新法はお遊びと共に
ちょっと詰め込みすぎたかもしれません…分かりにくかったらすみません:-(
「げ、元気にしております。」
「うん、まだ何も聞いてないよ?」
げ、から始まるそれらしい言葉を言ってみたが不発に終わった様だ。
殿下は可笑しそうにクスクス笑いながら話を続ける。
「初めまして、と言いたいことろだけど夜会ぶりだね?ミウクレイシー嬢。まさか、あの時客室で出会ったのが貴女だったとは、思いもしなかったよ。」
「先日は、ご挨拶もままならず失礼した事、誠に申し訳ございませんでした。」
「それは構わないんだけどね。どうしてこの様な見目麗しい貴女があの様に姿を変えてしまったのか、説明を求めても?」
小さく深呼吸し、正直に話した。
夜会で婚活の様なことをしたくなかった事、そして男性に相手にされない為に太る薬を飲んだこと、夜会中に慣れない体で足が痛くなり靴を脱ぎたくてたまたまドアが開いてた部屋に入ったことを説明し、そして化魔法禁止法が出来たことを知らなかった事をそれは強く強く主張した───
殿下は真面目に聞いてくれてた──が、陛下は肩を震わせ手で顔を覆い俯いている。
怒り心頭の様子の陛下に、駄目かもしれないと思いつつも心を決め口を開こうとした時──
「恐れながら殿下。ここから先は私の方からご説明申し上げても宜しいでしょうか。」
兄は一歩前に進むと、私の前に立ちはだかる。
だが、決意の堅い私はそれをさっと制す──
「いえ、お兄様。私からまだ陛下へ上奏させて頂きたく存じます!」
前に出たお兄に並ぶ様に真っ直ぐに立つ──
そして「お、おい」と兄の小言が聞こえたが無視して淑女の礼を取りつつ誠心誠意言った。
「この国の新法を知らぬとはいえ、犯したのは事実でございます。恐れながら、罪を償う為、投獄ではなく罰金を上納することでどうか、お許し願えませんでしょうか??ですが、私の今ある資産ではどうにも一括で納める金額ではなく、何卒分割払いでお許し願えませんでしょうか?」
「ぶばッッッ!!!」
「は?」
「え?」
三者同時に呟く中、一人のぶばッ!に気を取られ、ふと顔を上げる
と、大爆笑している陛下がいた。
「ぁははは!!ぶ、分割払い…罰金の、しかもあの法外な金額を払うと…くくく…あはひはは!!」
国のトップが法外と認める法律とは…
きっと、今私の眉間にはその思いが強く表れているのだろう、それを見た陛下は「あ、ごめんごめん」と言いながら必死に真面目な顔を取り繕うとしていた。
そしてゴホン…オホン…グフッグフフ…ご、ゴホン!と何回するんだよとツッコミたくなる程咳払いをしてから漸く口を開く。
「残念だが…罰則金の分割払いは認められない」
え…?あれだけ笑っておいて?
目をパチパチとさせ、陛下を見るも、眉毛をハの字にさせごめんねぇと言うばかり。
思わず助けを求めるが如くお兄を見上げる…と手で顔を覆い、はぁ~とため息を吐いていた。
「で、では…私は投獄される…という事でしょうか…?」
「うーん、何て言うか…ひとまずミウ、君に色々と確認したいことがあるんだけどいい?」
コクりと頷くと陛下は話を始める──
「この法が出来た切っ掛けになった出来事は聞いたかな?」
はい、と頷くと陛下は続ける。
「実はね、あの夫婦以外にも表沙汰になっていない問題が多くてね…。」
「陛下、立ち話も何ですから座りながらにしませんか?」
話を割った殿下はそう言うと指をパチンと1回鳴らす──
すると広々とした空間に、豪華なソファーセットが現れた
(す、すごい!!)
