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 chapter11-1 暴走事故は誰のせい?

 ユリと蒼はグリモーアのユリの屋敷からちょっと離れたところにある商店街ケブクロームに買い物に出かかていた。ケブクロームはどことなく池袋に似た雰囲気が特徴的なことで知られている。

 のほほんと何事もなく歩いていたら救急車らしきマシンモルモーター・・・否、耳が長いように見えたので恐らくマシンモルモーターの亜種、ウサカーらしきものが通りかかった。蒼は思わずつられるように後をつけようとした。

 「え?どうしたんですか?」

 「ごめん、なんか気になっちゃって。てか救急ウサカーかわいいなぁ・・・撮りてぇ!」

 「あ、ちょっと!」


 こうして二人はウサカーを追うことにした。そして必然的に事故現場に遭遇した。ユリはその光景に驚いていたが蒼は救急ウサカーに夢中になってしまってる。

 後に判明したが、この事故は高齢者の運転するマシンモルモーターが暴走して交差点に進入し、歩行者・自転車らを次々にはね計11人を死傷(母子2人が死亡、同乗していた加害者の妻を含む9人が負傷)させたそうだ。そしてその高齢者は・・・上級国民で知られる飯塚幸一である!!

 彼は、どうやら現実世界において計量学を専門とする研究者で様々な功績を残したそうだが、そんな事はぶっちゃけどうでもいい。今この瞬間コイツはただの殺人鬼でしかないのだ。


 翌日以降、事故が起きた交差点では、黒く高級感あふれる毛並みのマシンモルモーターは包帯ぐるぐる巻きの姿で毎日毎日、大粒の涙を流しながらプイプイと弱弱しく泣き、大きなレタスを花束がわりに供養していた。その姿はあまりにも悲惨で痛々しく、見ているだけで心がえぐられそうである。 そこにたまたま通りかかった蒼はマシンモルモーターに寄り添い一緒に泣き、供養した。おそらくは何らかの変なスイッチが入ってしまったと思われる。

 「あなたは悪くない・・・!悪いのはあのクソ上級国民だから!」

 これがきっかけで蒼は事故が起こった交差点に毎日マシンモルモーターと共に供養しに来たという。ユリ達3人はそんな蒼を心配そうに遠くから眺めていた。なお、運転手は入院中らしく、退院後は裁判が行われる予定だ。

                   

 そして約3~4か月程度経過した後裁判が始まった。大勢の報道陣がグリモーア地方裁判所に駆け寄り、蒼たちもまた傍聴するため向かった。冬花とメイアはあまり乗り気じゃなかったが、ユリがいないことにメイアが真っ先に気づいた。

 「あれ?ちゃんユリいないけど・・・トイレ?」

 「トイレにしては長すぎるようなってあれは!?」

 蒼はスーツ姿で大量の資料を運んでいるユリらしき人物を見かけた。


 「おーーーいちゃんユリーーー!!何してんのー!?」

 「ちょ待てよ声デカすぎだっての!すみませんねぇ・・・人違いしてしまったもんで・・・。」

 「えーとみなさん・・・?え?来てたんすか・・・」


 ユリは顔を赤らめつつ自分が裁判員の仕事をしていたことを明かした。蒼とメイアは半分ぐらい分かってないような顔でうなづいたが冬花はそうではなかった。

 「あのーユリはさぁ元々救世主プログラムとかいうまぁこの惨状を何とかするためのデータの塊くんみたいな人が何で裁判員やってんの・・・?あ、別に否定してるわけではないけど・・・ねぇ?」

 「給料いいし試験に合格したものなので後はその場のノリと勢いで・・・後はご想像にお任せします。それじゃあ今は忙しいので!」

 「よーしわかった!考えるのはやめだ!」

 冬花はやけくそ気味に身支度を整えた。

 

 10分後、上級国民”飯塚幸一”の裁判が始まった。

  おおまかにまとめると事故当時、モルモーターは時速196キロまで加速していたとされる。

 おおまかにまとめると、グリモーア評議会(グリモーア周辺における警視庁のような機関)はブレーキとアクセルの踏み間違いが原因と結論付け、飯塚幸一氏が退院後2か月後に飯塚幸一をモルモーター運転処罰法違反(過失致死傷)容疑で書類送検・・・という流れだ。


