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悲鳴を上げながら、ビューーーーーっと御者席に吸い込まれていく
もの凄い勢いだったが、ボフンとベッドに飛び込んだ様な柔らな感触に包まれる。
が、振動が足首に伝わり激痛が走る───!!
両手で右足首を包み込むように持ち悶絶した。
「ぅうう~~!!!」
ズキズキした痛みが落ち着いた頃辺りを見渡す──
見た目以上に広い中はもはや部屋だった。
モフモフのベッドサイズのソファーに床はフカフカのラグが敷かれており、全て橙色で出来ていた。
部屋の中央には柱のようなような物があり、その先には柔らかな光を灯す丸いランタンがあった。
音もなく吸い込まれた入口はドアを閉めると、フワフワと浮いていたのだろうドレスやらがバサバサッと床に落ちた。
次いでフッと身体が浮く様な感覚が一瞬あったがこの、部屋が動いているような気配は全くと言っていいほど感じない。
もしかして閉じ込められた!?と不安に思い、痛む右足を庇いつつ立ち上がり、ドアの横にあるカボチャ型の窓を覗く──
すると一面の星空が写し出されていた。
「綺麗…」
思わず口にすると後ろの方から声がした。
「貴女の方が綺麗ですよ~ウフフ…ふ、福眼でございます」
下衆い声が聞こえて振り返るも誰もいない。
そして、そういえば今、裸だった──先程、王子に胸を凝視された事も思い出しカッと身体が熱くなる。
落ちていたドレスを無造作に持ち上げ一心不乱に前を隠した。
「ゴホン!失礼致しました。この度はご乗車下さり、誠にありがとう存じます。お客様、今宵はどこまでお送りしましょうか?」
途端に低音の良い声のする方を探す──と、柔らかな灯りのランタンから聞こえてきたようだった
小首を傾げランタンを見上げると次いで話しかけられる
「う、麗しのお嬢様にその様に見つめられると…恐悦至極に存じます。このまま天にまで掛けて行きたい気分ではございますが…きちんと貴女様を送り届ける使命を遂行させて頂きたく思います。して、どちらまで参りましょう?」
やたらと丁寧に話しかけてくるランタンを見上げつつ、チャンコルが持たせてくれたオモチャがこんな凄い魔法具だったなんて…と、思わず感動していた。
そして実体のないそれにおずおずと「家までお願いします」と告げ、住所言わなきゃと思う暇もなく、畏まりました。と、返事が返ってきた。
人の心が読めるチャンコルが作った魔法具。行きたい場所など言わずとも分かるのだろう、と勝手に納得していた。
「…恐れながら、お客様。御御足をお怪我されているご様子ですね…今宵だけでもお痛みを感じさせない様に致しましょう。良き物をお見せいただいたお返しでございます…グフ」
低音で良い声も最後の一言で台無しである。
ランタンから柔らかい明かりがポンッと拳大くらいの大きさの光の玉が飛び出す──
するとヒュルヒュルとこちらに向かってくるとそのままに痛めた足首を包み込んだ
じんわりと暖かくなる──と同時にズキズキとしていた痛みが消えた
「!!!!」
痛くない!!確かめるようにその場でピョンピョン跳ねる──と
「ウォフッッつつ!!…ごほん。ここで一句失礼します。揺れている 2つの白玉 儚げに ヤワヤワしたい カボチャかな」
「……?」
何を言っているんだと、小首を傾げてじっと見つめる。
「…失礼、季語も風刺もございませんでした。」
斜め向こうの事を謝られ、まぁ怪我を治してくれたしまぁいいか…とスルーした。
窓ガラス額と鼻をくっ付け、食い入る様に眺める。
二度と見れる事などないだろうと、窓から一面の星空をじっと眺めていた。
どれくらい経ったのだろうか。手が届きそうなくらい近くにあった星達がだんだんと遠のいて行く気がする。
うっとりと眺めていた世界が90度反転している様な気がする──
いや、気ではない──確実に反転している。
さっきまで目前に広がっていた星空は今や左側に、右側にはいくつもの建物が見えだんだんと近付いてくる。
おかしなもので揺れも感じなければ、先程と同じように普通に立っているだけだ。
足元にはフカフカのラグの感触があるし、両手はバスタオルを巻くようにドレスを胸の前で握っている。
なのにどんどんと地上が迫ってきている事に目をパチパチとさせていると───
「大変ながらくお待たせを致しました、まもなく目的地でございます。この度は我々をお買い上げ下さり、誠にありがとうございました」
ランタンは丁寧にそう言うと俄然落下速度は上がっていく気がする。
体感ではなにも感じないのだが、視界がそれを教えてくれる。
「え!?え!?なに!?何なの!?」
暗闇に落ちていく視界が怖くなり、巻き付けたドレスに足を取られながら奥へ奥へと逃げ込む──もはやドレスを後ろ手に引っ張りながらフカフカの座面の奥の方に逃げ込んだ。
ペタンと内腿が突くように座るとふっと身体が軽くなった様な気がした。
何だ?と思う間もなく、灯りを灯していたランタンから光の粒子となり散布していく。
天井、壁に続き座っているはずの座面やフカフカのラグまでもタンポポの綿毛の様に風に靡いていて消えていく。
へ?と思わず口にすると自分がフワフワと浮いている
そのままゆっくりと着地すると、目の前には知った顔が目を点にしながら、口をアングリと開けていた。
ありがとうございました(..)




