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シンデレラが唄う時  作者: 山本トマト
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朝食にガーリックトーストを食べたくなるのは何故なのか。

通された客室からどれ程歩いたのだろう──



右へ曲がったり左へ曲がったり2階だったはずが、来たときに見た庭の見える脇道に出たりと、恐らく場所が分からない様に遠回りをさせられているんだろうとしか思えなかった。



謁見部屋までは3人に案内され連れられて来た。これは異例の少なさで先導するのは位が高そうな、燕尾服を来た人は貴族名鑑で見たことがない為、恐らく王族に仕える執事だろう。


そして顔に仮面をすっぽりと被り、袖のない簡素な鎧に身を包み膝上まである防具を着た、いかにも屈強そうな騎士の2人が私とお兄の両サイドに配置されていた。



ようやくまた赤の絨毯の所へ来て、大きな通路の先には壁がそのまま樹になった様な大きすぎる扉が見えており、扉の両端には、細部にまで拘った男の石像があり天井まである高さだ。


どうやら壁と一体になっており、支柱を彫刻されたものだと遠目で見て分かったのだが…シンメトリーになる様に両者とも上腕の筋肉を魅せるポーズは異質極まりなかった。



彫刻に呆気にとられていると、もう扉の細部が見えるところまで来ており先導していた執事が立ち止まる──



すると扉の向こうに聞こえる様に、声高に言った


「ジーンアウス・()()・ノワール様、ミウクレイシー・()()・ノワール様、付き添い人、ノワール公爵家筆頭執事 ディーン・アルト・バルディ氏、三名只今到着致しました」



久しぶりにお兄のフルネームを聞いた──



これまで気にしていなかったがこういう時に限ってそういや()()()だったと思わされる。



この国でのセカンドネームはそれぞれの婚姻した優位爵位の家督者から受け継がれる。


お兄はもともと父親(あのひと)の妹の子供で、私が生まれる前に叔母夫婦は故人となってしまった──そしてその後父親(あのひと)の養子に入った為、セカンドネームが違うのだ──が



それをずっと気にしていたお兄が気になり目線だけでチラッと伺うも、いつもの貴族モードでいたことに内心ホッとした。



『入れ!!!』



中から威厳のある低音ボイスが聞こえる──と、両サイドに控えていた騎士は扉の前に移動した。



天井まで続く重厚なドアは1人では到底開けられない大きさだ。


ドアノブの変わりに私に大きな鉄の輪が付いている。それを片側に1人ずつ付いており合計騎士の2人掛かりで開ける仕様になっていた。



侵入者対策…というところだろか。



頑張って引っ張る2人の上腕には遠目でも筋肉の形がはっきりと分かる程で、力がなければ開けられない仕様であることは明らかだった。



扉の両端には滑車の様な物が付いており、開閉の補助の役割なんだろうが、それでも簡単には開けそうにない事が伝わる──



え、てかここ魔法の国だよね?そんな原始的要素いる??こう、魔方陣で防御壁がどうとか、触ると人物認証されるとか、もっとクールなものないの?2人とも腕の筋肉をムキムキにさせながら、ぁあ~とか唸ってるし…どうなのこれ?


などと思っているとギギギギ…とゆっくりとドアが開き、ようやく横並びで人が5人程歩ける幅でピタリと止まった。



ああ、これはサービス筋肉だったのか…と気付いたのは扉の両端にある半裸の男の彫刻がと同じポーズを取ったまま背中で扉を押さえているからだ。



先導した男はゆっくりと歩きだしたのでそのまま付いていく──

通りすがりに『お疲れ様です』とポソッと呟くと首と腕が赤く染まった様な気がした。



小さい頃、父親(あのひと)に連れられて王城に来ていた事は朧気であるが記憶にはある。

ただ、さすがに謁見室は初めてなので少なからず緊張していたが、それを見せずにゆったりとした動作で中へ進む──



10歩程歩くと、ガタンと音がし扉が閉められたのだと気付いた。



謁見室は想像してた以上に質素だった。もっと黄金ピカピカなのかと目を細める準備をしていたのだが、その必要はなかった。



流石にキョロキョロと辺りを見渡す事は出来ないので、横目でチラッと見るが柱に彫刻が施されているくらいで、美術品はおろか人の気配もなかった。



また、テーブルや、椅子もなく全て真っ白い大理石で造られたようで部屋の均衡感覚が少し麻痺するような気がした。



壁も床も真っ白で繋ぎ目が一切なく、大きな石をくり貫いたような丸い部屋だな、と思った。

壁には窓がなく、ほんのり明るく感じるのは天井一面が大きな窓になっており、そこから差し込む月明かりに反射しキラキラしていた。



また唯一存在感のある、この目の前に続くこの真っ白な階段の先に陛下が鎮座しているのだろう事は想像出来たが、入り口からでさえ天辺が見えない階段は一体どれ程の高さがあるのか想像も出来なかった。



