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職業『迷子』の異世界生活  作者: 翡翠
第三章 ツンデレひよこ
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【ツンデレ:好きだけど素直になれず照れ隠しで冷たい態度をとってしまうが、ふとした瞬間に素直になるというツンツン要素とデレデレ要素の二面性を持ち合わせていること】


 いや、ツンデレの意味は分かっているんだけどね?

 ……てか、ひよちゃんデレてなくない? むしろツンしかなくない?

 思わずチラッと上を見てしまうが、当然ながら雅からは頭の上にいるピーちゃんの姿は見えない。

 微妙な空気の中、タイミング良くオカンの声が響く。


「ミヤビ、これ運んどくれ!」

「あ、は〜い」


 ペコッと小さく頭を下げてから、出来たてのツマミを取りに行く。

 五ミリほどの厚さにスライスしたジャガイモに、チーズを乗せて焼いたその名も『カリカリチーズ焼き』はこの酒場の人気メニューだ。

 

「美味しそう」


 思わず口から出てしまったのをコナーさんが聞いていたらしい。

 ニヤリと笑いながら言われてしまった。


「つまむなよ?」

「するか!」


 べ〜っと舌を出せば、コナーさんはクツクツと笑っている。

 少しだけむうっと頬を膨らませながらツマミの乗ったお皿を持って、今ではほぼ毎日来てくれている常連客ルークの元へと向かう。


「お待たせ、カリカリチーズ焼きで〜す」

「お、待ってました! これ美味いんだよなぁ」

「いつも頼んでくれてるもんね」

「おうよ、エールとの相性バッチリだからな」

「そのエールが残り少ないみたいだけど、新しいの持ってこようか?」

「お、気が利くねぇ。よろしく」

「は〜い、ルークさんエール追加〜」

「ミヤビちゃん、こっちもエールおかわり」

「は〜い、ジャンさんエール追加〜」


 今日も慌ただしく一日が過ぎていく。

 それでもこの酒場に来る人達はとても気のいい冒険者達が多いため、働くことは楽しい。

 雅以外とは言葉(念話)を交わせないピーちゃんに一応ひよちゃんのことも、何だかんだと皆が可愛がってくれる。

 早いもので異世界(ここ)に転移してからもう二ヶ月ほどが過ぎたが、(にい)達や友達のことを思い出して寂しくなることはあっても、不思議と帰りたいといった感情はない。

 というよりも、心のどこかで帰れないと思って諦めてしまっているのかもしれないが、何よりも雅がこの世界を、この世界の人達のことを大好きだからなのだと思いたい。

 ……ステータスボードの、職業『迷子』を見る度にイラッとはするけれど。


「みんな、今日もお疲れさん!」


 最後のお客さんを見送り、オカンが笑顔で振り返って皆に労いの言葉をかける。

 サラさんは残った食材を使って簡単な食事を作ってくれている。

 いつも思うけど、そこにある食材を使ってチャチャッと作れちゃう人って、スゴくない?

 前にテレビでカリスマ家政婦といわれる女性を観たことがあったのだが、テーブルに出した食材をジィーッと数十秒見つめて、二〜三時間の間に十数品のメニューを作る姿に感動を覚えたものだ。

 あれはもう、この世界でいうスキルだと思う。

 今の雅の持つ『念話』と『色仕掛け』のスキルとは大分違うが……うん、気にしたら負けだ。

 念話はピーちゃんとの意思疎通に必要なものだし、色仕掛けだってそれなりに使えるスキルではあるのだ。

 それにきっと近いうちにレベルが上がって、また新しいスキルを取得出来る、ハズ。

 うん、新しいスキルに期待である。

 次は転移か収納ボックスがいいなぁ。

 けど、せっかく剣と魔法の世界に転移したのなら、魔法のスキルなんかでもいいなぁ。

 火魔法や水魔法や風魔法なんてカッコイイよね。

 聖魔法とか光魔法で傷を治したりするのも便利だけど、柄じゃないしなぁ。

 そういうのはホワホワしててちんまい可愛い女の子が似合ってると思うんだよね、うん。

 かなり昴兄の影響を受けている気がするが、そういうイメージが定着しちゃっているのだから仕方がない。

 そんな風に考えていれば、目の前にコトッとチヂミのようなものが乗ったお皿が置かれた。


「ミヤビちゃんのぶん、お好みでこのタレをつけて食べてね」


 サラさんが笑顔でタレの入った小皿を渡してくれる。


「うわぁ、美味しそう! ありがとう」


 ピーちゃんにはチヂミのようなものにマシマシで肉が入ったものが出され、ひよちゃんにはトウモロコシと玄米を混ぜたものが出されている。

 いや、本当にありがたい。

 

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