エピローグ:なんだよ、この仕事ぉ!!
まだまだメガロポリスにはあのゼロ・カルテルの残党どもがいる。一応はリーダーを逮捕し、弱体化までさせた。その残党は商品のクスリを持ち逃げしており、国外へと逃亡する計画を立てているらしい。このことの連絡を受けて、闇夜に二人の男女が街中を走っていた。
「ほらぁ、速く走ってよ!」
「や、病み上がりの人間に無茶言わないでくれる?」
一人は相手を急かし、もう一人はどこか青ざめた表情。腹が痛むのか、そこを抑え込んでいた。
「早くしてよ。今日はおじさんとローベルトとの勝負に勝ちたいの」
「……そんなゲーム感覚だと、相手が不憫過ぎるぞ」
「いいの。相手はただでさえ、社会ルールを破る悪い人だもん」
そんなやり取りをする二人に、スマートフォンから女性の声が聞こえてきた。それはとある人物が作った人工知能。それは《オフィーリア、タクマ》と彼らに呼びかけた。
《楽しい会話中、申し訳ありません。急ぎの電話があるようですが、いかがなさいますか。お相手はローベルトからです》
「何?」
もしかして、新しい情報なのか。気になったオフィーリアがスピーカーにして、電話に出てみると、ローベルトと呼ばれた人物から《調子はどう?》と訊かれた。
《俺は絶好調だぜ。さっき、二人捕まえたんだよ》
「嘘っ!?」
《ホント、ホント》
まさかの逮捕劇に呆気からんとするオフィーリア。次第に悔しそうな顔を見せる。
「待ってよ、わたしまだ何もしていない!」
《ははっ、オフィーリアは捕まえられるかな?》
なんて、お道化てみせるローベルトであったが、スマートフォンの向こう側から《何言ってんの》と二人の女性の声が聞こえてきた。
《ローベルトが捕まえたじゃなくて、私たちが手伝ったから捕まえることができたでしょ》
《ちょっと、ジュディにヴァンダ~。そこは黙っておいてくれよ》
事の真実に安心を見せたオフィーリアは「なーんだ」と鼻で笑う。
「びっくりしたわ。だったら、あと三人はわたしのもの!」
だから、捕まえに行くわよと、ようやく息が整った男――タクマに無茶を言うオフィーリア。急かす彼女であるのだが、タクマはオフィーリアの背後からやって来る人物に気付いた。彼女自身も気付いたようで「おじさん」とその人物――タカシに声をかける。
「さっき、ローベルトたちが二人見つけたって。でも、それはジュディたちが一緒だから、ノーカンだよね?」
「ああ、ノーカンだ」
そう言うタカシは妙に酒臭い状態ではある。そんな中で、彼は自身のスマートフォンを取り出して「そして、俺の勝ちだ」とにやけた。手元にある画面には三人のカルテルの残党が捕まっている衝撃的な画像を映し出す。そんな事実を認めたくなくて、オフィーリアは「いつ撮ったの?」と苦笑い。
「写真は作ることができるもの」
「さっき。ほら、時間帯見てみな」
更に見せてもらう写真撮影の時間帯。そして、証拠となる大量に持ち出されたクスリ。ということは、仕事はこれにて終了!?
