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職業『迷子』の異世界生活  作者: 翡翠
第一章 そこは異世界でした
3/20

3

 割れた卵から出てきたのは、真っ赤なドラゴンぽい(・・)生き物。

『ぽい』というのは、実際目にしたことがないから。

 漫画とかアニメなんかに出て来るようなドラゴンに酷似していると思われるこの生き物。

 手足は短めで、背中には小さな羽がついている。

 思わずジィーッと見つめていると、目が合った。

 姿に似合わず、可愛らしい(つぶら)な瞳をしたこのドラゴンだろう生き物は、雅に気付くと「ピー、ピー」と鳥のヒナような声で鳴き出した。

 そして生まれたての子鹿のようにヨロヨロと寄って来ると、頭をスリスリと擦り付けてくる。

 一六〇センチにちょっと欠けるくらいの身長の雅とほぼ同じくらいの高さがあるため、雅の頰に押し付けるような感じになっているが。


(これって、初めて目にしたものを親と思うっていう、アレ?)


 猫みたいな仕草も、鳥のヒナみたいに何処から出してるのか分からない高い鳴き声も、メタくそ可愛い。

 思わず口角が上がり、自然と笑みがこぼれる。

 訳も分からずいきなり異世界に放り出され、独りだと思っていたところに思わぬ手にした存在。

 少なからず喜んでいる自分がいた。

 異世界に来て、初めて出会った生き物。

 雅にとって、特別な存在だ。

 そうなると、この子を呼ぶのに名前が欲しい。

 だから名前を付けてあげよう。


「よし、おまえは今からピーちゃんだ!」


 頭を撫でてやると円らな金色の瞳を細めて、嬉しそうにお尻の先にある尻尾がブンブンと揺れている。

 これは『猫みたい』じゃなくて『犬みたい』だったか?

 名付けのセンスについての意見は受け付けない。

 昔からそれについてのセンスは、乏しめられても褒められたことは一度たりともなかった。

 他候補には『太郎』とか『花子』とか『ポチ』とか『ミケ』があったが、異世界っぽくないのでやめた。

 ……まぁ、『ピーちゃん』も若干? 異世界っぽくない気もするが、ソレはソレということで。

 ピーちゃんは嬉しそうに更にグイグイと頭を擦り付けてくる。

 赤ちゃんでも流石はドラゴン、力が強い。

 残念ながらピーちゃんは言葉を話せないようだが、こちらの話す内容は理解しているらしい?


(もしかしなくても、そのうち喋れるようになったりしないかな?)


 ……なんて、流石にそんなに都合のいい展開はないかと過剰な期待をするのはやめて、少し小さくなった炎を絶やさないように、数本の枝を追加して焚べた。

 グゥゥゥゥ……。

 控え目に雅のお腹が空腹を訴えてくる。


「そういえば、朝食べてから何も口にしてないなぁ……」


 木の実なんかがあれば良かったのだけれど、残念ながら桑の木は花が咲き終えたばかりで、実が食べられるようになるにはあと二ヶ月ほど待たなければならない。

 川や湖なんかが近くにあれば魚を釣ったり出来るのだが、視界に入る位置にはどちらもなさげだった。

 兎や猪などの生き物がいるのなら狩って捌くことも出来るのだが、そもそもこの世界にはどんな生物がいるのかも分からない。


「明日はこの周辺を調べてみるか……」


 ピーちゃんには申し訳ないが、今日は水だけで我慢してもらうしかないな、などと考えていると。

 犬の遠吠えのような声が聞こえた。

 犬か狼かは分からないが、この世界にもいるようだ。

 ……まさか襲っては来ないよね? なんて。

 あれ? こういうのってフラグって言うんだっけ?

 昴(にい)がよくそんな話をしていたな、なんて思い出していれば。

 少しして、ヒタヒタと十匹ほどの狼のような生きものが現れ、火の周りを遠巻きにするようにして雅達を囲み始めた。


「二、三匹なら何とかって言いたいところだけど、さすがにこれだけの数を無傷で一度に相手するのは無理だわ」


 雅の背中をツツーッと冷たい汗が流れる。

 雅達(エサ)を前に汚らしく口からダラダラと唾液を垂らす犬だか狼を見ると、噛み痕や爪痕から細菌に感染する可能性だってありそうに思える。

 ピーちゃんはドラゴンとはいえ、まだ生まれたばかりの赤ちゃんだし、戦力にはならないだろう。

 羽は付いてるけど、コレ飛べるのか?

 体に比べて明らかに小さい羽。

 仮にもし飛べるにしても、練習もなしでいきなり飛ぶのは無理だろう。

 そうこうしているうちに、狼のような獣達はジリジリと距離を詰めて来ている。

 ピーちゃんの体がブルリと震えて、『ああ、生まれたばかりで獣を前にしたら、ピーちゃんだって怖いよね』なんて思ったのだが。

 次の瞬間ピーちゃんはカパッと大口を開けて。

 ゴオーッという音をたてて、ピーちゃんの口から獣に向けて炎の柱のようなものが出ていた。

 半分の獣は真っ黒な塊と化し、何とか炎の柱の餌食にならずに済んだ獣達は「キャンキャン」と鳴き声を上げながら、一目散に逃げ出した。


「はぇ?」


 あまりの出来事に、雅は口を開けてポカンとしている。

 一瞬にして獣がローストされて、と言うか焦げている。

 さっきピーちゃんがブルリと震えたのは、怖いからではなかったらしい。

 そのピーちゃんはというと、初めて炎を吐いたせいかケホッと咳している。


(うん、そんな姿もメタくそ可愛ええ!)


 思わずいい子いい子してやると、もっと撫でろとばかりに頭を向けてくる。

 ピーちゃんマジ天使!!


(そういえば、ピーちゃんのステータスも見れたりするのかな?)


 ピーちゃんの方を見ながら「ステータス・オープン」と言ってみたが、残念ながらピーちゃんのステータスボードは開かず、雅のステータスボードが開いた。


「違う違う、私のじゃないっつ〜の」


 さすがに鑑定スキルを持っていないと、自分以外のステータスボードは開けないらしい、なんて思って。

 仕方なく目の前に開くソレを閉じようとして、内容の変化に気付いた雅の視線は、画面に釘付けとなった。


———————————————

名前:ミヤビ(♀️)

職業:迷子 Lv3

スキル:卵召喚 (ランダム) Lv1

    念話 Lv1

     召喚獣 《レッド・ドラゴン》▶︎

HP:130

MP:20

———————————————


「レベルが、上がってる……?」


 しかも何やら新しいスキルが増えている。

 念話って、あの念話だよね?

 それと召喚獣 《レッド・ドラゴン》てピーちゃんのことだよね?

 けど、この横の▶︎って、何?

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