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chapter12-8 開会式前日

霞之介は冬花の父親を元に戻す手段を探すべく、五輪の塔の極秘研究室らしきところに潜入したものも、その方法が一切ない。それどころかバッファ会長に目をつけられ、今まさにこの場で殺されるか、焼き土下座かの選択を迫られている。しかし彼の決断はあまりにも早かった。どこぞの判断が遅いとビンタしてくるアノ天狗もビックリなほどだ。

 「焼き土下座で。」

 「・・・・・・え?判断早すぎね?まぁいいやホレ。」

 バッファは一瞬、戸惑ったがすぐにスイッチを入れた。霞之介の周辺に燃え上がっている炎はさらに大きくなり、彼の身体をあっという間に包みこみ激しく燃え上がった。さらに周囲の資料や研究資材にも引火し、部屋の一面が火の海と化した。しかし霞之介は余裕の表情である。実は彼は炎属性の攻撃を一定時間無効化する魔法スキル”スキンファイア”をこっそり使用したのだ。炎が彼の身体を包み込む瞬間、この魔法を使うことにより無傷でいられた。

 天井のスプリンクラーが作動し瞬く間に部屋じゅうの炎は消えたのを確認したあと、エレベーターに向かっていったが機能停止になっていた。仕方ないので、隣にある非常階段への扉を開けた。

 地下何階かは不明ではあるがかなり深いところにいるため、当然上へ上る階段も果てしなく高い。高層ビルの非常階段の約2~3倍はありそうな階段を見て一瞬凍り付くような嫌な気分になった。

 「いや、俺はクソゲー専門のEスポーツで数々の好成績を築いてきた・・・・・!!即ち作業もとい虚無ゲーに慣れているはずだ!こんな階段程度に屈する俺では・・・・・・ぬぅあああああああい!!!」

 霞之介は大声で気合を入れなおし、階段をひたすら上がっていく。全ては冬花に真実を伝えるために。たとえそれがどんなに非情かつ残酷な現実を突きつけることになろうとも、彼女は必ず立ち上がると信じて。


 翌日、ケガがだいぶ治り、リハビリを兼ねて蒼は散歩をしていた。そこにはオリンピックの反対運動を起こし、どこかへ連行されてる光景が数多く見かけた。感覚的に反対運動が活発化しているようにも見えたが、結局一人残らず連行されるオチは変わらない。蒼は憐れみつつも無事にいてほしいと願わずにいられなかった。しばらく歩いていると泣き崩れいる女の子がいた。

 「あ、あの・・・・大丈夫なの?親とはぐれたとか?」

 「パ、パパがね・・・・・死んじゃったの・・・・・!!」

 「え・・・・!?」

その女の子は蒼に抱き着き大声で泣いた。どうすればいいのか分らなかったので取り敢えず優しく撫で何とか落ち着かせた。


 「その・・・お母さんは?あと爺ちゃんとか婆ちゃんとかは?」

 「ママはいるけど・・・・・爺ちゃんと婆ちゃんはとっても遠い遠いところにいるよ。あ、でも時々ちょっとだけおでんわにでてくれるよ!」

 「お母さんがいるだけマシだよ・・・・いやごめん。マシだなんていっちゃ・・・・私も両親、交通事故で無くなったんだよね。」

 「おねぇちゃんそうなの?」

 「うん。今でも時々思い出してつらいのよ。あなたと同じぐらいの頃じゃ毎日のように泣いて遺品を抱きかかえてた事もしょっちゅうよ。」

 「ほんと?」

 「でも、夢のなかで両親はよくこういんだ。”この川の向こうに行くのはまだ早すぎる。あなたにはあっちの世界で生き続けてほしいって。”当然この意味わかんなくてさ、すごく泣きわめいた。けど、父さんはこう言ってたんだ。”人の世は非情で理不尽なものごとに溢れかえっている。けど、必ず君を支えてくれる人は少なくとも一人二人はいるはずだ。そして君はいずれ誰かを支えることができる立派な人になってくれ”ってお願いされて。」

 「???」

 「あーごめん、ちょっと難しかったかな?まー、とりあえずお母さんを大事にね!」

 「うん!」

 その女の子は涙を拭き、元気よく母親らしき人物のもとへ走り出した。蒼はそれを見送った後、ふと気づいた。あの女の子と冬花は似たような状況ではないかいう事に。そんな不謹慎なことを考えてしまい、大きくため息を付く。昼食の時間も近いのでいったん病院に戻ることにした。

