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シンデレラが唄う時  作者: 山本トマト
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床下ジャストミート

(トイレで~♪足の親指を救って~♪親指だけと言わずつっま先まで~も~~♪)


呑気に脳内シンギングで足の痛みを誤魔化す。


通路に入ってとてとて歩くもトイレらしいものは見当たらなかった。


(う~ん…こっちだと思ったんだけどなぁ…。道において私の勘は当てにはならないな。よし、ひとまず歩くのも限界だし…それにさっきから誰とも会わないってことはハズレかな。一度引き返すか…。)


どこまで進んだのかすら分からない通路を反転しまたとてとてと歩く。


来る途中、通路に面していくつかのドアがあったので客室か何かなのだろう。特に気にすることもなかったが、広間から引き返すまでの丁度中間地点で、来たときには開いてなかったはずの扉が、1つだけ開いているのが目にはいった。




(───ん??ドアが開いてる…)




真横を通りすぎるあたりで、ふと気になり何となく中を覗いてみる。


(…真っ暗だな。人の気配はない…ってことは…!!)




チャンスではないか!!



ほんの少し…いいや一瞬で良い!靴を脱がせてもらえないだろうか。




恐る恐る覗いていたが、欲望と痛みの狭間で揺れに揺れていたが…遂に欲望が勝ってしまった。




(──お、お邪魔しまーす。)





ドアはもちろん同じくらいに開けたまま。その方がいざ誰かが来た時にさっと靴を履き「オホホ、広間に戻るのに迷いましたわ」などと言い訳ができるではないか、などと安直な事を考える。




そっと真っ暗な部屋に入るも、カーテンは開いたままで月明かりが綺麗に部屋の奥を照らしていた。



(客室…にしてはかなり広いわね。…応接室かしら?)



まじまじと明かりがかかる見えやすい方から観察する。



月明かりがギリギリかかる場所には重厚感のあるデスクがあった。光沢のある表面は月明かりに反射してキラキラしている。備えられている椅子は頭の方だけ見えていた。入口を見る方に位置付けられているのだろうという事が分かる。



暗闇に目が慣れたのか、ゆっくりと奥へ入っていく。するとすぐに向かい合う様に配置されたソファー、その間にローテーブルがあり、左手には書棚がある。


すぐそこのソファーに腰掛けても良かったのだが何となく、この部屋の書棚にはどんな本があるのか気になり気分的にはカツカツと、実際はガコ、ガコンとフローリングにヒールの音を鳴らしながら更に奥へと進んでいく。



手前の書棚はさすがに暗くて背表紙が見えなかったが、一番奥に配置された書棚はギリギリ何の本か分かる程度だった。



だが、そこで見たものはこれまでに一度読んだ事のある本ばかりで、さして惹き付けられる事はなく…そうなると思い出すは鈍い痛み。



(お、おう。足の救出のために入ってきたんだった…。)



今一度、入口の方を見るも誰かが来る気配はなかった。ゆっくりと一歩デスクのある方へ下がる。



ゴクリ…まずは右足。

そう思いほんの少し右足をお尻の方へ浮かせ右手で脱ぎとろうとした、その時…



ガコッ!!




「え?」




ゆっくりと視界は上へと移動する。足元で何かが起こった事は感じられたが、如何せんお腹の肉で足が見えない。



ただゆっくり移動しと写し出す世界は見たことのない天井だけである。



「はぇ?」




グキッ!!



ドスン…



「……!!!!」


声にならない程の激痛にもがこうにも体は動けない。いや、痛くて動けないのではなく文字通り動けないのである。



(は…はまった!!)



痛いのはお尻と右足首。

そして動かないのはお尻と左足。

痛みよりもまず今の自分の状況が分からない方が恐ろしかったのである。



(え?ま、まずなんで左足が動かないの!?と、とにかくどうなってるのか状況確認!!!)



三角座りに固定されたまま、まず左足を見る。太ももが見ちゃダメ~とも言いたげに邪魔をしていたが、グイグイ右へ右へと押しやりリンパマッサージの様に贅肉を追いやる。


ようやく、左足発見。



なんとヒールがフローリングの繋ぎ目部分を貫通して、床に突き刺さっていたのである。



道理で靴を脱がずとも足の親指の窮地は救われていたのかと感心してしまった。



うん、ペタンコ靴万歳。



更にヒールが床に刺さった事でバランスを崩し、右足で支えようとしたが敢えなく足首を玉砕。運悪く開いていた50cm程の床下に尻餅をつき、ジャストミート。



開いた床下と思われる蓋部分は健気にも背もたれとして有効活用されている。



「…状況確認なう。」



(バチがあたったわ…とにかく抜けよう。)


一瞬パニックにはなったが、後は冷静に。音を立てないようゆっくりとお尻を抜け出そうと試みようとしたとき、遠くの方から足音が聞こえてきた。





助けてもらうか…いや、流石に恥ずかしすぎる。ちょっと、やり過ごそうか、そんな事を考えているとキィとドアが更に開く音がした。




「こちらですわ。」






ありがとうございました(..)

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