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職業『迷子』の異世界生活  作者: 翡翠
第二章 毒舌美少女な看板娘
9/20

3

「本当に助かりました。ありがとうございます」


 今お礼の言葉と共に頭を下げているのは雅である。

 あの後(ゲール)へと向かったのだが、雅は当然といえば当然だが、自分を証明するものもお金も、何も持っていなかった。

 町の中に入ったら宿や食事にお金が掛かることは分かっていたが、町へ入るのにもお金が掛かるということを失念していたのだ。

 昴兄の漫画を読んで知っていたはずなのに。

 そして身分証がない理由だけれど、コナーさんが機転を利かせてくれて、遠くの小さな村に住んでいたが、野盗に襲われて命からがら逃げて旅して来た少女という説明をしてくれた。

 この世界では、野盗に襲われて村が全滅なんてことは、ままあるんだとか。

 ピーちゃんは旅の途中で召喚したことにしてある。

 コナーさん達が保証人になりお金も支払うということで、雅とピーちゃんは無事町へと足を踏み入れることが出来たのだった。

 因みに倒した野盗達だが、焼け焦げた死体ってことで放置すると後々問題になりそうだったから、とりあえず詰所には襲われたからピーちゃんに助けて貰ったと伝えておいた。

 あとの処理は彼らがやってくれるだろう。

 アリッサさん達と別れ、雅とピーちゃんは教えてもらった通りギルドを目指していた。


(いやぁ、テンション上がるよね? ギルドだよ、ギルド。クフフ)


 はやる気持ちを抑え、ギルドまでの道を一歩一歩進んで行った。



◇◇◇



「……何処よ、ここ」


 どうやらさっそく職業『迷子』が発動したらしい。

 どう見ても住宅街の中である。

 仕方なくその辺を歩いている人に道を訪ねようとするも、ピーちゃんの姿を見て驚いて逃げて行く人がほとんどで。

 途方に暮れかけた頃、冒険者らしきオジサマに声を掛けられた。助かった!


「おい嬢ちゃん、それは本物のドラゴンか?」

「はい。レッドドラゴンのピーちゃんです」


 そう言えば、コナーさんもドラゴンを目にするのは初めてだと言っていた。

 冒険者でも、そうそう目にすることはないのだろうか?

 この世界って、ドラゴンは存在するけどそんなにたくさんはいないとか?


「そうか、テイマーか。それにしても、ギルドに向かって住宅街にたどり着くとか、そんな方向音痴で本当に冒険者になるつもりか?」


 やはり冒険者だったオジサマことマッシュさんは、どこか心配そうな目で雅に問いかけてきた。

 それだけ冒険者というものは命懸けの大変な仕事だということなのだろう。


「う、それを言われると……。でも、働いてお金を稼がなきゃならないから」

「ま、誰しも色々抱えているものがあらぁな。何かあれば俺も力になってやるからよ」

「ありがとうございます」

 アリッサさんとコナーさんにマッシュさん。

 雅は異世界転移してから、中々に良い人たちに出会えていると思った。

 マッシュさんは、酒場に向かう途中で雅に声を掛けてきたらしかった。

 途中まで方向が一緒ということと、ちゃんと雅がギルドに着けるかが心配でギルドまで連れて来てくれたのだった。


「着いたぞ。もう迷子になるなよ?」

「ちょ! 人前でやめて下さいよ!」

「ははは、じゃあな」


 マッシュさんは片手を上げて、颯爽と酒場へ向かって歩き出す。

 雅はその背中に「ありがとうございました」と伝え、ギルドへと足を踏み入れた。

 中は夕方という時間帯もあり、依頼終了の報告をしに来たらしい人達でとても混雑していた。

 受付には三人の職員が対応をしており、その前にズラッと列が出来ている。

 何となくその後ろに並ぶのは戸惑われて、待合用に置かれているだろうあまり座り心地の良くないベンチへと腰を下ろす。

 ピーちゃんはそのベンチの隣の床に座り、興味深そうにギルドの中をキョロキョロと見ている。

 漫画ではギルドに酒場が併設されているところが多いが、このギルドには併設されていないようだ。

 お上りさんばりにキョロキョロしている雅達に、一人の若い冒険者が寄ってきた。


「なあ、もしかしてお前テイマーか?」


 なかなかのイケメンで、後ろに黒豹を連れている。


「そうですが、あなたも?」

「ああ。俺はカッツ。こいつはヴィクトリアだ」


 ヴィクトリア……。スゴイ名前だな。


「私はミヤビ。そして相棒のピーちゃん」


(……何よ、その目は。なんでピーちゃんに哀れみの目を向けてんのよ!)


「え、え〜と、見掛けない顔だけど、この町に来たばかりかい?」


 雅がジト目で見ていたのに焦って話をすり替えようとしたようだ。


(仕方がない、ここは私が大人になって、今はそれに乗ってあげるとしよう)


「ええ、さっき町に着いたばかりなの。冒険者登録について色々教えてもらおうと思ったんだけどね……」


 そう言って冒険者達の列を見ると、カッツは苦笑いを浮かべた。

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