 一方冬花はケガの方はだいぶ治ったそうだがなぜか色々あって病院内の子供と戯れていた様子だ。

 「え・・・何これオールひらがなで読みずらいんだけど・・・・マジ?読み聞かせって難しいな案外。」

 「いいからはやくよんでよー!!」

 「あーはいはい・・・・えーと、むかーでむかで・・・・あっ今のナシ・・・・やっぱオールひらがなよみずれぇ~!」

 ちょっと苦戦しながら絵本の読み聞かせをした後、病院内の中庭でかくれんぼで遊ぶことになった。

 「冬花姉ちゃん強いなー!!でも壁の中に埋まるのは反則じゃね?てかどうやんの?」

 「それはー企業秘密!あー・・・・でもさすがに壁の中に埋まるのはチートだよね~・・・・そんじゃあ第2ラウンドやるか!」

 「あ、冬花いたいた!てか何やってんの?」

 「うげ!あぁそれはそのですね・・・色々ありまして。」

 蒼の乱入によりかくれんぼは中断、そのまま中庭から連れ出され、廊下の端っこのところまで連行された。


 「・・・・・なるほど、つまり現実逃避であの子供たちと遊んでいたと。

 「うん。父さんのことで泣き崩れてロクに食事できてなかったんだけどね、突然子供たちに声をかけられてね。何故あたしに・・・何だろうと思ってたけど。」

 「そうなんだ。別に現実逃避自体はまだ悪くないけど・・・・これだけは知っておきたいことがあるんだけど。」

 「え?なになに新しいアニメとか?」

 (あぁ・・・・これはヤバいですね☆・・・・いやいや気を取り直さなくちゃ!) 

 蒼は気を取り直して冬花に真実を伝えた。

 「あなたを見つける途中に霞之介に出会って、話を聞いたわ。当の本人はかなり疲労してたみたいだけど。まぁ、結論から言うとあなたのお父さんは元に戻れない。」

 「は?」

 「さすがに理解するのは難しいよね。」

 「霞之介くんはどこなの!」

 「3階のレンタルシャワー室にいるとか。」

 「ていうかこの病院そんなのあるんだね。少し意外。そんじゃ!」

 冬花は瞬く間に3階のレンタルシャワー室に急行した。それも男性用だろうがお構いなしに駆け抜けていく。もし性別が逆だったらいろいろ危うい行為である。

 「霞之介ぇぇぇぇ説明しなさい全部!!」

 「いやぁぁぁぁん冬花さんのエッチ!!・・・・って何でここにいるの?いや歓迎するけど。つーかよくまぁ・・・・俺がここにいるってわかるな!どういうアレ?」

 「状況判断っす!・・・・・・・それよりも父さんが元に戻らないって本当なの!?」

 「あぁ、可能な限り調べてみたさ。けど、あれはもう手遅れとしか言いようがない。」

 霞之介は腰をブラブラ横に動かしながらこれまでの事を事細やかに説明した。しかし冬花は振り子のように揺れる砲身(意味深)のせいで全く話が入ってこない。そしてこんな珍妙な動きに何の意味があるのだろうと父親の事よりもそっちの方で頭がいっぱいだ。

 「あの、そのヘンテコなそれ何?すごく気が散るんだけど!?」

 「えぇ~?これ心筋代謝よくする運動なんだけどな~!しかも流行りの!!」

 「これじゃちんちん代謝だよ!!つーか今シリアスモードなんだからさぁ・・・・」

 「まぁ、そのどうするよ?正気に戻すことはまず無理だし、あんな姿になり果てたとはいえ君の父親だ。」

 「正直頭の整理がつかない。でも今のあたしにはこのバグパワーが不本意ながらこの身体に宿っている。だから・・・・・それで元に戻れたらいいなって。そんじゃ・・・・・。」

 そう決意し、去っていったが彼女の背中はどこか悲観的に見えた。色々と察した霞之介はため息をついた。

 冬花は男性用レンタルシャワー室を出た後、蒼に抱き着いた。それはまるでケガをした乳児が母親に抱き着くかのように。

 「ねぇ・・・・・・もうどうしたらいいのかわかんないよ!正直何もかも怖い!!そもそもなんで・・・大勢の人を殺してまであんなクソイベすんのよ!それにあたしの身体はどうなっていくの?アイツに出会ってしまったせいで・・・・・」

