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シンデレラが唄う時  作者: 山本トマト
23/35

勝負服はドッキング

牛歩ですが…すみません。

素っ頓狂な私の悲鳴を聞いて爺と数人の使用人が部屋に駆けつけてくれた。



泡を吹いて気絶したビビをスタコラサッサと運びだし公爵家のかかりつけ医を呼び処置してくれたお陰で、自室でゆっくりと休んでいれば問題ないとの知らせがきたのは彼女が倒れてから2時間後の事だった───



ビビに大事ないと分かり安心すると、今度は先程の高過ぎる罰金に頭を悩ませていた。



5(),()0()0()0()()()()()



郊外の美しい湖の畔に2階建て客室5部屋完備の豪邸が買える事が出来る金額。



もしくは牛3,000頭──羊なら7,000等買える金額だ───



頭の中に大量の牛と羊がモーモーメーメー鳴いている中、金策に頭を巡らせていた



今ある私が使える全財産が約3,000万、2,000万はお祖父様から初期投資してくださった金額だから、それをお借りしたとしてもざっと2,000万足りない──



馬車馬の如く毎日髪の毛を振り乱してピアノを弾いたところで、グループでやっている限り皆に迷惑をかけてしまう…それに…そんな必死の形相で弾くピアノなんて、誰も見たくも聞きたくもないわよね



「はぁぁぁ~」と盛大に溜め息を吐いているところに控えめなノックの音が聞こえた。



「爺?」



「失礼します、お嬢様。その様なお顔をされずとも、ビビは大丈夫でございますよ?それとも…他に何かお困りごとでございますか?」



ギク──



今、爺は危険だ。



何しろ音楽屋(レインボー)をしている事をビビ以外には秘密にしている。



別館から出掛ける事も、公爵令嬢として市場調査と慈善活動───という名目で家を出ている事にしているのだ。



ここで、何か一言でも喋れば…芋づる式に全てが…いやあの人にまで話がいってしまう。



「ううん、ビビが心配なだけよ。」



嘘は吐いていない。いつも気丈なビビが泡を吹くほどの事だ───これは本当にヤバイやつだ、と口にして改めて思った。



「ビビは本当に幸せ者でございます。して、お嬢様、仕立屋が参りました。応接間にお通ししておりますが、今からお出で頂けますか?」



「え、ええ。もちろん、構わなくてよ」



突然の令嬢振る舞いに、隠し事いえ悩み事あります!!と、宣言をしている事になるとは、この時露程にも思っていなかった。



「ありがとうございます。またビビがあの様な状態でございますので、恐れながら代わりに爺めが立ち会わせて頂きます。」



「お願いね」



そう言うと爺はエスコートするように私の通る道を作ってくれ、共に応接間に向かった──



▷▷▷▷▷▷




(だ……ダッサ!!!!!)



応接間には既にお店の主人と従業員の、二人がせっせとたくさんのドレスを厚地の布のケースから出してくれていた。



その中で最も豪勢なドレスを二人がかりで持ち腕をプルプルさせながら主人は満面の笑顔で、従業員は重みからだろうか眉間に皺を寄せ懸命に耐えている様だった──



私は余りのダサさに──目を大きく開け、だらしなく口も半開きの状態に、仕立屋は感嘆してくれていると勘違いし、そうでしょうそうでしょうと満面の笑顔で何度も頷いていた。



「だっ……」



思わずダサいと言いかけて両手で口を塞ぐ───



私の一言でこのお店の人生の末路を決めるかもしれない──それくらいは自覚している。

何しろお兄が連絡した相手なのだ。

だがそんな思いを秘めているとは思わず、仕立屋は意気揚々に話を続ける



「ダイヤモンド!!その通りでございます!さすが公爵家ご令嬢ともなるとお目が高くいらっしゃいます。ふんだんに散りばめたダイヤモンドの豪勢さ! この輝きがお嬢様のお美しさには叶いませんが、輝かしきはこの通りご覧ください!」



満面の笑みの主人に比べて従業員はやれやれといった様子だ──



主人はダイヤの輝きを更によく見せようと、さっと窓から差し込む陽に一番大きな胸元のダイヤに光を反射させようとする──



(あ、それダメなやつ!目が~目が~のやつ!!)