 この事故により妻子をを失った卓也さんら遺族は、事故後”たとえこの世界が現実世界でなくても上級国民による事故の犠牲者を減らしたい”との思いから、交通事故をなくすための活動を続けている。 飯塚被告に厳罰を求める署名活動を始めると、飯塚氏が入院中の間に約39万筆が集まり、グリモーア評議会に提出した。公判には被害者参加制度を使って出廷するそうだ。



 この日は朝から20席の一般傍聴席に対し、414人の傍聴希望者が裁判所に集まった。飯塚被告は不自然なぐらいに公の場に姿を見せておらず、法廷で事故についてどう説明するのか、注目が集まっている。

 午前10時。スーツ姿の飯塚被告が車いすに座って入廷した。車いすは介護の男性が若干嫌そうな顔をしながら押しており、飯塚被告は視線を落としたまま背中を丸めている。裁判長の合図でいよいよ開廷する!


 「被告人は証言台の前に移動してもらえますか。」

男性が立ち上がり、飯塚被告の車いすを押す。飯塚被告はうつむいている。

 「名前をなんと...」

 「飯塚幸一です」


 緊張しているのか、飯塚被告は裁判長の言葉の途中で名前を答えた。人定質問が終わると、裁判長に促され、再び弁護側の席に戻った。次に検察官が起訴状を朗読する。8人の負傷者の中には、当時2歳の女児や90歳の高齢者もおり、この世界の回復魔法、しかも高位クラスのものでは治せないほどの重症を負ったものもいた。


うなづきながら聞く飯塚被告。その様子を、検察側の席に着いていた卓也さんが殺意や憎しみにあふれた眼差しでじっと見つめていた。

 

 「それでは、被告人は証言台の前に戻ってください」

 飯塚が車いすを押す。

 「起訴状に間違っているところはありますか」

 男性がしゃがんだ。飯塚被告の体を支えているようだ。飯塚被告が車いすから立ち上がり、発言する

 「はじめに、今回の事故により奥さまとお嬢さまを亡くされた松永さまとご親族さまに心からおわび申し上げます。最愛の2人を亡くされた悲しみとご心痛を思うと言葉がございません。深くおわび申し上げます」


 やや棒読みのトーンで呟き、飯塚被告は数秒間ぐらい拓也さんの方へ頭を下げた。


 「アクセルペダルを踏み続けたことはないと記憶しており、モルモーターに何らかの異常が起きたと思います。ただ、暴走を止められなかったことが悔やまれ、大変申し訳ありません」


 起訴内容を否認した飯塚被告。続けてワックスで固めたように髪型がツンツンテカテカしている弁護士”鳴海法洞”が意見を述べた。


 「アクセルペダルを踏み続けたことはなく、モルモーターの制御システムに何らかの突発的な異常が生じた可能性がある。従って飯塚さんに過失運転致死傷罪は成立しません」


 弁護人もモルモーターの異常を訴えた。今後、モルモーターの状態などについて審理が進むとみられる。飯塚被告は静かに証言台を離れた。その後検察官が事故当時の状況をまとめた。


 「元気モリモリご飯パワー2年5月19日午後0時10分頃、(飯塚被告は)グリモーア商業区のレストランで食事をするためモルモーターを運転し、妻を助手席に乗せてグリモーア商業区内の自宅を出発しました」


 検察官によると、飯塚被告の車は事故直前、時速196キロで進行中に車線変更を繰り返すと、ブレーキペダルと間違えてアクセルペダルを踏み続けたという。


 飯塚被告のモルモーターは100キロまで加速し、横断歩道上の自転車と衝突した。さらに時速196キロまで加速し、交差点入り口の横断歩道で真理子ちゃん(卓也さんの娘)を幼児座席に乗せた松永さん(卓也さんの妻)のママチャリに衝突。2人を跳ね飛ばし、その後も貨物モルモーターに衝突して横転させるなどして、松永さんと真理子ちゃんを死亡させ、歩行者ら8人と、同乗の妻にけがをさせたという。


 事故当時を思い出しているのだろうか、それとも何も考えてないのか飯塚被告は車いすに深く腰掛け、じっと一点を見据えている。一方、拓也さんは真剣な表情で検察官の話に聞き入り、時折メモを取っている。次に、検察官は飯塚被告のモルモーターについて説明した


