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シンデレラが唄う時  作者: 山本トマト
11/35

御令嬢 ×30人=魔のサークル

「►▪▩◁◊○◁▨►◁◆▨▲●►◁◁!!」

(いかんどー!!これどんらは果物でね!野菜だっどで!!!)




 突然の大声に辺りは一瞬静まる。そしてヒソヒソと話し声が聞こえ出す。


 その声の主を中心に周りにいたマシュマロボーイズはサッと引いていき声の主の後ろ姿をこちらからも見ることが出来た。


 自分自身が思った以上の声を出した事で周りが引いたと恐縮したのか、今度はこちらには聞こえないが身振り手振りを付け、しきりに訴えている。始めに声を掛けた執事はその形相に恐れをなしまのか後退りした為、声の主は、ばっと振り返り給仕をする為に近くにいた執事に声を掛け続けている。



「………!!」

「…………!!」



 何かを必死に伝えようとしているが、この執事も言っている事が分からないのだろう、オロオロしている。周りの貴族達も『え?何事?ってか何語なのかしら??3ヶ国の中でもこのネオタリス語が共通語なんだから、分かる言葉で話すのが常識じゃない』と見てみぬふりをしながらヒソヒソと汚物でも見るような目付きで口々に言っている。



 隣国ダナンの田舎の方なのだろう。かなり鈍っていた為ダナン語を習得していたとしても聞き取りが難しいレベル。



 が、私は幼い頃からのありがた迷惑教育の賜物で聞き取りに成功していた。


 周りの貴族達の悪態に腹が立ち、さも自分達の国が常識であるとふんぞり返る彼らと一緒にいたくなくて、気付けば彼の方に歩き出していた。



 トコトコと足早に向かい、彼の後ろ近くに来たときには小声であったが話し声は聞こえてきた。



 今の私と 同じくらいの体型で、60代くらいの白髪混じりのウエーブがかった優しそうな顔をした男性。



 同じく白髪混じりの口ひげは毛先があがりクルンとカールしていた。

 顎髭はなく俯いていなくても二重顎の線がクッキリとして、丸みを帯びた顔はより優しさを増した雰囲気だが、今は必死の形相が窺える。



『そ、い、で、これどんは果物でねとさっけから言うとうとになどん分からんのだがゃ!?(だから、これは果物ではないとさっきから言っておるのに何故に分からんのだ!?)』

『どれが果物ではないのですか?』

 

執事の背後から現れた私に声を掛けられると、ほんの少し面を食らった顔をするその人は、すぐに顔を柔らかくさせ、助かったと小さく溜め息をつき、私に笑顔を向ける。



『…!!あぁ、ありがたっど!ようとにワッシの言葉が分かんどやっこに会うたどん!!(ああ、有難い!ようやくワシの言葉が分かる人に会えたわい!)』


 なかなかに訛りが強かったが、言っている言葉は聞き取れるので脳内で標準語に変換させながら事情を聞いていく。



『いや、実はこれなんだが…これは我が国ダナンの野菜なんだがフルーツとして出されていてな…これは見た目は少し大きめのいちごの様だが…。実は野菜で、そのまま食べると渋くてとても食べれんのじゃ。薄くスライスして、塩水に付け、サラダやスープに入れて食べると旨いんじゃよ。これは正しく食べれば旨いんだが見た目がこんなだから果物によく間違えられるんでな。生で食べりゃあまりの渋さに吐き出す人が多い。王族様の近くの飲食スペースに出されておるし、誤ってお召しにならない様、執事に伝えようとしたんじゃが…この方言は聞き取りが難しい様で。ワシも標準語に近づけるよう発音しておったんじゃが…普段田舎暮らしのワシが上手く喋れるはずもなく、それにネオタリス語も喋られんし…どないしようかと思っておったんじゃ。申し訳ないがこの事をそこにおる者に伝えてくれんか?』



『分かりました!ご親切に有り難うございます!』

 私はお爺さんに教えてもらった事を終始オロオロしていた執事に伝えると、ありがとうございました!と深々とお辞儀をし、血相を変えつつも優雅にスピーディーに回収を急ぐ。



 他の使用人にも耳に付けている通信道具の様なもので連絡したのであろう、執事やら給仕やらがワラワラと飲食スペースに集まり回収を急いでいた。


 その様子を見ながら、ふと疑問に思った事を老貴族に問いかけてみた。


『しかし、こんなにもそっくりなのに、よくお気付きになられましたね!貴方様にご指摘がなければ誰も分からずに口にしていたと思います』

『ハハハ!!そうであろうな!いや、ワシは隣国のダナンの農林水産の仕事を主にしておっての。この野菜ゴイチーの開発にも携わっておったんじゃ。なーに、この形に落ち着くまで何度も苦難があった。見違える事などせんよ』


 老貴族はそういうとうっとりと優しさに満ちた目をして、回収されつつあるゴイチーを見つめる。

 

(名前までそっくりにしたのはやっぱり、いちごを文字ったのかしら…)