パッと目を背ける前に爺がササッと出ていき、仕立屋を窘める。



「恐れながら、二人がかりで持つのにその様に重いドレスでは華奢なお嬢様が着こなす事は出来かねます。次をお願いします。」



ピシャリと言うと、確かにそうですね、と主人は残念そうに、従業員は満足そうに木箱へと直していく──



そして次から次へと出されるドレスは本当に全てがダサかった。



緞帳かよ、と思わせるような厚みのあるベルベットの布地を何重にも重ね合わせてできたエスカルゴデザインのドレスは裾から糸に宝石を絡めた謎の物体が裾にいくつも付いており、もはやドレスなのかさえも分からないもの──



サテン地のテロテロした軽そうなベアドレスに所々リボンが縫い付けられたプリンセスラインのドレスには…色んな大きさのリボンが全体に有りすぎてパッと見体中に湿疹があるような…そんな印象のドレス───



多色配色のカラフルなチュールドレスはもともとマーメイドラインだったのだろうがティアードさが重なりすぎたチュールは真横にバシッと向き、人に当たると切り傷を付けそうな物騒なドレスだ───



部屋いっぱいに提示されるドレスはお店にあるほとんどのドレスを持ってきてくれたのであろうか──そして申し訳ない事にどれも誉める箇所が見当たらない程、本当にダサかったのだ。



ふと夜会を思いだす…皆着ていたドレスはこれ程ダサかっただろうか…



如何せん公爵エリアに足を踏み入れていない為、今の貴族間のドレス事情はわからない。



思い出そうとも見てない物は分からないし、次いで言うなら可愛いと思ったドレスはどれも他国の物だったのだろうと、猛烈に納得した。



(そもそも…この国の貴族のドレスって古くから代わり映えせずにダサかったんだよね…)



お隣の2国は割りとカラフルでスッキリとしたラインのものが多かった。だが…残念な事にこの国はお洒落に関してはどちらかというと保守派だ──



だが、貴族令嬢は先程のような豪華絢爛であれば良いという思考の人が多く、ドレスの種類は色や石が変わるだけで、さほど代わり映えしない。



だが、今回の様な特別な夜会で他国に刺激を受けて、後に取り入れたりもするがやはり派手が一番という何とも格好の悪い風潮があった。



他国のドレスの方がよっぽどお洒落なのに…と、見せられたドレスにゲンナリする。



だが、身分が下がれば下がるほど、服装に関して自由度が増しそれに比例するが如くお洒落になるのもこの国の特徴であった。



かれこれ3年は下町に入り浸っているのだ。

町行く女子はショートパンツや膝上のスカートに肩を出したブラウス、ノースリーブのトップスに初めは肌の出しすぎに目を飛び出しかけたものの、機能的で適度に露出することで皆、美しさを保っている事に感動したものだ。



貴族社会ではありえない様相に自分も見よう見真似で始めた服装に当時はドキドキしていた。



今では安く買える服飾屋で見繕ったり、ビビにお願いしてデザインしたものを作ってもらったり、また仕事の服も4人お揃いの物を揃えたりと拘りが強い──



先日のドレスはシンプルかつ着れるものを急遽作ったものなのでお洒落さにこだわっていなかったが、普段の自分が着るとなると抵抗感が強かった



「ど、どれも素敵だと思うのだけど…私には似合わないと思いまして、他にもっとシンプルですっきりしたものはお持ちでないのかしら?」



あくまでも令嬢をやりきる



シンプルでございますね、と出されたものは真逆のものであったが、2着目に入ったものがあった。



濃紺に金糸が織り込んだノースリーブのAラインのロング丈ドレスは裾にかけて金色が強くなるグラデーションの様なタイプ──それと、同じくAラインの膝下より長めでアンクルが綺麗に見えるくらいの丈の少しゆったりとした淡い水色のレース編みドレスだ。



ここまで馬鹿派手な物ばかりなのに、割りと装飾が少なく、何でこの2着だけこんなにシンプルかつ可愛いのだ、と小首を傾げていた。

すると爺が私が見ていた2着のドレスをより見やすくするように広げて見せてくれる。

レース編みのドレスは繊細でいて、かといって1枚で着るには頼りなさそうな感じだった。



──うん!閃いた!!



