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「や〜だ〜、ミヤビちゃんたら。目の下にクマが出来てるじゃない! 何かあったの? 大丈夫?」
変態常連客のイオナさんが、もの凄い勢いで心配してくれている。
いやね、とっても有難いんだけどね。
ただでさえ長身のイオナさんは常に武器にもなりそうなピンヒールを履いてるのだ。
何が言いたいかと言うと。
雅よりもかなり長身になった状態でギュウッと抱き締められているのだが、イオナさんのけしからん胸にもろに顔が埋まっている状態である。
リアルに呼吸出来なくてヤバい、死ぬ!
この場合の死因て圧死? それとも窒息死?
なんてくだらないこと考えてる場合じゃなかった。
必死でもがく雅を、常連のライガさんが何とか救い出してくれたお陰で助かったのである。
お酒にあまり強くないライガさんには、お礼にツマミをプレゼントした。
そしてイオナさんには罰としてめっちゃ辛い漬物を出してやった。残すなよ?
店が忙しくてそのまま放置していたのだが、大汗垂らしてむせながら全部食べ切ってたって、他の常連さんが教えてくれた。
さすがは女だてらに冒険者してるだけあって、根性がある。
よし、次はもっと辛い漬物を探してみよう。
《ママ〜、喉乾いちゃった。ジュース飲みたい!》
《分かった。ちょっと待っててね》
《うん!》
ピーちゃんから念話が入り、コニーさんに頼んで桃に似た果物のジュースをピーちゃん専用のコップに入れてもらう。
このジュースはピーちゃんの大のお気に入りなのだ。
けどジュースの飲み過ぎは良くないから一日一杯だけと約束して、ピーちゃんはちゃんとそれを守っている。
本当にエライぞ! さすが私のピーちゃん! ←親バカ
他のお客さんに邪魔にならないように隅の方にジュースを持っていくと、ピーちゃんが嬉しそうに尻尾を振って着いてくる。
落とさないようにピーちゃんにコップを持たせると、
《いただきま〜す》
嬉しそうにジュースを飲み出すピーちゃんの頭から、ひよちゃんがジッとこちらを見つめてくる。
これは何か? 自分にもジュースを寄越せという視線だろうか?
仕方なく小さめのお皿にジュースを入れてもらいピーちゃん達の元へ向かうと、ひよちゃんが頭上から床へと飛び降り、またジッとこちらを見ている。
さっさと置けと言っているように感じて、苦笑を浮かべつつひよちゃんの前にジュースのお皿を置いてあげると、ものすごい勢いでひよちゃんがジュースを飲み出した。
こうしていると、ひよちゃんも可愛いんだけどなぁ。
ピーちゃんとひよちゃんがジュースを飲む姿を堪能していると、そんな雅に気付いたひよちゃんがいきなり飛び蹴りをしてきたのだ。
何よ! 別に見てたって良いじゃん!
本当、ひよちゃんは雅に対してだけ塩対応である。
ピーちゃんはもちろん、オカンやコナーさんやサラさんたちには、突いたり飛び蹴りしたりはしないのだ。
飲み終わったらしいひよちゃんをむんずと掴み、ピーちゃんの頭の上に乗せて仕事に戻ろうと向きを変える。
一歩踏み出した時、踏み出したのと反対側の足にちょっとした衝撃があって。
見るとピーちゃんの頭の上に乗せたはずのひよちゃんが、なぜかまた下りて雅に飛び蹴りしていたのだ。
どれだけ攻撃したら気がすむのよ、コイツは。
手のひらに乗せて、ひよちゃんのギリギリ攻撃範囲外の距離まで顔を近付ける。
《ちょっと、いつまで攻撃して来る気?》
ひよちゃんは分かってるのか分かってないのか知らないが、手から伝って肩まで来ると、ピョンと飛び跳ねて頭の上によじ登り始めた。
「危なっ!」
思わず声を出しながら、落ちないように手を添えてやる。
無事雅の頭の上に乗れたひよちゃんを下ろそうと手を出すと、突きまくってくる。
地味に痛いので、諦めて頭に乗せたまま仕事に戻った。
頭の上のひよちゃんは絶妙なバランスで落ちずにいる。
常連客達の微笑ましいモノを見る目が気になるが、気にしたら負けだと無視している。
とりあえず頭の上で大人しくしているのならいいや。
「ミヤビちゃん、エールおかわり!」
「は〜い、ジャンさんエール追加〜」
「俺のとこにもエールおかわり!」
「は〜い、レヴィさんエール追加〜」
今日も大忙しである。
途中までは、ひよちゃんが落ちないか気にしてたんだけどね。
「ミヤビちゃんの頭のヒヨコ、さっきから全然落ちねぇな」
常連さん達に言われるまで、すっかり忘れていた。
「危ないから何度か下ろそうとしてるんだけどね」
そう言って頭の上に手を出すと、凄い勢いで突いてくる。
「ほら、下りる気ナシみたいで。仕方ないから乗せっぱなしにしてるの」
「懐かれてんなぁ」
「は? 逆でしょ? ピーちゃんには懐いてるけど、ひよちゃんの私への扱いってばヒドイのよ? 噛むわ突くわ飛び蹴りするわ」
「けど、ミヤビちゃんの頭から下りようとしないんだろ? ヒヨコにもツンデレってあるのか?」
「「「……」」」




