子ブタが一匹
今日、奴が動くかもしれない────
半年以上前、不穏な報告が舞い込んできた。
3国の友好を揺るがし戦争をさせようというあくまでも噂の段階だった。
火のない所に煙は立たないし、これまで3国が独立して560年、共闘することはあってもお互いの国を侵略することはなく、王達も友好関係を築きあげてきた。
【友好関係】こそ、もとは1つの帝国を三分立させた最後の帝王アンドロイドの絶対命令だと言われているからだ。
次世代の王として、その友好のバトンは次へと渡していかなければならない──
そもそもそんな噂が出ること事態があってはならないのだ。
早急に解決するべく不穏分子を炙り出す策を内密に打ち出した。
そして遂に、当国の三大公爵の1人【カシャノール氏】に疑惑の念が浮上した。ズル賢い彼はなかなか尻尾は出さなかったが、奥方であるアイーヌに白羽の矢が立ち、気難しい彼女からなし崩していくという作戦を立てたが…
こちらから送り込んだ間者とは別に内通者がいる、という情報を得て、現場を押さえようと躍起になっていた。
────だが。
時は既に遅く、そもそもこの7年に一度の夜会に開催国の王太子が御自ら抜けるなどという荒業は駆使できず、時を視て抜け出したのも既に事が済んだ後のようだった────
(くそ、空振りか…。)
人気のない通路や隠し通路を使い気配を消し突き進む。
ここは、我が城だ。
誰にも分からずとも抜けれる道など把握している。
報告のあった所は全て確認したが、怪しい所は全くなかった。
諦めて、手洗いから戻ったフリをして広間に戻ろうとしたとき。
「───痛っ!!!」
悲鳴に近い声が聞こえた。
声のした部屋は、今立っている所の丁度隣の部屋のようだ。
思いも知らなかった声に一瞬、固まってしまったがすぐに我に返る。
声のした部屋のドアをそっと開けた。
「…誰かいるのか?」
いるのは分かっているが問いかけるのが定石だ。
そもそもどの間者もどんな痛みにも耐えるように訓練されているはず。
それを痛いなどと抜かす間抜けはいないはずだ。
と、なると考えられる可能性があるのは、何らかの計らいでネズミではなく猫が紛れ込んでいること。
色んな可能性を猛スピードで計算していく。
十分に警戒しながら部屋の中に入ると、僅かだが一番奥の窓際のデスクの向こうに───気配がある。
おろおろとしている様な怯えている様な…
といっても、あちらも気配を隠すのが上手いのか、こちらも魔感知のセンサーをフルにしたから気付けるレベルだ。
(これは…猫といわず豹かもしれないな。油断すればやられるか…?この国最強だと謳われる私が…)
帯剣はしていないが、いざ戦いになっても負ける気はしない。いつ飛びかかってきても対応出来る様に、隙を見せずに一歩一歩、気配のある方へ近付いて行く。
「…誰だ?この部屋にいるのは分かっている。何をしている?」
威嚇のつもりで問いかける。
徐々にではあるが、牽制をした事で、見えない気配は確実に大きくなっていく。
(何だ?動きそうな気配はしないな…書棚側からであれば確実にそれを見れるだろうが…一旦逆側から様子を窺うか──)
謎の気配と対峙する為の算段を練っていた時にあり得ない音が部屋に木霊する。
『ぐぅぅううう~~』
(…は?)
考えていた算段全て捨て、書棚側──デスクの裏側からがそれは一番見えやすい、そう思いそこに足早に向かった。
鎮座していたのはネズミでも猫でも豹でもない。
床に埋まって動けない───
子ブタだった。
ありがとうございました(..)