いや、終了でいい。そう心の中で呟くのはタクマである。そんな、闇雲に走り回っているだけでは本気で再入院を考えなければならなかっただろうから。そうならないためにも、ここで終わるのが丁度いいだろう。そのようなことを考えながら、時計を見た。この時代となっては当たり前と化したデジタル時計。現時刻は二十二時を回っている。もうこんな時間か。未だに自分が負けたことに納得がいかないオフィーリアをよそにタカシが「着けてくれているのか」とどことなく嬉しそう。
「それ、ゼロに誘拐されたとき、壊れたって言ってなかった?」
「直してもらったんだよ。せっかくもらったのに、一日で壊れたなんてもったいないだろ」
「そうか」
そんな会話をする二人の間にオフィーリアは割って入ってくる。街灯に照らされた銀色の髪と小さな赤い花があるヘアピンがキラキラと光っていた。
「いい感じで終わろうとしているけど、タクマのせいでわたしは残党を逃したのよ!?」
「いや、なんで俺のせい!?」
なんてタクマのツッコミが炸裂する中、彼女は断固としてその考えを撤廃しようとはせず、文句を垂れてくる。その状況に巻き込まれるのは勘弁だとして、タカシはこっそり逃げ出す始末。待て、と言われて待つようなタイプではないことはわかっているから――終わったら、覚えていろよ。
残党を自分が捕まえられなかったのはタクマのせい、そうではないという醜い争いをする二人。仕舞いには、オフィーリアがとんでもない発言をする。
「上司の言うことは絶対だからよ!」
元々、オフィーリアはプライドが高い女の子であるのはタクマも十分に承知している。だとしても、ここまで理不尽的な言葉となると、言い返したくもなるのは当然。
「それ、絶対関係ないから」
「関係あるわよ。逃げたあいつら、実は別のカルテルの連中とつながりがあるって話。わたしはそれを知りたかったの」
「えっ、そうなの?」
「そう、だから……わたしを煩わせた罰として、明日にわたしがするはずだった情報データ整理すべてすること。わたしはモニカとカナの三人で予定が入ったから」
「おい」
「仕方ない。どうせ明日はジュニアチームの練習試合があるんだもの」
「それは午前中の話だろ? 何、午後に遊ぶ約束したの?」
「二時間ほど前にね。じゃあ、わたしは帰って寝るから。よろしく」
そう言うオフィーリアはわざとらしく欠伸を出すと、自宅へと帰っていってしまう。いつだってそう。自分勝手な上司。本来は日本で普通に民間に就職する予定だったのに。その予定を書き変えるようにしてしまった父親、タカシ。きっと、日本のブラック企業の上司よりもブラックな上司、オフィーリア。そんな彼女の背中を茫然と見ていたタクマだったが、ややあって――。
「なんだよ、この仕事ぉ!!」
一人闇夜の街中で叫ぶのであった。
◆あとがき。
ここまでのご愛読ありがとうございます。
この作品のジャンルはサスペンスアクションと言うべきでしょうか。一応、初めて書くジャンルではありますね。現実で捜査官もの。まあ、一人現実離れした行動をするキャラクターや展開がありますが、世界観としては大体、西暦2100年頃の近未来をイメージしています。
時代は第三次世界大戦(作中としては西暦2026年~2030年とする)中盤から、土地を奪われたたくさんの難民たちが出てきて、様々な国へと移住するという設定があります。その移民の問題は大戦が終わって七十年以上経っても、二世や三世らが問題を起こし、各国が諸問題を抱えています。舞台となっている国も同じで、警察や軍はそちらに手を焼いているという状態なんです。そこで別に起きている、またはそれに紛れた麻薬カルテルに関わる事件はタクマたちみたいに特別な組織が調査を行ったり、逮捕したりしています。この捜査官は各国の警察や軍からの推薦により、国際的組織として選抜されます。もちろん、その組織の捜査官から推薦での任命を受けることもありますが、タクマの場合は特殊な入り方で立場的には一番下っ端ですかね。なんというか、雑務係的な位置関係というべきでしょうか。まあ、オフィーリアの方が特殊過ぎる編入なんですが。
それでも、この麻薬カルテル関係の問題で警察や軍自体も介入することは多々あります。ですが、ほとんどは彼らにお任せ状態という設定です。
と、まあ、作中では語る必要性がないと思っている設定を記述してみましたが、いかがだったでしょうか。物語はここで終わりですが、タクマやオフィーリアたちはまだまだ解決するべき事件は世界中にあることでしょう。きっと、わちゃわちゃとしながらも、解決をしてくれるかもしれません。
最後にみなさんの貴重な時間をありがとうございました。
池田 ヒロ