辿るも……それはどう考えてもジェイミーの方から飛んできたように思えた。


「……もしかして、手が滑りました?」


 もちろんその問いかけが間抜けなものであることはアリアも承知している。

 ただ、いきなり攻撃を受けるような覚えもないので、何かの間違いがあったのかもしれないとも思う。

 だが、ブルーノはニヤリと笑った。


「おいおいおい、うちの可愛い姪に何をしてくれるんだ……と言いたいところだが、ボケた調子でもしっかり試験はできる団長になってくれていて私は嬉しく思うよ」

「試験ですか? もしかして、このペンのこと……でしょうか?」

「ああ。別に当たっても即不合格なんて言いはしないが、不意打ちの対処力でお前の今の力を測ったということだ。ジェイミーは気配なくこういうことが得意なんだよ」

「それは、有効な攻撃ですね」


 確かにペンが飛んでくるなど想定外の事柄ではあったので、有効な手段だとアリアも理解した。

 ただ、アリアはエスタとしていつ何が起こるかわからない場所に慣れていたので、少々視野が広い自覚がある。


「まさか一度避けかけたのを、あえて魔術で受け止めるなど余裕をかなり見せつけられるとは思いませんでしたよ。どうやらエイフリート教官の推薦状は、大袈裟でも何でもないということを思い知らされました」


 ジェイミーはため息をついた。


「そしてどうやら、私の幻覚でもないらしいですね。アリア・エイフリート。セイルフィラート王国騎士団魔騎士隊は貴女を見習い魔騎士として歓迎しよう。私は団長のジェイミー・ベルです」

「改めまして、よろしくお願いいたします。ベル団長」

「では早速だが、見習いの説明から始めるとしよう。まずは、そこに掛けてください」


 そう言ったジェイミーは示した椅子とは反対方向に進んでいった。

 何をしているのかと思えば、菓子箱のようなものを手に取っている。


 どうやら、歓迎してくれるというのはここにも気持ちが表れているらしいとアリアは思わず笑ってしまった。


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