■【夢の君(一)】湖での出会いと、夢の話
黒尽くめの少年、シリル・スティルフォードには時間ができた折に行く湖がある。
それは名所とされている場所ではなく、地図からも省かれるようなことさえある湖だ。
まともな道もないような場所なので、ここで他人と出会うことは今までなかった。だから、子供に会うなんて想像もしていなかった。
「……しかも、あの曲を聞くとはな」
子供が奏でていたのはシリルが夢の中で時々聴く音楽だった。
幼い頃から一人の少女がその音楽を演奏している夢を時々見ている。
相手の姿はぼやけていてはっきりしないが、おそらく今の自分と同じ歳の頃ではないかと思う。
なんらかの意味がある夢なのだろうとは思うが、相手に話しかけることもできず、ただただ後ろ姿を見るだけの夢では何を伝えようとしている夢なのかもわからない。
その曲も一度も聞いたことがない曲で、かといって自分で奏でるような技術を持ち合わせていないので誰かに尋ねることもできやしない。
それが、まさかこの場所で曲名を知ることになるとは思わなかった。
もとよりこの湖も偶然というより、引き寄せられるように来た場所だった。
特に山や湖に興味があるというわけではないシリルにとって、この場所に興味を持っていたということはまったくない。道らしい道のない中、不思議と向かってしまい、以来、同じように来ているというわけである。
ただ、なぜかこの場所はとても落ち着く場所でもあった。
「さっきの奴も、こんなふうに呼び寄せられたのか」
夢の中の女性と同じ曲を奏でる、不思議な子供。
その子供は不思議な魔力を持っているように見えた。
「魔力持ちとはいえ、一人旅とは……」
とても不思議な存在だと思うが、さすがに夢と繋がりがあるとまでは考えなかった。
多分、偶然だ。
名前も知らない少女とは、おそらく今後関わることもないだろう。
そう思ったシリルの考えとは裏腹に、翌日、再会することになる。