見上げることもままならず、円の中心を目指すように先導する執事が止まるまで真っ直ぐに歩いていく。


執事はそこでピタッと止まったので、私達もその場で足を止めた。


すると執事は、階段に向かって軽く礼をする。そのまま階段の端の方に行くと、階上を見上げることなく今度は深く一礼した。

そしてクルリとこちらを向くと「陛下の御前にございます」と落ち着いた声で言った。



お兄と2人、揃って深々と挨拶(カーテシー)をする。



陛下の声がかかるまで、顔を上げない──が、声が掛かるまでかなり長すぎた。



お兄はまだ良い、紳士の礼だ。

だが()()()()を甘くみないでほしい──



まず右足を左後方に大きく一歩分下げ爪先だけでキープ、左足を右足とクロスさせ深く曲げたまま、前方にキープ。前に重心を置き頭だけではなく胸と一緒に下げる。




お分かり頂けただろうか───




ふんわりと広がるスカートの中では両脚がプルプルと震えていた。それは緊張してる訳でも怯えている訳でもない。ただただ脚の筋肉が限界を迎えていたのだ──



普段、ピアノを弾いたり踊ったりしたりするけれど、脚の筋力は限界ヨロシクだった。



陛下!!

早く!声掛けて!!

もしかして早速嫌がらせですか!?

それともこれが罰!?


などと、脚の悲鳴を内心代弁していると、ここで漸く声がかかる。



「面を上げよ!!!」



思ってた以上に近くで大きな声が掛かりビックリし肩がビクッとなりなけたが、何とか堪え忍んだ。



あ、魔法ですね?確かにあの天辺から声かけられると『面をおもおもてをてをあげあげあがあげよ──』みたいな山びこ感になりますもんね?



ゆっくりと姿勢を直していく──


ぁあ~明日脚、筋肉痛だな~とか不届き者らしい事を思っていた所で、顔を上げた目の前に陛下のご尊顔があった。




「!!!!」


「ミウ、久しいな。息災か?」




ホラーかよ!!

てか、近付いてくる気配もなけりゃ足音とかなかったんだけど!!!


確かに姿勢を上げる時ちょっと、目を瞑ってたけどさ!!



「ご無沙汰しております、陛下。はい、お陰様でこの通り元気でございます。」



言えました!!ええ!この状態でよくぞ噛まずに言えました!!



てか、いくら陛下でもこの距離はないわ~。

どれだけ『ダンディーで男前』と有名であっても許される訳じゃないからねっ!!



「堅苦しいのはよい、気楽に申せ。して、ミウ本当に美しくなったな!見間違えたぞ」


あ、うん、シミ毛穴ない、ダンディーな男前ですね。お噂は真にございました。

そのままの顔位置…つまり陛下の息がかかる距離でまた声を掛けられる─


「夜会で会えると楽しみにしておったのだが、形式的な挨拶ではなく気軽に話せる今の方が余としては嬉しいがな!!」


ミントフレーバーに包まれつつ、陛下の笑顔を受けて自然と笑顔になった──が、



私、朝食にガーリックトースト食べたけど口臭大丈夫かな?

あ、もしかしてさっきのアップルティーは匂い消しだったのか?てことは王門入るまでガーリックフレーバーを振り撒きつつ来てたのか!?など、と思案しつつ恐る恐る口を開く。



「ありがとう存じます。先日の夜会ではご挨拶せずに帰らせて頂いたこと、申し訳ありませんでした──」



念の為、息を掛けない様にしながら話そうと思ったが、最後にブワッと思いっきり息を吹き掛けてしまった。だが知らぬ存ぜぬの顔で通す



ようやく一歩退がった陛下は、うーんと言いながら困った顔をしているのはニンニクのせいではないと思いたい。



「陛下!!」



聞いたことのある怒りを含んだ低い声が響く──



クルリと陛下が振り返ると両手を上げて降参ポーズを取る陛下の後ろ姿が目に入る



こういう戯ける姿の陛下を見れるのは気を許してくれているからだろう──



これなら罰金分割払い、何とかなりそうだ、と内心ホッとしていると


陛下の横から、陛下を若くした時によく似た…あの日に見た深い紺色の髪の毛に、金色の瞳の王太子が姿を見せた



フワッと破顔したかと思うとニッコリ笑ってこちらに近付いてくる



思わずでた言葉はお約束の



「げっ…」で、あった。

ありがとうございました(..)

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