けしからん!!親の顔が見てみたい!!
羞恥プレイに悶えたというのに、やりきった感からぐっすりと眠り、スッキリと目覚めた翌朝──
改めて図太い神経をしているな、と実感させられて1日が始まった。
今日は6時に城へ行かねばならない───
考えるだけでも憂鬱だったが、既に腹は括った───来るなら来い、いやこっちから行くのだが…そんな気分だ。
6時から…といっても、色々と準備をさせられるので結局朝から湯浴みからの揉まれ弄られの分刻みのスケジュールだ。
朝起きてしっかりと朝食をとった後、ビビの様子が気になり、彼女に充てられている部屋に顔をだす──
ノックをして、彼女の弱々しい返事を聞いてそっとドアを開ける───と、慌てふためいたビビがベッドから飛び出そうとしたのを両手で制した
「ミウ様!!!」
「ビビ!!体調はどう?ごめんね?私のせいで…」
「そんな!!とんでもないことでございます!この様な格好で誠に申し訳ございません…」
「いいのいいの!気にしないで!それもこれも私のせいなんだから…それにビビが元気になってくれたら、それが何よりなんだから!」
1日しか会ってないのに、とても久しぶりな気がする。
ビビは物心付いた時からずっと傍にいてくれている、私にとって親友の様な、妹の様な、替えの効かない唯一の侍女だ。
ビビの顔色が良くなっている事に、安心しつつ、これ以上心配かけまいとニコニコと笑顔でベッドの傍に椅子を持ってきて座った。
「体調はどう?」
「お陰様で、もう大丈夫です!本当にご心配をお掛けして、申し訳ございません。」
「こっちこそ、いつも心労ばかりかけてごめんね?でもまだ無理はして欲しくないから、2、3日はゆっくりしててね?」
「滅相もございません!本日は登城のご予定もございますし、お供致します!」
「だーめ!いっつもビビに無理させてるんだもん、しばらくはゆっくりしてもらわないと!それに、登城といっても大した事ないから心配しないで!」
そう言いきると手をパタパタと顔の前で振る
「ですが…ご、5000万ベルタ…でござい…ます…よ?」
途端に顔が青くなっていきそうだったので、慌てて彼女の手を握った
「大丈夫!!万が一罰金刑になったら、分割で払うよ!!それに、音楽屋も軌道に乗ってきたところだし、あと、他にもやってみたい商売があるから!!大丈夫!!」
「罰金の分割払い…でござきますか?」
「う、うん!まぁ知らなかったじゃ済まされないけど、だけどそうやって奏上してみる!!!だから安心して、ね?」
「ですが…」
「それに、必殺技もあるから!」
「ひ、必殺技でございますか…」
「そう」
グフフとほくそ笑む私を見て、ビビはひっと小さく声を上げた。
「それに、お兄もお城落ち合う予定になってるし、それに爺も付いてきてくれるみたいだから、本当に心配しないで?」
小首を傾けてニッコリと笑うと、ビビはようやく、分かりました、と納得してくれた。
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私が侍女達に揉まれ弄られてあまりの気持ち良さに昇天しかけている間に、昨日のドッキングドレスを届けに仕立屋の主人と子息が来てくれていた様で、爺が滞りなく受け取ってくれていた。
コンコンコン
「お嬢様、お支度中に失礼致します。ドレスが仕上がって参りましたので、お届けに参りました。」
「…ぁあ!…じ、じぃゃ…あ、ありがとぅ…」
「フフフ…久しぶりの侍女達の手腕はいかがでございますか?」
「…もぅ気持ち良すぎて、たまんな~い」
素っ裸の状態でうつ伏せになったまま、されるがままに施されるマッサージはヘナヘナと力が抜け、たまらなく最高だった。
「心地良い中、誠に申し訳ございませんが、届いたドレスをご覧頂いても宜しいでしょうか?」
「も、もちろぉ~ん」
と、行儀は悪いがヘロヘロでぐったりとしたまま言うと、爺は一礼して、踵を返す。
すると、木で出来たトルソーに着せ付けたドレスを横抱きに持ち、丁度全体が見える辺りに置いてくれた。
「いかがでしょうか?」
綺麗にドッキングされた表地のレースの隙間から、ベースになっている濃紺色ドレスの光沢とキラキラと輝く金糸が細かい宝石の様に見える──
まるで先日上空から見た星空を思い出す様な印象だ。
淡い水色のレースも濃紺色に重なる事で、華奢で繊細なレースが少し落ち着いた色合いになり、それが大人らしさを演出している。
また、裾一面に輝く金色とマッチしていて、派手でなければシンプルでもない新しさのあるドレスに仕上がっていた───
「完璧」
ドレスに穴が開きそうになる程見て、想像していた以上の仕上がりに感動する──
今からこれを着れると思うとワクワクした。
ドレスを着る事にワクワクするなんて、本当に何年振りだろう、とシミジミ思った。
「恐れながら、お嬢様。仕立屋の親子がお召しになられたお姿を是非拝見したいと申しております。いかがなさいましょう?」
「構わないけど…ぅわ!もしかしたらこんなに綺麗なドレスを私が着るに相応しくないとか思われてるのかな!?確かに…すごく素敵だもんね」
う~ん、と両手で頭を抱え唸っていると、爺ははて?と首をかしげながら続ける。
「いいえ、その様な事は断じてないかと存じます。ただ、召された物が光り輝く姿を見たいという、作り手ならではの思いかと…」
