『侍女は見た気がする』は巷ではベストセラーだそうです。
※下ネタ入りますので閲覧注意
「こちらですわ。」
「……」
カツン…コツンカツン…コツン
ギィィイ…カチャ
女の声と2種類の足の音が聞こえる。
少しばかり開かれていたドアはそーっと閉められ鍵がかかる音がした。
(…こ、これは…密談…?何にせよ、助けを求めるなら今しかない。でも、この状態を見られるのは流石に恥ずかしすぎる!!)
羞恥と床下の狭間で人生最大の選択を迫られる。
助けてもらうかどうするか、まだ決めかねている間にも2人がソファーに腰掛ける音が聞こえた。
「はぁ~ん!!お会いしたかった!!」
バサッという布が擦れる音がする。男は女をまぁまぁと宥め、再び立ち上がろうとしたのか女がそれを止める。
「大丈夫ですわ。先程入念に誰もいないか確認しましたの。この部屋には私達2人だけ…はぁ。寂しかったのよ!どれだけ貴方に触れたかったか」
観念したのか、またソファーの革が沈む音が聞こえ、今度はファサッと柔らかい布が揺れる音がした。
「…先週お会いしたばかりですよ。」
「あなたに会えない1週間、私には永遠の様に感じられましたわ…!」
「フフ…可愛らしいお人だ。…それで?今日という大事な日に私を誘うぐらいです。何もないという事はありませんよね…?」
「…勿論。とっておきがあるわ。で、でもダメよ!そんなに急かさないで!!まずはご褒美を頂かないと…」
「…時間は掛けれませんが。良いでしょう。」
男が良い放つとほぼ同時、チュパチュパと水分を含んだ柔らかいものを吸い上げる様な音が聞こえる。
そして、徐々にどちらのものとは分からない荒い鼻息がだんだん大きくなり、水音と一緒に聞こえてくる。
(…おいおいおいおい!まじか!!信じらんない!てか、ここ王城だし!こんな所で何やってんのよ!!)
まさかの密談ならぬ蜜談の遭遇。床下収納にみっちりハマりつつも予期せぬ展開に石の様に固まったまま全く動けなくなる。
何とか…何とか耐えるんだ!ここでバレたら色々と面倒が待ち受けている!!自分にそう叱咤激励し、私は空気、空気と暗示をかける。
「はぁ~ん!もっと、いつもの様に…」
「クスクス。私に急かすなと言っておきながら、貴女は私を急かすのですね。」
「だ、だって…」
「宜しいですよ。ただ、何もなくご褒美を与えるわけにはいかない。分かりますね?」
「あ…え、えぇ。実は3日前、我が屋敷にお客人が見えたの…」
ほぉ、と男が相槌を打つと、布の擦れる音は激しくなる。
ほして、女の喘ぐ吐息が次第に大きくなると共に先程とは違う種類の水音が聞こえだす。
「それで?その客人とは?」
「あっ、あっ!!マ、マザーグース商会の…ジダンだと、主人に…は聞かされていたのだけど、ぁあ!」
「ジダン?で、その男が何か?」
「っ、そ…それが、あの人には部屋に近づくなとい、言われたから…気になって…!」
「クスクス…気になって盗み聞きをしに行った訳ですね、いけないお人だ。ここもこんなにして…ほぉら、厭らしい音がこの部屋には響いてますよ??」
「ぁあん…そんなこと仰らないで…!」
「それで?貴女は一体何を聞いたのです?」
「そ、そ…そのダダンという男は…あの人にぐ、軍事機密の…ま、魔術刻印の…方式を3,000万ベルタで、売ると…最近、アトランタと名乗る男が本物の…術式記録を商会に持ち込んだ…と。うちの人が表紙の…裏には王印が…お、押されていると、とても興奮していた様子で…」
「………ほお。なるほど、それが私から褒美を求めるに値する仕事という訳ですね。想像していたものとは異なりましたがいいでしょう。ちゃんと…お望みのものをあげますね。」
