大っ嫌いな彼
「ごめんごめん!」
「もう、仕方ないから許すけど、もっと気をつけてよね」
いつものことだから気にしていない。私から言わせれば、あたかも偶然ぶつかったように装っているだけ。
今回だけではない。ほぼ毎日と言っていいほどこういうことをされる。私の物を勝手に借りたり、やたらと話しかけてくる上に下品な話を勝手に始めたりする。そんな面倒なことをやめさせるいいことを思いついたのだ。
「ねぇ、あ、あの......今日の放課後渡したいものがあるから、教室で待ってて」
「もしかして、バレンタインチョコ?」
「そうだよ。恥ずかしいから、2人きりになってから渡したいの」
「わかった。じゃあ放課後な」
そう、チョコをあげるのだ。こうすれば、彼が私に対してちょっかいを出すこともなくなるだろう。
***
緊張してきた。こういうことは初めてだから、入念にチェックをして万全の状態でなければならない。手が震えて箱を落としそうになりながら教室を前にする。
目を閉じて深呼吸をする。脳内シュミレーションは完璧。よし。
「おまたせ」
私は教室に入り、待ちくたびれた様子の彼にチョコの入った箱を差し出した。
「なんで手袋なんかつけてるんだ?」
「一応人に渡すものだから。衛星面を考えて」
「な、なるほど。まぁ、ありがと」
彼はチョコを受け取って、早速箱を開け始める。そして、チョコを見るなり美味しそうと言って口に入れた。美味しい美味しいと言いながらどんどんチョコを口へ入れていく。
全て食べ終わり、改めて美味しかったと感謝の言葉を述べた。私はどうもと一言だけ残してすぐに帰った。
家に着くと荒い呼吸となんとも解放感に快感を覚えた。やることはやった。あとは待つだけである。
1時間もすれば効果が現れるはずだ。私の愛情......ではなく毒入りチョコの効果が。