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シンデレラが唄う時  作者: 山本トマト
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ネズミは白馬に、カボチャは御者席に、ドレスはシーツに、コルセットは甲冑に。


カチ…カチ…カチ…カチ…


ドッドッドッドッドッドッドッドッ……



握りしめた懐中時計の秒針が体に響く。明らかに秒針よりも早いペースで鼓動は脈っていた。

魔法が解けるまで()()1()()───

焦りからもう頭は真っ白だった。



「お…お願いですから、…で、出ていって…下さい!」



最後の嘆願を口にするも、王子は未だキラキラさせながらさながら王子様スマイルでニッコリと答える。



「何もしないから大丈夫だよ?」



───()()4()2()()



「お、お願いします!!」

「だーめ」

「一生のお願いだから!!」

「クス…今日初めて会う子に一生のお願いをされるとは思わなかったよ。」



こちらの気も知らないで王子は存外に愉しそうに見える。しかも先程よりもぐっと顔が近くなり、今はお互いの息がかかる距離だ。こんな状況下でなければ『王子様に口付けされるのでは…!!』と、ポッと頬を赤らめる所だろうが今は顔面蒼白な上、より青みが強い色をしているだろう。



───ヤバイヤバイヤバイヤバイ





秒針が()()1()0()()()のところまで、押し問答を繰り返す。最早不敬などという2文字も頭の片隅にもなかった。



「いいから早く出てってよ!」

「ふふ…いやだ」

「分からず屋!!」

「分からず屋って…」



───()()()()



もうダメだ、とそう思いぎゅっと目を瞑る。

人の事情もヘッタクレも知らない王子はこちらの反応を楽しむ様に声を掛けてくる。



「ひとまずそこから出て、あ、名前をまだ聞───」




ピカッ──────



強烈な光が2人を包む。



全身から真っ白い眩しすぎる光が発すると、ヒュルヒュルと全身についていた肉が細かい発光体となり空気に散乱していく。



魔法を掛けられていた本人でさえも、その光で目眩ましに合うほどで、想像以上の威力だ──

と、言ってもかなり眩しいが、その後しばらく目を瞑ればその後の視力に問題はないのは検証済みだった。



お試しでもらった薬を服用した時、あまりの眩しさに、魔法が解けた瞬間『目が~!目が~!』と、採寸してくれていたビビと2人でのたうち回った事がトラウマとなり、今回は早めに目を瞑ったことが僥倖したようだ。



目を瞑っていても光を感じるそれがようやく落ち着き、そっと目を開けると目の前で王子は光に反応したのか顔を背け手で目を覆っている。

「う…」と声をだしたかどうかくらいで、その姿すら格好がついている。



「…何をしたんだい?」



目を閉じ、手を覆った状態の王子の声には少し棘があった。

だが、その言葉に反応は返さず、慌てて右ポケット探る為に顔を下に向けた。



お尻がピッタリはまっていた床下も今では余裕があり、宙に浮いていた感覚もなくなった。そう、お尻が床下の底についているのでこれなら片足だけでも出られそうだ。右ポケットの入口に右手を指だけ突っ込んでいた事もあり、帰り道のお助けグッズ(魔法具)は楽々取れたが────ドレスとコルセットはサイズが違いすぎて最早意味を成していない。



布団のシーツを何枚も纏った様なドレスの中に甲冑サイズのコルセット、そして、その中のコンパクト空間に裸の自分が両手に玩具という、なんとも滑稽な姿であった。




(分かってはいたけど、は、裸─!!ええい!殿下はまだ目眩まし中!見られていない!!!これがどうなるのか分からないけど…もう、どうにでもなれーーー!!)



ゆったりとした動作で王子はこちらに顔を向ける。眉間に皺を寄せ、まだ目眩ましは継続中の様だが覆っていた手は、こちらに伸ばそうとしているところだった。それを避けるように大きな声でハッキリと呪文を唱える───



「一体君は──」

『ポンポンスッポンポン!』



何かを言い掛けたが、こちらの大声に王子の肩は一瞬ピクッとしただけで、冷静そのものだったが、伸ばそうとした手はピタッと止まる。



お互い静止した時間0コンマ何秒──



手の平に乗せていた玩具達はゆらゆらと蠢き、ボフンという音と共に白煙に包まれる




「え!?な、何!?何なの!?」




はっと周りを確認するも真っ白で何も見えなかったが蒸気の様にすぐ無煙化し、徐々に視界はクリアになっていく。右側に()()を感じたので目を凝らした。



『ヒヒ~ン!!ブルブルぅ~ンチュー』



語尾はネズミの名残なのか、猛々しい(ねずみ)の鳴き声に固まってしまった。



窓側を占拠する様に、ネズミは立派な白馬にカボチャはレトロで趣のある箱型の1人乗りの御者席に変わり、どうやったかは分からないがきちんと連結され馬車になっている。



それらは実体ではないのか、やや透けており、月明かりは馬車に邪魔をされず、こちらの裸体も部屋も変わらず照らしていた。



「…馬車?」



見た物を確認する様に呟き、そしてガガガガ…と馬車の扉がゆっくりと横にスライドして開いていく。



ズズズズ────と突風が巻き起こる様に部屋の空気が馬車に吸われていく。



綺麗にセットしていた髪も、周りに鎮座していただけのドレスも馬車に向かって少しずつ吸われていく──。



思い出したかの様に、あの人は今!?と、ハッと王子の方を見ると、これだけ風が巻き上がっているというのに前髪は風に靡かれサラサラと揺れているだけだった。既に彼は目眩ましが解けたようだったが、何故か石のように固まっていた。



予想だにしていなかった状況に、殿方の前で裸でいることもすっかり忘れ隠すこともなく、自分の胸が風に靡かれ、プルンプルンと左右に揺れる胸を瞬きすることもなくガッツリと舐めるように眺めていたのだ────




「きゃーーーーーー!!!!!!!」




吸い込む風は突然に強くなり、悲鳴と共に全て馬車に吸い込まれていく。



始めにスポン!!っと裸のまま、勢いよく馬車に吸い込まれ、その後を追う様にコルセット、ドレス、靴も順に吸い込まれていった。


速やかに全てを吸い込み、ヒヒン~チューと馬がいななくと、御者席を引き、そのまま窓をすり抜け、空に向かって駆けていった。



馬車が去り、残されたのは頬を赤らめ手を口に覆った王子とフローリングに刺さったガラスの靴だけであった。



ありがとうございました(..)

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