(なんじゃ~この、空間は!!最近巷で話題の『侍女は見た気がする』の小説か!?ぅぅうぉおおえぇえ゛~~…は、吐きそう…てか何を聞かされてるんだ、私は!!こんな現場、アイル姐さんの話から色々聞かされてたけど!知識はあっても処女のあたしにはキツすぎる!てか、は、吐きたい…キモい…。)
カチャカチャと金具の音が聞こえる。女の荒い息が更に荒く、悶えるような吐息に変わる。
「ほら、ご褒美ですよ。しかしカシャノール公爵が興奮していたと仰いましたが…誰よりもこうなる事を予想して興奮していたのは貴女ではないのですか?」
「ん…ひゃグん、フグん」
「フフ…これ以上貴女の声を出さない為ですよ。それとも私が口を塞がなくとも、貴女は耐えられるのですか…?」
「はぁあ…!…だ、だめ!!レオ…フグん」
(ほぉ~。───身バレ乙。
カシャノール公爵か。うちの人って呼ぶってことは妻のアイーヌさんね。で、相手の男はレオ…?おそらく最後に口を抑えられたっぽいから、レオンとかレオナルドにレオノール…ありきたりだとレオーネルあたりかしら。高位貴族だと30人以上いる名前だけど…あの気難しいと有名なアイーヌさんとお突き合い…ゴホン、お付き合いする仲という事は伯爵位以上かしらね。となるとレオがつく名前は…7人ね。)
デスクの向こうは誰かしらゲームを1人黙々と行っていると、遂に情事もクライマックスを迎えているようだった。
「…で?カシャノール公爵は買われたのですか?」
「ぁあああ!!い、一旦保留と…でも返答の期限は確か明後日…だったはず!!!」
「なるほど…良くできました。では、そろそろイキますよ?」
(えぇえぇ、頼むからどこへでも行ってくれ!!!はぁぁぁあ…長かった。え、てかもう退散してくれるよね??これ、アイル姐さんの授業に基づくと、エンディングに差し掛かってるところよね!私もそろそろ右足とお尻があの世へ逝きそうですよ?いや、今の今まで痛みも忘れてたけども!)
濃厚な蜜談がようやく終わり、空気になりきるという重大ミッションを何とかやりきりつつ、いつしか受けたアイル姐さんの授業を思い出す。
そう、あれは確かお店をやり始めて間もない頃。徐々に変わった店があると話題になりつつある頃、お色気ムンムンの女の人が真っ昼間にお色気を最大限に振り撒きながら鍵を閉めているはずの店のドアを力の限り開けようとしている所を、お店の準備にやってきた私とビビが遭遇したのが運命の出逢いだ。
ドアノブを両手で握り、肘を伸ばし腰を曲げ、突き出したお尻を左右にプリプリと、ボインを上下にプルプルとフリながら、あられもない声をあげ『いれてぇぇえ~~!!お願ぁ~い!!』と、その突き出したお尻に意味があるのか分からなかったが、見事なエロ曲線美を描きつつ道行く人を悩殺させていたのは懐かしい思い出。
慌てて駆け寄り、速やかに鍵を開け、顔を真っ赤にしながら店に押し込む様にビビと2人で悩殺ボインを連れ込んだ。
ボインを宥め、話を聞くと愛酒館のマスターで、名をアイルと言い、最近は不景気で何か新しい事をして客を喜ばせたいと、エロ歌を作ってくれないかという、当時初めての作曲の依頼だったのだ。
報酬はそんなに出せないが代わりに男女の授業を…と他では聞くに聞けない話をマスター直々に教えてくれるという、顔面蒼白のビビを尻目に何とも興味をそそる案件に承諾した。
授業はまぁ、鼻血の止まらない大人の授業を先生自ら無駄にボインボインさせながらみっちりと教えてもらったお陰で、無駄に知識だけは豊富な処女が完成した。
これをきっかけに私は敬愛を込めて姐さんと呼ぶようになる。
(姐さん…私、きちんと授業受けてて良かったよ!!姐さんのお陰で空気になり耐える事が出来ました!!)
蜜談を終えた男女はウフフとオフフと何事もなかったかの様に部屋から出ていった。
次回…!!王子様登場の予感!