『名前まで似ているところが可愛らしいですね』

『ハハハ!そうであろう!!この名前の由来はな、』




 ───♪──♪─♪♪─♪♪♪♪──────♪♪

『お久しぶりでございます、アルディ殿!』



 それはほぼ同時であった。

 突然、この老貴族に青年の声が掛かる、と時を同じくして後方からピアノの華麗な音が聞こえてくる。



 思わず綺麗な音の鳴る方へ目を向けると先程にはなかった大きな金色の、これまたピカピカのグランド・ピアノが目に入った。


目眩ましを喰らったかの様に目がくらみ、咄嗟に瞼をぎゅっと瞑る。そして次に目を開けた時には、辺り一面からワラワラと色取り取りのカラフル令嬢達が自分を中心として群がってきているではないか。



全員、目はまさに野獣のそれ。先程までフフフ、オホホと優雅に微笑んでいた令嬢達とは思えない、かつてない戦いが始まろうとしているのか、ギリギリ優雅ではあるが着実に成した円を小さくしながら四方八方から近付いてくる。



(ひっっ!…て、撤収!!!!)



 勇気を振り絞り円の外に出ようと一歩一歩着実に外に向かって歩いていく。本当言うと、こんなに凄まれては心の中では後退したかったが、後ろから間合いを詰められる恐怖を考えれば…勝機は前なり!!前進だ!と、脚を奮い立たせる。


 カツ…カツ……ガツンガツン…

  カツカツ…コツ…ゴツン…コツコツ…ガツン

  コツカツ……コツカツ…



 色んな人のヒール音と共にやっとの思いで魔のサークルから抜け出すことに成功した。


 すれ違う途中に『ちょっと!あなた!!何よ!!邪魔がすぎるわよ!ちょっと!ぶつからないでよ!重いじゃない!!』『いやよ!!足は踏まないで!』などという、小声の罵声が聞こえたがひとまず逃げるが勝ちだ、の思いで人を掻き分けようやくの思いで生還したのだ。


 

ひとまず、魔のサークルから出てきた事にホッと息を吐きふと何だったのかと振り返ると、先程の老貴族と声を掛けたであろう青年を中心に30人程いる令嬢が取り囲み、黄色い声が飛んでいた。


 蟻が飴に集るような様子にギョッとしたが、黄色い声を押さえ付ける様に先程の華麗なピアノの音が聞こえてくる。



 澄んだ様で力強く、心地よいそのメロディーに耳を傾けたくて、古巣のソファーを目指した。



 無事にソファーにたどり着き、ゆったりと腰を掛ける…も、ドサッ!と豪快な音と共にフカフカのそれに深く腰かけると、聞こえてくる綺麗な音に耳だけを集中させる。そして、ふと気付く。これが今宵のダンスの為の音楽であることに。老若男女が楽しそうに、それぞれの世界に入りダンスを楽しんでいる。パラパラと人が疎らであったが、気付けばたくさんの人で、広間はあっという間にダンスホールへと変わっていた。



 その様子を何の感情もない目で見ていた…が、実際はほとんどの神経を耳に使い、繊細な音をだすピアノの音に耳を傾けていたのだが顔は見事な仏頂面に仕上がっていた。そして、憩いの時間だと曲に聞き入っていたのだが……



(あぁ!何で!そこ編曲しちゃうの!!いや、そこは忠実に弾いてよ!ぁああ"~そこで次いっちゃうの~?いや、そこの音を削ったら…ほらぁ!最後の展開が霞んじゃうじゃない…!ぁあ、また原曲通りに弾いてない…ちょっとは作曲家達の想いを考えてよ!)



 弾かれていたのは踊りやすい円舞曲(ワルツ)ばかりで、しかも元の曲をかなり簡単にしたもの。

 音が抜群に良いからか、かなりの音を削って仕上げられていても聞き心地の良いものであったが、原曲を弾く者としては納得のいかないものばかりであった。

しかも、原曲を真面目に弾けば踊るダンスは難易度を増すからか、普段では演奏されないのであろう曲も続々とダンス仕様に編曲されていた。



 ダンスはメインイベントであったが為3時間近くあると、近くで談笑していたマダムから聞こえてきた。


 1曲が終わりそうになったらその次、また終わりそうになったら次、と終わりのない円舞曲(ワルツ)は1人の演奏者で行われているのは見事であったが、丸々2時間程聞いていてなんだか虚しくなってきた為、席を外そうと立ち上がる。


 夜会はあと2時間。丁度日付の変わる0時まで。

 11時頃に出れば不敬には当たらないので、あと1時間はトイレか控え室で過ごそうと心に決めて、まずはトイレだ!と、おもむろに後方へと歩きだす。


 10分ほど歩きようやく広間から出られる出口を見つけ、そこから繋がる通路に向かう。

 入ってきた所とは違う場所であったが、昔からトイレはこういうところにあるものだと相場を決めつけ奥へ奥へと進んでいった。



 ────────


 この選択がこれからの自分の運命を大きく変えることになるとは、この時は想像だにしなかった。





あと、少しで王子様登場…いや前フリ長いの好きやなぁー自分。

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