Chapter12-10 伝えた願い、届かぬ願い。
Chapter12-10 伝えた願い、届かぬ願い。
冬花は枯れた声で五輪の守護神に説得を試みるも全く効果がない。それどころか足元で固まったコンクリートもあっさりと壊され、冬花を捕食しようと襲い掛かってきた。
「そんな・・・・やっぱり冬花のお父さんはもう元に戻れないの・・・!?そんなことって・・・」
蒼はとりあえず、非人道的兵器マキビシを五輪の守護神の足元にばらまいた。ひるんでいる隙に冬花を安全な場所、会場内の治療室に連れようとしたが、冬花はその場から離れようとしなかった。
「どうしたの?一旦体制を立て直そうよ?もうあなたのお父さんは元に戻らない・・・・・。これは現実なの。だから・・・・・」
「でも、うまく言えないけど諦めたくない。無駄でも非効率だとか言われてもいいよ。けどそう簡単に割り切って父さんを葬ることは・・・・やっぱり無理かも。」
「・・・。もうあれはあなたのお父さんじゃない。ならばいっそ一思いに殺して、醜悪に改造された肉体から魂を開放する。もうこれしか・・・・・あの人を救う方法はないのよ。それに私だってこういうの辛いから・・・・。」
「そりゃそうかもしれないけど・・・。」
「なーんかお悩みのようだけど?」
五輪の守護神の対処に迷っていた二人の目の前にメイアがいつの間にかそこにいた。
「え、ちょっとどうしてここに・・・?」
「話は大体わかった。それよりも冬花たそのパパ助けるよ!!」
「わかった!!ほら、冬花もう少しよ、あと少しの辛抱だから!!」
「でもさっき・・・殺して魂を開放するとかいってたけど・・・。」
「それはいわゆる最終手段!!とにかく今は選択肢が増えたって事!!」
「うん!それでこそあたい達って感じだね!」
メイアは二人に笑顔を見せた後両手から聖イワレルモの火をガスバーナーのように噴き出し、それを五輪の守護神に向けて発射した。
「あのー・・・そのカラフルな炎は一体何?」
「聖イワレルモの火だよ!!」
「せいいわれるも?」
「あー・・・うまく説明できないけどー・・・なんか浄化みたいな?ほら、プリキュアの必殺技あるあるみたいなヤツ」
「あー!!食らうとヘブン顔するアレか!?よし、なんかいける気がする!!」
冬花は一呼吸し、五輪の守護神の目の前で仁王立ちした。
「ねぇ聞こえる!!あたしのこと、分かる?冬花だよ!!あなたの娘だよ!!」
「ゥゥ?・・・・ヴヴぅ?」
「やっと気づいた?それならよかった・・・・!あのね、あたし今こんなに沢山友達ができたんだよ!!昔とは全然違うでしょ??」
「・・・?」
「覚えてない?小学3年のころ、とんでもないクソ教師のせいで人類という種そのものが嫌いになりすぎて心を完全に閉ざしてた。でも・・・・それでもあなたは・・・・あたしの笑顔を取り戻すために世間や教育機関に訴え続けて腐敗した教育関係者を懲らしめてくれた!!そんで爺ちゃんのとこの学校を紹介してもらったことは今のあたしの誇りだよ!!まぁ人間不信の部分は中々治らなくて中学卒業まで友達いなかったけど・・・。」
次の瞬間、五輪の守護神は口を大きく開けビームのエネルギーチャージをしてしまう。それでも冬花は諦めなかった。せっかくの家族の再会がこんな形になってしまったとはいえ、何も話せずに終わることなど彼女にとってはとても耐えがたい結末だ。
「でも今は蒼やメイア、ユリに霞之介が・・・・友達ができたんだよ。出会いは少しトリッキーかもしれないけど、とにかく!目を覚まして!それに現実世界に帰ったらその・・・・友達みんな連れてドバイなりハワイ旅行もしたいからさ!!!・・・・・とにかくお願い・・・・目を覚まして!!」
たどたどしく声を震えさせながら訴えるも五輪の守護神はほんの少しだけ動きは止まりつつあるが、相変わらず実の娘のことを認識できない様子だ。右腕を大きく振りかぶった瞬間、冬花はもう説得が通用しないと思い、逃げるでもなくただその場に立ち尽くす。
