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シンデレラが唄う時  作者: 山本トマト
22/35

フラグの発音のアクセントは『グ』だと思います。


チュンチュン──



柔らかな明かりが部屋を包み込む中、小鳥のさえずりに目を覚ますと天蓋から延びるレースの布越しに懐かしい景色が広がっていた。



(そういえば──本館に戻って来てたんだった…)



ゆっくりと上体をお越し、両手を天井に向けてぐーっと伸びをする。



体が伸びると、よく眠れたお陰で体はスッキリとしていた。



コンコンコン───



控えめなノック音に「どうぞ」と声を掛ける



この音はきっと(じいや)だろうとぼんやりと考えていると、案の定入ってきたのは爺だった。


そのままコツコツと入室し、天蓋のレース越しに声を掛けてくる。



「おはようございます、お嬢様。良くお眠りになれましたか?」


「ええ、とっても!」


「それは良うございました。」



こちらが開けるより先に、爺が天蓋のレースをベッドの支柱に束ねていく。



お互いに微笑みながら何だか懐かしいなぁと思いつつ、気になる事を問いかける。



「爺、ビビは無事に戻ってきた??」


「ええ、お嬢様がお休みになられた後すぐに戻って参りました。先にジーン様に帰ったご報告をし、お嬢様が姿を変えられて夜会へ向かった事のあらましを改めてご報告させて頂いておりました。只今、お嬢様のご朝食を作っております。」



爺はいつも、こちらから問い返す様な事はさせない。

気になる事は全て簡潔に教えてくれる。



(じい)めも…ふっくらしたお嬢様を見とうございました。」


「あはは、ふっくらどころの騒ぎじゃなかったし、見ても良いものじゃなかったよ?」


「どの様なお姿でも…爺めにとってはお可愛らしい事にお変わりはございません。それにお嬢様は少しお痩せ過ぎではないかと、心配でございます。少しお太りになられる方が宜しいかと…話が逸れてしまいましたが、何よりどんなお姿でもミウ様はミウ様ですので…これまで色んなお嬢様を拝見して参りましたが…お太りになったお嬢様のお世話をさせて頂くのも、良い冥土の土産になるかと。」



「爺…死ぬの?」



「は?」



「し、死なないでね、爺!!」



「ホホホッ!その様な『()らぐ』の様な事を申した訳ではございません。ミウ様のお御子を抱くまでは、くたばりませんよ」



「『フラ()』ね、『フラ()』あ、ならあと70年くらい生きてもらわないとダメだよ…」



結婚する気なんて更々ないんです、ましては赤子を抱く予定もございません、と遠回しに宣言し、母直伝のフラグなるものを語り合いつつフフフ、ホホホと笑い合っていると、軽快なノックの音が聞こえた───



この音は…ビビだ!!!



カチャとドアが開いた瞬間、「ビビぃ~!!」と泣き叫ぶ様に声を上げベッドから出ようとする。



足にシーツが絡まり、転げ落ちそうになるところを爺がそっと支えてくれた。



「お嬢様!!!」

ビビも泣きそうな顔でさっと、こちらに駈けてくれる。


「ビビぃ!!ごめんね、ごめんね!!!!」


目の前で跪くビビをぎゅっと抱き締めると、優しく抱き締め返してくれる


「ミウ様が謝れる事など何一つございません。ご無事で何よりでございます。」


「ぅうう…1人で大丈夫だった!?危ない事はなかった!?」


「はい、何もございませんでしたよ?」


「良かった…」


「ですが、お嬢様…魔法が解けた際に、殿下に見られたと…ジーン様よりお聞き致しました。そ、その大丈夫でございましたか…?」



「そうなんだよ~!あんの()()()()()め!」



「「は?」」



「…え?」



策士、策に溺れる…ではなくお馬鹿、再びやらかすである。



「あ、あ、そ、そそそうじゃなくて、えっと殿下変わった方だったな~って…そう!そういう意味!!」



「「…はぁ」」


なんだ、この昨日から続くハモりスキルは、と脳内ツッコミしつつ、さすがにしばらくご令嬢から離れているとはいえ、殿方…ましてや殿下に風に靡く乳を見られたとは言えずにあたふたしながら、必死に誤魔化そうとしていると



『ぐぅううう』



なんて仕事が出来るお腹なんだ。



「クス…お嬢様、ダイニングに参りましょう。爺めがお運び致します。」


「え、ええ!!」



さっと爺が横抱きにして、ダイニングに向かってくれた。




▷▷▷▷▷▷



本館1階のメインダイニングには、既にサラダやフルーツなど、新鮮な冷たい料理がテーブルの上に用意されていた。



一番奥の席には本来いるはずの人間の変わりに…書類を片手に難しい顔をしたお兄が鎮座していた。


「お兄、おはよう」


「あぁ、ミウおはよう。足の具合はどうだ?」


「もう、ほとんど痛みがないよ!カボチャの魔法と爺の手当てのお陰で!」


「そうか、ならちゃんと自分で歩きなさい。爺も歳なんだから、あまり負担になる事はしないこと、いいね?」


「はーい…」


渋々納得すると、爺は私がしたくてしているのですよ、とお兄に進言する。

あまり甘やかさないでくれよ、と苦笑しながらもまだ爺の腕は私の特等席だと確信した。



そっと椅子に座らせてくれると、合図のように湯気を纏ったスープにキラキラ輝くフワフワのスクランブルエッグ、こんがりした焼き目のパンがでてくる。朝はあまり食べられない為、ワンプレートにちょこっとずつ載せてくれるのは完全に私仕様だ。