 検察官「飯塚被告は事故を起こしたモルモーターを一か月前に新車購入しました」


 新車なので、その際はアクセルなどに異常は確認されなかった。また、飯塚被告のモルモーターは人工知能などに異常が発生した場合は加速できない仕組みになっているが、事故当日に異常が起きた記録はなく、また、ブレーキペダルを踏み込んだ記録もなかったという

 また、後続の運転手や通行人の証言では事故当時、飯塚被告のモルモーターのブレーキランプは一度も点灯しなかったという(お尻の部分が光るぞ!)


 事実関係を一通り述べた後、検察官が証拠の説明を始めた。検察官が、負傷した被害者の供述調書などを次々と読み上げていく。事故が起きたのは昼食時。昼食に向かう途中や、仲間と昼食を取った後、事故に巻き込まれた被害者もいたという。


 「鉄板が飛んできたように見え、右足に激痛が走りました。現在も足のしびれがなくならず、生活に大きな支障をきたしています」


 後遺症を訴える被害者もいた。『厳重な処罰を希望しています』『厳しい処罰が当然だと思います』。松永さんと真理子ちゃんという尊い2人の命を奪い、8人もの歩行者らを巻き込んだ凄惨な事故。けがをした被害者らの飯塚被告への処罰感情や非難は、一様に厳しいものだった。

 そして調査の結果、ハンドルやブレーキ、アクセルに異常がなく(厳密にはメンタルのような思考システムなどは非常に不安定)、帰り道に飯塚被告が運転した際も異常がなかったことも明かされた。検察官により、飯塚被告のモルモーターに異常がなかったとする数々の証拠が示された格好となった。


検察官は事故で亡くなった松酒井真菜まな=当時(31)=と長女の真理子まりこの遺族、拓也さんの供述調書を抜粋して読み上げた。

 「拓也さんは、プロポーズをしたとき、うれし泣きをした真菜さんを見て、『一生をかけて幸せにしよう』と心に誓ったという。そして2人は結婚し、莉子ちゃんが誕生する。拓也さんは「人の命は何て尊みたかいのか。愛する人と授かった大切なこの子を、私の全てをかけて守ろう』と決意したという。

 こうして彼は育児日誌をつけ、真理子ちゃんの成長を記録していた。春は桜を見に行った。夏はコミケやワンフェス、秋は紅葉を見に、冬は雪まつりに出かけた。家族で四季を感じ、《幸せな生活》だったと振り返る拓也さん。 特にかまくらに入ったときのかわいらしい顔が見たくて、雪まつりに連れて行ってあげたいけれど、もうできません。ましては家族3人で現実世界に帰ることすらも。《フェアリーコマンドオンラインの世界での生活に慣れ、ここの世界にも保育園や幼稚園があるか探してみよう》今にしてみればそれが最後の会話になるとは夢にも思いませんでした。

 その後、グリモーア評議会が有する騎士団、通称”グリモナイツ”(要は警察っぽい感じの人たち)から電話があり、拓也さんは急いで電車で病院に向かった。病院には変わり果てた2人の姿があった。美しかった真菜は傷だらけでした。真理子は『見ないほうが良い』と言われました。どれだけ痛く、どれだけ無念だったかと思うと、涙が止まりませんでした。莉子の遺体はあまりに損傷がひどく、修復に数日かかると言われました。一人にしたらかわいそうだと思い、修復の依頼はしませんでした。こうして拓也さんは火葬までの間を振り返った。拓也さんは2人の遺体の間に横たわり、手をつないだという。やはり、2人の手は冷たく硬く、握り返してくることはありませんでした。


 拓也さんは2人に話しかけ続け、真理子ちゃんが好きだった絵本を読み聞かせた。真理子ちゃんには『真理子、大好きだよ。お母さんと手をつないで離さないで』と、真菜さんには『真理子を天国に連れて行ってあげて』と伝えた」