「冬花!?逃げて!!超逃げてェーーーーーー!!」
蒼は必死に叫んだものの、それを無視し、まるで全てを諦めたような感じのする虚しい笑顔を向けた。五輪の守護神の右拳が冬花の頭上僅か10ミリまで達した瞬間、パンチの軌道が大きく沿った。
「え・・・?何が起こったの?」
「まさに間一髪!!おれはしょうきにもどったぞ!!」
「ちゃんと喋ってる・・・・。え!?ほんとに・・・・?」
「ああ、本当の本当にだ。このまま目が覚めなかったら自覚しないうちに実の娘を殺してしまうところだったな・・・・・。ありがとうな、ずっと声をかけてくれて。それにしてもこの気色悪い身体のことは追々考えるとして、冬花。知らんうちにいい女になったな。父としてこれ程うれしいこたぁないな!」
「・・・・よかったぁ~~~!!もうダメかと思った!!!うぅ・・・・本当に色々つらかった~~~~!!」
冬花は五輪の守護神・・・否、父親が正気に戻ったことが言葉では言い表せないぐらいうれしく、大粒の涙を流しながら彼の足元に抱き着いた。その脚は金属のように固く冷たかったが、ほんの少しだけ父の温もりを感じていた。
「・・・しかし、この姿じゃあ町に出られんなぁ・・・・・。うーんどうしようかなコレ。」
「大丈夫だよ!絶対元に戻る方法あると思うから!ね、メイア?」
「えっ・・・・。あのね、聖イワレルモの火はなんか精神的な方面に作用するみたいで死者蘇生とか改造された肉体を戻すってのはその・・・・うん・・・無理ゲーっす・・・・・」
メイアは珍しく冷や汗を大量にかき、細々とした声で聖イワレルモの火の説明をした。その後申し訳なさそうに一礼して二人から距離をとった。
「治せないとなると仕方ないな。いやー参った参った!!」
「なんか、調子狂うな。でも・・・姿かたちが変わってしまったとはいえ、父さんにあえて本当に良かった。・・・・ん?なんか、飛んでるような音が聞こえるけど気のせいかな?」
「・・・・冬花!!避けろ!!!」
次の瞬間、五郎は冬花を突き飛ばしてしまう。
「いってぇ!!ちょっといきなり何なの・・・・・っ!?嘘でしょ?嘘だよね?なんなのこの有様は!」
そこにあったのは無残にもバラバラに砕け散った五郎の肉片と金属パーツ類、そして黒煙や小さな炎。恐らく、ミサイルから自分をかばった結果、こんな有様になったのだろう。いや、それしか考えられない。冬花はせっかくの家族の再会がこんなあっさりと砕かれたショックで膝から崩れ落ち、思考停止状態になる。
「冬花たそ!!アレ!!ねぇアレってば!!」
メイアが上空に指をさすとそこにはバッファ会長のホログラムが映し出されていた。
「貴様らのせいで開会式のプログラムは滅茶苦茶だ!!どうしてくれる!!だがまあいい。忌まわしき月宮五郎を消し炭にしただけでもマシとしよう。奴め、せっかくワタシ直々に”五輪の守護神”として新たな命を授けてやったにも関わらず、ここまで役に立たんとは!!最初っから聖火の燃料にしとけば良かったな。」
バッファの非倫理的な発言に会場全体のすべての人間が凍り付く。
「こうなってしまっては仕方ない。誰か、月宮冬花をとっ捕まえろ。もちろん選手もだ。開会式をやり直すぞ。そらはよ動かんか愚民ども!!」
「お前・・・・調子に乗るなよ・・・・なめざけんじゃねぇ!!オリンピックしたいがために多くの犠牲を出しやがって!!!お前だけは、お前だけはあああああ!!!全力で殺してやる・・・・・。文字通りに!!」
冬花はよろよろとゆっくり立ち上がり、バッファに睨み付けた。
「だが今、君は既にボロ雑巾そのものだ。せっかく最高級のドレスを用意してやったものをこんなに汚く扱いおって・・・・全く情けない!!それにどんなに攻撃しようがワタシは今、現実世界にいる。つまり君たちは虫かごの中の虫でしかないのだよ、ハハハハハ!!!」
「おのれバッファ!!ゆ゛る゛さ゛ん゛!! 」