「美味しそう!!いただきます!」


「あぁ、頂こう」


「ん?お兄もしかして待っててくれたの?」


「あぁ、久しぶりだしな、一緒に食べるのも悪くないだろ?」


「うん!」


エヘヘと上機嫌に笑っていると使用人達の生温かい目に見守られていた。



いつも以上にたくさんパクつき朝食を楽しんでいると、お兄が不穏な話をしてきた。



「ミウ、登城の話なんだが…。予想以上に早くなりそうだ」


「そうなんだ。」


「おそらく…明後日になると思う」


「うぇ!?あ、明後日!?え、まだ幸福日真っ只中だよね?それに、確かお城には隣国の王族貴族が滞在中…だよね?」


あぁ、と一言バツが悪そうにお兄は頷く。


「え…もしかして私、そんな中で裁かれたりするの?」


「ああ、いや、そうじゃない…とは思う、だけどまぁ、心配しなくていい。」


何とも歯切れの悪い物言いに兄は夜にでもまた話そうとだけ言い、席を立つ。



美味しかった朝食も突然胸がいっぱいになりこれ以上は入らなくなった。



「これから所用で少し出かける、その間お前は明後日着ていくドレスを選んでおきなさい。仕立屋を呼んでおいたから、好きなのを選びなさい」


「分かった…」


私の返事を聞いて、行ってくると言うとダイニングを出ていく。



足音もなく爺が見送る為に付いて行くとその後を追うように数人の使用人が出ていった。



「お嬢様、大丈夫ですよ?」


「…ビビ」


ビビは優しく微笑みそっと背中をさすってくれる。


「ねぇ、ビビ。今年の法書持ってきてくれない?後で部屋で読みたい」


「畏まりました。」


(もし…罰金刑で済むなら、蓄えがあるし…払えない事はないだろう。うん、何とかなるハズだ!!)



そんな事を考えつつ…ズズズとミルクティーを啜っていた。




▷▷▷▷▷




「たっか!!!高っ!!!高過ぎるでしょうがぁぁああ!!!」



早速ビビが用意してくれた法書を読み込んでいると、法外な金額に思わず持っていた法書を目の前のクッションに投げつけた───



バフンとクッションに跳ね返り本の角が足の小指目掛けて落ちてきた




「っっっっつ!!!」




痛みに悶絶していると、お嬢様!!と半泣きのビビが背中をよしよししてくれる。



「本当に…申し訳ございません。私が確認を怠ったばかりに…」


「…っつ!ビビのせいじゃないから!!私が確認してないのが悪い」


「あ、あの…お嬢様、その法書には何と…?」


「あぁ、ビビもまだ読んでなかったのよね…」


コクンと頷くビビは申し訳なさそうに顔を俯かせ、目には涙を溜めている。


ありのまま読むと泣いちゃうんじゃ…と思っていたが変に嘘を吐いてもな…どうしようかと迷っていると、どうか、ありのままご教示くださいませ。と頭を下げられた。



(え、エスパーがここにも…)



爺といい、ビビといい何故皆私の考えていることを読めるんだ、と不思議に思いつつ、足の小指に遺憾なくダメージを負わせてきた武器…ならぬ法書を持ち上げ、化魔法禁止法が記されたページまで捲る────



『お互いが不承の上、男女が交際を目的もしくは商いで利益をもたらす為を理由に人数に関係なく、公的並びに私的の場において、容姿を著しく変化させ基の人物と芳しく一致しない事、それを第三者が基の人物と断定出来ないとした場合に罰則を設ける。また、了承であったにも関わらず不承であったと申し出る場合は身分を明かした上で、申告書に掲載する事とする。どちらも罰則は以下の通り───


()()()()()()()()()()()()()()5(),()0()0()0()()()()()支払うものとする。


未成年の場合は以下の通り─────』



いつも思う。著しくとか芳しくとか何だその曖昧な表現。



要するに、お見合いパーティーで「今日私、変化薬飲んでるから~その辺よろしくねぇ!」って相手に伝えずにお相手ゲットしたら犯罪ですよってことですね。


商いの場合は、「そんな綺麗なご婦人が使うなら間違いないわよねぇ~」なんていう事を防ぐためか…



更に「いや、俺薬使ったとか聞いてねーし!」を防ぐためにも騙されたと申告したいのであればあんたの個人情報を全部、記録に残すし誰でも読める申告書に掲載するけど、ホントにいいんだよね?っていう、覚悟を問われるやつですね…。




いやいや、そこまでするなら(バケ)魔法自体を禁止しろよ!!!



絶対あの『新男爵に侯爵ショック事件(勝手に命名した)』の後処理に辟易した役人達が八つ当たりで作ったとしか思えないんだけど。




ブツブツと1人文句を言ってると、ふと静かすぎるビビが気になって顔を上げた──



顔面蒼白な上に泡を吹いてるビビに私は思わず悲鳴をあげた────




あ、あのPVとかいうのを昨日初めて見まして←見方分からんかったので

思ってた以上にたくさんの方に読んで頂いてたと感動しまくりのトマトでございます。

本当に皆様、ありがとうございます。最後まで書き上げます(><)

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