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「いやぁ、本当に助かったよ。ありがとう」
「助けてくれて、ありがとう。それに、食事まで分けて頂いて……」
先ほどから何度も何度も、思い出す度にお礼の言葉を言われているのだけれど、ピーちゃんが出て行かなければそのまま隠れて助けることはしなかっただろうから、何とも心苦しいというかなんと言うか……。
だからという訳じゃないけれど、昼に釣って焼いた魚とパンの木の実を二人にもおすそ分けしたのだ。
年配の女性は母親でアリッサというらしく、若い男性の方は息子でコナーというらしい。
「いえ、もう本当〜にお礼はいいので。それに助けたのは私じゃなくて、このピーちゃんです」
「「ピーちゃん?」」
「そう、ピーちゃん!」
頭を撫で撫でしてやると嬉しそうに目を細めて、尻尾もブンブンと振られている。
目の前の親子が気の毒そうにピーちゃんを見ていたことなど、私は知らない。
「それはそうと、随分とミヤビさんに懐いてるんですねぇ」
感心したように言うコナーに、雅は満面の笑みで答える。
「卵から孵したからね」
その言葉にコナーが真っ青になり、半ば叫ぶように、
「もしかして卵を盗んだんですか!?」
なんて言うもんだから、イラッとする。
「はあ? 何で私がそんな面倒なことしなきゃいけないの? ピーちゃんは私が召喚したの!」
「でも、卵から孵したんですよね?」
「そうよ! 卵で召喚したんだもの」
「へ?」
「ん?」
あら? 卵で召喚て言わない方が良かった?
なんか私、マズイこと言ったっぽい?
「あの、ミヤビさん? その卵で召喚するというのは、他言しない方が良いと思います。冒険者の話なんで定かではないのですが、ドラゴンの卵は不老長寿の薬の材料になるそうです。そのため今までに色々な国がドラゴンの卵を盗み、ドラゴンの怒りを買って、滅んだそうです。……卵を召喚出来るなんて知られたら、絶対に利用されますよね? なんせ国が滅ぶリスクなしに卵が手に入るんですから」
「……」
「ミヤビさん?」
マジ!? ギルド登録前に聞けて良かったぁぁ!
馬鹿正直に卵召喚なんて登録してたら、絶対に面倒ごとに巻き込まれてたと思う。
コナーさんに感謝!
「でもね、卵召喚ていっても何の卵にするかは選べないんだよね」
「どういうことだい?」
ズイッとアリッサさんが前に出て来る。
どうでもいいけど、アリッサさん、好奇心旺盛だよね。
「卵から生まれる生物の卵を召喚出来るスキルなんだけど、どの生物の卵になるかはランダムらしくて。スキルレベルが上がれば、レアな生物の卵が召喚される可能性が高くなるみたい。それにある一定の条件を満たさないと召喚出来ないらしいの。その条件もよく分からないから、次はいつ召喚出来るかも分からない」
「卵から生まれる生物の卵って、虫とかも含まれるんですかね?」
「……多分?」
「じゃあもしかしたら、調理場とかによく現れる黒光りしてるヤツも対象だったりするのかい? それでもって懐かれちまったりするのかい!?」
「「「…………」」」
とりあえず、アリッサさんの台詞は聞かなかったことにしておこうと思う、うん。
「ミヤビさんはこの後何処へ向かわれる予定なんですか?」
「ん? ミヤビでいいよ。特に決めてないけど、近いうちにどこかの町に行きたいと思ってはいたかな。そうだ、ここから一番近い町ってどこ?」
自分の方が年下だから、ミヤビと呼び捨てにしてほしいと何度も言っているのに、未だにさん付けするコナーさん。
するとまたまたズイッとアリッサさんが前に出て来た。
「ここから近いのはゾルって村か、私らが向かってるゲールって町だね。特に決まっちゃぁいないんなら、あんたも一緒にゲールへ行かないかい?」
アリッサさんの方が頭が柔軟に出来てそうである。
どうやらこの親子、ゲールっていう町で酒場を経営しているらしい。
ゾル村は酒作りで有名な村で、アリッサさんの実家は村でも一番の酒造とのこと。
今日はその酒を仕入れて帰る途中に野盗に遭遇してしまったのだそうだ。
「この辺りは最近だいぶ治安が良くなって、野盗もしばらく出なかったもんで、つい護衛も付けずに出たらこのザマですよ。今回は偶々あなたたちが助けてくれたんで良かったですが、そう何度も都合よく助けが来てくれる訳ではないですからね。次からは気を引き締めていかないといけませんね」
「そうね、何事も用心するに越したことはないと思う」
真面目な顔で話している二人の会話を遮るようにして、急に何かを思い出したかのようにパンと手を叩き、興奮気味に話し出すアリッサさん。
「なぁなぁ、あんたまだ仕事は決まってないんだろ? だったらうちの酒場で働かないかい? うちは他の店と違って、店内で問題起こす奴は即退場・出禁と決まっているから、店で馬鹿する客はいないんだ。働き易い環境だと思うよ。それにあんた、うちの従業員服が良く似合いそうだねぇ」
「ちょっ! オフクロ? 従業員服って、あれは……」
「いやだってね、お前も似合うと思わないかい?」
「え? いや、まぁ、似合うかどうかと言われたら似合うと思うけど、あれは……」
「ほぉらね? こいつもこう言ってることだし、うちにおいでな、ね?」
従業員服って、某居酒屋みたいな感じの服なのかな?
似合うと言われて悪い気はしないが、異世界といえばやはりギルドでしょう。
アリッサさんのマシンガントークにタジタジになりながらも、丁重にお断りする。
「折角誘って頂いてなんですが、私はギルドで冒険者登録しようと思っているので、すみません」
「そうかい? 残念だねぇ。ま、もし気が変わったらいつでも言っとくれ。あんたなら大歓迎さね」
豪快に笑いながら、背中をバシバシと叩かれる。
働くのは無理でもピーちゃんを連れて食事に行ってもいいかと聞けば、構わないと言ってくれたので、お金を稼いだらきっとお店に食べに行くと約束をした。