冬花は両手を非常に強く握りしめ、人間とは思えない禍々しい雄叫びをあげ、右手を天に掲げると、全身からバグのような禍々しいエネルギーが吹き上がる。あっという間にそのエネルギーが空を覆いつくす。オリンピック会場のいたるところが不具合によって画像表示が崩れたかのように変貌していく。
「うわあああああなんだこのキモいのは!!」
「まるでバグったみたいだ!!」
最悪、人体に影響はないものの、会場は大パニック。霞之介は率先して観客や選手の避難誘導をした。
さらに、冬花から発生した禍々しいエネルギーは触手のような形へと変化しバッファのホログラムめがけて伸びていく。
「無駄た!!ワタシに攻撃が届くわけがない!!」
バッファが余裕こいて高笑いしたのもつかの間、現実世界では信じがたいことが起きていた。それはI〇Cの会長室を起点に連鎖的に発生した。
会長室にあるとても大きなパソコンのモニターから黒い触手のようなものが伸び、偉そうに傍観していたバッファを捕らえる。
「な、なんだこれは!?うぅ・・・離れん!!だ、誰か助けてくれぇぇぇぇ・・・・・うわあああああ!!!」
そしてバッファは情けない叫び声をあげながらモニターの中に引きずりこまれてしまう。さらに、I〇C本部の上空、そして周囲の土地で異常な現象がおきた。空間にはグリッチやモザイクのような歪みが発生したり、木が突然車を貫通した状態で生えたり、猫が電柱に埋まる、人々の挙動カクカクするなど・・・・・処理堕ちしたゲームのような不可思議な現象が連鎖的に起きていた。
そしてフェアリーコマンドオンラインの世界では、上空に謎の亀裂が発生した。そこからバッファが落っこちてきた。
「あ、なんか落っこちてきた」
「あ、ほんとだ。・・・・でも今の触手は私たちがこの世界に引きずり込まれた時に似たようなのがあったような・・・・?」
メイアは特に危機感は持ってなかったが蒼は冬花の持つ力に少しばかり恐怖を感じた。
「ば・・・馬鹿な・・・・・・!?おいサヨリはいないか!早く来い!!このワタシに力を!!」
「はいはい・・・まぁウチらの目的もまぁ達成できたし、まぁいいんじゃない?」
唐突にサヨリが現れた。ユリは彼女の足元に発砲した後、問い詰める
「サヨリちゃん・・・・いやサヨリ!!あなたの目的は一体なんですか!?」
「ユリちゃん。しばらく見ないうちになんかより人間に近い感じになったね。まぁ、少なくとも現実世界がバグり始めたことによって何かヤバいことが起こる予兆って覚えておいて。それに冬花はもう既に”大いなる混沌”の器として覚醒したよ。まだ完全じゃないのが心惜しいけどね。」
「それって・・・・どういう意味ですか!!」
「今日はここまで!まぁせっかくだからオマケにもう一つ。醜悪な欲望や悪意によって魂が穢れた人間っていいよね♪」
「はぁ?」
「SHOOT!!」
「グワーッ!?」
サヨリはユリに数発銃を撃った後、どこかに姿を消していった。
バッファの頭上にはリング状の肉塊に目玉がついたような謎の生命体がそこにいた。そしてその生命体はバッファの身体にまとわりついた。
「あ、あれは・・・・・香川革命のときに現れた変な生き物?何でここに・・・?てか合体している!?」
ユリは何か危険を察知しバッファに撃ちまくった。しかし全く効いておらず、ついには弾切れになってしまった。
「ふはははは・・・・調子に乗るのもここまでだ。これが・・・・ワタシの真の力だぁ!!!!!!!」
バッファは周囲に禍々しいオーラを放ちながら謎の生命体と融合を始めた。
「あ、あれは!?」
そこにいたのは真っ青な体に数珠つなぎのように繋がった目玉をネックレスのように身に着けた怪物がそこにいた。
「これはいい。力がみなぎる。ああ、これこそ神の祝福か!!主よ、神聖なるオリンピックを汚した悪魔どもにあなたに代わって天罰を今、くだしましょう!!」
「そのキモイビジュアルで言われても説得力が皆無といいますか・・・・・鏡見て言えとしか・・・。」
ユリは少し呆れながら手鏡を取り出し、バッファに向けた。」
