あと23分、されど23分。
───ヵタン
ドアを最大限、気を付けて閉める音がし、再び静寂が訪れる。
(の、乗り切った!!!!姐さん!私、大人の階段を上りました!!)
お尻はガッチリはまったまま、気持ちは謎の階段を駆け上がっていた。
秘技!我空気也を解除しハァと盛大に息を吐く。
(さて、今は何時だ…?)
ドレスをまさぐりポケットを確認する。奇跡的にも両ポケットはお腹の上あたりににあり、あの衝撃にも耐えた様でポケットから懐中時計をまさぐり取り、慌てて時間を確認する。
『11:37』
「オーマイゴッド!!」
(あと23分!…落ち着け!)
焦る気持ちをなんとか落ち着かせ、帰る手順を考える…が、はまったままのお尻をなんとか左右にグイグイと上げてみるもバッチリとパズルのピースの様にはまっていたびくともしない。
(…くそー!!あの変態共のせいで…!!)
痛めた右足に力が入らないのと、左足のヒールは相変わらず刺さったままだ。
プチパニックに再度陥りそうになる中で、ふとチャンコルの言葉を思い出した。
『帰り道に必要になるじゃろうて。薬を買うならこれも一緒に買うてくれんかの…?』
謎の玩具達!!
そういえば、と右ポケットを探った。
やたらと面積のあるドレスからポケット探すも、右のポケットの内部はお腹にあるものの、お尻が邪魔をしてポケット口に手が入らない。
何とかお尻を浮かそうとグッと持ち上げようと踏ん張ると───
「ッッ…痛い!!!」
予想以上に大きな声が出た。
ハッとして思わず口を手で覆う。暫くそのまま固まるも辺りは静寂なままだ。
こんな所にさすがに第2ラウンドは行われないだろう、とズキズキとする足首の痛みにも耐えつつホッと息を吐いたその時、カチャッとドアが開く音がした。
「…誰かいるのか?」
───低音の刺さる様な声が部屋に木霊する。
慌てて秘技!我空気也を発動しようにも、コツン…コツン…とゆっくり近づく足音に焦り出す。
「…誰だ?この部屋にいるのは分かっている。何をしている?」
近づいてくる声は威圧感があり、思わずひっ!っと声が出そうになるのを必死で耐える。テンプレのはまったお尻の床下がギシッ…などとならない様、秘技空気はまだ術として成していた────はずだった。
『ぐぅぅううう~~』
空気?何それ美味しいの?と、私のお腹は主張した。
瞬間、ピタッと空気が止まったかの様に再び静寂が訪れる。
──そういえば…空腹だった。
先程の情事も…もし、広間にいた時に何かをつまんでいたら盛大にリバースしていたであろう。
先程駆け上がっていた謎の階段は何処へ、今は地獄の底へと急降下する気分である。
コツン…コツン…
真っ直ぐに、少しずつ確実に先程より少し早いスピードで足音はこちらへと向かってくる。そして、カチンコチンに固まっていた私はもうダメだと、丸みのある拳と目をぎゅっと瞑った。
「───こんばんは。」
低音だが、穏やかな声を掛けられる。先程の刺すような、咎めるような声でないことに一瞬ホッとし、恐る恐る目を開けた。
茶系の革靴に、白色のスラックスが目に入る。月明かりに反射して、布地がキラキラと光って見えるのは銀糸が入っているからだろう。
チカチカする事もなく、降り積もった雪の様な綺麗な白色で、織られた布が高級品であることは一目瞭然だった。
──ゆっくりと視線をあげる。長い脚が履いているスラックスと同じ素材であろうジャケットは、軍服に似たデザインだ。
肩と首には金色の装飾が施され盛装だけで格好良さが滲み出ている。
そして更に視線を上げる───と、窓側の顔半分が月明かりにキラキラと光り輝き金髪碧眼の美丈夫とバッチリ目が合った。
「クスクス…こんな所で何をしているのかな?御令嬢。」
ネオタリス王国王太子
レオン=アルフォート・ラスウォルト・ル・タリス
まさかの王子様のご登場に思わず「げっ…」と令嬢らしからぬ声をあげたのだった。
ありがとうございました(..)




