chapter12-3 オリンピック狂信者
オリンピック会場の設営も中盤あたりになり、ほんの少しだけだが時間的余裕があった。それを活用し、オリンピック開催中止の抗議に参加した冬花たち。I〇Cの連中の居城ともいえる”五輪の塔”がその集合場所だ。”五輪の塔”は4階建てのビルと同じぐらいの高さであるが窓らしきものは一切見当たらない。しかし噂では、I〇Cの職員がここを出入りしている目撃情報が数多くみられるため、恐らくここに悪名高いバッファ会長もいるのかもしれないと抗議参加者の大半はそう思っている。ちなみに場所は東京の国立競技場に酷似した中央スタジアムから北東3キロにある。
冬花たちが五輪の塔に付いたころには既に沢山人が集まっており、プラカードや旗を持ちながらオリンピック開催の反対を訴える声が響いている。中には石やゴミを投げている者もいた。するとメイアは何かを察知した。
「な、なんか南西の方からやっばいオーラが漂ってくるんすけど。てかもうすっごい近くに!あぁ、もう来ちゃった・・・・」
冬花たち、そして抗議参加者の皆さんは振り返る。すると黒いローブに五輪マークのワッペンを身に着けている異様な集団が現れた。一瞬にして空気が凍てつくような緊張感が身体中にしみわたる。
「な、なんだチミたちは!?」
冬花が大きな声で問いかける。すると彼らは、オリンピック応援委員会通称”五輪の友”と名乗った。うまく言葉にできないがとてつもないきな臭さ、得体の知れない恐ろしい何かを冬花たち、そして抗議参加者の皆さんも感じていた。
「日本の選手も海外の選手も、さい高のパフォーマンスができるように、リズミア五輪を応援するぞ!」
「コロナ克服の希望となるから開催すべきだ! 競技にも世間の荒波とも闘う選手達を応援できないのか?」
「どうせなら楽しんで応援して喜びを分かち合いましょう!」
「一生に一度の母国開催だと思うよ。そこで日本選手が躍動、活躍し海外選手のすご技も見られる。最高じゃないか!だがそれもどこかの馬鹿どものせいで台無しになった。だからこそリズミア五輪を盛り上げよう!」
「君たちはしっかり感染対策して成功させようと思わないのかね?」
”五輪の友”の会員たちは突然リズミア五輪を応援するメッセージを大声で叫んだ。さらに彼らの目は死んだ魚のような目、もしくは正気や理性を失ったかのように目の輝きは全くない。即ち、こいつらは正気の沙汰じゃないのだ。
「いやいやいや!コロナウイルスΣ株はマジやべーから!今までのコロナウイルスがかわいく見えるぐらい感染パワー強いし、開催したら最後、人類滅亡ルートまっしぐらなんですけど!!!てかそこまでして開催する必要あるのかよ!?」
冬花はたまらず五輪の友の目の前に接近し、コロナウイルスΣ株の危険性を訴えた。しかし・・・
「コロナウイルスとオリンピックは関係ない。そこまで言うならガスマスク買えば?」
「うぅ・・・でもガスマスク、アレ嫌がらせレベルでなんちゃらポイント高くて全然買えないんすよ。今つけてる普通のマスクもぶっちゃけほっとんど意味ねーし。・・・・てか問題はそこじゃない。お前らさぁ、警戒心ってもんないの?馬鹿なの死ぬの?ねぇ!?」
冬花はたまらず一喝した。しばらく静まり返ったが突然五輪の友の連中どもは狂ったように笑い出した。眼も明らかに正気ではない。
「あはははは!!何度でも言おう。オリンピックと感染リスクは関係ない!!日本の感染状況など世界からみたら大したことないことは既に証明されている!それにこの世界は一応ゲームの中の世界だ!即ち現実世界への影響はない!ここでなら安心安全にオリンピックが開催できる。さぁみんなで祝おうじゃないか!それでも逆らうというのであれば・・・・・」
(いや、そもそももう既に死人めっちゃ出てると思うんですけど・・・・。)
「この場で死ね。そして貴様らの屍はオリンピックの聖火の燃料にしてあげよう。光栄に思うがいい!!」
冬花たちは呆れた顔で五輪の友のふざけた発言を聞き流そうとしたが、突然銃を向けられ宣戦布告した。そして容赦なく発砲してきた!! 急いで退避するも容赦なく抗議参加者たちは次々と撃たれた。こうしてオリンピックを中止する抗議活動は失敗に終わった。しかし、五輪の友の追撃は終わらない。1~2時間かけてようやく追撃から逃れることに成功したが、抗議参加者たちは見当たらない。おそらくは逃げている最中にバラけてしまったのだろう。冬花は抗議参加者たちの安否が気になってしょうがなかった。そして奴らの銃弾に撃たれた人々に黙とうをささげた。
「と、とりあえず・・・蒼、メイア、ユリはちゃんといるよね?」
「まぁみんな普通にいるけど・・・。それにしても五輪の友ヤバいわね。アレは完全にキチガイの集まりよ・・・。それにしても呆れたもんだわ。てかオリンピック選手に話聞いてみない?さすがにI〇Cの連中ほど腐った奴ではないみたいだし。」