「見て貰うのはいいんだけど、ガッカリさせない様に爺から上手く言っといてもらえる?」
「畏まりました。それでは、待たせる間、応接間に通しておきます。」
そう言うと、爺は足早に部屋を後にした。
▷▷▷▷▷▷
「ぁあ~~ん!!んっ!!だ、だめぇ~!!そんなにしないで!!」
グググ……
「ぁあん!も、もう!だ、だめ!ん゛ん、げ、限界!!」
只今絶賛コルセットの装備中である。
先日の甲冑の時は、私の肉付きのお陰で絞めようがなかったからか…全くと言って良い程、ダメージはなかったのだが…
ぎゅうぎゅうと、私への日頃の恨みなのか、何がなんでも絞めてやると、背中の編み上げ部分の紐をグイグイ締め上げられていく。
いや、久しぶりに真面目に装着すると…この拷問具を考えた人に…けしからん!!親の顔を見てみたい!!!と思う私だけではないはずだ。いや、この場合は本人に直接文句を言うべきだろうけども。
「お疲れ様でございました、お嬢様。それでは続きましてドレスの着せ付けに参ります。」
「…え、ええ」
テキパキと動く侍女を見ながら、いつも着せてくれていたビビならここまで締め付けなかったのに…と怨み節を呪符の様に呟きながらも、されるがままにしていた。
そして、全ての準備が終わり───
姿見の前に案内される。
どこからどう見ても『公爵令嬢』の自分がそこにいた。
マッサージされて、すっきりとしたフェイスラインに、コルセットで締め上げられた胸はいつも以上に盛り上がり、ウエストの括れは自分でも認める細さだ。
そして何よりもドレスの採寸がピッタリ過ぎることに驚愕した。
「「「「お綺麗でございます!!!」」」」
見事にシンクロした声に思わず苦笑したものの、すぐにニッコリと微笑みありがとう、と言う。
そんなやり取りをしていると控えめなノック音が聞こえた。「どうぞ」と言うと静かにドアが開く──
「失礼致します。お嬢様、ご用意…は…」
目が点の状態の爺を見たのは生涯でこれが二度目だ。
何にそんな驚いているのかと、恐る恐る爺に問う
「じ、爺?どうしたの?や、やっぱり似合ってない…かな?」
「いいえ、滅相もございません。余りにお綺麗でいらっしゃいましたので、言葉を失っておりました。」
さっと一礼すると今度はニッコリといつもの爺スマイルに戻っていた。
「そう?フフ、ありがとう!」
「本当に、お美しくていらっしゃいます。では階下に仕立屋の親子を呼んでおりますので、このまま爺めにエスコートさせて頂いても?」
「もちろん!」
さっと爺が近づき手を差し出してくれる。安心する爺の手に自分の手を重ね部屋から出た。
部屋を出て廊下を進むとエントランスに繋がる螺旋階段がある。
もう痛みはないが怪我をしていたから、と爺はいつもよりも、かなりゆっくり階段を降りていく。
階下に仕立屋の親子が見えたのでゆったりと手を振った──
だが、今自分がしている様が──昔王妃様が公務でなされていたまんまだったと思い出し、思わず苦笑してしまった。
一段一段ゆったりと降り、エントランスに近付くと仕立屋親子の顔がハッキリと、見えた。
二人ともさすが親子だ。目を大きく見開き口を大きく開けたまま綺麗に固まっていた──
ようやく階段を降り、二人の目の前に立ってもビクとも動かないので心配したが一言声を掛けると同時にビクッ!と肩が震えたお陰で生存確認はできた。
「お待たせしてごめんなさい。今日は時間のない中、とても綺麗で完璧なドレスを仕立ててくれて、本当にありがとう」
ドレスのスカートを持ち淑女の礼をする
「お、お嬢様、でいらっしゃいますよね?」
「え?ええ、そうだけど…ごめんなさい、似合ってないかしら…」
仕立屋親子には受けが良くなかったか…と、困るように言うと2人とも同時に顔をブンブンと左右に振る。
「滅相もございません!!階段上から女神様が降りてこられたのかと思うほど、お美しくて…またこのドレスがお嬢様にとてもよくお似合いでしたので…長年仕立屋をしておりますが…この様に胸震える事は初めてにございます!」
頭と目をキラキラとさせながら主人は誉めちぎってくれた
「ふふふ、ありがとうございます!そこまで誉めて頂けるなんて、このドレスを仕立ててくれたお二人と侍女達に感謝ですわ」
ニコッと微笑むと仕立屋の後ろに控えていた侍女達から黄色い声が聞こえた。
ちょっとした有名人の気分である。
「ところで、本当にサイズがピッタリで驚きましたの。ここまでに仕上げるのに大分無理をさせてしまったのではないかと、何だか申し訳ないわ」
眉尻を下げて詫びると、また2人は大手をブンブンと顔の前で振り、懸命に否定する。
「執事様が懇切丁寧にサイズをお教え下さいましたのと、もともと細身のドレスに少しだけ手を加えるだけで、とても楽をさせて頂きましたよ!!また、何かご用がございましたら何卒当店へお願い申し上げます!」
腰が折れ曲がる程綺麗にお辞儀をしたに2人を見て、ほんの少しの罪悪感と、またご縁があればいいなという思いに駆られながら、ありがとうと言った。
「お嬢様、そろそろお時間でございます。馬車を用意しておりますので、参りましょうか?」
「ええ、そうね。それでは2人とも、本当にありがとう。」
「「ありがとうございました!!!」」
盛大なお見送りを受けながら…
またもや向かうは戦場…いや戦城であった───
ありがとうございました(..)