綺麗な刺繍が施された大きめな一人掛けソファーが四脚が対面されており、間には大理石で出来た白濁色のローテーブルがある。
突如現れたそれらに興奮してしまうも態度には出てなかったはずだったが、ここへきて存在を忘れていた爺がクスッと小さく笑った。
陛下、殿下が座るのを見届けてから爺はお嬢様こちらへ、と座らせてくれた。
魔法で出てきたソファーなのに肌触りの良いベロア素材に沈む様なフワフワで座り心地が良い。
殿下の魔法に感激している暇もなく、陛下は話を再開させた。
「では、話の続きだが…ジーンから話を聞いていると思うが、切っ掛けになったあの夫婦とは別で、あの薬を使用した者の精神的な依存性が問題視されているんだ。もちろん、魔法薬に依存性そのものはないんだけど。労せず自分の理想の形になるあの薬はある意味、危険だと問題視していたんだよ。ただミウの場合本来の法を作った目的とはかなりズレるから処罰対象になるかどうか…微妙なラインなんだけどね。」
依存性──確かにその通りだ。コンプレックスがいとも簡単に無くなるとなれば、皆頼りたくなる。それを防止させる為にも新設された法ということか──。だけど、この場合…もしかして私、処罰対象外なんじゃね?という期待も殿下の提言で崩れることとなる。
「陛下。お言葉ですが、人の好色は人それぞれですし…今回たまたまミウクレイシー嬢に言い寄った人はいないと昨日の調査で判明しております。ですが、実際にふくよかな彼女を拝見致しましたが十分に魅力的に感じましたし、今回はたまたま何も無かったわけで…何も罰がないというのもどうかと思います。そうでないとこの法の意味を持たなくなってしまいますので。」
ぐぅの音も返せず肩を落とすとトドメを刺すが如く殿下は続ける──
「それに先程陛下が仰った通り、まず罰則金の分割払いは認められません。何故なら、ここで認めてしまうと他の法でも適用になりかねない。そういった前例は作るべきでないと思います。」
殿下が話すのを、呆然と眺めていただけの私だったが、ここでお兄が口を開く
「恐れながら申し上げます。今回、妹のした事は恥ずべき行為だと思いますが罰せられる程の事ではないはずです。お遊びで決まった様なあの異様に高い罰則金の設定に、これから法改定で金額の変更をすると話が通っているのではありませんか?それなら今支払いの義務を課すのはどうかと存じます。」
「お遊びであっても現法はこれだよ。陛下の怠慢からこうなってしまったことは私から詫びたい。だが───」
「あの、お遊びって…?」
遊びであの法は仕上がったのかと、あまりの衝撃に言葉を絞り出すもそれ以上の言葉が続かなかった。陛下は慌てた様に説明する。
「あぁ~…うん、お遊びというのは言葉の綾なんだけどね、まぁ何て言うかあの騒動の渦中にいた文官の私怨が入ってたとしか言い様がないかな…とりあえず早く法案を通そうとした結果、あの罰金の出来上がり…ってわけ」
エヘヘ、ごめんね?と軽く言う陛下を遠い目で見てしまうのは仕方がないだろう。
「いや、そこでなんだが…実は提案したいことがある。陛下、宜しいでしょうか?」
「う~ん。まぁ、それが一番我が国にとっては有難い事だけど…だがダグラスが何て言うか…」
何故ここで父の名前がでるのかと顔が強張ったが、この場にもいないぐらいだ。私の事などどうでもいいと思っているはず。
真顔になってしまった事に気付いたお兄がゴホンと咳払いをして私を窘めた。
「提案というのは、先日の夜会でミウクレイシー嬢の偽姿を見た者は多くいるが、関わった人はほぼ皆無だ。だが、君は唯一会話をした人がいる──覚えているね?」
「…もしかして、ダナンの訛りのキツい老貴族の方ですか?」
「ああ。あの方はダナン国の元農林大臣をしていたアルディ閣下と仰る方でね。彼は農林の事だけでなく政治や帝王学に成通していて幼少の頃からお世話になっている、私にとっては師と仰ぐ方なんだ。」
