第2話
「はあー、どーすりゃいいんだ、これ…」
「もーいつまでウジウジしてんのさ!早く食べないと遅れるよ」
何を聞いても「普通の男子高校生だ。朝食を食べたら学校に行く」の一点張りだったのと、凶器を持っている風でもなかったので、俺は仕方なく朝食を用意した。(何か証拠が無ければ、俺も大事にしたくはないしな)
そいつはまるでここが自宅だと言わんばかりに、平然と食事をしている。
誰のせいでこんな思いしてると思ってんだよ……
いつまでも悩んでても埒が明かないので、得体の知れないそいつの向かいに座り、朝食を食べ始める。
「その制服…」
「あ、これ?そうそう、か…おっさんと同じ高校なんだー。ってか今どき男子校とかありえなくない?」
「おっs……コホン…なんでもいいからとっとと食べて早く出て行けよ」
「はいはい」
「じゃあ、行ってきまーす」
戸締りをしていると、玄関から声がした。
暫くして扉が閉まる。
バタン
よし、出て行ったな。
その音を確認して、俺は貴重品を調べることにした。
しかし
…取られたものは何もない……じゃあ、あいつ本当に朝食を食べに来ただけなのか?…なぜ?…???
「うわ、もうこんな時間だ」
時計を見るといつも家を出る時間を少し過ぎている。
電車に乗り遅れたら大変だ。
家を出て少し走ったところで、さっきの奴がのんびりと前を歩くのが見えた。
分かっているとは思うが、念のため忠告しておこう。
「当然だがもう俺の家には」
「おっす、宿題やったー?」
「あ、やってねぇ…あとで見せてくんね?」
「はよーっす!」
俺の声が届くより先に、友達が何人かそいつに群がる。
「……まあ、いいか」
そして、高校とは違う方向にある駅へと足を向けた。結局あいつの目的も正体も分からなかったが、事件性はないし、自宅に戻ってくれるならそれで全部解決だ。
「おかえり、奏多♡」
久しぶりに少し早く帰宅して、ゆっくりしようと考えていた俺の前に、陽羽ちゃんが…っては!?なんで!?
そこには、愛しの陽羽ちゃんがいた。フィギュアではなく、人型、いや人間の。
自分では気づいてないが、疲れがピークなのかもしれない。
「はぁ、ついに妄想上の人物が現れるとは…いやいや、想像!あくまで想、像、上、だ…!決して妄想なんかじゃないからな」
誰も聞いてない(どうでもいい)言い訳をしながら、俺はその場に座りこんだ。さすがに、これが頭の中の出来事でないことは分かる。
「ヤバいなー…」
「奏多?何がヤバいの?」
心配してオロオロする陽羽の横をすり抜け、そのままベッドに横になった。
「ふー」
電気を消して、いざ眠ろうとした瞬間。
「えー!嘘でしょ!お風呂に入らないで寝るとかおっさん臭やばいよ!?ベッド使えなくなるじゃん!」
部屋が明るくなったのと同時に、陽羽の大声が俺の耳に届いた。
すでに眠りの淵に手をかけていた俺は、なんとか瞼をこじ開ける。そこには相変わらず美少女の陽羽がいたのだが、先程のか弱い儚げな雰囲気はまるでなく、真逆の、強気で偉そうな雰囲気を醸し出して仁王立ちしていた。
も…想像と会話してるなんて俺も終わりだな…
そう思いながら、布団に包まろうとしたのを、陽羽に邪魔された。
「妄想なのにしつこい……って、あれ!?」
陽羽から布団を奪い取ったが、俺の目の先にいたのは今朝の男子高校生だった。
!?は!?
「おい!?陽羽ちゃんはど」
「何言ってんのさ、オレが陽羽だってば」
「お前は…。さあ今度こそ警察に」
「ケータイ粉々になったんじゃない?」
「そういえば朝……いや、元はといえばお前が」
「さすがにかわいそうだったから…はい」
そう言って陽羽?は俺の前に、粉々になる前の俺のケータイを差し出した。
「な、なんで…」
それを取ろうとしたが、虚しくもその手は空を切る。
「しばらくこれはオレが預かっとくよ。警察呼ばれたら怖いし。さあ、細かい話はご飯食べながら。この家何も無かったからお弁当買ってきたよ」
「勝手なことばか」
ぐぅぅぅ〜
…ま、まあここは大人しく頂くとしよう。
俺が質問する必要も無く、相手はペラペラと話をしてきた。
自分は俺のお気に入りのフィギュアの陽羽で、俺の恋のキューピッドをしに来た、だからここが自分の家で、俺の恋が実るまで人間として一緒に住むんだ、と。
「あとは、ちょっと待っててね」
そう言い残し、夕食を食べ終えた陽羽は部屋を出ていった。しばらくすると戻ってきたのだが
「ひ、陽羽ちゃん!?」
「そ!ね、オレが言ったこと嘘じゃないでしょ?」
確かにあの陽羽フィギュアそっくりだが(豊満な胸元もやけにリアルだ…)
「上手い変装だが俺は騙されないぞ」
「さっき騙されてた変態おっさんは誰だよ。…ほらこれだって本物だよ?」
むにゅっ
「ご、ごめん!」
陽羽に急に手を引っ張られ、思わず彼女?の胸を揉んでしまい、咄嗟に手を離す。
「ハハハ、奏多顔真っ赤!まあ、“陽羽”は美しすぎるからそうなってしまうのは十分わかるけどさ」
言いながら、陽羽は自分で自分の?胸を揉む。
「くっ、陽羽ちゃんの体を弄ぶとは…許すまじ……」
「これだから童貞オタクは。はあ。なんで男に変身してるんだ、とか知りたくないわけ?」
「それを聞いたら陽羽ちゃんに戻ってくれるのか!?」
「さあ?オレも気づいたらこれだったから、どうしてそうなっちゃったのかわかんないんだよねー。ちなみにこっちの陽羽は5分しかもたないの。だからいつも奏多が考えてるエッチなことできないね」
陽羽はニヤリと微笑んだ。
第3話へつづく。