 「もうわかったから!その今は思いっきり泣いていいのよ・・・。あなたは強い子よ本当に。とりあえずあなたのベッドに戻りましょ。」


 そして夜7時あたり病院の食堂でユリ、冬花が集まった。蒼は何やら用事があるらしい。

 「やっぱりサヨリちゃんはあなたの特異体質に目をつけたという訳ですね。」

 「サヨリについてなんかわかんないの?」

 「まぁ、元となったゲームデータ上じゃあ・・・・選択ルートによっては筋金入りのサイコパスだったり、首つり自殺ルートだったり・・・・。たぶんあのサヨリはサイコパスモード時の性格ベースですね。だからあんな訳わかんないことやってると思いますね。」

 「あーそういえばそーいう感じのキャラだったな・・・。というかあなた達って基本的に見た目はギドギド美術部のキャラまんまで中身は原典とすこし違うというか元の性格に何かしらのアレンジされてる感あるような・・・・・。まぁその辺あまり考えない方がいいよね。」

 「まぁその辺はわたし達も全然把握できてないので・・・・それよりもお父さんのことですが大丈夫ですか?」

 「正直全然。でもうまく言えないけどあたしがやらないと。このバグパワーに全てをかけるしかない。正直この力が何なのかわかんないけど、それでもやらなきゃ・・・・だからお願い。」

 「何とかわたし達の力で止めなければなりませんね!!あとは治療薬の材料ですね。」

 「よ・・・・ようやく見つけたぞ!!冬花・・・・」

 「え?あたし?ってエルディンさん!?生きていたの・・・・!?」

 「あぁ、心配かけたな。今ちょうど治療薬の最後の材料をここの院長に届けに行ったところだ。」

 「え?マジ?じゃあスポイトランスいらない子だね・・・・・。」

 「君たちに迷惑をかけて本当にすまない。」

 「ちょっと待ってください!!コロナ治療薬って確かパズルの1ピースが欠けた状態じゃないですか?」

 「実はI〇Cの善良な職員達が協力してくれてね。その最後の1ピースを提供されたのだ。それにこの命も助けてもらった。んで、君は?」

 「あ、初めましてユリと申します。冬花さんの友達です。」

 「そうか。君も純粋な目をしている。なんだかかつていた私の息子によく似ているよ。」

 「・・・?」

 「いや失敬、それじゃこれで。それと君たちに授けたスポイトランスの強化パッチを渡しておく。いずれバッファとの戦いには少しは役に立つはずだ。」


 こうしてエルディンは強化パッチのデータが入ったUSBメモリを冬花に渡して去っていった。一方蒼は師匠と電話をしていた。

「冬花の件だけど、メールの通りです。」

 「わかった。それにしても今お前が使ってるスマホは確か現実世界と通話する際3分の制限あるわメールとかPDF送れねぇトンデモ仕様だときいたけど?」

 「実はちょっとずつ改造パッチみたいなのを作っていたのよ。共同で改造パッチ作ってるって話聞いてそれでテスト段階だけどインストールしたってわけ。」

 「しかし今の冬花は・・・・。これまで通りに彼女を守ってやっておくれ。彼女の存在はいずれ世界全体を左右するだろうし。」

 「勿論です。そっちはどうなの?」

 「相変わらずコロナウイルス騒ぎもあるが・・・・もう既に世界中でFCOが販売中止だっていうのに行方不明者も続出しているそうだ・・・・。」

 「それこじ付けじゃないですか?FCO関係なく行方不明になるって話はよくあるし・・・。」

 「そうだな・・・・少し考えすぎたようだ。では今日はこれで失礼する。」

 電話を切ると不安そうにため息をつきカレンダーを見るとあと一日でオリンピックの開催日だ。


 そして翌日、朝から大変なことが起きてしまった。蒼とユリが寝ている間に冬花がいないのだ。

 「しまった・・・・・寝てる間にさらわれてしまった!!あぁ、どうしよう!!」

 「お、落ち着いてください!!とりあえず聞き込み調査みたいなのさっきしました!」

 「え?」

 「それが・・・見当たらないようなんです。ましては深夜ですし・・・・」

 「でもバッファは恐らく開会式のノリで冬花を公開処刑しそうね。」

 「これが平和の祭典かぁ~~たまげたなぁ。・・・いやそんなのんきな事言ってる場合じゃないですね。」

 「とりあえず今思いつく限りの作戦はあのよくわかんないゆるキャラの中身になって冬花救出のチャンスを伺おうと・・・思ったけどもうとっくに中身決まってるよなぁ・・・・客席から突入するにも距離的に厳しそうだし。」