「は、はぁ。」
話が見えなさすぎて間抜けな返事をしてしまったが、殿下はそれを気にする事もなく話を続けた。
「そこであの夜、彼と話をする機会があってね。通訳をしてくれたあのご婦人にきちんと礼を言いたいから明日の夜、最後の晩餐で会わせて欲しいと仰せなんだ。」
「ただ、通訳をしただけで…お礼など言って頂ける様な事はしておりません。」
「貴女にとってはそうなんだろうけど、これにはさらに複雑な事情が絡み合っててね…」
処罰の話から何故にこんな話になったのかと思い小首を傾ける…と、途端に柔らかな瞳になり話を続けた
「突然だけど…私の【婚約者】について何か知っているかい?」
「はぁ…殿下の婚約者ですか?確か、うちの義姉と婚約されたそうですね。こんな所で何ですが、おめでとうございます。」
既に何の話をしたのかチンプンカンプンだったが、あんなんでも一応義姉だ。これから義兄になる殿下にせめてものと、お祝いの言葉を口にする。
「うん、有難う、と言いたい所なんだけど…それ嘘なんだよ。」
「…はい?」
ポカンとしたままお兄を見上げると既に両手で頭を抱えていた。後ろに控える爺を見上げるも微笑んではいるが目は笑っていない──
これは、つまり…どういうことだ?
「あの…全くお話が見えないんですが…?義姉との婚約は嘘…で、アルディ閣下とのお話に何か関係が?」
「その嘘がどうやら閣下の耳にまで入っていてね…要は明日の晩餐会に貴女と【婚約者】に会わせて欲しいと仰せなんだ。もちろん、婚約者などいないと伝えようとしたんだが…先日閣下邸に婚約を証明する手紙が届いたそうでね…」
「手紙…ですか」
「私も実際その場で見てね…そしてそれを預かってきたんだ。これを──」
殿下はジャケットの内ポケットから手紙を出すとこちらに差し出さす──両手でそれを受け取ると、裏を返して確認した。
封蝋が【ノワール公爵家】の家紋であるスミレの花をモチーフにしたノワールの文字が刻印されている───
「これは、間違いなく我が家紋…ですね…。」
冗談で済む話ではない、不敬中の不敬だ。
極刑に処されて当然の重犯罪──
「君はその嘘を誰から聞いたのかな?」
「…義姉からです。ですが、私はその際に義姉の顔を見ておりませんので本当に本人だったかは分かりませんが…ですが、そんな不敬罪に当たること、他の使用人は申しませんし…」
重々しい空気が流れる──
これまで口を噤んで来た兄が漸く口を開く──
「恐れながら殿下、義妹…いえ主犯ルシファーがした事はミウには何の関係もない話です。その件につきましては、すでに処罰できる様、既に主犯の継母であるキャメル並びにルシファーは捕らえております」
「!?」
つ、捕まってる!?
「お、お兄様…どういう事?」
「詳しい事はまだ話せないが…殿下との婚約の儀を水面下で契っていると、不実の噂を流した罪とダナン国アルディ閣下に嘘の手紙を送った嫌疑だ。」
お兄は言い終わると遠い目をしていた
「そして私は証拠を押さえる為に、アルディ閣下にノワール公爵家令嬢との婚約を嘘だとは言えなかった。だから、これが提案だ──」
俯きがちに話をしていた殿下は真っ直ぐ気こちらを射抜く様に見つめた──
「明日の晩餐会、ミウクレイシー嬢には私の婚約者として出て欲しい。」
「───はい!?」
衝撃な提案に私は言葉を失った。
───だが更に事態は深刻を増していく
バンッ!!!と勢い良くドアが開いた様な音がしたと思ったと同時──
「お待ちください!!!!」
とてつもなく大きな声が謁見部屋中に響き渡る。
陛下と殿下が見つめる先───そっと振り返ると、その視線の先には…二度と会いたくないと思っていた、久しぶりに見た父親が立っていた。
ありがとうございました(..)