蒼が気を遣って提案したが一つ問題があった。それはオリンピック選手の居住区及びトレーニング施設を兼ねている”選手村”のセキュリティが非常に硬いことだ。当然、選手に直接話すということは到底かなわない。少なくともオリンピック選手が競技エリアに来てもらわないと干渉の機会は訪れない。さらにボディーガードも同伴してる場合が多いので話すにも色々面倒くさいのだ。
しかし唯一の解決法がある。それは選手が競技会場の下見をすることがたまにあるらしい。場合によってはボディーガードもついてくるが基本的にはサインや記念写真撮影のサポート程度でそんなに警戒する必要はないと思われるが、黒スーツにグラサンという格好なので威圧感が強く、あまりフレンドリーな感じで接触しずらい。
つまりボディーガードもいないソロの状態でオリンピック選手に干渉して、リズミア五輪の危険性を伝える事が第一だとユリは提案した。
「それに冬花さん、確かお父さんは東京五輪の中止を訴えたんですよね確か。月宮五郎議員の娘だって名乗れば話を聞いてもらえるはずです!」
「うん、わかった!そんじゃあ探すね!」
冬花は大急ぎでオリンピック選手を話をするべく捜索し始めた。行き当たりばったりで勘のみを頼りにして2時間ちょっと探し求めた。
息を切らしながら偶然立ち寄ったサッカーの競技エリアに、たまたま下見に来ていたアレク・モーガン選手がそこにいた。まさにラッキーだ!
しかしボディーガード一人が冬花に対し何の用かと尋ねる。しかし彼女は英語がとても苦手なため、かなり苦戦した。
「this womanとspeak speak! プリーズ・・・NOオリンピック・ショメーイ・・・カモン!!」
ボディーガードは首をかしげたが冬花に気づいたアレクがこちらに近づいてきた。
「あ、あの・・・・japanese can speak? あれこういうんだっけ・・・?」
「あぁ、大丈夫ヨ、日本語得意ネ。」
「え、マジすか。あ、あたしは冬花です。東京オリンピック中止を訴えた月宮五郎議員の娘です。」
「あら、あの人の娘さん?ここで話すのもあれだし、スタッフルームいく?」
こうして二人はすルームに行き、リズミア五輪の件について話し合った。
「や・・・・やっぱり心のどこかで恨んでいますよね?東京五輪が中止された件について。まぁそのコロナの影響とはいえせっかくの晴れ舞台が水の泡になってしまったもんだから・・・・」
「まぁ恨みはないけど出られなくて悔しいという気持ちはあるヨ。それにもし本当に無理やり東京五輪をやっていたら今頃どうなっていたか・・・。それにもうすぐで1歳になる娘の安否とかI〇Cの対応とかいろいろ不安ネ。」
「あー、確かアイツら 乳児を入国させた場合、選手が選手村、乳児が別の宿泊施設で別々に過ごすとか酒類の提供とか・・・方針とかガバガバ過ぎですよね。」
「強制的に観客や選手たちをこんな訳の分からない世界に連行させておいて、必要最低限の安全を確保しないないなんてあまりにも・・・酷すぎるネ。」
二人はリズミア五輪の不信感について語り合った。そして冬花は父のことについてより深く知ろうと話題を変えた。
「それで父さんについてなんですけど~・・・・そのどんな感じですか?選手側から見て。」
「世界各国のオリンピック主鬱上予定の選手一人一人に声をかけてオリンピック開催についての意見を集めていたと聞いているネ。9割ぐらいはオリンピック開催の反対に署名していたし、なんかオリンピックに変わるオンラインで行えるスポーツイベントを計画していたみたい。実際ワタシもこんな危険なオリンピックより、オンラインスポーツイベントの方がよかった・・・・。それにとても誠実で温厚な感じの人だったヨ。」
「よかった・・・・。父さんはただ単にオリンピックを中止にするだけでなく代わりとなるイベントを計画していたんだ。」
「ほとんど知られていないけど、多くの選手や医療専門家から多くの支持を得ているみたい。まぁ結果的には東京オリンピックはストップし感染拡大を阻止できたわけなんだけど・・・・・まさかそれが今のこのデンジャーな状況に繋がるなんて・・・」
「もう一度あのクソ運営どもと話してみるつもりです。今度はあのぼったくり男爵の二つ名を持つバッファ会長と。多分アイツ聞く耳持たないとは思いますが、一応。」
「やっぱりゴロー議員に似ているわね。そこんとこ。わかったわ。他の選手にも声をかけるヨ!」
「え、本当ですか!?あ、ありがとうございます!!」
こうしてリズミア五輪を阻止し、コロナウイルスΣ株の感染を早期に防ぐための戦いが再び始まろうとした。何としても止めないと、なんやかんやでコロナウイルスΣ株が現実世界にまで感染ルートを広げ、あっという間に人類オワタ状態になりかねない!急げ、冬花!