「何?この神聖なる姿が悪魔だと??貴様、どこまで愚弄すれば気が済む!?」
逆上したバッファが目玉ネックレスの部分からビームを放った!!ユリはすかさずロックウォールをとなえた!しかし、岩の壁をあっさり貫通。しかもビームは心臓を貫通してしまう。
「ユリ!?ちょっとユリ!?・・・・嘘でしょ?父さんに続いて死ぬとか冗談やめてよ・・・・・!?」
「だ、大丈夫です・・・・わたしはあくまでも救世主プログラムの一つとして生まれた存在、つまり人間じゃない・・・・し、しばらく肉体やデータの修復に時間を費やせば・・・・元通りです・・・・それに、わたしたちが生まれた理由はもう一つあります。」
「フェアリーコマンドオンラインの世界に囚われた人々を開放するとかどうとか?」
「そうです。そしてもう一つが、いずれ現れるであろう、バグの力を操る程度の能力を持った者、聖イワレルモの火に選ばれしもの・・・・・この二人を見つけ、お供として支援することがわたしたち・・・・救世主プログラムの・・・・・やく・・・・め。」
ユリは機能停止したかのように眠りについた。
「その二人って・・・・あたしとメイアのこと?救世主ってそういうことなのかな・・・・よくわかんないけど、ならばよし!!」
冬花の涙は噓のように止まり、高笑いした。その後ユリは蒸発するように消えていった。
「あの・・・リアクションさ、それでいいの?なんかこう・・・・なんかあるんじゃない?」
「心臓ぶっ刺された割には結構しゃべるな~と思った。それにしばらく放っておきゃそのうち復活するでしょ。本人そういってるし。」
「えぇ・・・・冬花よ、それでいいのか??・・・って与太話している場合じゃないわ!!」
「き、貴様ら・・・・とことんコケにしおって・・・・・これでもくらえ!!」
バッファが手をかざすと冬花と蒼、ついでにメイアの顔の周りに水色のリングが現れた。そのリングは水の塊と化し冬花たちの顔全体を覆った。つまり窒息死させようとしているのだ!!
「ふはははは!!いいざまだもっと苦しむがいい!!」
「もごごごごごご!!!!」
3人は苦しむ最中、いち早く冬花が意識をなくし死にかける直前・・・その時、不思議なことが起こった!!
なんと冬花の目の前にサヨリの幻影が現れた。彼女は安らかな笑顔を見せた後、冬花たちの顔を覆っていた水の塊を一瞬で消し去り、さらに眼からビームを出し、それを冬花に照射した。
すると冬花が目を覚ました。
「え?サ・・・・ヨリなの?なんか雰囲気違くない?とても猫被って人騙したり、ウンコを顔面にぶちまけるような人には思えない・・・。え、どゆこと???」
サヨリの幻影は何かを話そうとしたがすぐ消えてしまった。蒼とメイアもこの意味不明な光景に困惑するばかりであった。しかし、スタミナ切れで疲れているバッファに気が付いた冬花がいち早く気づいた。その瞬間まるで何かスイッチが入ったかのように冬花の様子が変になる。
「・・・・コレヨリ処刑ヲ開始スル。」
冬花の左目が怪しく光り、更には話し方も大きく変わり、まるで機械音声のような無機質さと異様さに溢れている。処刑宣告後、バッファの後ろに空間の裂け目が発生した。
「な・・・何をするつもりだ!!!」
無言でバッファの首を片手でつかみ、空間の裂け目に投げ捨てた。その様はまさしく処刑人そのもので普段の冬花と同一人物とは思えない冷酷非情な顔を浮かべている。 二人はその異質かつ恐ろしい冬花の一面にドン引きしていた。
バッファを空間の裂け目にポイ捨てした直後、空間の裂け目は消え去った。司令塔であるバッファが消失したことにより、オリンピアン達の動きが急激に鈍くなった。オリンピアンと交戦した人々たちはこれを好機にドンドン反撃に向かう。そしてあっという間にオリンピアンの大部隊が全滅した。
開会式会場のほとんどがボロボロになったうえ、上空には幾多の空間の裂け目やバグのような怪しげなエネルギーの塊、一部の色が変になった地形など・・・・とてもオリンピックを再開できる空気ではなかった。こうして事実上リズミア五輪は開催は不可能となった。
