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シンデレラが唄う時  作者: 山本トマト
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魔法使いチャンコルの思惑

「すみませ~ん…」


可愛らしい声が無機質で色々な物が散乱した部屋に響く。


キョロキョロと店内を見回している姿に釘付けになる。


(可愛らしいお客さんじゃの…見たところ王城から来た使者ではない…か)


辺りを見渡していた彼女がぎょっとした様子が伺い知れるので、ちょっとばかし何を考えているのか魔法を使って覗いてみるか…と思ったものの、考えていることが顔に出やすいタイプなのか顔を赤くさせて固まっている所を見る限り、卑猥な物に使うのだと想像している様子。


(フォッフォッ…勘違いされやすいネーミングを付けたワシのせいじゃが…嬉しい反応をしてくれるわい)


頃合いかと思い、見えてるぞと伝えたく返事をする。


「ぉお~客か?それも女子(おなご)か?」


こちらに気付いた、その美しい娘はワシの頭上あたりを凝視し、ほんの少し怯えながらも薬を売って欲しいと伝えてきた。


(亜麻色の髪に…これまた綺麗な瞳じゃの。光に反射して色を変えるか。こりゃまた数奇な運命を宿した娘っ子じゃの~…)


久しぶりの接客だ、と愛用の杖を支えに山積みされた商品(ガラクタ)の道を隙間から彼女の顔を伺いつつ、歩を進める。


もはや柱となった山積みの本から横からヒョイと顔を出すと、大きく目を見開き嬉しそうに見下ろす彼女の姿があった。


(ほぉ~こりゃまた絶世の美女じゃな。これほどに美しい娘は久しく見とらん…ん?なんじゃ??悶えとる…)


そっと考えを読む魔法を無詠唱で使う。


【か、可愛い~~】


(フォッフォッフォ…美しい女子にその様に思われるのは悪い気はせんの…じゃが、ネオダナリファス(この世)随一の魔法使いを可愛いとは…恐れ入るわい。どうやらこの娘っ子は何にも知らんようじゃの…)


人との会話(馴れ合い)は久方ぶり。

時折来る王都からの使者に比べれば随分優しい対応だと思うが、見目麗しく、薬を売って欲しいと言う娘に怪訝に思う気持ちもあった。



(それにしても…誠に変わった魂の持ち主じゃな…久しく見るか、この感じ。そういやあの子に似ておるか。)



ワシの心配をよそ何やらまだ悶えてる様子の娘っ子の言動に、懐かしさを感じる。



(気のせいか…?やはり何やら懐かしい。)



またもや考えを読みたくなって思考を読む。人の考えを読みたくなるなど…全くいつ振りの事だ。そう感慨深く思いながら


【か、可愛すぎる…なんて破壊力…!!こんなに可愛いお爺さんが卑猥な物を作ってるなんて…!】

彼女の思考を読み解く。


(フォッフォッフォ…ギャップ萌えというやつかの?)


まぁ良い。この子に懐かしさを感じる訳が知りたい。種明かしでもしてやるか、と、相手の思考が読める魔法が使える事を伝えると、彼女はこんな下町にすごい魔法使いがいた!と一言で片付けた。


(読まれる恐怖もない…か。まさにこの感じ…10年前元の世界に戻ったあの子と同じじゃな。魔法に抵抗もない様子じゃと、どこぞの貴族の娘か。まぁ、隠しきれておらん洗練された立ち居振舞いから見てもどのあたりの位かも分かるがな。だが…この懐かしさに心を掴まれる感じは気になるな。ちょいとばかし魔力を使うが潜在意識まで読ませてもらうかの…)



そう思うや否や、フラッシュバックの如く彼女の思考を読み取っていく。

彼女の心が綺麗ということもあり、思考以外にも記憶を読むことにも成功する。


(ここまで読むつもりはなかったが…。ふむ。やはりな…。なるほど…夜会で貴族間の縁談を拒否したく生涯おひとり様希望とな…。最近流行りの…音楽屋のオーナーねぇ…)


映像と彼女自身の記憶から読み取っていくも、本来の運命は変えられない事を伝えるべきか否…昔出会った恩人の娘という事もあり、何を手助けすべきか頭を悩ませる。


その間もこの店は卑猥な店ではないのかとおずおずと商品を指差し尋ねてくるので本来の使い方を説明すると、赤面した彼女は俯いてしまった。


(まぁ、中にはそういう物もあるが…また来やすい環境にするには嘘も方便じゃな。)


そんな事を思いつつ、またこの娘に会いたいと願う気持ちを持った事に苦笑する。そして、いかんいかん、と久しぶりに人間らしい感情が顔を見せたというのに、その心にそっと蓋をし、この娘にとって良い案はないか思案し、導き出した答えを告げた。



「探している薬なら、あるぞい」



彼女は青天の霹靂とばかりに大きな目を更に大きく開け驚く。

しかも、考えを読むなんて便利!と一言言い放つ始末。


(どこまで読まれてるか等気にしてる様子もなしか…これはまた…。)


姿形は似てはないが、目の前の娘に懐かしさ以上のものを感じていた。


こうして出会えた運命に感謝しつつ、ワシなりに助けられる術を与えた。


醜くするなどと神をも恐れぬ所業はできなかったが、何より希望に答えつつも、太らせるという提案を飲ませ、至極当然とばかり納得した様子に安堵する。


(恐らくこやつは今年できた法案を知らんのやもしれぬ…)


いそいそとお望みの薬と魔玩具(オモチャ)を持たせ彼女を見送る。


その際も彼女はしきりに卑猥な店ではないのかと疑ってきた。愛酒館が近いということもあったからか…


(これではもう二度は来んかもしれんの…)



先程蓋をした感情がおいそれと出てこようとするのを感じるつつ、久しぶりに出た外界は色褪せずそのままであったが、看板だけは時間が過ぎていることを教えてくれる。


(フォフォフォ…こりゃまた10年の重みとは…これ程であったか。)



ヒョイと魔法で看板を直すと、そっと世界に背を向け分け隔てた家に入る。



人には避けようにも出逢うべき、運命がある。



どれほど遠回りをしようとも、残酷な程にこの世界は優しくもあり厳しくもあるのだ。


「なぁ…アンリよ」


ボソリと呟いたその声は誰にも届くことはなかった。

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