 どんよりと静まり返る廷内。真菜さんの関係者とみられる男性はハンカチを取り出し、目頭を押さえた。そして検察官破棄を取り直して読み上げた。


 これだけの大きな交通事故を起こして、高齢だからと軽い罪で終わられたくはない。飯塚被告には何としてもその残り少ない生涯をすべて罪を償うことに費やしてもらいたい。


 飯塚被告は車いすに深く腰掛け、鼻をほじりながらだるそうに聞いていた。


 その後、検察官は被害者の関連人物の供述調書を次々と読み上げた。


続いて検察側は、飯塚被告のモルモーターに搭載されていたドライブレコーダーの事故当日の映像を、裁判官と被告人の前に設置されたモニターに流した。飯塚被告が自宅の駐車場を出た場面から、事故までの映像だ。

飯塚被告は車いすを移動し、弁護側の前にあるモニターの前でイヤホンを付けた。

映像は省略されており、3分ほどで終了した。その間、飯塚被告はじっと映像を見ていた


 初公判はこれで閉廷。飯塚被告は弁護人に車いすを押され、退廷した。次回、12月3日に開かれる第2回公判では、飯塚被告の後続にいたモルモーターの運転手などの証言について審理される予定だ。


 傍聴し終わった冬花たちは気持ちがどんよりと疲労困憊しており、さっさとユリの屋敷に戻ろうとした。しかし蒼がいない。どういうことだろうか。


 ユリと蒼は控室の隅っこで重大な話をしている。


 「わたしの感ですけど裁判長と飯塚被告は賄賂とかそういった感じのやつやってそうなので秘密裏に調査してもらえません?だってほらリアルガチでニンジャでしょ?」

 「まぁそうだけど・・・これは探偵の仕事な気がするけどわかったよ。なんかこう悪即斬ってできないもんかしら・・・。昔と変わらないね本当に。」

 「え?過去に何かあったんですか?」

 「あぁユリには話してなかったねこのこと。私さ、幼稚園っつーか5,6歳の時にディ〇ニーランドに連れてってもらったんだ。あんときは楽しかったなー・・・アレさえなければね。」

 「え?」

 「岩手に帰る際、六本木で交通事故に遭ったのよ。それで両親は私をかばって二人とも死んでしまって。」

 「まさか?」

 「まぁ昼間っから飲酒運転してる奴がいてね。しかもそいつ警察のお偉いさん・・・まぁざっくりいって上級国民なのよ。当時まだよくわからなかったけど、婆ちゃん曰く本来ならばもっと重い罪になるはずが上級国民補正やらバリアやらで罪が軽くなってしまったみたいなのよ。だから力を求めた。上級国民を闇に葬るための力を!」

 「だからニンジャやろうとしてたのですか?」

 「うん。婆ちゃんと爺ちゃんは必死に”全身全霊で抗議活動するからお前は命を張らなくていい”って言ってたけどそれでも法律で裁けなかった悪はどうするんだと反発しちゃって・・・。」


 ユリの目は涙が止まらない。それでも過去が気になって仕方がないので続きを聞くことにした。


  「続きいいかな?そんで爺ちゃんが知り合いにリアルガチのニンジャいるからそれで色々と紹介されて。ぶっちゃけニンジャとかメルヘンとかファンタジー的な存在かと思ってたけどまさかマジに実在したとはねー。しかも”世界忍者連盟”とかいう組織もあるし。」

 「なんとなく聞いたことがありますソレ!確か創設者は”龍山師 玄廻”とかいう人ですね。龍山師?え、まさか!?」


 ユリは何かに気づいた。


 「龍山師はもらった苗字よ。因みに前の苗字は里中。事故さえなければ”里中蒼”として生きていたかもね。んで何で岩手にいるかというと里帰りとか河童探しみたいだった気がする。あの人には親代わりに色々世話になったわ。もちろん暗黒カラテをはじめとする色んな戦闘技術も教わったね。」

 「てか蒼さんのお爺さん何気にすごいですね・・・人脈が!」

 「なんか中学同じクラスみたいだったよ。」

 「ほえー」

 「だから今回は何としても・・・裁きの鉄槌をバーンとね!」

 「そうですね。頑張りましょうね蒼さん!」


 こうして第2回公判に向けて二人で調査を進めた。そして冬花とメイアは飯塚が乗っていたモルモーターの所に行こうかなみたいな雑談をしながら屋敷へ向かった。

                                       ―つづく―

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