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異世界生活二日目。
ピーちゃんは、目を覚ますと大きな口をこれでもかと言うほどに開けて欠伸をする。
(よく顎外れないよね)
感心しつつ頭を撫でてやると、また嬉しそうに頭を擦り付けてくる。
しばらくの間、撫で撫でしつつギュウッと抱きしめてあげると満足したようだ。
イライラして眠れぬ間に色々考えていたのだが、今日は結構忙しくなると思う。
忙しいという言葉が合っているかは微妙だけれど、雅達にはやらねばならないことがある。
そう、それは食べ物!
幸いにも水は井戸のお陰で何とかなったが、さすがに水だけで生きていくことは出来ないし、腹が減っては何とやら、だ。
とりあえずは雨風凌げて水の確保が出来るここを拠点として、狩りに出るというパターンになるだろう。
頭の中で考えを纏めていると、何やら頭の中に声が響く。
思わずキョロキョロ見回すが、ここにいるのは雅とピーちゃんだけである。
《ママ、どうしたの?》
(ママ? いやいや、私ってばまだピチピチの十六歳の乙女なんだけど。……じゃなくて、まさか、この頭の中に響く声って)
《この声……ピーちゃん? ママって、私のこと?》
《うん、ママはママだよ?》
ピーちゃんは嬉しそうに尻尾をパタパタと振っている。
(これって、念話だよね? 間違いないよね? ホントにピーちゃんと話せてる? 意思疎通が出来る……)
感動に震えながらも『人間以外にも念話で話が出来る』と詳細に記載されてたら、もっと早くピーちゃんと会話出来たのに、とステータスボードの説明書きを書いた誰かを恨めしく思う雅。
気を取り直して食料を調達に行くことをピーちゃんに伝えると、ピー《分かったぁ》と言っていきなり背中の羽を動かしたのだが。
それこそどうなっているのか分からないが、小さかった羽がバサッと開いて大きな翼になった。
(どういう構造になってるのか非常〜に気になるけど、コレはあまり深く考えたらアカンやつ。異世界だからということにしておこう。うん、そうしよう。ここは何でもアリの異世界なんだ、きっと)
《ママ、お空から探したら早く見つかるよ?》
雅は遠い目をしながら思う。
(ピーちゃんや、君は生まれて二日目の赤ちゃんじゃなかったの? ドラゴンは頭が良いっていうのはアニメや漫画の通説だけど、それにしてもねぇ。……いや、ここは何でもアリの異世界だから、深く考えたら負け! ピーちゃんの言う通り、歩いて探し回るより空から探せた方が早く見つかるだろうしね)
ーーと。
◇◇◇
「ピ、ピーちゃん? 絶対に落としたらダメだよ? 落とさないでよ!?」
今、雅はピーちゃんに抱えられて空を飛んでいる。
胸の下というか、お腹にピーちゃんが手を回して支えているだけなので、体はくの字になって足はプラーンと揺れている。
コレがめちゃめちゃ怖いのである。
足場がないって、安定してないって、こんなに恐怖心が増すとは思ってもいなかったのだ。
しかも思った以上にスピードがあるものだから、たまらない。
別に雅は高所恐怖症とかスピード恐怖症などではないのだが、これは本当にヤバイのだ。
(ピーちゃん、君が某お笑いグループのように「押すなよ、押すなよ」と言われて押すのがお約束みたいなマネはしないと信じているからね! ……って、知るわけないか)
小一時間ほど飛行を続けて、ようやく森の中に湖のようなものを見つけた。
地面に足が着いた時のあの感動は、きっと忘れないだろう。
湖の水はとても澄んでいて、魚が泳いでいるのが見える。
飛んでいる時に上空から実をつけている木があるのが見えていたので、魚を捕りつつ木の実を採取しようと思う。
とりあえず浅瀬の部分に木の枝で丸く壁を作り、一部分に魚が入っても出られないように返しを作って、簡単な罠を仕掛ける。
餌は地面を掘ったらミミズみたいなものがいたので、それを蔦で括りつけて罠の中に入れておく。
あとは魚が罠に入るのを待つだけだ。
その間に木の実を採取するべく、森の中へと足を踏み入れた。
途中キノコなんかもあったのだけど、毒キノコかどうかが判断出来ないために放置した。
《ママ、これは? 食べられる?》
ピーちゃんが羽をパタパタと動かし、少し高い位置にある実を取ってきた。
それはパンの木の実に酷似している。
《多分食べられると思うよ? これ、もう少し持ってこられるかな?》
《うん、大丈夫!》
ピーちゃんは嬉しそうに短い両手でパンの木の実擬きを抱えて下りてきた。
《わぁ、いっぱい取れたね。ピーちゃんすごいね、ありがとう》
頭を撫で撫ですると、嬉しそうに擦り寄ってくる。
安定の可愛さである。
湖へ戻れば罠には面白いように魚が入っていたので、持ってきた切れ味の悪そうな小型のナイフで釣れた魚全ての腹を裂き内蔵を取り出して湖の水でキレイに洗い流した。
枯れ枝を拾い集めてピーちゃんに火をつけてもらい、串刺しにした魚を火にかざす。
塩がないのは残念だが、お腹は膨れるのだから良しとしておこう。