Chapter12-9 虹色の聖火
開会式当日、それは冬花にとっては人生最後の日であった。コロナ禍でのオリンピックの開催を危険視し、専門家や議員、スポンサー企業と共に開催の中止を訴え、見事に東京オリンピックの開催を中止させた父”月宮五郎”はソレが仇となりバッファの怒りを買ってしまう。経緯も不明なまま怪物にされてしまう。一刻も早くこの世界から解放し再び家族と会いたいと密かに願っていた冬花にとってはもう何の気力も出ない。いっそこのまま死にたい。そう思いながらドレスに着替えていた。
朝8時いよいよ開会式が始まる。予行練習通りに蒼は紺色のシライ・トーワィ、ユリはマゼンタ色のメメィ・ディの着ぐるみの中に入りながらチャンスを伺った。クソ長ったらしい演説はまさに眠気との対決でもある。約8分程度演説が終わると冬花の処刑が始まる。十字架に縛り付けられた冬花が会場のど真ん中に運び込まれる。観客たちの困惑したどよめきが会場全体に響く。さらにバッファ会長のホログラムが上空に映し出された。しかも会場全体を覆いつくすぐらいの大きさだ。そして天気も赤黒い雲に覆われ、とても開会式にふさわしい天気ではなく、もはや禍々しさしかない。
「聞け!!この月宮冬花は父である五郎同様、この神聖なるオリンピックを侮辱し、そして我々の平和の祭典が今にも崩れ去ろうとしている!しかし、今ここでこの愚かなる悪魔をここで断罪してみよう!!そして永久に続く平和を築こうではないか!」
「ふざけるミ!この野郎!」
「おまいう」
「はいブーメラン乙wwwwww」
「大体強制的に連れてこられたこっちの身にもなれハゲ!!」
当然の如く観客からのブーイングや野次、クレームの声が殺到する。しかし次の瞬間、野次を飛ばした観客の一人に異変が起きた。突如、身体が高さ10mぐらいにフワーッ!!っと浮き上がり風船のように爆発四散した。それはまるで見せしめのように。
観客人々は悲鳴を上げ、開会式会場から一斉に逃げ出そうとする。しかし扉は全く開かない。さらに天からレーザーが降り注ぎ、女子供関係なく一人ずつ消し炭になった。
「何を怯えているかは知らんが、早く席につけ。さもないと一人一人、天罰を与えるぞ。」
観客の人々は諦めてバッファの脅迫通りに観客席に座った。
「ちょっとバッファ!!!お前・・・・・なんてことを!!!これのどこが平和の祭典だボケ!!!」
「よく聞こえんなぁ?お前の命もあとほんの僅か。まぁせいぜいそのちっぽけな命は開会式を盛り上げるために使え。」
「もうだめだぁ・・・おしまいだ・・・・。」
冬花はバッファの残虐非道な行為に怒りを燃やしたが結局何もできず、ただ傍観するしかなかった。そしてその怒りはあっという間に消えてしまいもぬけの殻と化している。しかしまだ諦めていない”勇者”たちがいた。
その二人がユリと蒼だ。彼女たちは着ぐるみをスタイリッシュに脱ぎ捨てた。
「ユリ、あなたは冬花の救出を!私はコイツを引き付ける。いくよ!!」
「はい、行きましょう!」
まず先に蒼が躍り出てバッファを挑発する。 さらに両手の中指を立てヘンテコなステップも繰り出す。
「おい!そこのクソハゲ!!お前どんだけ大人げないんだ?えぇ?見せしめに処刑しまくって・・・・・。はぁ、独裁者が主催のオリンピックとか、まぢ無理ぽ。」
「貴様ぁぁぁぁぁぁぁ!!」
バッファは激おこぷんぷん丸状態となり蒼に集中砲火をかます。蒼は可能な限り必要最低限の動きでスタミナを温存しつつバッファの攻撃をかわし、バッファの注意を引き付けた隙にユリが救出に向かう。しかし、突如として蹴り飛ばされた。
「ぐはぁ!!え?あれは・・・・・何?」
ユリの前に立ちはだかるソレは胸部の五輪マークがトレードマークな謎のロボット兵士の大軍隊。それも約500体も並んでいる。
「ゆけぇオリンピアン!!!奴らを殺せぇぇぇぇぇ!!」
「お、オリンピアン?なんですかそれは!?」
「そいつらは吉田沙保里の戦闘データを基に作り出した戦闘マシーン!!しかも一体につき吉田沙保里約3人分の戦闘能力を持っているのだ!!つまりお前らはクソ雑魚ナメクジでしかない!!」
「つ、つまり今は吉田沙保里1500人と戦っているような状態・・・・!ど、どうすれば・・・。」
「もはやワタシが直接手を下すまで手もない。さぁ貴様らの存在の愚かさをその身で知れ!げひゃひゃひゃひゃ!!」
バッファがゲスい笑いをしたあと、オリンピアンが一斉に二人に襲い掛かる!!