「これと、これを頂くわ」



割りと声が大きかったのか2人とも同時にビクッと肩を震わせピタッと静止した。



すると、固まったまま顔をこちらに向けた主人が恐る恐る話し出す



「恐れながら、これらはベースドレスでございます。セミオーダーさせて頂くには…明日のご着用に間に合わないかと…」



言い終えると突如汗が吹き出し、 ジャケットのポケットからハンカチを取り出すと額から寂しくなった頭に目掛けて拭いあげている



「セミオーダー?」



「はい。こちらのドレスをベースにリボンや宝石などを縫い付けさせて頂く、ただのベースドレスでございます。本来、お客様とご一緒にデザインを考えさせて頂き、製作期間2ヶ月程で仕上げさせて頂くものなんです…あ、あの、もし良ければこちらに似たお形のドレスをお出し致しますが?」



主人は慌ててまだ開けてない厚手の布ケースを手に取ろうとしていたのをそっと手で制した



「いえ、装飾は付けずにこのままでいいわ!ちなみに、この2着のドレス、レース編みのドレスを上に重ねて付けるだけなら明日の着用に間に合うかしら?」



「───は?」



「丈が違うだけで形はほとんど同じに見えるし、レース編みのドレスの裏地をとって頂いて、重ねて縫い合わせて頂きたいのだけど…できる?もし明日に間に合いそうになければ、レースドレスの裏地を取ってもらうだけでもいいわ。重ねて着れれば問題ないもの。」



「それぐらいでしたら半日もあれば…で、ですが」


「あら、そう言ったオーダーは良くないのかしら…」



「いえ、滅相もありません!ただ、お貴族様方は派手なものをお好みになられる方が多いので少々驚いている、といいますか…」



「ふふふ…だってこの2着、とても素敵だと思わない?でもレース編みのドレスは1枚だと私には少し大きそうで私には着れないし…だから2着が一緒になるとレースの網目から金糸が見えて綺麗でしょうし、裾から綺麗な金色が映えるのもいいかな、なんて思ったの…駄目かしら?」



「いえ、仰せのままにさせて頂きます!しかし、倅のドレスをお選び頂けるなんて…」



「ご子息の方のドレス?」


「え、ええ。こちらにおります、倅が作ったドレスでございます」



そう言うと主人は初めに見せてくれたドレスをせっせと片付けていた従業員だと思っていた人に目を向けた───



「実は隣国ダナンに留学に行って帰ってきてからというものの、これからはシンプルなドレスの方が流行る、と形だけ豊富に装飾は控えめにと、何やら触発された様でして…ですが、この国では何年もの間派手さがなければ受け付けてもらえない風潮から、だったらこのセミオーダーという方法にしたら良いと納得させたのですが。男爵様、子爵様家にはお手頃の価格でドレスが作れるとご好評なのですが、やはりより高位のお貴族様となりますと…まだまだシンプルというのは難しく…」



言い終わるとまだ汗が引かないようで、今度は首元まで拭い出す──



部屋の温度が熱いのだろうか、とそっと爺に目をやり、手振りで窓を開けるように伝えた。



気持ちの良い風が部屋に流れる



たくさんのドレスはそれぞれの重みでビクともしない事にどんだけ重いんだよ、と思い爺と目を合わせて苦笑した。



柔らかな風が流れる中、はっきりとした声音で伝える。



「私は貴族らしい派手なものは苦手なの。あ、だけどくっ付けて欲しいなんて失礼かしら?もし不快にさせてしまったらごめんなさい。」



もちろん作り手にも矜持がある。それを無理やりしてもらうのは気が引けたので、伺う様にそっと見るとこれまで無言を貫いてきた子息が口を開く



「確かに、重ねた方がシンプルかつ華やかさも得て素敵だと思います。」



言葉少なげにドッキングさせる事に賛成の意を示したことにホッとする



「じゃあ、お願いしますね?」


「「畏まりました」」


2人が答えるとスッと前に爺がでる。



「それでは時間やお支払については私がお伺いします。片付けもございますので、お嬢様はお部屋へどうぞ。お茶の準備をさせております。」




来てくれた2人に挨拶をして応接間を後にした



勝負服は決まった──

後はどう立ち回るか…だがもともと出たとこ勝負タイプの自分は計画通りに動ける自信もなかったのでひとまず、お茶菓子何かなと考えながら自分の部屋に向かった──










ありがとうございました(..)

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