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職業『迷子』の異世界生活  作者: 翡翠
第一章 そこは異世界でした
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6

 続いてパンの木の実だが、これは生のまま食すとお腹を壊してしまうので、これも木の枝に刺して焼いていく。

 とはいっても、似ているとはいえ向こうの世界と同じものとは限らないので、もしかしたら生で食しても平気かもしれないが、念のため、である。

 味だって、美味しいか不味いかは食べてみなければ分からないのだ。

 試しに食べてみて、食べられるもののようなら今後の主食となるだろうが、ダメだった場合はせっかくピーちゃんにたくさん取ってもらったけれど、捨てるしかない。

 出来ればそれはしたくないので、どうか食べられるものでありますようにと心の中で神頼みしつつ……。

 とりあえず魚とパンの木の実(もど)きを火にかざし終えると、今度は視界の範囲内だけでもかなりの木々に絡んでいる(つた)を集め始める。

 雅が蔦をもいでいるのを見て何かの遊びと思ったのか、ピーちゃんも同じように蔦をもいでいく。

 十分ほどの時間でかなりの量の蔦を集めることが出来た。

 魚を焼いている間に、蔦を使って大きめの籠と斜め掛けが出来る小さめの籠を編んでいく。

 籠に入れれば大量の魚とパンの木の実を運べるし、今後も色々と運ぶことが出来るだろう。

 出来上がった二つの籠を前に、我ながらなかなかに上手く出来ているのではないかと自画自賛しながら一人頷く。

 そんな雅を見て不思議そうに首を傾げるピーちゃんに、慌てて「なんでもないよ?」と言いつつ頭を撫で撫でした。




 いい感じに焼きあがったパンの木の実擬きの皮をむいて少し千切って食べてみる。

 ……うん、ほんのりとした甘さがあって少しだけ酸味もあって、向こうの世界のパンの木の実とほぼ同じようだ。


「これは種なしの種類みたいだね。良かった」


 思わず呟いていたが、種のある種類とない種類では若干味が違うのだ。

 種のない種類の方が美味しいとされている。

 どうせなら美味しい方を食べたいので、これは助かる。

 もう一個焼けたパンの木の実の皮をむいて、ピーちゃんへ「はい」と渡す。


「ピーちゃんはこれ、食べられるかな?」


 ドラゴンが何を食べるかなんて知らないから、とりあえず試しに食べてもらうしかない。

 ピーちゃんはまず雅から受け取ったそれの臭いをクンクンと嗅いで、そして恐る恐るパクリと口にした。

 ……うん、初めて口にするものって、まず臭いを嗅ぐよね。

 あるあるだなぁ、なんて思いながら腕を組んで一人ウンウンと頷く。


《ママ、これ食べられそう!》


 嬉しそうにパタパタと尻尾を振るピーちゃんに、いそいそとパンの木の実の皮を次々とむいていく。

 魚もいい感じに焼き上がり、串刺しのままではピーちゃんが食べづらいだろうと、少し大きめの葉っぱを湖の水でキレイに洗って、その上に焼きあがった魚から枝を抜いたものを乗せて渡す。

 ……過保護なのは自覚しているが、ピーちゃんが可愛すぎるのだからこれは仕方がないのだ、うん。

 開き直って串刺しのまま魚にパクついた。


(う〜ん、やっぱり塩が欲しいなぁ)


 新鮮な魚は美味しいといえば美味しいのだが、圧倒的に味が物足りない。

 食べ物があるだけでもありがたいことだけれど、同じ命を頂くのなら美味しく頂きたいと思ってしまう。

 向こうの世界ではサバイバルなんて言ったって最低限の調味料は持って行ってたしなぁ、なんて兄達と行った修行の数々を思い出していた。

 本当は雅だって夏休みには友だちと海に行ったり、バーベキューしたり、プールに行ったりしたかった。

 水着を買いに行くという友人達の楽しそうな顔、夏休み明けになると日焼けした顔で楽しそうに話す姿に笑顔で頷きながらも、心の中ではずっと羨ましかった。

 何で相澤家(うち)は毎年修行に行かなきゃいけないんだ? って思いながらも諦めていたのだけれど、異世界転移してしまった今、あの修行のおかげで何とかなっているのだから、感謝しかないだろう。


(にい)達、ありがとう!)


 お腹いっぱいに食べ、残ったパンの木と魚をキレイに洗った葉に包み、籠へ入れる。

 残ったと言っても、今日の晩御飯と明日の朝食分はありそうだ。


「ピーちゃん、そろそろ戻ろうか」


 火の後始末をきちんとしてから、籠を持った状態でピーちゃんに抱えられつつ小一時間ほど掛けて遺跡へと戻る。

 やっぱり地に足がついて、屋根があるところはホッとする。

 枯れ枝にピーちゃんに火をつけてもらい、鍋で水を煮沸する。

 特にやることもないので、ピーちゃんを撫で撫でしつつ構っていると、ピーちゃんの耳がピクピクと動き出した。


《ママ、何かがこっちの方に向かってくる音がするよ〜》

《え? 何かって何だろ?》

《う〜んとね、よく分かんないけどガラガラッて音が段々大きくなってきてるの〜》

《ガラガラッて音……とりあえず何が近付いてきてるのか、こっそり見に行ってみようか?》

《うん!》


 ピーちゃんと一緒に遺跡の柱に隠れるようにしながら外を覗う。

 言われてみれば、微かに何やら音がするような気がする?

 何て思っているうちに、確かにガラガラとした音を耳が拾っていた。


《確かにこっちの方向に何かが向かってきてるみたい。もしかしたら危険なものかもしれないから、確認出来るまでは隠れていようね?》


 念話でそう伝えれば、ピーちゃんの素直な《うん、分かった〜》という返事がくる。

 やっぱりピーちゃんはどこまでも可愛ええ!

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