そして観客席では霞之介が呼びかける。
「無理にとは言いません!ただこのまま何もせず見てるだけでいいんですか!?このままバッファのクソ野郎の思う道理にさせていいんですか!?お願いします、どうか彼女たちに力をお貸しください!!」
すると大勢の人々が立ちあがった。
「全くだ!!このまま怯えるなんざ一生の恥だぜ!」
「この怒りや憎しみ、全部奴らにぶつけよう!!」
「それにこいつら見たところ獲得経験値多そうや。」
霞之介は深く礼をし、賛同者と共にユリと蒼のもとへ駆け付けた。
「そのオリンピアンどもは俺らが担当するからユリと蒼は冬花をよろしく!!」
「霞之介さん・・・・ここはお願いします!!」
ユリと蒼は霞之介たちにオリンピアン軍団の対処を代わってもらい、すぐさま冬花の救出へ向かう!途中オリンピアンの増援も現れたが、それでも一直線に冬花のもとへ向かう。しかしあと一歩のところで蒼の右足は撃ち抜かれてしまった。ユリはすぐさまロックウォールの魔法で岩石の壁で防いだ。更にマグネプレス(※磁力で万力のように押しつぶす魔法。金属の身体や装甲を纏っている相手に有効。)でオリンピアンを足止めする。オリンピアン達は磁力によって動かなくなったにも関わらず一歩ずつユリ達の方に向かってくる。
「は、はやく!!今のうちに!!・・・ここはこれ以上通しません!!」
「うん、わかったわ!!」
蒼は最後の力を振り絞り、十字架の鎖を切り裂き、冬花を開放した。それを確認したユリは磁力で足止めしたオリンピアンの群れを一か所に集め、さらに磁力エネルギーの塊を生成し、万力のように一気に押しつぶした。
「ハァ・・・・・・やっと終わりました‥‥」
「冬花?ねぇ大丈夫?ねぇ!!」
「うぅ・・・・ごめん、本当に…ありがとう・・・・。みんな!」
「ば・・・馬鹿な!?こ、こんなはずでは・・・!?」
余裕ぶって傍観したバッファはかなり焦っている様子だ。そしてすぐさま例のアレ、 五輪の守護神・・・即ち生体改造された冬花の父親を呼び出す準備をした。
天から降り注ぐ轟雷と共に”五輪の守護者”が現れた!!
肌は青白く、頭には電極のようなユニット、人の顔のような痣がたくさんついた右腕、ミミズ色の触手で束のように構成された左腕、バッタの足のような構造をした両足、背中には翼のようにも見える鋭利な突起物が生えたその姿のアイツだ。冬花は涙をこらえながら大声で訴えた。
「ねぇ聞こえる!!あたしのこと、分かる?冬花だよ!!あなたの娘だよ!!」
しかし 五輪の守護者は冬花の声に気づかず、殴り飛ばした。それもかなりの威力で近くにあったスポンサー企業ロゴが記載された壁に叩きつけられた。
「ま、まずい!動きだけでもとめないと!コンクリ遁の術!!」
蒼はどこからか取り出した生コンクリートを五輪の守護者”の足元にぶっかけ、動けなくした。その後、冬花のもとへ駆け寄った。
「だ・・・・大丈夫?骨までいってるような音聞こえたけど!?」
「大丈夫じゃないけど・・・・あたしがやらないと!」
冬花は血を吐きながらゆっくりと五輪の守護者に歩み寄る。そして何度も何度も数えきれないほど言葉をかけ続ける。しかし一向に様子は変わらない。それどころか眼からビームを撃ってきたりもする。
「無駄た!ソイツはもうお前の父親ですらない!!まぁこのまま両者ともくたばれば・・・・・オリンピックはますます盛り上がる!はっはっはっ!!」
「黙ってろよクズ」
蒼は全力でスリケンを投げるも相手はあくまでホログラムなので当然、すり抜けてしまう。
一方、メイアが入院しているリズミア五輪付属第一総合病院では、コロナウイルスΣ株の治療薬の投与が順調に進んでいる。メイアも治療薬のおかげでだいぶ正常に戻りつつあるが胸騒ぎがとまらなく、中々寝付けなかった。しかし、何の前触れもなく気を失い、まるで突然死のようにベットに倒れこんだ。
「ん・・・・ここは?アレ何してたんだっけ?てかここあたり一面真っ白じゃん!!ど、どゆこと?」
