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《ピーちゃん、マシューさんから差し入れだよ!》
あの後、マシューさんがエールのお礼にって『ピーちゃんのツマミ』を注文してくれたのだ。
お礼のお礼って……。
とりあえずマシューさんにはオマケのツマミをそっと置いてきた。
《わぁい! 大きいお肉!》
《ピーちゃんがいい子だから、オマケだって》
《わぁい、嬉しいな〜》
厨房担当の熊みたいな見た目のランディは、大のピーちゃん贔屓である。
先ほどの騒ぎはみんなが見ていたし、厨房にまで雅の罵声が聞こえてたらしい。
恥ずかしい。
ピーちゃんを可哀想に思ったランディが、オカンに内緒でいつもより大きなお肉にしてくれたのだ。
ピーちゃんが大喜びでマシューさんとランディにお礼を言いに行く後ろ姿を眺め見る。
けどさ、多分オカンは知っている。
知ってて見て見ぬ振りをしているだろうオカン。
ピーちゃんには優しいけど、私には優しくないよね。
優しくないと言えば、さっきからずっと頭の上で突きまくってるひよちゃんも優しくないよね?
当たり前のようにずっといるから、もう誰もツッコミすらしない。
地味に痛かった突きも、ずっとされてたら慣れてきたし。
っていうか、これ絶対にずっと突っついてたから疲れて威力が弱まったんじゃない?
目の前では美味しそうに肉を頬張るピーちゃん。
そういえば、この頭の上のひよちゃんのご飯は何をやったらいいんだろう?
野菜の切れ端とかでもいいのかな?
ちょっとランディにお願いして残しておいてもらおう。
だから、突くのをやめれ。
◇◇◇
「ひよちゃんの寝床をどうするか……」
ベッドは二つあって、ピーちゃんと雅で一つずつ使っている。
ベッドだと、寝ている間に寝返りしてひよちゃんを潰しちゃう可能性がある。
起きたらペラペラのひよちゃんの出来上がりとか、笑えない。
かといって一羽だけ別の場所で眠るのも、仲間外れみたいで何か嫌じゃない?
次の休みにベッドの間にちょっとしたテーブルか引き出しでも買おうかな。
その上に籠を置いて、ひよちゃんの寝床にすればいいよね。
ただ、それまでどうするか……。
仕方ないから籠に布を敷いてベッドの下に置いてみた。
ベッドの上だと、寝てる間に手が当たって籠ごと落ちるかもしれないし。
……そう思ったのだが、ひよちゃんがめちゃくちゃ不服そうに雅を突っついてくるのだ。
色々考えた結果、ピーちゃんのベッドと雅のベッドをくっ付けて、その間の頭の方に籠を置くことになった。
これなら下に落ちることはないからね。
……少しだけ枕の位置を下にズラしてみた。
これなら寝返りうっても大丈夫、だよね?
何か、気になってなかなか眠れなそう。
雅達の朝は遅い。朝というより昼に近い。
ゆっくり眠れるように厚手の布をカーテン替わりに使っているので、外は明るいが部屋の中は仄暗い程度である。
今までは最初に起きるのは、雅……だったのだが。
昨日から仲間入りしたひよちゃんが、朝早くから起きだしたものだから堪らない。
流石ニワトリ(のヒナ)だよね。なんて感心してる場合じゃない。
雅にしてみれば、夜中に叩き起こされるのと一緒である。
「マジで勘弁して……」
因みにピーちゃんだが、ひよちゃんが騒ぐ中、全く起きる気配がない。
これだけ煩いひよちゃんを前にして、よく眠れるよね。羨ましい。
そしてこのひよちゃん、かなりアクティブな奴であった。
生まれて二日目にして、籠の縁に飛び乗って籠から脱走。
そして熟睡している無防備な雅の顔面に飛び乗ってきたのだ。
鳥の足って、細くて長くて爪も意外と尖ってたりするから、結構痛いのだ。
ベッドもそれなりの高さがあるが、散々雅に悪さした後にベッドから飛び降り、少しだけ開いてたリビングへと続くドアを抜けてあちこち走り回って。
雅はただでさえ寝起きで動きが鈍くなってるのに、ひよちゃんはすばしっこくて捕まらない。
やっとこさ捕まえた時には、身体中傷だらけになっていたのだ。
噛むわ突くわ蹴るわで……もうね、本当コイツ種族間違えてない?
実はニワトリ(のヒヨコ)に擬態してる何かなんじゃないの?
でなきゃこんなに元気なの、オカシイから!
とりあえず籠の中に戻して、上に蓋をしておいた。
籠は結構ざっくり編んだものだから、呼吸を妨げることはない。
けれど、声は超絶漏れている。めちゃくちゃ怒ってるっぽいな。
逃げる心配はなくなったけど、今度はうるさ過ぎて眠れない!
……そんなこんなで結局殆ど眠れずに朝食の時間になってしまったのだ。
ちなみにピーちゃんは、雅が揺すって起こすまでしっかり眠っていた。
寝不足とイライラで真っ赤な目と目の下のクマを見て、オカンとコニーさんがビックリしている。
サラさんは心配そうにホットココアを入れてくれた。
ああ、心に沁みる。
原因を聞いてオカンがめっちゃ笑ってたから、テーブルの下で足を蹴ってやったらめちゃめちゃ睨まれた。
何よ! 自業自得でしょ!?