 蒼とユリはひたすらに頭を抱えて悩んていた。そこにたまたま一人のおっさんが通りすがった。


 「中身やってみたい?ごめんね、なんか話聞こえたもんだから。」

 「なんだこのおっさん!?・・・・いや、今なんて?」

 「オリンピックのマスコットの中身もしよかったらやってみない?こちらとしても若いのが入ってくれると助かるんすわ~~それに君たちなんか大変みたいだね?」

 「マジすか!?んじゃやります!!」


 こうしてマスコットキャラクターの中身をしているであろうおじさん(通称:マスおじ)に代わり、オリンピックのマスコットの中身をやることとなった。そして早速動き方の練習を始まった。蒼は紺色のシライ・トーワィ、ユリはマゼンタ色のメメィ・ディの中身となった。二人とも意外と呑み込みが早く、あっという間にマスコットにふさわしい可愛らしい立ち振る舞いをものとした。


 「おーやっぱり若い姉ちゃんが入ると違うねー!!俺じゃどうも背徳感とかがあってなかなかそんな可愛らしい動きはできんのよ~!」

 「確かに着ぐるみの中身がオッサンだったら普通にショックですもんね。仮に頭が外れても中身がわたしたちのような超絶美少女だとその辺のダメージないですもんね。」

 「自分で超絶美少女言うってどうかと思うけど・・・・・・とりあえずこれで潜入しやすくなる。あとは陸上やらサッカーやらやってるあのでっかいメインスタジアムでリハかー・・・・」

 ユリはなぜか自慢げにアピールし蒼はそれに少し呆れながらポカリを飲み、開会式の流れが記載された資料を見た。そこには”月宮冬花の処刑”というとても平和の祭典とは思えないえげつないワードがが入っていった。

 「おいおいおいおい・・・・えぇ~!?えげつな・・・。みんな見て!」

 二人もその物騒なワードを見て、思わず絶句した。

 「俺にできることぁショボいかもしれんけど何かあったら頼ってくれんか?ぶっちゃけ今のオリンピックは腐敗してる。昔はこんなのじゃなかったんだがねぇ。」

そして、一時間後、開会式の予行練習が開始された。やはり資料の通り、冬花の処刑もちゃんと入っていった。十字架に括り付けられた冬花を模したダッチワイフが開会式の会場のど真ん中に設置された。しかも顔に関しては比べること自体が冬花に対する名誉棄損といって良いぐらい酷いクオリティであったがやはり本番になると・・・・と考えるとただ胸糞悪いだけである。

 そう感じたのは蒼、ユリそしてマスおじだけでない他の関係者やスタッフもこの光景を目の前にして、ほぼ全員死んだ魚のような顔をしている始末。

 バッファの代役らしいおっさんが何かを読み上げた。その内容は東京オリンピックの中止を訴え、凍結に追い込んだ月宮五郎とその娘、冬花に対する侮辱が大半だ。その後、五輪マークの色の火がついた松明をダッチワイフに押し当て、赤・青・黄・緑・紫(黒の代わり)といった具合に

カラフルに燃え上がった。 不覚にも蒼はカッコよく見えてしまい、なんだか複雑な心境になった。


 予行練習が終わると二人はすぐさま冬花を救出するためひたすら特訓をした。いかに早く着ぐるみを脱ぎ捨て、頭の部分をぶん投げて、松明を持った集団を追い払うか、を追求した。


 一方、冬花は再び監禁されてしまった。部屋は比較的清潔ではあるがやはり居心地は良くない。

案の定、ケツワープ対策も完璧である模様。テレビもなければ窓の一つもない。あるのは安い弁当3食分と電子レンジ、トイレとシャワー室、そして明日の開会式の際に着せられるであろう純白のシルクドレスのみだ。

 「ほんと・・・・オリンピックってなんだっけ・・・・・・?」

 冬花は涙を流しながら大の字に寝そべって途方に暮れることしかできない。もはや彼女はただ理不尽な理由で処刑されるのだろうか?

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