「今こそ我らの力を・・・。」
「ん!?え?なんか声聞こえたけど・・・・なにこれ・・・・」
メイアは気づくとそこはあたり一面が白い以外は何もない謎の世界だった。夢の中の世界にしてはあまりにも殺風景だ。しかしメイアに呼びかけるような声が聞こえる。恐る恐る声のする方に向かうとパールホワイトのテカテカしたローブを身にまとった10人程度の集団がいた。顔は黒いモヤがかかってよく見えなかったが、耳の部分はとても特徴的だった。それはメイアの耳と比較するとより鋭く細長い。(メイアの耳は人間の耳をほんの少し尖らせたような形。)その謎の集団の中にリーダー格っぽい人がメイアの目の前に近づいた。
「あの~呼びました?」
「その耳・・・。やはり僅かながら我らの血を引き継いでいたか。」
「どしたの?」
「いや、こちらの話だ。それよりも君には果たすべき義務・・・・、いや我らの願いを継承して貰いたい。これは我らの血を引き継いでいる君にしか頼めない事だ。」
「よくわかんないけど・・・・冬花たそたちを助けられる・・・・のかな?」
「君が望みさえすれば。しかし、今の地球はまさしく混沌そのものだ。我々としては実に嘆かわしい限りだ。そこでだ。我らが生み出した叡智の結晶、”聖イワレルモの火”を君に授けよう。」
「なにそれ?なんかかっこよさそう!!」
「その力はいわば心正しき者にしか扱えぬ聖なる力。かつて我々は様々な星々を渡り歩き、適合者に力を与え星々の均衡を保ってきた。そして、陽城メイア、君こそがその”聖イワレルモの火”の適合者だ。」
「なんか急にスケールが・・・・・てか星々の均衡とか急に言われても全然わかんないっピ・・・。」
「今はわからずとも、いずれ理解できる時が来るだろう。まずは君の親友のピンチを救うことが最優先であるはずだ。」
謎の集団のリーダーはメイアに一礼した後、全員一斉に両手を上げ、詠唱した。すると彼らの頭上には虹色の炎のようなエネルギーが生成された。そしてそのエネルギーはメイアを優しく包み込む。
「なんかすごい!!てかあたいの身体が燃えてるし・・・しかもレインボーだしゲーミングPCみたーい!!」
(長老、本当にあの子で大丈夫なんでしょうか?)
(確かに我らと同じく耳が尖ってる特徴はありますが・・・)
(そうだな。だが彼女には強い信念がある。自らの手で友を救いたい。それは星々の均衡を守るには余りにも小さいが、時として運命をも捻じ曲げる力となるだろう。それにただの勘だが、メイアは恐らく儂の私の遠い遠い子孫だ。きっと我らの使命を果たしてくれるだろう。)
「???なんかいった?」
「いや、こちらの話だ。では、頼んだぞ、未来の 聖イワレルモの火に選ばれしものよ。」
「あ、そうそう!!結局あなた達は誰?」
「かつて、超高度な科学技術と文明を持っていながらそのほとんどを争いのためだけに星々、いや宇宙そのものを荒らしまわっていた一族がいた。我々はその一族にして全ての罪を背負い、星々の均衡を守るべく設立された”聖火の盾”の・・・・」
「あれ?消えた?なんで?もしかして幽霊・・・・?」
まるで通信が切れたかのように謎の集団は消えていった。そして気がつくといつの間にか病院のベットの上にいた。その横には看護師が3人ほどメイアの様子を心配して駆け寄った。
「あの、突然倒れていたので・・・ご具合は大丈夫ですか?」
「ごめん!変な心配かけて!!」
メイアは慌てて頭を下げると右手から虹色の炎のようなエネルギーがあふれ出た。看護師たちはその様子に思わず声が出た。メイアは何か嫌な予感を察知し、急いでベットから飛び出した。
「それは・・・・その・・・・ハハハハハ・・・ごめんなさい!!」
(さっきのアレ夢だと思ってたらホントだったの!?いや~これどうしよう。最悪、ベットは燃えてないけど・・・。)
夢の中で出会った謎の集団により聖イワレルモの火を手にしたメイアはとりあえず、大きな音がする方角、即ち開会式会場に向かって駆けていく




