ネオタリス城なう
「お嬢様、まもなく王城でございます。」
ビビは凛とした声で私に到着を告げる。
「ええ、いよいよね。」
「宜しいですか?必ず0時前にはお出になって下さい。決して、お過ごしになりません様、お願い申し上げます…。」
「分かってるわ。それに、もっと早い時間に切り上げるつもりだし!おそらくこの姿のまま屋敷に帰ることになると思うわ」
私はヘラヘラと笑いながら大丈夫、大丈夫と彼女を窘める。
大体夜会自体が好きでないのだ。
好んで異性にジロジロ見られたいという変態願望もない。それを回避する為、0時まで体型をカバーするという荒業にでたのだ。
───試薬
ビビをなんとか説得し、新しいドレスを採寸する為に服用してみた。
飲み込んだと思ったら数秒後。あっという間に40…いや50kgオーバーだった。
採寸の為下着姿ではあったが、ビリビリという会館音と共にそれらは裂けるとこは裂け、延びるところは延びきり、もはやただの紐状のものに化した。
そう、はだかに紐である。
ビビの前で裸になる事など恥ずかしさもなかったが、さすがに体が絞められた紐姿というのはなんとも言えない羞恥があった。
が、見たこともない自分の体型を姿見で確認すると目が点になり「す、すげ~」とお嬢様らしからぬ驚愕の顔はあまりにも滑稽であった。
そこから新たに作られたドレスは普段の私では3人分のサイズとなった。
また1時間後、一瞬ピカッと自分の体が光ったと思えばもとの体型に戻っていた。そしてそれは1秒の狂いもなかった事を鑑みるとマジチンコ…いやまじかるチャンコルという店の力量が手にとって分かったのだ。
元に戻った瞬間すかさず「マジチンすげ~」と呟いてしまった事はさすがにその様なお発言はお止めくださいとビビに怒られてしまった。
「0時を回るとすぐにお嬢様のお体は元に戻られます。万が一どなたかに見られでもしたら大変ですので、何卒お忘れ無き様、お気をつけくださいませ。」
「ええ、わかってるわ。ありがとうね、ビビ」
カタカタ……カタ……
馬車が王城に到着すると王門の前でゆっくりと止まった。
門の前には門兵以外に複数の近衛と城の管官がおり、先に御者にどこの家の者かと確認し、続いて馬車の扉をあける。従者が降り改めて家名と出席者名を伝えるという、いわゆる二重確認の点呼である。
これで誰が出ているかの確認で、どの家が欠席かを確認するのだ。
先に降りたビビは点呼を終わらせ、再び馬車に顔だけを出す。
お嬢様、お手をどうぞの一言で近衛がそっと手を馬車の入口付近にだし令嬢の登場を待つ。
そっと動き、身体が嫌でも覚えている淑女の所作で優雅に出ようにも、いつもと違う体型はガタン、バタン、ドサッ!と、普通に馬車から降りるだけであれば決して出ない不協和音が木霊する。
物量的に重い腰を何とか立たせようと懸命に馬車内のあちらこちらに掴まっていた所を、おそらく
何事かとチラっと近衛がこちらを見たのだろう…
慌てて視線を外に戻し、何事もなかったかの様にやり過ごす…が、笑いが堪えられなかったのだろうか。少し手が震えていた。
「…失礼」
一言そういうと、本来であれば添えるだけに乗せる手だったが、この近衛の顔があまりにもロマに瓜二つで一瞬見間違えるくらいであった…が、男らしさ100%という位、彼の横顔は紳士のそれで、よくよく見るとロマではないということは分かった。だが、心は騒然としてしまい、ほんのばかし…いや驚きの余りほとんど自分の体重を手に乗せ相手をぐらつかせた。
どの近衛ももちろん鍛えてはいるだろうが、今の私の体重は約95kg。おそらく相手よりも重いであろう、それを余裕綽々にエスコート…とはいかず、ぐらつかせた事に思わず苦笑した。
笑われたと思った近衛も複雑そうな顔はしていたが、さすがに公爵家令嬢に文句は言えない。お互い黙ってそのまま王門をくぐり玄関口へと入る。
(すごい…目がチカチカする。)
豪華絢爛、光彩陸離、まるで夢物語に出てくる世界がそこにあった。
小さい頃に来た事があるとは聞いていたものの、全く覚えていない。
靴の上からでも感じるフワフワの真っ赤な絨毯がどこまでも続き、支柱には至るところに装飾が施され、金の装飾品が余すとこなく置かれている。
エスコートをしてくれた近衛に礼を言い、遂に来てしまったと何とも言えない心境になっていた。