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職業『迷子』の異世界生活  作者: 翡翠
第一章 そこは異世界でした
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2

 神殿を出て、雅と一緒に転移してきたらしい桑の木へと向かい、枯葉と十〜十五ミリくらいの太さの枝を拾い神殿の中へと戻る。

 木で出来た箱をバラし、火きり板にする。

 切れ味悪そうな小型のナイフで、火きり板の端にV字の切り込みを入れる。

 この切り込みの角度がポイントなのだ。

 角度は六十度くらいがベスト。

 それより大きければ熱が逃げるし、小さければ木くずが集まりにくくなる。

 切り込みに添わせるように窪みをつけたら、火きり板の完成だ。

 ボロっちい毛布の端を細かく裂いておく。

 枯葉をV字の下に来るように火きり板を置く。

 裂いておいた毛布やポケットの中のゴミなどの火床は、すぐに手に取れるように手元に置いておく。

 火きり板のくぼみに合わせ、垂直に桑の木の火きり棒を立てたら、あとは両手で火きり棒を挟み、前後に動かすべし。

 手のひらから指先まで使って、圧をかけるように一定のリズムで絶えず摩擦を加えていくのがポイントだ!

 シュッシュッという音と雅の息遣いだけが、シンとした神殿の中に小さく響く。

 徐々に煙が出てくるが、ここで手を止めてはいけない。

 木くずから煙が出るまでは我慢である。

 木くずから煙が上がったらここでようやく手を止め、慌てずに熱を逃さないよう意識しながら、ゆっくりと火床の内部に火種を入れていく。

 火床で火種を包み、手のひらに熱を感じ始めたら内部に向かってゆっくりと息を吹き込む。

 ここでのポイントは、息を細く長く吹き込むことだ。

 ボッと一気に炎が発生し、残りのバラした板を重ねたものに燃え移らせる。


「紐があれば、もう少し簡単に火起こし出来たんだけどな〜」


 雅は肩と首を回してゴキゴキ音をさせると、枝を拾いにもう一度神殿を出た。

 空は朱色に染まっており、火起こしで大分時間を使ってしまっていたようだ。

 暗くなる前にと急いで枝を拾い、神殿の中へと戻った。


「兄貴たちのサバイバルが、こんなところで役立つとは思わなかったな……」


 相澤家の男共は、長期休暇(夏休み)になると必要最低限の荷物だけ持ち、修行と称して山に籠るのだ。

 なぜかそこに雅も連れていかれていたため、一通りのことは出来るようになっていた。

 焚き火がパチパチと音を立てている。

 火を前にすると少しだけ心が落ち着く。

 それにしても、ここはどこなのだろうか?

 これが異世界召喚なら『ステータス・オープン』なんて言えば、目の前にステータスボードが浮かび上がったりして、職業:勇者とか表示されるのだろう。

 そしてスキルは全属性魔法と希少属性のオマケ付きで、夢の無限収納ボックスとか使えるのだ。

 雅はポソッと呟いてみた。


「ステータス・オープン」


(ま、何にもな……くなかった!? 浮いてる、何か浮いてるよ!)


 半透明のそれは、紛れもなくステータスボードであった。ということは、だ。

 ここはやはり異世界で間違いないだろう。


(マジか。……ってか、異世界転移ならきっと凄い能力が付与されてたりするんだよね?)


 期待に胸を膨らましながら、ステータスボードを覗き込む。


———————————————

名前:ミヤビ(♀︎)

職業:迷子 Lv1

スキル:卵召喚 (ランダム) Lv1

HP:120

MP:10

———————————————


 うん、詰んだ。

 ていうか、何だよ職業迷子って!!(Lv1だし)

 スキルに魔法名が一つも出てないし! めっちゃシンプル。

 しかも卵召喚なんて、聞いたことないっての!!(Lv1だし)

 雅は小さくため息を一つついた。


「とは言っても、卵召喚て気になるな〜 。ランダムってなってるし。……うん、召喚してみるか。ものによっては食べられるものかもしれないし」


 ボソッと「卵召喚」と呟いた次の瞬間。

 ドスン!! という大きな音とともに、座っている雅よりも明らかに大きな卵が出現したのだ。


「び……っくりしたぁぁぉああ! ってか、デカくない!?」


 とりあえず立ち上がって卵をジッと観察してみる。

 ダチョウの卵を何十倍も大きくしたような感じのソレは、明らかに地球上の生物とは違うだろう。


「何の卵なんだろ? 召喚したのはいいけど、これは育てろってこと? それとも食べていいのかな?」


 無意味に卵の周りをぐるぐる周りつつ、軽くコンコンとノックするように叩いてみる。

 すると……。

 叩いた所からピキピキとヒビが入り、少しずつそのヒビが伸びていく。


「え? ウソ! もしかして強く叩き過ぎた? ヤバい、割れちゃう! お皿、お皿!!」


 慌てて木で出来た器を手に卵の前まで戻ると、

ヒビは更に広がっていき、そして……。


「ドラ、ゴン……?」

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