宿にて
私は深呼吸を一つすると勢いよくドアをあけた。
宿屋は1階が受付兼食事処になっているようで、騒がしかった。
喧噪の中をかきわけて、デニス達においつくと
「俺と相部屋だ。飯は、荷物をおいてすぐだ」
荷物と聞いて思い出したのがあの大きな猪であった。
緊張で忘れていたが猪はどこにも持っていなかった。
「猪はどこへ…」
杖を持った女性が唇に手をあてて持っているかばんをたたくと階段をあがっていった。
どうやら、俗にいうマジックバックなようなものがあるようであった。
部屋に入るとデニムが、ベッドに座っていた
「東のはてから来たことは人に言わないほうがいい」
と開口一番に私に向かって注意した。
理由を聞こうとする私をさえぎって
「ところで向こうではなにをしていたんだ」
「東のはてに住んでいたこと以外は曖昧で」
「記憶がないのか」
「はい」
「明日、手続きしたらわかるさ」
安心させるようにうなずくと、部屋からでていくデニスをおいかけた。
1階につくと、二人が待っていた。こちらに向かって杖の女性が手をふっていた。
二人がまっているテーブルへ小走りで行くと二人に向けてデニスが言った。
「明日、こいつを役所とギルドにつれていく」
二人がうなずきかえすと
「明日、ギルドのほうへ完了の手続きをしといてくれ」
これにもうなずきかえすと、並べられていた料理を食べ始めた。
私は少々戸惑いながらも、見様見真似で料理に手を付けた。
じゃがいもを蒸したものになにやらソースがかかっている。
それに、ポケットに入っていたものと同じ黒みがかかったパンが数枚。
肉片らしきものが浮かんでいるスープに、色とりどりのサラダがディナーであった。
私はそのときはじめて食欲に気づいたかのように、手を休めるところなく食べ始めた。
日本に比べると粗食だが貧乏学生であった私には食欲をあいまって、とても豪華に感じた。
「腹が減っていたのか」
とデニスがこちらを少し驚いたふうに見てパンを数枚よこしてくれた。
それに女性陣が少し笑いながら夕食はすぎ、床についた。