戦いが終えて翌日、冬花は一人でボロボロになった開会式会場へと向かっていた。その手には白い花束を手にしている。その日の空はまるで魂を浄化するかのように美しい青空で広がっている。
「父さん・・・・・。」
とても悲しそうに黙祷を5分ぐらい続けた後、会場の中へと進み、父が自分をかばって死んでしまったあの場所に足を運んだ。地面が少しえぐれ、いまだに焼け焦げた臭いとあたり一面散らばる父の残骸。ようやく父に会えたと思ったら生体改造されるわ爆殺されるわという悲惨な出来事に”どうして自分がこんな目に合わなくちゃいけないんだ?”と言わんばかりのとてもやり場のない怒りと悲しみに震えながら花束をそっと置いた。その後振り返ると蒼とメイアがそこにいた。
しばらく沈黙が続く。とても話しかけることができる雰囲気ではなかったが、それでもやはり二人は冬花のことが心配で仕方がない様子を察した冬花は気を利かせて元気に話しかける。
「あ、来てたんだ!!I〇Cをぶっ壊したしユリの家にでも戻る?まぁ当の本人は今はいないけど・・・・。」
「そうじゃなくって・・・。本当に大丈夫なの??」
「?だから大丈夫だって!!」
「そう・・・・ならいいけど。それとI〇Cの職員とオリンピックの出場選手からこれをあなたに、って。ほらこれ。」
蒼は心配そうな顔をしながら手にした手紙を渡した。その手紙はいわば感謝状だ。バッファ会長を討ち取ったこと、そして今後のI〇Cとオリンピックのあり方、冬花の父を死なせてしまったことに関する贖罪・・・・といった内容だ。
「うまく言えないけど・・・・あたし決めた。父さんのためにも自分のためにも、世界の平和を守ろうって。いまだ現実世界に帰れる方法はわからないけど、それでも・・・。」
「・・・・。無理しなくていいのよ。ただ、そうね。少なくとも今私たちがやれることは現実世界に帰れる手段を見つけつつ、人々の困りごとを無理しない範囲で解決する。これでどうかしら?さすがに世界の平和を守るだなんて私たちには荷が重すぎるよ。気持ちはすごくわかるけどね。」
「確かにそうだね。・・・・ちょっとスッキリした。」
蒼は冬花の元気そうな様子に少し安心したが、冬花の力の暴走やその正体、なぜ危険な思想を持つ著名人及び権力者がこの世界にいるのか、そもそもどういう目的でこのゲームの中の世界に入れられたなど疑問は尽きない。
「りゅーちゃん?なんか顔色悪いよ?」
「ああ、ごめん。ちょっと考えこんでた。それよりも葬式の準備もしなくちゃね4。」
「ここはどこだ!?はやくここから出せ!!ワタシはオリンピックの会長だぞ!!おのれ月宮冬花・・・・・・・絶対に許さんぞ!!必ずここから出てやる・・・。そうしたら貴様の最後だぁ~・・・あははははははははははははははははははは~・・・・・」
一方、空間の裂け目にポイ捨てされたバッファがたどり着いたのは文字通り何もない真っ暗な謎の場所。いくら時間がたっても腹が減ることもなければ眠気も全くない。それどころか一体どこまでこの虚無の空間が広がっているのかすらわからない。唯一できることはただ惨めに叫び続けることのみ。時がたつにつれて心身ともにひどく疲労し、ついには許しを請うように泣き崩れるがその声は誰にも届くはずもない。
こうしていかなる手段をもってオリンピックの開催を強行したバッファ会長は永久にこの何もない空間で一人きりで妄想オリンピックをするしかないという末路となった。
いずれそう遠くない未来、市民や政治団体などからオリンピックのあり方に関しての抗議活動や議論が活発化してきて欲しいと冬花はそう思いながら虚ろな目で空を見上げていた。同時に、危険な思想や力を持った権力者から弱い立場の人々の自由と平和を守ることが父の思いを受け継ぐことなのかもしれないと断片的に感じながらその場を去った。




